デモンバスターズEX

 

 

第8話 エリスの不安

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「・・・・・・」

突然水瀬屋敷を訪れた三人とともに、祐一とさやかはこの日の早朝に旅立った。
騒音の元凶の一角たるさやかがいなくなったことで大分静かになった屋敷の庭を見ながら、エリスは憮然とした表情をしていた。

楓 「どうしたの、エリスちゃん?」

そこへ、洗濯物を抱えた楓が通りかかる。
エリスは大概仏頂面をしているが、今日はいつにも増して機嫌が悪そうだ。
それ以上に、何か漠然とした不安を抱えているように楓には見えた。

楓 「・・・昨日の祐一君達の話・・・何かあったの?」

エリス 「何でよ?」

楓 「聞いてたんでしょ。エリスちゃんは目も鼻も耳も、私達よりずっと利くものね」

エリス 「別に何もないわよ。大したことのない話」

楓 「そう?」

とてもそうは思えなかった。
今のエリスは、ちょうど今の楓と同じ雰囲気をまとっているように見えた。
何か、原因はわからないけれど不安を感じている。

楓が秋子とナイツ・オブ・ラウンドの因縁に対して抱く不安と同質のものを。

だが、正攻法で行ってもエリスから話を聞くことはできないだろう。
ここは搦め手から行くべし。

楓 「じゃあ、機嫌が悪いは祐一君が行っちゃったからかな?」

エリス 「はぁ? 何よそれ」

楓 「今さら何隠してるの。祐一君がいなくて寂しいんでしょ〜。エリスちゃん、彼のことずっと・・・」

エリス 「だ、誰があんな奴のことなんかっ!!? あんなガキんちょ、アタシが相手するわけないでしょ!?」

楓 「またまた、ムキになるところが尚怪しい」

エリス 「〜〜〜!!」

してやったりという表情でエリスに迫る楓。
だが、そこで思わぬ反撃に合う。

楓 「ほ〜らほら、素直になろうよ〜、エリスちゃ〜ん」

エリス 「やかましいっ!! 男に媚び売って甘えるだけのノータリン女はひっこんでなさい!!!」

楓 「っっっ!!!!!!!!」

がーん

という感じで固まる楓。

楓 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひ・・・」

目尻にじわっと涙が浮かぶ。

楓 「ひどいよ〜〜〜〜〜〜〜っ! エリスちゃんのばか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

そのまま泣き喚きながら走り去っていった。
エリスは先ほどまでよりさらに憮然とした顔で座り込む。

エリス 「ったく、祐一以上にガキなんだから、あいつは」

しばらくはそうやってぶつぶつ言っていたエリスだが、また真剣な表情に戻る。

エリス 「まさか・・・ね」

何もないと楓には言ったが、実際エリスが思い悩んでいるのは昨日の話が原因だった。

エリス 「・・・そんなはずないわね。“あいつら”がこんなところに来るはずないもの。取り越し苦労だわ」

楓 「でも一緒にいない間に祐一君を誰かに取られちゃう不安はあるでしょ」

エリス 「・・・・・・あんた、もう復活してきたわけ?」

どこまで走ってきたのか、全身ずぶ濡れで、頭には葉っぱや枝が付着している。
先ほどの発言に怒っているのか、目は据わっていた。

楓 「最近さやかちゃんと祐一君、時々いい雰囲気だよ。それに、一緒に行った三人の子もみんなかわいかったし」

エリス 「だから何だって言うのよ? あいつが誰と何しようが、アタシには何の関係もないでしょ」

楓 「エリスちゃん、長いこと一緒にいたからって、いつまでも相手の心が自分のところにあるとは思わない方がいいよ?」

エリス 「自分の心配してなさい。豹雨に捨てられたって面倒見てやらないわよ」

楓 「大丈夫。豹雨は絶対私を捨てたりしないから。手に入れたものは絶対に放さない主義の人だからね。まっすぐでいいよね〜」

エリス 「ノロケ話は余所でやりなさい。アタシを巻き込むな」

楓 「・・・・・・ねぇ、真面目な話、何を悩んでるの?」

エリス 「・・・悩んでなんかいないわ」

半分以上ふざけていた先ほどまでと違い、楓の声は真剣みを帯びている。

楓 「思うことがあるなら、溜め込んでないで表に出しちゃった方がいいよ。これは、みんなが私に教えてくれたことよ」

エリス 「わかってるわよ」

楓 「なら、いいよ。相談したくなったら、いつでも言ってね」

エリス 「・・・・・・」

走り去った時に置いていった洗濯籠を持って、楓は廊下の向こうへ歩いていった。
一人になったエリスは、目を瞑って考え込む。

エリス 「・・・・・・・・・・・・別に、あいつが心配とか、間違いがあったらまずいとか、そういうんじゃないからね」

誰に対してでもなく呟きながら立ち上がる。

エリス 「散歩・・・・・・そう、散歩に行くのよ。それだけよ」

ぶつぶつ言いながら勝手口から外へ出て行く。

 

当然のように、楓は物陰からその様子を見ていた。

楓 「ほんと、素直じゃないなぁ。年上なんだけど、こうやってみてると子供みたい。見た目も子供だし」

エリスと楓は姉妹のような間柄だが、恋愛の苦手な姉を世話する妹の気分だった。
微笑ましい気分になる。

楓 「それにしても、祐一君も隅に置けないなぁ」

一方の祐一は弟のようなもの。
こちらは周囲に多感な年頃の異性が多く、やはり姉として微笑ましい気持ちだ。

楓 「さてと、お仕事お仕事。借金返済に向けてがんばりましょー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「ひさしぶりの遠出だな」

朝早くに出発して、今はもう山を三つも越えている。
自走車とかいうものに乗っての移動は楽な上に速い。

さやか 「おもしろいね〜、これ」

さくら 「でも、ちょっと狭いね。これ、定員四人だと思うな」

郁未 「我慢しなさい。その目的地って遠いんでしょ。こいつで行く方が断然早いんだから」

祐一 「で、どこに向かってるんだ?」

さくら 「四神の祠だよ」

祐一 「四神の祠?」

また何のひねりもないネーミングだな。
だからといって、他にどう呼べばいいのかって聞かれても困るけどな。

祐一 「そこに四神とやらがいるのか?」

さくら 「そういうこと。詳しいことは着いたらまた話すよ」

祐一 「ふーん。ところで質問ついでにもう一ついいか?」

さくら 「うにゃ?」

祐一 「これは何だ?」

俺はさくらの頭の上に乗っている白い物体を指差して聞く。
部分的な特徴は猫と類似していないこともないが、俺がよく知る猫とはまったく異質な存在に思える。
こけし・・・・・・そう、こけし猫?

さくら 「うたまるだよ♪」

祐一 「・・・猫?」

さくら 「もちろん」

祐一 「・・・・・・」

郁未 「あまり考えない方がいいわ。私もそうしてるから」

祐一 「・・・だな」

どうでもいいことだしな。
ちょっと疑問に思ったから聞いてみただけであって。
興味というほどのものはない。

 

 

 

 

かなりの距離を進んで、とある町で休息を取ることにした。
他の三人に補給などを任せ、俺と舞は町の外に来ている。

祐一 「改めて、ひさしぶりだな。相変わらずあいつを追ってるのか?」

舞 「・・・この間戦った」

祐一 「負けたんだな」

舞 「・・・・・・」

一見表情のない奴だが、よーく見ていれば結構感情が顔に出る奴だ。
勝ったのならもう少し満足げにしているだろう。

こいつが豹雨と同じ総天夢幻流の使い手と知った時は驚いたが、実力的にはこいつの方が大きく劣っていた。
少なくとも、五年前に対戦した時はな。
あの頃は、俺もまだあいつらと一緒にいるようになって二年しか経ってなくて、まだまだ未熟だった。
それでも並みの奴らよりは遥かに強かったが、その時点で俺とこいつは互角だった。
今は、どうかな?

祐一 「どうする?」

舞 「・・・今は、いい」

祐一 「それもそうだな」

今は旅の仲間だ。
何が起こるかわからない以上、余計な体力を使うこともないか。
それに、直接やりあわなくても、こいつの力を見ることはできる。

祐一 「おまえ、なかなかいい知り合いがいるみたいだな」

舞 「・・・あまりよくない」

祐一 「確かに」

囲まれてるな・・・。
しかも全員、かなりの実力者だ。

・・・来るか?

舞が刀の柄に手を添える。
俺も力を集中して、いつでも氷刀を生み出せる状態にしておく。

たがいの緊張感が高まる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

来た!

ヒュッ

手裏剣ってやつか!
敵は忍者ということみたいだな。

カキンッ

四方から飛んできた手裏剣を全て叩き落す。
複数の敵を相手するには、刀が二本あった方が便利だ。
両手にそれぞれ氷刀を持って敵に第二波に備える。

祐一 「狙いはおまえみたいだが、俺は勝手にやらせてもらうぜ」

舞 「はちみつくまさん」

どうやら“はい”という意味らしいと、郁未に聞いている。

祐一 「かかってきなっ!」

黒装束の襲撃者達が姿を見せる。
真昼間からそんな衣装着てたんじゃ、逆に目立つと思うんだが。
つまり、闇に紛れて殺すのではなく、正面から来るってわけだ。
おもしろい!

祐一 「氷槍方陣!」

無数の氷柱が俺を中心に周囲に向かって伸びる。
さすがにこれで致命傷を負うような相手ではないが、不意をつかれて動きが止まる。
そこへすかさず刀で斬りかかる。

ザシュッ ドシュッ

急所を外す。
狙うのは腕や足だ。
殺すべき時にはしっかり殺すが、必要以上の殺人は好まない。
移動能力か攻撃能力を奪えば事足りる。

舞 「・・・せぃっ!」

ザシュッ

舞も同じらしい。
目にも止まらぬ斬撃が、全て敵の腕や足を切り裂く。

無力化された連中は無理をせず、他の奴の邪魔にならないように後退していく。
統率もよく取れている。
かなり強い奴らだが、相手が悪かったな。

祐一 「喰らわねぇよ!」

三人が同時に仕掛けてくるのを、俺は二本の刀で全て捌く。
離れようとするうちの一人の戦闘力を確実に奪い、残り二人にも軽く手傷を負わせる。

祐一 「その程度じゃ、俺に傷一つつけられん」

とは言うものの、俺もそうそう気が抜けない。
鍛え抜かれた強さ・・・・・・こいつら何者だ?

 

ドゴォーーーン

 

祐一 「ん?」

敵の一角の何かの一撃で崩される。
土煙の向こうから現れたのは、町に行っていた三人だ。
今の一撃は、郁未みたいだな。

郁未 「何遊んでるのよ?」

祐一 「せっかくの腕利きの敵だからな、楽しませてもらってる」

郁未 「まったく・・・・・・またあんた達なの? 出てきなさい、服部重蔵」

ただでさえ旗色の悪かった連中だが、郁未達の登場で形勢は完全に傾いた。
敵わないと見たか、奴らが下がっていく。
その間を割るように、一人の男が現れる。
他の奴らとは明らかにレベルが違う。

祐一 「・・・誰だ?」

郁未 「ナイツ・オブ・ラウンドの一人、服部重蔵よ」

祐一 「ほう」

糸使いの小娘や、マッド野郎のひょろメガネと同等の奴か。
同じ黒装束でも、確かに格が違うな、他の連中とは。
だが、奴だけじゃないな・・・。

舞 「・・・・・・」

郁未 「一人じゃないわね、重蔵。今日は誰を連れてきたわけ?」

重蔵 「会えばわかる。今日の俺はお供に過ぎんからな」

郁未 「まさか!?」

服部という忍者男の後ろの岩場から、さらに二人の人間が現れる。
一人は俺らと同年代、気品をただよわせた美少女だ。
もう一人はどこか面影がその少女と似ている、少し年下くらいの少年。

舞 「・・・佐祐理、一弥」

その名前は確か・・・・・・俺の記憶が確かなら、カノン公国の第一王女と第一王子。
またいきなり大物が出てきたものだ、こんな辺境に。

佐祐理 「あははーっ、おひさしぶりです、お二人とも」

郁未 「ええ、大体一年振りってところね。何か用?」

佐祐理 「はぇ、お友達に会いに来てはいけませんか?」

郁未 「別に悪くはないけど、お互い立場ってものがあるでしょ。こっちはカノン公国からすればお尋ね者よ」

佐祐理 「でも、佐祐理はいつまでもお二人のことは友達だと思っています」

舞 「佐祐理・・・」

佐祐理 「舞」

・・・うーむ、いまいち状況が飲みこめんが。
どうやら知り合い・・・それも親しい間柄みたいだな。

さやか 「蚊帳の外だね?」

さくら 「うん」

祐一 「暴れ足りないんだがな」

 

一弥 「あの」

身内だけで盛り上がっている(?)佐祐理王女と郁未・舞の三人の間に、もう一人の少年が割ってはいる。

佐祐理 「あ、ごめんね一弥。実はですね、ちょうど近くにお二人が来そうだという話を聞いたら、一弥が会いたがったんですよ」

郁未 「彼が弟君? 私とは初対面だけど、舞は知ってるのよね?」

舞 「はちみつくまさん」

一弥王子の視線はまっすぐ舞に向けられている。
あの真っ直ぐな視線は、覚えがあるな。

一弥 「舞さん」

舞 「・・・?」

一弥 「今日は、お手合わせ願いたく参上しました」

やっぱりな。
そういう雰囲気だった。

舞 「手合わせ?」

首をかしげながら舞が両手を合わせる。

ばちんっ

その舞の頭を郁未がどつく。

郁未 「ボケはいらん!」

なるほど、舞と郁未はボケツッコミコンビ、と。

一弥 「もう一年になります。僕はもう、あなたを超えた自信がある」

舞 「・・・・・・(ぴく)」

お、舞の表情が微かに険しくなる。
癇に障ったかな?

一弥 「いえ・・・・・・今の僕は、誰にも負ける気がしません」

舞 「・・・・・・なら、試してみる」

一弥 「ええ」

互いに剣を構える。
俺らを無視して、妙な展開になってきたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく