デモンバスターズEX

 

 

第9話 天剣の倉田姉弟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向き合っている二人。
一人は舞、もう一人は一弥。
手にしている得物は、舞が刀で、一弥の方が普通の剣だ。
どちらもなかなかの業物だろうな。

舞の方は右手に下げた刀の柄頭に軽く左手を添える構え。
一弥はオーソドックスな正眼だ。

さやか 「どう思う?」

祐一 「さあな」

どっちの実力も、俺にとっては未知数だ。
並みのレベルは超えているだろうが、どれほどのものか・・・。

 

舞 「!!」

一弥 「!!」

カッと双方の目が見開かれ、次の瞬間には立ち位置が入れ替わっていた。
互いに仕掛けながら、剣は当たらなかったな。
あの速度で下手に剣を合わせれば、剣に傷がつく可能性がある。
無理に撃ち合わせず、捌くかかわすの正解だ。

一弥 「ヤァッ!!」

二撃目を仕掛けたのは一弥が先だった。
舞は一瞬遅れて動き、後の先を狙う。

ガキィンッ!

今度は剣が撃ち合わされる音が響く。
体格的には大した違いもなく、パワーも互角だな。
舞は女にしては少し大きく、一弥は男にしては少し小柄だ。
それを考えると、妥当なところだろう。
しかし・・・・・・。

祐一 「・・・・・・」

さやか 「ねぇねぇ、剣のことはよくわからないんだけど、どんな感じ?」

さくら 「ボクなんか動きを目で追うこともできないよ」

祐一 「少し黙ってろ」

俺の目に狂いがなければ、今のは・・・・・・。

舞 「・・・・・・」

あいつも気付いてるみたいだな。
もう一度、今度は舞から仕掛けるか。

ヒュンッ

速い。
体の動きも剣の速度も、普通に反応できるレベルじゃない。

一弥 「っ!」

キィンッ

舞 「!?」

一弥 「タァッ!」

ギィンッ!!

渾身の力を込めた一弥の一撃を、舞は刀の腹で受け止める。
しかし体重を乗せた一撃の勢いを完全に止めることはできず、後方に大きく吹き飛ばされた。
空中で体勢を立て直して着地するが、その顔には動揺が浮かんでいる。

間違いないな。

祐一 「舞が押されてるな」

さやか 「そうみたいだね。どうして?」

祐一 「より強い奴が戦いを有利に運ぶ。道理だろ」

さやか 「そんなに差がある?」

祐一 「それなんだがな・・・」

まだよく見切れない。
ただ二度目の交差の時、タイミング的には舞の反撃が決まると思ったが、結果は互角だった。
そして今度は、舞の一撃は捌かれ、反撃を許した。
一弥の剣は、明らかに舞の上を行っている。
もっとも・・・。

一弥 「舞さん、僕はあなたを超えたと言ったはずです。それを手加減なんかしてて勝てるとでも思ってるんですか?」

舞 「・・・・・・」

そう、舞はまだ本気じゃない。
もちろんそれは一弥も同じだが。
たぶん本気を出せば互角くらいだと思うんだが・・・・・・。

舞 「・・・なら、次は本気で行く」

一弥 「はい」

再び双方構える。
今度も先に動いたのは舞だった。

舞 「せぃっ!!」

下から掬い上げるような切り上げ。

一弥 「ふんっ!」

それを一弥は剣の腹に当ててかわそうとする。
だが舞の狙いは刀の一撃ではない。
防御して隙のできた一弥に向けて、舞の蹴りが炸裂した。
長い足に充分なしなりを持たせた強力な一撃だ。
決まったかと思われたが・・・。

舞 「!?」

蹴りは一弥の腕にガードされていた。
舞の刀は一弥の剣に押さえられており、今度は舞の体が無防備だ。
そこへ、一弥の膝蹴りが舞の腹部を直撃する。

ドゴッ!

舞 「っっ!」

今度こそ完全に、一弥の攻撃が舞を捉えた。
吹っ飛ばされた舞は、仰向けに倒れる。

 

祐一 「・・・・・・」

さやか 「うわぁ、痛そう」

さくら 「舞ちゃん、大丈夫かな?」

鍛えてるから、あの一弥の軽量で喰らわせた当て身に大した威力はないだろう。
むしろ、完全に上を行かれたことによる精神的ショックの方が大きそうだ。

それにしても、驚いたな。
今の舞の動きは、俺が知る五年前とは比べ物にならない。
本当に本気で行ったものだろうが、あの小僧はその上を行った。

郁未 「・・・・・・」

祐一 「大分苦戦してるな」

最初は涼しい顔して見ていた郁未の表情も少し険しい。
近くにいたこいつの方が、舞の強さはよく知っているだろう。
その舞を圧倒している一弥・・・。

祐一 「あの小僧、いったい何者だ?」

郁未 「ナイツ・オブ・ラウンドの倉田一弥・・・・・・姉の佐祐理とともに、天剣の倉田姉弟と呼ばれてるわ」

祐一 「天剣?」

郁未 「天賦の才による剣、略して天剣。あの姉弟は確かに天才だけど・・・・・・まさかここまで・・・」

あの実力なら、あの年齢でナイツの一員ってのも頷ける。
姉貴の方も負けず劣らずな腕というわけか。
まさしくあれは、天才の剣だな。

 

舞 「・・・ごほっ・・・・・・・・・」

僅かに咳き込みながら、舞が立ち上がる。
思ったとおり、ダメージはさほどでもなさそうだが、動揺はしているな。

一弥 「言ったとおりでしょう。今の僕は、あなたよりも強い」

舞 「・・・・・・まだ決まったわけじゃない」

よく知る相手だからこそ、負けを認めたくはないもの。
常にあの豹雨に対抗意識を燃やしている舞が、負けず嫌いでないはずがない。

舞 「次で決める」

一弥 「ええ、そうしましょう。それで証明してみせます、僕の力を」

熱血してるな、なんか。
ああ言ったからにはほんとに次で決めるつもりだろうが、下手したら怪我するぞ?

祐一 「止めなくていいのか?」

郁未 「止められないわよ、ああなった舞は」

漂う緊張感が最高潮に達する。
出るな、舞の奥義・・・。

舞 「総天夢幻流・・・・・・・・・いづな!」

大きく飛び上がって、頭上からの斬撃。
速さも威力も十二分にある奥義を、正面から返すのはまず無理だろう。

一弥 「・・・・・・!!」

じっとしたまま舞をひきつけた一弥が動く。
ぎりぎりで舞の刀を回避し、技を放って無防備になった舞に向かって斬りかかる。

ザシュッ

斬った。

・・・・・・と、思われたが。

一弥 「!?」

一弥が斬った舞の姿が霞む。
それは残像だ。

逆に硬直した一弥の頭上から、再度舞が斬りかかる。
今度こそ、必殺の間合いだ。

 

ガキィンッ!!

 

舞 「・・・・・・っ!!」

一弥 「・・・・・・」

剣が撃ち合わされる音。
そして宙を舞う刃。

トスッ

地面に突き立ったそれは、片刃の剣・・・・・・・・・舞の刀の先だ。
舞自身の手に残る刀は、半ばから折られていた。

刀を振り下ろした体勢のまま呆然とする舞。
その頭上に、一弥の剣が据えられている。

勝負あり、だ。

一弥 「僕の勝ちです、舞さん」

舞 「・・・・・・」

 

舞の剣は、確実に一弥を捉えたと思ったが・・・。
あの一瞬で切り返して応じるとはな。
確かに、あの小僧の剣は天才だ。

郁未 「まさか舞が負けるとはね・・・・・・」

祐一 「予想以上にやるな、ナイツ・オブ・ラウンド」

この間のマギリッドと言い、この倉田一弥と言い。
世の中まだまだ強い奴はたくさんいるものだ。

祐一 「まぁ、あくまで並みのレベルから見れば、だがな」

一弥 「(ぴく)・・・・・・どういうことですか?」

祐一 「言葉どおりさ。おっと、これは俺の台詞じゃないな」

一瞬気の強い女の顔が頭に浮かんだ。
姉妹ともども俺の留守中は楓さんに頼んであるけど、どうしてるかな?

一弥 「まるで、あなたは僕より強いみたいな言い方ですね?」

祐一 「当然だろ」

一弥 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

さっきまで舞に向けられていた真っ直ぐな視線とは少し違う。
敵意に似た視線を向けてくる。

一弥 「今の僕は、ナイツ・オブ・ラウンドでも一、二を争う剣の腕を身につけています。ジークさんとだって引き分けていますから」

祐一 「あいつね」

前に舞と一緒にいたあの男。
豹雨と戦って引き分けた奴だ。
かなり強いのは事実。

祐一 「それがどうかしたか?」

一弥 「ジークさんは本当に強いんです。昔の僕は一生かかっても追いつけないと思っていた。でも僕はある日、限界を超えることができた。僕は強さの高みを手に入れたんです」

祐一 「くくく・・・」

一弥 「何がおかしいんですかっ!?」

祐一 「いや・・・」

かわいい小僧だ。
壁の一つや二つ超えた程度で一番強い奴のいる領域に達したと思ってるのか。
急に力をつけた奴が陥りやすい状態だな。

祐一 「要するにおまえは、ナイツ・オブ・ラウンドの中でもトップを争う力を手にしたわけだ」

一弥 「そうです」

祐一 「ジークよりも、そっちの姉貴よりも強くなったと?」

一弥 「ええ、勝つ自信はあります」

祐一 「ほう」

 

郁未 「・・・ねぇ、あいつ何彼を挑発してるわけ?」

さやか 「さぁ? 戦ってみたいんじゃないかな」

郁未 「けど、ちょっと生意気だけど、本気で彼、強いわよ。舞を圧倒した強さ、ジークと互角ってのも嘘とは思えない」

さやか 「大丈夫だよ、祐一君なら」

さくら 「うにゃぁ・・・ボクには何だかついていけないよ」

郁未 「・・・・・・」

 

祐一 「なら、俺にも勝つ自信あるか?」

一弥 「あります」

祐一 「くくく・・・」

おもしろい小僧だ。

ナイツ・オブ・ラウンド、か。
確かにとんでもない集団だ。
そんな奴らに囲まれて育てば、そいつらが世界で一番強いと思うのも当然か。
そしてそいつらに追いつき追い抜いた時、自分が一番と思い込む。

お坊ちゃまめ。

祐一 「ま、論より証拠、百聞は一見に如かずなんて言うし、戦ってみればわかることか」

一弥 「そうですね」

氷刀を生み出し、一弥と対峙する。
一弥も剣を正眼に構える。

祐一 「圧倒したとは言え、舞と本気でやりあった直後だ、少し疲れてるだろ。だからハンデをくれてやる」

一弥 「結構です」

祐一 「まぁ、そう言うな。行くぞ」

一弥 「後悔しますよ」

祐一 「させてみな」

奴の姿が消える。
舞をも圧倒したスピード、なるほど相当なものだ。
後ろ、か。

ザシュッ

祐一 「・・・っ」

背中を斬られた。
振り向いて反撃の一撃を放つが、かわされる。

一弥 「遅い!」

右・・・。

キィンッ

突き出した刀を弾かれる。
バランスを崩したところで、懐に入り込んでくる。
そこをカウンター気味に、左手に生み出した短い氷刀で応じる。

一弥 「む!」

それを警戒して一旦一弥は下がる。

一弥 「なるほど、自由に新しい刀を生み出せるみたいですね」

祐一 「便利だろ」

一弥 「けど、トリッキーな動きをしたところで・・・!」

シュッ

真っ直ぐ突っ込んできたはずの一弥の姿がまた消える。
高速で移動して俺を撹乱してきている。

一弥 「このスピードの前では無駄です!」

ドスッ

祐一 「うぉ・・・!」

左手を斬られた。
狙ってやがったな。
これで二刀流は使えないってか。

一弥 「これで両手は使えません」

祐一 「ふむ」

傷は浅いが、確かにこれでは正確な動きをするのは無理だな。
速さも相当だし、狙いも正確だ。
こいつの剣の腕は、本当に天才のものだな。

一弥 「わかりましたか? 僕の力が」

祐一 「大したスピードだな。で、それがどうした?」

一弥 「・・・どうやら、完膚なきまでにやられないと気がすまないようですね」

祐一 「やってみせてくれよ。おまえの力とやら、もっと見せてみろ」

一弥 「言われなくても!」

シュッ

本当に速いな。
一瞬で俺の背後を取ったか。
二度も喰らってはやらんぞ。
今度は受け止めた。

が、奴の狙いはそれだったようだ。
俺の刀を絡め取るようにして封じる。

一弥 「もらった!!」

ザシュッ!

祐一 「ぐ・・・」

俺の武器を無力化し、その後袈裟懸けの一撃。
いい攻撃だ。
刀から手を放して後ろに下がらなかったら致命傷になるところだった。

祐一 「いってぇ・・・・・・こんだけ傷を負わされるのもひさびさだな」

一弥 「もう終わりにしましょう。あなたでは僕に勝てませんよ。ここまででもう実力差ははっきりしたでしょう」

祐一 「だが、俺はまだ立ってるぞ」

手放した氷刀を改めて作り直す。
武器は無限に作れる、傷はそんなに深くない。
まだまだ勝負はついてないな。

祐一 「ほれ、俺を倒すまでかかってこいよ」

一弥 「何を言ってるんですか? 自分の力がわからないんですか。もう勝負は・・・」

祐一 「まだついてない。来いよ」

一弥 「・・・・・・わかりました。次で決めます」

祐一 「ああ」

奴が剣を上段に振りかぶる。
俺はただ突っ立っているだけ。

一弥 「ハァッ!!」

上からの斬りおとし。
必殺の一撃だろう・・・・・・・・・喰らえば、な。

 

ギィンッ!!!

 

一弥 「・・・・・・・・・え?」

何が起こったか、あいつにはわからないだろう。
斬りつけた瞬間、一弥の身は宙を逆さに舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく