デモンバスターズEX

 

 

第6話 ノワール・ムーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名雪 「♪〜」

翡翠 「・・・ご機嫌ですね?」

名雪 「あ、わかる〜?」

翡翠 「はい」

よろず屋のカウンターに座っている名雪は、非常に珍しいことに、本日は朝から居眠りをしていなかった。
そして誰が見てもすぐにわかるほど機嫌が良い。
一言で表現するなら・・・ほわわんとしているのだ。

名雪 「実はね」

翡翠 「はい」

誰も聞いていないのに機嫌がいいわけを話し始める名雪。
翡翠は掃除をしながら聞くともなしに聞いているが、律儀に受け答えだけはしている。
構わず名雪は続けた。
というより誰も聞いていなくても本人は一向に構わない様子だった。

名雪 「わたし、ずっと前から年間限定2万個の超レアいちごの予約してたんだけど、やっと購入できたんだよ〜」

翡翠 「そうですか」

名雪 「しかも今日届くんだって〜。待ちきれない〜って言ったら、超快速の運び屋さんが届けてくれるって〜」

それで機嫌が良いのか、と翡翠は納得する。

名雪 「どんなんだろう〜、レアいちご〜、限定2万個だよ〜、年間100名様限りだよ〜」

つまり一人200個。
きっと全て名雪の胃の中に収まるのだろう。

 

?? 「こんにちは、水瀬名雪さんっている?」

 

名雪 「はい! 水瀬名雪はわたしです」

翡翠 「・・・・・・(速い)」

普段の名雪とは比べ物にならないスピードだった。
一瞬視界から消えたと思ったら、もう入り口のところで運び屋の女性と対面している。
届けに来た女の方は、さすがに少し驚いたようだが、あまり動じていないようでもあった。

運び屋 「いちご200個・・・合ってるわね」

名雪 「違うよ」

運び屋 「はい?」

名雪 「限定品の超おいしいレアいちごだよ〜♪」

翡翠 「あまり気になさらずに」

運び屋 「そのようね」

届け物を受け取って既に有頂天となっている名雪。
運び屋の女と翡翠はそれを無視して代金の受け渡しをする。

運び屋 「毎度。ところで、何だか騒がしいみたいだけど?」

翡翠 「え?」

運び屋 「裏手の方」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋子 「・・・・・・」

栞 「・・・え? 今・・・何が・・・?」

戦いを見守っていた秋子と栞。
その光景を前に、反応はそれぞれだった。
まずもって、栞には何が起こったのかさっぱり見えていなかった。

ただ、祐一が何かをして、一瞬でセリシアという少女が倒されたということ。

秋子の方は表面上平静を装いながら、実際には言葉を失っていた。
決して祐一を過小評価していたわけではない。
それでも、自分でさえ互角と思われるナイツ・オブ・ラウンドを一蹴した今の力は、予測の範囲外だった。

 

 

 

祐一 「・・・ふぅ。さて、後はおまえだけだな」

マギリッド 「・・・・・・」

二対一の状況が面倒だったんで、少しの間本気モードでいって、まずは小娘の方を片付けた。
あの治癒能力なら死んではいないだろうが、当分は動けないだろう。
ついでに、氷柱で串刺しにしてあるからな。

マギリッド 「・・・それが氷帝の力か」

祐一 「まぁな。小娘相手にここまでする必要はなかったんだが、おまえの相手をするのに外野がいるのは鬱陶しい」

確かにセリシアという小娘も強かった。
けど、こいつはそのさらに上・・・別格だ。
たぶん、斉藤クラス・・・俺とも五分・・・。

ひさしくこんな強い奴とやりあってないからな。
斉藤との勝負では熱くなりすぎて、楽しむ余裕がなかった。
こいつとなら、楽しめそうだ。

祐一 「さあ、やるか」

マギリッド 「・・・・・・くくく・・・くっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」

な、なんだ?

マギリッド 「ふっひゃっひゃ・・・・・・なるほど、そういうことか!」

何か一人で納得しているが、俺には何のことだかさっぱりわからない。
こういうタイプはここで聞いてもまともに答えそうにないんだが・・・。

祐一 「何一人で納得してるんだ?」

マギリッド 「くっふっふ・・・・・・確か、相沢祐一とか言ったな」

祐一 「ああ」

マギリッド 「そうだったのか・・・・・・あの相沢一族とは、“あの”一族の末裔だったのか!」

祐一 「何?」

“あの”一族だと?
いったい何の話だ。

マギリッド 「これはいい、“奴ら”にいい手土産ができたよ」

“奴ら”?

祐一 「おい、ひょろメガネ。一人で叫んでねぇで、こっちにも分かるように説明しろよ」

マギリッド 「私が説明するまでもなかろう。近い将来、“奴ら”はおまえの前に現れるぞ。私が教えるからな」

祐一 「?」

マギリッド 「しかもおまえの覚醒レベル・・・・・・同じ相沢一族でも水瀬秋子とさえ比べ物にならない。まさに“奴ら”が捜し求めていたのはおまえのことだろうな」

祐一 「だから・・・」

勝手に話を進めるなよ。
こっちには何がなんだかさっぱりわかりやしない。
まぁ、どうでもいいけどな。

祐一 「盛り上がってるところ悪いがな・・・退く気がないならとっととやろうぜ。退屈なんだ」

マギリッド 「・・・よかろう。もう少しおまえの力を見ておきたい。研究サンプルとしてこれ以上ないからな」

祐一 「ほざけ。研究を続ける前に俺が叩きのめしてやる」

力をためて、周囲に無数の氷柱を生み出す。
さっきの攻防で、奴がむしろ遠距離戦を得意としているのはわかった。
闇雲に接近しても、距離を取られるだけだ。
なら、遠近両方の攻撃で隙を見出すまで。

祐一 「氷槍飛燕!」

氷柱がマギリッド目掛けて飛ぶ。
当たるとは思っていないが、かわしたところに第二撃を撃ち込む。

マギリッド 「ふっ・・・・・・はぁ!」

ドンッ

祐一 「何!?」

奴は避けなかった。
右手を突き出して気合を入れると、氷柱は全て砕け散った。

祐一 「また妙な技を!」

やっぱりこいつの力の原理がよくわからん。
氷を溶かす熱だったり、衝撃波だったり。
一つ共通するのは、それが見えないということ。
不可視の力ってところか?

マギリッド 「どうした、もうおわりか?」

祐一 「馬鹿言ってんなよ」

向こうの力の正体がわからない以上、小細工をしても仕方がない。
ここは、最大の力で攻め立てるのみ。

祐一 「行くぜ!」

やはり俺には接近戦の方が性に合っている。

祐一 「凍魔天嵐!」

ピキンッ

捉えたか?

マギリッド 「甘い」

祐一 「ちっ!」

奴の気配を背後に感じた瞬間、俺は横に跳んだ。
直後、地面が陥没した。
見えない力じゃ防御もできやしない。
回避しないとやばいな。
それにしても、なんてスピードだ。
この俺が動きを捉えきれないとはな。

祐一 「む」

ヒュッ

横から聞こえた風切り音。
俺は僅かに体を引いてそれをかわした。

セリシア 「はぁ・・・はぁ・・・・・・よくもやって・・・くれたわね・・・」

ちっ、もう復活しやがったか。
ある程度予測はしてたが、腹に大穴空けられても生きてやがるのか。
けど、さすがに体力までは即座に回復できないみたいだな。

祐一 「無理すんな、小娘。そんなへろへろな状態じゃ、俺の相手なんか務まらないぞ」

セリシア 「うるさいっ! こんな屈辱許さないわよ・・・・・・あたしは、郁未以外には負けたことないんだから・・・!」

 

?? 「呼んだ?」

 

セリシア 「!?」

マギリッド 「!!」

また別の奴が現れた。
小娘の背後に、俺と同い年くらいの女が立っている。
少し青みがかった背中まである黒髪の美少女。

目が合った瞬間、背筋にびびっと来るものがあった。
こいつも強いな。

セリシア 「い・・・郁未?」

マギリッド 「天沢郁未・・・」

天沢郁未?
それがあの女の名前か。

その郁未とやらが、何故か両手で耳を塞ぐ。
何かと思ったら、答えはすぐに出た。

マギリッド 「うっひゃっひゃっひゃっひゃひゃっひゃ!!!!」

・・・うるせぇ。

今まで一番甲高く、大きな声で笑うひょろメガネ。
なるほど、これを予測して耳を塞いでたわけか。
知り合いらしいな。

マギリッド 「こんなところで会うとはなぁ、天沢郁未。おまえにはたっぷり借りがあったよ」

郁未 「それを言うならお互い様でしょ。こっちとしてはあまり会いたくもなかったけど」

しかもただの知り合いじゃない。
因縁ありまくりって感じだ。
空気がぴりぴりしていやがる。

祐一 「・・・・・・」

何かの流れを感じるな。
魔力じゃない・・・俺の持つ力とも性質が違う。
だが、完全に異質なものというわけじゃない。
強いて言うなら、どこにでもあるような力でありながら、多くの人間がその扱い方を知らない力・・・。
その力があの女の体を中心にして渦巻いている。

マギリッド 「その力・・・健在のようだな」

郁未 「そっちは、また妙な力を開発してるみたいね」

マギリッド 「・・・・・・」

郁未 「・・・・・・」

何やら完璧に無視されてるな。
さっきまで俺と戦ってたはずなのに、あの男。

マギリッド 「・・・セリシア」

セリシア 「え、何?」

マギリッド 「退くぞ」

セリシア 「はい? ちょ、ちょっと!?」

言うが早いか、マギリッドの姿はその場から掻き消えた。
続いてセリシアもそれを追って行く。
どうやら逃げたらしい。

祐一 「なんだかなぁ」

結局あいつら何しに来たんだ?
いや、秋子さんに何か用事があったのと、ほたるを捕まえに来たのはわかってるが。
まぁ、いいか。
こっちはみんな無事だったことだし。

祐一 「琥珀、大丈夫か?」

琥珀 「・・・・・・はい」

表情のない顔。
一切の感情が感じられない。
それは剥き出しの憎悪などよりもよほど見ていてぞっとする。
あの男との間に何があったのかは知らないが、よほどのことだったんだろう。

翡翠 「何か、あったのですか?」

祐一 「翡翠か。いや、ちょっと・・・」

琥珀 「なんにもないですよー、翡翠ちゃん」

一瞬にして笑顔を浮かべて妹の方へ振り返る琥珀。
本当に早い変わり身だった。
もう、いつもの琥珀だ。

祐一 「・・・・・・」

琥珀 「祐一さん」

祐一 「ん?」

もう一度こちらを向いた琥珀は、笑顔には違いなかったが、目はさっきと同じ色をしていた。
そして、そっと人差し指を口の前に添える。
翡翠には黙ってろってことか。
俺は頷いておいた。

琥珀 「あはっ、やれやれ、祐一さんが暴れるから庭がめちゃくちゃですよ」

祐一 「おいこら待て、そういうことにする気か、てめぇ」

完全にいつもの琥珀だ。
けど、俺はもう知ってしまった。
この琥珀の笑顔が、仮面に過ぎないことを。
いや、さっきの無表情も仮面に違いない。
なら、本当の琥珀は、どこにいるんだ?

祐一 「・・・・・・」

琥珀 「庭掃除〜、庭掃除〜♪」

考えても仕方ないか。

祐一 「!」

視線を感じた。
振り返ると、あの女、天沢郁未とか言ったか、彼女がこっちを見ていた。

祐一 「おまえは・・・」

郁未 「あなたが氷帝の相沢祐一?」

祐一 「・・・ああ、そうだ。おまえは?」

郁未 「運び屋ノワール・ムーンの天沢郁未よ」

祐一 「ノワール・ムーン・・・・・・」

そういえば、噂で聞いたことはあるな。
一年くらい前から活動してる、二人組みの凄腕の運び屋。
なるほど、噂になるわけだ。

祐一 「そいつが、何故俺を知っている?」

郁未 「知り合いがあなたと面識があってね」

祐一 「なるほど。で、何か用か?」

郁未 「ええ。けど、日を改めて来るわ。話はその時で」

祐一 「わかった」

伝えることが終わったのか、郁未は屋敷を出て行った。
何の用かはわからないが、これはただ事で終わりそうにないな。
俺の知らないところで、何かが動いているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルバーホーンの町外れにある食事所。

さくら 「あ♪ おかえり〜、郁未ちゃん」

郁未 「・・・・・・」

店内に入った郁未は、笑顔で手を振るさくらに対して軽く手を上げて応じてから、無言でそちらへ歩み寄る。
そして席へ到着するなり、もう一人の方の頭に拳骨を落とした。

ごつんっ

舞 「・・・郁未、痛い」

郁未 「あんたね、人に仕事させておいて何食べてるのよ?」

舞 「お腹空いたから」

郁未 「そんな理由が罷り通るかっ!」

ごつんっ

二発目。
しかし舞はまったく動じず、牛丼の中身をかっ込む。
それ以上は怒ることすら労力の無駄と知る郁未は、ため息をつきながら席につく。

郁未 「行ってきたわよ」

さくら 「で、どうだった?」

郁未 「実力に関して言えば、噂通りね。それ以上のことは私にはわからないわよ」

さくら 「うん、ボクの目に狂いはないから、郁未ちゃんから見て合格なら、万事オッケーだよ」

郁未 「ということは、これで三人。あと一人ってこと?」

さくら 「それも問題なし。最後の一人はもう目星はついてる、というよりもう話をつけてあるんだ」

郁未 「いつの間に?」

さくら 「二人に会うより前だよ。細かい話はしてないけど、他に三人集めたら頼みたいことがあるって言ってある。で、承知してくれたよ」

郁未 「なるほどね。じゃあ、四人揃えば、いよいよ話してくれるわね。あなたの目的を」

さくら 「オフコース」

舞 「・・・牛丼、とても嫌いじゃない」

郁未 「話を聞いてなさいっ」

ばちんっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく