デモンバスターズEX

 

 

第13話 魔竜の咆哮

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズンッ!

エリス 「ガッ・・・!!」

三倍近い身長差。
質量に至っては百倍近くありそうな相手に体を地面に叩きつけられる衝撃。
息が詰まるなどという生易しいものではない。
一瞬、本当に心臓が止まるほどだ。

エリス 「グッ・・・ガハッ・・・・・・ごほっ・・・ごほっ!」

全身の骨が粉々に砕けなかったのが不思議なくらいの痛みに、エリスが身をよじる。
生きているのは、相手が手心を加えていたからに他ならない。

ブラッド 「ぐふふ、どうした? その程度で動けなくなるほどヤワではあるまい」

地面にエリスを叩きつけた張本人、ブラッドヴェインが口の端を吊り上げる。
その顔はまるで、おもちゃで遊ぶ子供のごとく陽気にさえ見えた。

エリス 「くっ・・・」

ブラッド 「あの事故に乗じておまえが我のもとから逃げ出してもう五十年ほどになるか。相変わらず体の成長を止めているのか」

エリス 「・・・・・・」

ブラッド 「やせ我慢をしていると、別のところに反動が出るものだぞ。体に変調があるのではないか? 無理をせずに、歳相応の姿をとれ」

エリス 「お、おまえに・・・関係ないでしょ・・・・・・!」

ふらつきながらも、エリスは何とか立ち上がる。

ブラッド 「関係ないことはあるまい。我とおまえの仲だ」

エリス 「反吐が出るわよ、クソ野郎」

ブラッド 「ふっ」

ブゥン

ブラッドヴェインの右の爪がエリスに襲い掛かる。
それをかわしたエリスに、さらに反転した相手の尾が迫る。

エリス 「このっ!」

ガッ

ガードはしたものの、圧倒的重量の違いで体ごと吹っ飛ばされる。
空中で体勢を直して滑るようにして着地するが、前を見てももう相手はいなかった。

ブラッド 「こっちだぞ」

エリス 「!!」

声は背後からした。
これだけの巨体を誇りながらスピードも凄まじい。
振り返った先からはブラッドヴェインの足が迫ってきていた。
体を地面に投げ出すことでなんとかかわす。

エリス 「(あの一瞬で背後を取られるなんて・・・・・・反応するのが精一杯じゃないっ!・・・・・・・・・? 反応、できてる?)」

一旦動きを止めて、エリスはじっと相手を見る。

ブラッド 「どうした? もうおわりか。まだまだ楽しんでいないぞ」

真正面から向かってくる相手の動きをしっかりと見て、ぎりぎりで横に回避する。
向こうもそれは予測していたか、すぐさま尻尾でエリスの動きを追う。

ガッ

ブラッド 「む?」

その一撃を無理に受けようとせず、衝撃を受け流すようにしてかわす。

エリス 「(・・・いける!)」

力の開きはある。
パワーもスピードも遥かに相手が上だが、ついていけないことはない。

エリス 「(昔は向き合っているだけで指一本動かせなかったのに、アタシ自身の動きに問題はない。実力差はあっても、戦える!)」

ブラッド 「ほぉ、いい目になったな」

エリス 「・・・・・・」

ブラッド 「おもしろい。そうでなくては楽しめん」

エリス 「こっちは楽しむ気なんてさらさらないわ。ただ・・・・・・おまえをぶっ倒す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「フレイムブリット!」

郁未 「龍気砲!」

火炎と気の弾丸がシヴァを飲み込む。
土煙の中、祐一と舞が刀を手に切り込んでいく。

祐一 「もらったぞ!」

舞 「っ!!」

ヒュッ

二つの刀が空を切る。
完全に捉えたと思われたタイミングだったが、シヴァにはあっさり見切られる。

シヴァ 「遅いな」

ドッ

舞 「くはっ!」

刀を振りぬいてできた一瞬の隙をついて懐に入り込んだシヴァの拳が、舞の腹部にめり込む。

郁未 「舞! ちっ!」

敵の足元で蹲る相棒に向かって走る郁未。
その間に右手にありったけの気を溜めている。

郁未 「喰らいなさいっ、龍気掌!」

正面からの突き。
爆発的なエネルギーを持った龍気を防ぐことは不可能・・・・・・なはずだった。
少なくとも、今までそんな相手はいなかったが・・・。

ガシッ

郁未 「な・・・!?」

シヴァ 「おもしろい力を使う。だが、まだ甘いようだな」

受け止めた郁未の手を掴み返し、シヴァは郁未を投げ飛ばして地面に叩きつけた。

郁未 「ぐぁ・・・っ」

背中を強打した郁未は、痛みで体を折り曲げる。

祐一 「にゃろうっ!」

続けて祐一が斬りかかる。

ギンッ

シヴァ 「む」

祐一 「く・・・」

祐一の鋭い斬撃を、シヴァは右手に手甲で受け止める。
力が拮抗した状態で押し合うが・・・。

シヴァ 「ふっ」

ドンッ

祐一 「がはっ!」

残ったシヴァの左手から放たれた魔力の弾丸が祐一の腹を直撃する。
肋骨が折れるような衝撃に、祐一もその場に崩れ落ちる。

シヴァ 「人間は地べたに這い蹲る姿がよく似合うな」

追い討ちをかけるべく、シヴァの右手に魔力が溜まる。
しかし、その周りを炎が包み込む。

シヴァ 「む」

さやか 「みんなはやらせないよ」

シヴァ 「この程度の炎で私の攻撃を防いだつもりか?」

ビュッ!

さやか 「え?」

シヴァの手刀が炎の壁を切り裂く。
そこから放たれた衝撃波が、炎を割ってさやかに迫る。

さやか 「きゃあっ」

かわす間もなく、衝撃波を受けてさやかが吹き飛ばされる。

シヴァ 「脆いな」

僅か数分の攻防だが、祐一達四人の攻撃は一切相手にダメージを与えられず、四人全員が倒れ伏した。

 

 

 

 

 

祐一 「くそったれ・・・・・・」

かなりの痛みが走るが、まだ動けるな。
この程度のダメージは大したことない。

祐一 「おまえら、大丈夫か?」

郁未 「なんとかね。見かけによらず、馬鹿力だわ、あいつ」

舞 「・・・・・・」

二人は大丈夫そうだな。
さやかは・・・?

いた。
倒れたまま動く様子がない。
気絶してるのか・・・。
炎を破る際に衝撃波の威力は軽減されたはずだから、まさか死んではいないだろう。

シヴァ 「一人脱落だな」

祐一 「ちっ」

さやかの攻撃力は惜しいが、仕方ない。

祐一 「行くぞ、郁未、舞」

郁未 「いつでも」

舞 「・・・・・・(こくん)」

接近戦で波状攻撃を仕掛ける。
こいつを倒すにはそれしかないだろう。

シヴァ 「来るか」

祐一 「・・・1」

郁未 「2・・・」

舞 「・・・3」

祐一 「ゴー!」

合図と同時に三方に散る。
まずは俺が突っ込む。

祐一 「凍魔天嵐!」

パキンッ

奴の四肢を凍りつける。

郁未 「龍気掌!」

そこへ郁未の攻撃。
氷はすぐに砕かれたが、郁未の攻撃をかわすのに体勢が崩れた。

舞 「総天夢幻流・斬魔剣・・・・・・いづな!」

タイミング的にはかわせない。
入った!

キィンッ!

舞 「!!」

かわすのが無理と見るや、奴は舞の剣を正面から跳ね返した。
そのまま腕ごと斬れるかと思ったが、その前に刀が折れる。
やはり、刀の強度が足りなかったか・・・・・・。

シヴァ 「まぁまぁだな。だが、所詮はこの程度か」

やばい。
こいつは・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「はぁあああああ!!!!」

渾身の力を込めたエリスのドラゴンブレスがブラッドヴェインに迫る。

ブラッド 「甘いわっ!」

それに対して相手も同様にブレスを吐き出す。
確かにそれは同じ技だったが、サイズがまるで違っていた。
エリスのブレスはあっさりブラッドヴェインのブレスに飲み込まれ、エリス自身もその爆風に包まれて吹き飛ばされる。

エリス 「きゃっ」

威力の桁も違う。
二つのブレスがぶつかった際に僅かでも軽減されていなければ今の一撃でアウトだったかもしれない。

エリス 「目くらまし程度にもならないの・・・・・・?」

落ちた際に背中を打った以外はそれほどダメージのないエリスが打った部分をさすりながら立ち上がる。
自分の方はいっぱいいっぱいだが、相手はまるっきり余裕の表情だ。

ブラッド 「ぐふふふ」

エリス 「ちっ」

まるっきり勝負にもなっていない。
パワーやスピード、魔力に差がありすぎて、少々小細工を弄してもどうにもならない。
少々の戦力差ならば得意の戦術で覆す自信のあるエリスだが、これはそういうレベルの差ではなかった。
不意をついたとしてもダメージを与えられないのでは意味がない。

エリス 「(何か、こいつを倒す手立てはないの?)」

ブラッド 「考え事は構わんが、周囲に気を配ることは忘れん方がいいぞ」

エリス 「!!」

咄嗟の判断で地面に転がる。
直後に地面がえぐられた。
いつの間に間合いを詰めていたのかもわからなかった。

エリス 「まだ上のスピードが出せるって言うの!」

常識の範疇を完全に超えている。
まさに規格外の化け物だ。

エリス 「(逃げ回ってても埒が明かない。懐に入り込んで、最大の一撃を叩き込めば・・・)」

命がけの一撃になるかもしれないが、至近距離からでなければ到底ダメージなど与えられない。
しかし、果たしてそれでもあの化け物を倒すほどの威力を練りだせるかどうか。

エリス 「(何か、あいつにダメージを与える方法は・・・・・・)」

悩んでいる暇は、もうなかった。

ブラッド 「もう逃げ場はないぞ」

背後には岩。
正面には敵。
岩を破壊することはできるが、その隙に攻撃されれば逃げ場はない。
背水の陣。

エリス 「(一か八か!)」

ブラッド 「さあ、どうする!」

エリスの体よりも太いブラッドヴェインの腕が迫る。
その腕をじっと見て、エリスはその場から動かない。
ぎりぎりまで引き付けて回避する。

エリス 「喰らえっ!」

懐に入り込んだところで、全魔力を込めた一撃を相手の胸に向かって撃ち込む。

ドンッ!

背後にある岩程度なら十回は破壊できる威力がある一撃を受けて、ブラッドヴェインの動きが止まる。

エリス 「・・・・・・」

ブラッド 「・・・・・・そんなものか」

取り付いたまま動きの止まったエリスの体を、ブラッドヴェインが掴む。
その体を地面に叩き付ける。

エリス 「かはっ!」

ブラッド 「捨て身の一撃だったようだが、そんな程度の威力では我の薄皮一枚破れんぞ」

僅かに跡が残っているだけで、ブラッドヴェインはまったく無傷だった。
それに対して、地面に叩きつけられたエリスはぴくりとも動かない。
意識が朦朧としているのか、目も虚ろだった。

ブラッド 「なんだ、もう終わりか。意外とつまらなんかったぞ」

うつぶせに倒れているエリスの体を、ブラッドヴェインが踏みつける。

エリス 「・・・ぐっ・・・!」

ブラッド 「もっと我を楽しませてみろ」

二度、三度と足を振り下ろす。
1トン近い巨体が足を落とす度に地響きがして、地面がひび割れる。
エリスが倒れている場所の地面も既に陥没していた。

エリス 「・・・・・・」

ブラッド 「・・・なんだ、本当にもう終わりか。少しはできるようになったと思っていたが、がっかりだな」

興ざめしたようにブラッドヴェインが足を退ける。
まったく動く気配のないエリスの顔を覗き込もうと頭を下げた時だった。

ヒュッ

ブラッド 「む!」

エリス 「捕まえたわよっ」

サッと起き上がったエリスがブラッドヴェインの頭に取り付く。
首の後ろに回って角を掴む。

エリス 「くたばんなさいっ!」

ブラッド 「ぐぉ・・・!」

角に掴って体を支え、両足で相手の首を絞める。
ぎりぎりと首が絞められる中、取り付いているエリスを振りほどこうと、ブラッドヴェインが首を振る。

ブラッド 「ふんっ!」

エリス 「わっ!」

前後左右に揺さぶられ、絞めている足が緩む。
その隙をついてエリスを引き剥がそうとするブラッドヴェイン。
離されまいと必死にしがみ付くエリス。
しばらく拮抗していたが・・・。

エリス 「でぇぇぇいっ!!」

ドシュッ!

ブラッド 「ぐぉぉぉぉ・・・!!」

エリスが掴んでいた角が根元から抜ける。
血が一気に噴出し、さしものブラッドヴェインも思わず膝をつく。
抜き取った角を手に、エリスは一旦距離を置く。

ブラッド 「ぐ・・・我の角を・・・・・・やってくれたな、エリスよ」

エリス 「どうせすぐ生えてくるくせに、角の一本や二本でガタガタ言ってるんじゃないわよ」

ブラッド 「ぐぅ・・・しかし、捨て身で我を欺いた成果が角一本とは、残念だったな」

エリス 「そうでもないわよ。こいつなら・・・あんた自身の角なら、あんたの硬い体も貫けるはずよ」

ブラッド 「・・・なるほど、狙いはそれか」

エリス 「次で決めてやるわ」

両手で相手から抜き取った角を持って、突っ込む構えを取る。
正直なところ、もう次で決めなければ体力がもたないところまで来ている。

エリス 「行くわよ」

ブラッド 「来い」

真っ直ぐ突っ込んでいくエリス。
ブラッドヴェインも正面からそれを受ける体勢を取る。

ブラッド 「その程度の動きで我を捉えられるか!」

迎撃するべく、ブラッドヴェインの両腕が前に突き出される。
その瞬間・・・・・・。

ドォンッ

ブラッド 「ぐほぉっ!!?」

何かが懐で弾けた。
大きな爆発に、両腕の構えが解かれ、体は仰け反ってバランスを崩す。

ブラッド 「な、何が・・・!?」

爆発が起こったのは、先ほどエリスの渾身の一撃が入った場所だった。

ブラッド 「ま、まさか・・・!」

エリス 「策っていうのはね、二重三重に張ってはじめて効果を発揮するものなのよっ!」

ブラッド 「!!」

目前に迫るエリス。
もう防御も回避も間に合うタイミングではなかった。

エリス 「はぁあああああああ!!!!!」

 

ドスッ!!!

 

角が、ブラッドヴェインの左胸に突き刺さる。
根元まで一気に押し込んで、エリスは飛び下がる。

エリス 「・・・・・・」

大きく口を開いたまま固まった相手をじっと凝視する。
やがて、その顔に苦悶の表情が浮かぶ。

ブラッド 「ぐふっ!」

巨大な口から大量の血があふれ出す。
角が刺さっている傷口からも、徐々に血が漏れ出してくる。

ブラッド 「ぐっ・・・・・・やってくれたな・・・。さすがに今の効いたぞ」

エリス 「心臓貫かれといてまだ生きてるわけ? 呆れる化け物っぷりね」

ブラッド 「心臓の一つや二つ貫かれて死ぬほどヤワではないわ。この魔竜王ブラッドヴェインをなめるなよ」

エリス 「・・・・・・」

ブラッド 「とはいえ・・・・・・ぐぼぉっ・・・・・・さすがにダメージは大きいか・・・。今日はここまでだな」

エリス 「逃げるつもり?」

ブラッド 「腕を上げたものだ。なかなか楽しかったぞ」

足元に魔法陣が浮かび上がり、光の中にブラッドヴェインの姿が消える。
完全にその場から空間移動したようだ。
もう気配すら残っていない。

エリス 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ〜・・・」

大きく息を吐き出すと同時に、エリスはその場にへたり込んだ。
しばし放心したような顔でブラッドヴェインの消えた空間を見ている。

エリス 「・・・・・・・・・勝った」

まず最初に浮かんだ表情は、戸惑い。
それから、ぎこちない笑顔。

エリス 「勝っちゃった・・・あいつに」

仰向けに倒れる。
見上げた空は、よく晴れ渡っていて、日差しが気持ちいい。

エリス 「はは・・・・・・あははっ、勝った! アタシが勝ったわよっ、ざまー見なさい! あっはははははははははっ!!」

大きく声を上げて、エリスは空に向かって笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく