デモンバスターズEX

 

 

第10話 実力の差

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郁未 「え?」

さくら 「うにゃ?」

さやか 「やれやれ、祐一君も悪趣味だねぇ」

 

 

どさっ

俺の背後で、一弥の体が地面に落ちる。
受身も取らずに落ちたところを見ると、茫然自失状態かな?

祐一 「どうした? もう終わりか?」

一弥 「・・・・・・(え? 今、何が・・・)」

唖然とした表情で一弥が立ち上がる。

祐一 「ほれ、まだ終わってないぞ。かかってこいよ」

一弥 「・・・・・・」

思ったとおりだな。
今自分がどうなったのかもわかっていない。
しかもそれで思い切り動揺している。

一弥 「・・・今、何をしたんですか?」

祐一 「知りたければ、もう一度試してみろよ。今度は見えるだろう」

見える、だろうがな。

一弥 「・・・・・・!!」

姿が消える。
もっとも、俺にとっては消えてないも同然だが。

 

ギィンッ

 

今度も結果は同じ。
仕掛けた奴の方が吹っ飛んでいる。
今度は見えたはずだ。

一弥 「っ!」

何とか体勢を立て直して着地する一弥。

祐一 「な、見えただろ」

反応はできなかったろうがな。
簡単なことだ。
俺はあいつの剣を受け止めて、そのままあいつの体ごと投げ飛ばした。
単純明快。
もちろん使ってるのは右手のみ。
しかも背中と肩から胸にかけての傷が痛ぇ。

一弥 「そんな・・・どうして・・・?」

祐一 「・・・・・・」

さて、お遊びモードは、ここまでだ。

ヒュッ

一弥 「!?」

ドゴッ

一気に間を詰めた俺の膝蹴りが一弥の腹にめり込む。
俺の重量とパワーだと、かなり効くぞ。

一弥 「がはっ・・・!」

祐一 「相手の力量も正確に測れないようで強いつもりか?」

一弥 「ごほっ・・・ごほっ・・・・・・」

咳き込みながらも立ち上がる一弥。
まだ戦意は失ってなさそうだな。

祐一 「来い。今度は本気で相手をしてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一弥 「くっ・・・!」

ヒュッ

これで何度目になるか、一弥の剣が空を斬る。
俺が本気を出すと言ってから、一弥の剣は一度も俺の体に当たっていない。
それどころか、俺は体捌きだけで全ての攻撃を回避し、刀すら使っていなかった。

一弥 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

攻撃し続けている一弥は当然疲弊している。
こっちは避けているだけなので、大したことはない。

一弥 「あ、当たらない・・・・・・どうして?」

祐一 「簡単なことだ。おまえより、俺の方が強い・・・・・・他人の受け売りだが、強い奴が強い、弱い奴が弱い、それだけだ。おまえは弱くないが、俺には及ばない」

一弥 「そんな・・・・・・」

祐一 「井の中の蛙大海を知らず、っていうが、おまえはまさにそれだな」

一弥 「何を?」

祐一 「世の中上には上がいるってことだ。ナイツ・オブ・ラウンドが地上最強だとでも思ってたのか?」

連中は確かに俺の予想を上回る強さを持っていた。
だがそれでも、地上最強と呼べるものではない。

一弥 「じゃあ・・・あなたが地上最強だとでも言うんですか?」

祐一 「馬鹿言えよ。俺もまだまだだ。俺も舞もまだ手が届かない、目標にする男・・・・・・そいつが地上最強だ」

一弥 「舞さんが・・・」

祐一 「そいつだって、地上では最強ってだけで、その上がいないとは言い切れない」

一弥 「・・・・・・」

祐一 「強さに上限は存在しないぜ。天井の上には別の天井が、その上には遥か高い、終わりのない空が広がっているんだ」

だから誰しも、上を目指し続ける。
天井の上を見据えられなくなったら、そいつの成長は止まる。

一弥 「僕は・・・強くなったつもりで思い上がっていただけなんですか・・・・・・?」

祐一 「・・・というかおまえの場合は・・・色々問題ありだな。まず・・・・・・」

 

ドッ!

 

一弥 「が・・・はっ!?」

俺の峰打ちが一弥を吹き飛ばす。
かなり力を入れたから、肋骨が折れたかもしれないな。

祐一 「おまえの剣には必殺の気迫が足りない。本気で人を斬ったこともないだろう」

一弥 「つぁ・・・」

祐一 「それに、おまえの剣の速さ、鋭さ、技量は大したものだが、さっき俺には掠りもしなかっただろう。俺との差、それは経験の差だよ」

一弥 「けい・・・けん?」

祐一 「俺はな、十一のガキの頃から、温室育ちのおまえには想像もつかないような修羅場を潜り抜けて来たんだよ。死に掛けた回数も両手で数え切れないほどだ。そんな俺の前では、おまえの剣は子供の遊戯にも等しい」

一弥 「・・・・・・」

デッド・オア・アライブの地獄。
あの頃の戦いはまさしくそれだった。
まだ他の四人に大きく劣っていたあの頃の俺は、それこそ死に物狂いであいつらについていった。
限界以上の力を引き出して全力疾走を続けた。
そうしなければ、あいつらの足元にも及ばなかったから。

一弥 「あなたは、いったい・・・・・・?」

祐一 「俺はデモンバスターズも氷帝、相沢祐一」

周りに化け物クラスの連中がいたという点では、俺もこいつも同じだ。
しかし違う点は、ナイツ・オブ・ラウンドはカノン公国という枠組みの中で頂点に立ち、そこで止まっている連中。
それに対してデモンバスターズは、最強の称号を得て尚上を目指し続けている。
その違いだ。

一弥 「あの・・・伝説のデモンバスターズ・・・・・・?」

祐一 「俺の力を見抜けなかった時点で、おまえに勝ちはなかった」

一弥 「最初に攻撃を受けたのは、わざと・・・」

祐一 「ハンデをやると言っただろう」

一弥 「・・・・・・」

祐一 「もう一つ教えておいてやる。舞は本気で行くと言いながら、実際本気じゃなかったぞ」

一弥 「え?」

祐一 「相手がおまえだったからだろう。切っ先が鈍かった。今のあいつとはまだ剣を合わせてないが、あいつはあんなものじゃない」

まぁ、知り合いが相手だからって剣が鈍る辺り、舞もまだまだ未熟だな。
あれじゃあ、あの男に追いつくのは当分先になるだろう。

一弥 「・・・舞さん」

自分の慢心が身に染みてわかったっぽいな。

祐一 「じゃ、講釈はこれで終わりだ。いい加減傷が痛むんでな」

膝をついたままの一弥に背を向けて、さやか達の方へ戻る。

 

 

 

さやか 「荒療治だね〜」

祐一 「ああいう小僧は強く叩いた方がいい。これで終わるならそれまでの奴、乗り越えればさらに強くなる」

さやか 「もし乗り越えたら、今度は危ないんじゃないかな〜?」

祐一 「百万年早い」

 

郁未 「(・・・なんて奴。確かに言ってることは概ね正しいけど、倉田一弥の実力は本物だった。それをこうもあっさりと・・・・・・・・・まったく、どういう化け物集団なのよ、デモンバスターズってのは)」

 

さくら 「なんかよくわからなかったけど、すごいんだね、祐一君」

祐一 「わかってて俺を四神とやらのところに連れてくんじゃないのか? 魔族ってのは一筋縄じゃいかないんだからな」

さくら 「もちろんそうだけど、やっぱ生で見ると違うよ。たまげたぜ、だんな」

 

佐祐理 「あの・・・」

祐一 「ん?」

ずっと静観していたお姫様が声をかけてきた。

祐一 「何だ、今度はあんたがやるのか?」

佐祐理 「それもいいんですけど、その前にお礼が言いたくて」

祐一 「礼?」

佐祐理 「弟は最近、少し慢心していました。それでつれてきていたんです」

祐一 「なるほどな。あいつを負かせる奴を探してたんだな」

佐祐理 「はい」

あいつは確かに強い。
だがまだまだガキだ。
それを認識しない限りさらに先へ進むことはできないが、そのためには負けることが必要だ。
が、一国の王子を相手に勝つというのは、色々問題がある。
国の人間じゃ、どうしたって本気では戦えない。

祐一 「利用されるのは好きじゃないんだがな」

佐祐理 「すみません」

祐一 「まぁ、それなりに楽しめたから、よしとしよう」

今度は、さらに成長したあいつとやりあってみたいものだ。
それに・・・。

祐一 「次は、あんたとも戦ってみたいものだな」

佐祐理 「その時は、お手柔らかにお願いします」

祐一 「ああ」

佐祐理 「では、失礼します」

踵を返した佐祐理は、一度舞の方を見たが、そちらへは行かずに、一弥を連れて立ち去った。
今の舞にかける言葉はないだろうな。
代わりに俺が舞の方へ行く。

祐一 「おい、舞」

舞 「・・・・・・」

祐一 「あんなの負けたうちに入らんだろうが。立てって」

座り込んでいる舞の手を掴んで立ち上がらせる。

舞 「・・・祐一」

祐一 「おう」

舞 「・・・私、負けた」

祐一 「負けたな。知り合いだからって中途半端に手を抜くからそうなる」

舞 「・・・・・・一弥が怪我したら、佐祐理が悲しむ」

祐一 「そこがおまえの未熟だな。そんなんじゃ一生かかってもあの男には追いつけないぞ」

舞 「・・・・・・祐一は強くなった。どうして?」

祐一 「言ったろ。おまえやあの小僧とはくぐった修羅場の数が違うんだよ」

五年前は互角だったが、今は俺の方が上だ。
もちろん腕は今でも同等くらいだろうが、勝負における覚悟が違う。
とりあえず、舞や一弥に今は負ける気はしない。

祐一 「さて、とんだ道草食ったな。とっとと行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐祐理 「すみません、重蔵さん。こんなことにつき合わせてしまって」

重蔵 「いえ」

任務と偽ってはいるが、これは完全な佐祐理の私事だった。
弟の成長を喜ぶと同時に、そのあまりに早すぎる上達に危惧を抱いていた佐祐理は、完全に慢心していた一弥に困っていた。
かといって、自分では今の一弥を負かすのは難しいし、何より非情になりきれない。
舞ならと思って期待したが、思えば舞は佐祐理以上にお人好しだ。
けれど、思わぬ収穫だった。

佐祐理 「相沢・・・・・・祐一さん」

一弥だけではない。
佐祐理もまた、自分の知らない広い世の中を見た気分だった。
伝説の一端を垣間見たのだから。

重蔵 「佐祐理様。相沢とはあの・・・・・・」

佐祐理 「やっぱり、そうなのですか?」

重蔵 「・・・・・・はい」

佐祐理 「そうですか・・・・・・。じゃあ、望む望まないに関わらず、いずれ戦わなければならないかもしれませんね」

重蔵 「御意」

佐祐理 「勝てると思いますか? 佐祐理達は」

重蔵 「正直、難しいかと」

忍者は現実主義者だ。
下手な世辞や慰めは言わない。
先ほどの祐一を見て、重蔵はその実力をよくわかっていた。
ナイツ・オブ・ラウンドの誰をも上回っているとさえ思える力。
しかもまだ上があるような気さえする。

佐祐理 「・・・お父様の行いが全て正しいとは、佐祐理は思っていません。けれど、佐祐理は佐祐理の国を愛しています」

重蔵 「はい」

佐祐理 「もしカノンに仇名す者がいたならば、戦います。それが、佐祐理の信念ですから」

凛とした表情で言い放つ佐祐理。
そしてその表情のまま、いまだ俯いている弟のもとへ歩み寄る。

佐祐理 「一弥、あなたも倉田王家の人間なら、下を向いてはいけません」

一弥 「・・・姉さん」

佐祐理 「さあ、顔を上げて」

一弥 「・・・・・・」

佐祐理 「覚えておきなさい、一弥。人を見下す者は、より上の者から見下されるさだめにあります。支配する立場にある者だからこそ、支配される立場の者達の思いを知らなければなりません。剣の道と王者としての心得・・・・・・形は違いますけど、根底にあるのは同じものです。さっきまでのあなたは、それを見失っていた」

一弥 「・・・・・・はい」

佐祐理 「下を向かない。辛くても、王となる者は顔を上げていなくてはならないのですよ」

一弥 「はい!」

こみ上げるものを押さえ込むように、一弥はグッと顔を上げる。
少しの間厳しい表情で向き合っていた姉弟だったが、やがて佐祐理は笑顔を浮かべた。

佐祐理 「でも、どうしても辛い時は、お姉ちゃんのところのおいで」

一弥 「あ・・・」

佐祐理 「佐祐理の前では、泣いたっていいよ。お姉ちゃんは、いつだって一弥の味方だから」

その言葉に、一弥は表情を歪めて姉の胸に飛び込む。

一弥 「うぐ・・・・・・姉さん・・・僕、負けてしまいました・・・・・・悔しいです」

佐祐理 「あははー、一弥は泣き虫だね。一回負けたくらいでなんですか」

一弥 「ぅ・・・ぅ・・・」

佐祐理 「でも、男の子はこれくらいの方がいいのかもしれませんね。もっとがんばりなさい、今度は勝てるように」

一弥 「ぅぐ・・・・・・はい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「この次もし戦う時は、楽じゃないんじゃないかなぁ?」

祐一 「さあな。まぁ、挑戦されればいつでも受けるけどな」

壁を一つ乗り越えれば、人は強くなる。
あの小僧も、この次会う時はさらに強くなっているだろう。
だが、俺も足を止めているわけじゃない。
俺の上にだって、まだまだ長い道が続いているんだ。

舞 「・・・一弥とは、その前に私が戦う」

祐一 「ボロ負けだったくせに」

舞 「・・・・・・」

郁未 「けど、まさか舞があそこまであっさり負けるとはね。雛瀬豹雨とだってそれなりに戦ってたじゃない?」

舞 「・・・・・・・・・お腹空いてた」

祐一 「おいおい」

さくら 「にゃはは、食べる、舞ちゃん?」

舞 「食べる」

呑気な奴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく