デモンバスターズEX

 

 

第12話 現れた史上最凶の敵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「・・・・・・言っておくけど、私は散歩に来たのよ。決して祐一が放っておくと心配だとか、さやかと一緒だとどうとか、そういうんじゃないんだからね。間違えないでよね」

誰に対する言い訳なのか、一人ぶつぶつ言いながら歩くエリス。
気がつけば、郁未達が停めた自走車のところまで来ていた。
そこから少し行けば、五人が向かった四神獣の祠がある。

エリス 「・・・・・・なんでアタシはこんなところにいるのよ?」

非常に不愉快だった。
漠然とした不安に突き動かされて、ほとんど無意識に祐一の後を追ってきた。

エリス 「こんな遠くまで散歩も何もないじゃないの、まったく! あいつだってもう子供じゃないんだから、お守が必要な歳じゃないでしょ。それとも何? アタシの方が子供だとでも言いたいの!?」

ひたすら文句を言い募るエリスだが、当然それに応える者はない。

エリス 「・・・・・・はぁ、あほらし。帰ろ・・・・・・・・・」

そう決めた途端、全身が激しく震えた。
体中の毛一本一本、いや、細胞の一つ一つに至るまで全てが反応する。

エリス 「こ・・・れは・・・!!?」

一瞬にして冷や汗が全身を濡らす。

いつもの内から来る衝動ではない。

原因となるものは外・・・・・・巨大な気配の存在にあった。

エリス 「ど・・・ぅ・・・し・・・て?」

それは、エリスがよく知る存在の気配。
だが、決してこんな場所にいるはずのない存在の気配。
二度と会いたくないと思いつつ、一度として忘れることのできなかった存在の気配。
彼女にこれほどの衝撃と恐怖を与える存在の気配。

エリス 「・・・そんな・・・はず・・・・・・ないのに・・・っ!」

まだ、姿を見たわけではない。
しかし、気配だけでも間違えようはずがない。

エリス 「そんなこと!!」

全ての恐怖を振り切って、エリスは気配を追って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異様な二人組と言えた。
片方は二十代半ばほどの青年だが、額に三つ目の目を持っている。
もう片方にいたっては、人間の姿すらしていない。
それは竜だった。
深緑色の鱗に覆われた竜は、二足で直立歩行している。

竜 「ここか」

野太いが、はっきりした言語が竜の口から発せられる。

男 「私の千里眼は確かだ。彼の者はこの洞窟の中にいる」

竜 「四神を祭る祠ではないか。神子どもがいるとしたら面倒だぞ」

男 「それどころか、彼の者が神子の候補らしい」

竜 「ほお?」

男 「他にも三人・・・・・・今いる神子は全て、まだ候補に過ぎん」

竜 「ならば恐れるに足りんな」

男 「ふっ、仮に神子がいたとしてそれがどうした? たかが地上の神ごときの力を得た人間など、我々の敵ではない」

不適な笑みを浮かべる男。
その言葉のとおり、彼から発せられる魔力は桁が遥かに違っていた。
周囲の動物は、早々とその気配を察して逃げ出している。
植物すらもその存在に恐れをなしているように見えた。

男 「さて、行こうか」

竜 「ちょっと待て。我にはこの洞窟は少し狭いぞ」

竜の体長はおよそ3メートル半ほど・・・・・・洞窟の大きさと比べるとぎりぎりだった。

男 「ここで待っているか? どうせ私一人で事足りる・・・・・・ん?」

横にいる竜の方を向いた男の視界に、その姿が入った。
一瞬不思議そうな顔をした男が、すぐに合点がいって手を打つ。

男 「ほぉ、これはおもしろい相手との邂逅だ」

竜 「む?」

 

 

 

エリス 「ブラッドヴェイン・・・シヴァ・・・・・・なんでおまえ達がここにいるっ!?」

自分の方へ振り向いた男と竜に対し、エリスが叫びかける。
声を張り上げなければ、その場にいることすらできないような気がしていた。

シヴァ 「思わぬ場所での姫君との遭遇だな」

ブラッド 「エリスか?」

エリス 「質問しているのはこっちよっ!」

ブラッド 「・・・くく・・・くぁーっはっはっはっは!!」

ブラッドヴェインと呼ばれた竜が巨大な口をあけて笑う。
実に楽しそうに、豪快に笑っている。

ブラッド 「いやいや、久しぶりに声を聞いたわ。威勢が良いのは変わっておらんようだな」

エリス 「聞いてることに答えなさいよ!!」

シヴァ 「威勢がいいというよりはうるさいぞ。声を出していなければ恐怖に押しつぶされそうなのか?」

エリス 「くっ・・・!」

図星だった。
こうして話しているだけでも、圧倒的な威圧感を感じている。

ブラッド 「あの泣き虫めが、大分度胸をつけてきたようだな」

ズンッ

エリス 「っ!」

ブラッドヴェインがエリスの方へ向かって一歩踏み出す。
それに合わせてエリスの一歩後ずさるが、一歩の大きさが違うため、距離は詰められている。

ブラッド 「シヴァよ、我はこやつと遊ぶことにした。そちらは任せたぞ」

シヴァ 「まぁ、よかろう。元々私一人でよかったのだからな」

ブラッド 「ぐふふ、そういうことだ、エリス」

エリス 「待ちなさいっ、シヴァ! おまえ達の目的は・・・・・・」

シヴァ 「“あの一族”の末裔の小僧だよ。ようやくそれらしい者を見つけたのでな」

エリス 「・・・・・・」

予感的中である。
それはエリスにはわかっていたことだが、違っていてほしいという願いがほんの少しだけあった。

シヴァ 「ではな。あとは任せたぞ、ブラッドヴェイン」

ブラッド 「うむ」

エリス 「待ちなさいって言ってるでしょ! 本当にそれだけのために・・・地上まで出てきたって言うの!?」

シヴァ 「おまえに教えてやる必要はあるまい。どうしても知りたければ、ブラッドヴェインに聞け。積もる話もあるだろう」

エリス 「ちょ・・・・・・!」

ブラッド 「おっと。おまえと遊ぶのは我だと言ったであろう」

エリス 「くっ・・・!」

シヴァ 「任せたぞ」

シヴァという名の男は二人に背を向け、洞窟の奥へと入っていった。
追いたい気持ちはやまやまだったが、目の前の相手を無視することは到底できない。
それにエリス個人としては、この相手こそ先ほどから感じている恐怖の対象なのだから。

ブラッド 「さて。まぁ、話などどうでもよかろう。まずは楽しもうではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な感覚だ・・・・・・。

上も下もわからない、非常に不安定な場所にいるのに、心は平静を保っている。

どんな状況でも冷静に・・・それはいつものことだが、これは少し違う。

何故だか安心する。

そう・・・。

例えるなら、胎児に戻った気分だ。

そんなもの覚えているはずないってのに。

――記憶にはなくとも、魂はそれを覚えているものですよ

誰だ、あんた?

急に人の意識に割り込んできやがって。

人と話す時はまず名乗れよ。

――私は玄武・・・北方守護の神です。これでよろしいですか、相沢祐一?

どうして俺の名前を知っている?

――今、私とあなたの意識は繋がっています。ゆえに私は、あなたの心を知ることができるのです

俺はわからないぞ、あんたの心なんて。

――コツがいるのですよ

コツ・・・・・・

随分と俗な言い方だな。

あんた神様なんだろ?

――あなたは神に対してどのようなイメージを抱いているのですか?

ふむ・・・・・・そう聞かれると答えにくいな。

――そうでしょうね。それに、あなたが聞きたいのはそんなことではないでしょう

確かにそうだ。

と言っても、何を聞くのかもよくわからないが。

――では、こちらから質問しましょう、一つだけ

何だ?

――私と契約を結ぶことで、あなたはさらなる力を手に入れるきっかけを得るでしょう。その力を、あなたは何故欲しますか?

・・・・・・・・・

――答えられませんか?

いや、そうじゃない。

どうして俺に力をくれようって相手はみんなそういう質問をするのかと思ってな。

――・・・・・・

俺が力を欲する理由は主に二つだ。

一つは・・・・・・俺の周りにいる、俺にとって大事な人を護りたい。

そのためだったら、どんな敵でも必要とあれば倒すさ。

たとえその敵にも、同じように護るべきものがあったとしてもだ。

他人のことまで考えるほど俺はお人好しじゃないからな。

――そこを考え、結論を出すことができる。それで充分ですよ。して、もう一つは?

こっちはもっといい加減っていうか、自己中心的さ。

もっと強い奴と戦いたい。

この世にはまだまだ上が存在する。

そいつらと戦って、勝つ。

そのために、いくらでも力は欲しい。

――それが本心ですか?

俺は聖人君子じゃねぇ。

神様向けの答えの模範なんか使う気はないし、相手が誰だろうと俺はこう答えるさ。

――おもしろい人です。・・・・・・おもしろい魂を持っている人でもありますし

――あなたの望みは叶えられるでしょう。間もなくあなたの前に、あなたが望む強大な力を持ち、あなたの身近な人を脅かす存在が現れます。望むとおり、戦って倒してごらんなさい

人事みたいに言うんだな。

そいつらが暴れるとあんたらが困るんじゃないのか?

――確かに私達は、この世界を安定させておくことが仕事です。しかし、仮に地上が滅びたとしても、私達には何の影響もないのですよ

・・・・・・

――知りませんでしたか? 神は人間以上にエゴイスティックな存在なのですよ。失望しましたか?

いや、気に入った。

――私も、あなたが気に入りましたよ。それにどうやら、他の三人もそれぞれの契約者のことを気に入ったようです。特に朱雀の神子となるあの少女・・・・・・

さやかか?

というか、他の連中のことまでわかるのか。

――四神とは本来一つの神。四つの姿と四つの意思を持ってはいますが、魂は一つなのですよ

なるほど、納得。

――こうして話すことはもうないでしょう。契約してすぐに私の力が使えるわけでもありません。けれど、いつかまた会うこともあるでしょう。水の神獣・玄武の神子よ

やっぱり柄じゃないな、神子なんてのは・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・」

意識が戻ってきた。
今のは夢か?
いや、玄武との会話ははっきり記憶している。
魂が混ざり合っていた?
よくわからん。

祐一 「さて・・・・・・・・・!!?」

なんだ!?
この凄まじい魔力の波動は・・・。
入り口の方?

振り返ったその先には、額に第三の目を持つ男がいた。
見た目だけでも魔族だとわかるが、それも並大抵の奴じゃない。
上位・・・・・・いやこのパワーはまるで・・・・・・・・・魔王クラスじゃないか・・・。

祐一 「てめぇ・・・・・・何モンだ?」

シヴァ 「魔神シヴァ。貴様が相沢祐一か」

祐一 「・・・どいつもこいつも勝手に人の名前を知ってやがる。その魔神とやらがいったい何の用だ?」

務めて平静を装っているが、今まで出会ったどんな敵よりも強大な気配を前に、汗が全身から吹き出してきやがる。
魔王クラス・・・・・・いや、ひょっとしたらそれ以上。

さやか 「何か、すごいのが出てきたみたいだね」

祐一 「よう、朱雀とやらとの対話はどうだった?」

さやか 「なかなか楽しかったよ。でも、起きてみたらこれだもんね」

郁未 「笑えないわね」

舞 「・・・・・・」

三人とも戻ってきたようだな。
しかし、今いるこの四人でも奴に及ぶかどうか。
それほどとんでもない相手だ。

さくら 「ど、どうやってこの神域に・・・。魔族は入って来られないはずなのに?」

シヴァ 「結界のことか? あんなもの、紙の盾の方がまだマシだぞ。くくくっ、神が己を身を紙の盾で護るか・・・これはいい」

祐一 「折原みたいな馬鹿言ってんなよ。さっきの質問の答えがまだだぜ」

シヴァ 「そうだな。やはりまずは自分の目で確かめてみたい」

祐一 「は?」

シヴァ 「ちょうど四神の神子どもも揃っているようだ。来るがいい、おまえ達の敵はここにいるぞ?」

何を言ってやがるんだ、こいつは?
挑発してるつもりか。

さくら 「まさか・・・こいつが一連の事件の元凶?」

シヴァ 「さあ、少しの間、遊んでやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく