デモンバスターズEX

 

 

第5話 笑う狂科学者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マギリッド 「さぁ、単細胞生物よ。理解したならさっさと私の作品を返したまえ」

祐一 「さーて、どうするかな」

ちらっと後ろを見る。
ま、答えは吟味するまでもないな。
ほたるはこれ以上は白くなれませんというところまで血の気が失せている。
恐怖なんても言葉すら生ぬるいほどにあの男に怯えているようだ。
俺はフェミニストじゃないが、ここまで怯えてる女の子を放り出すほど薄情でもない。

祐一 「断る」

マギリッド 「・・・・・・」

また奴の顔が歪む。
いかにも、こいつ何を言ってるんだ、という実に人を馬鹿にした顔だ。

マギリッド 「・・・すまない、下等生物の言語は分かりづらいね・・・もう一度言ってくれるかね?」

祐一 「断る」

マギリッド 「どうやら少々耳にゴミがつまっているらしい。もう一回」

祐一 「断る」

マギリッド 「もう一度、はっきりと」

祐一 「こ・と・わ・る、つってんだ。わかったかよ、ひょろメガネ」

マギリッド 「・・・・・・」

しばしの硬直。
やがて、また奴の顔が歪む。
あれは・・・・・・非常に不気味極まりないのだが、笑っているのか・・・?

マギリッド 「くっくっくっくっく・・・・・・私としたことが・・・下等生物とまともなコミュニケーションをとろうとしたのが間違いだったようだ。私の言うことが理解できなかったんだねぇ、すまないねぇ、話し合いで解決できないのなら、勝手に持って帰らせてもらうよ。その結果壊れてしまっても、私の作品を拾ってしまった不幸を呪うといい」

祐一 「良く喋る馬鹿だな」

なんというか、ツッコミどころが満載なようで、どうつっこんでいいものか悩むところだ。
奴と同じ考え方をするのは癪だが、実際まったく違う生物と会話しているような気分になる。
魔族にだってもう少しまともな奴がいるぞ。

マギリッド 「私の言葉が理解できたらでいいが、そこでじっとしていたまえ。勝手に持って帰るから」

塀の上から飛び降りた奴が、こちらに向かって歩いてくる。
もう既に、俺らは眼中にないって感じだ。

秋子 「マギリッドさん」

マギリッド 「んん?」

そこへ横合いから声をかけられ、歩みが止まる。
しげしげと声をかけた秋子さんを眺めてから、また大げさに驚く。

マギリッド 「おお、これはこれは水瀬秋子君・・・おひさしぶりですねぇ」

秋子 「ええ、そうですね」

知り合いか?
それにしても異様な緊張感が漂っているが。
互いに笑みを浮かべているが、目はまったく笑っていない。
加えてすぐにでも戦闘に入れる態勢だ。

マギリッド 「セリシア、ちゃんと仕事はしたのか?」

セリシア 「ええ、聞くことは聞いといたわよ。返事はまだだけど」

聞かれた小娘が髪や服を絞りながら答える。
なんとなく無視されて拗ねているように見えなくもない。

マギリッド 「そうか。それで水瀬君、返事を聞こうか?」

秋子 「私がイェスと言うとお思いですか?」

マギリッド 「思わんね。では君の始末は・・・セリシア、やっておきたまえ」

セリシア 「はいはい・・・よっと」

ぎゅぅっと最後に髪を思い切り絞る。
それから指をひょこひょこ動かして感触を確かめているようだ。

セリシア 「まだちょっと重いなぁ。そうだ♪」

小娘の全身が魔力を発する。
魔力は熱に変わり、それが髪の毛全体に伝わっていく。
なるほど、熱で乾かそうってわけか。

マギリッド 「さて・・・」

話は終わったとばかりに秋子さんの存在を無視して、再びほたるの方へ向かって歩き出す。
それを遮ろうとする俺の前に、さらに琥珀が進み出て奴の進行を妨げる。

琥珀 「マギリッド・・・」

マギリッド 「ん? んん〜〜〜」

目の前に現れた琥珀をじっくりという感じで観察するマギリッド。
琥珀の方は、静かな憎悪を奴に向けている。

マギリッド 「おお! サンプルT078ではないか。こんなところにあったのかぁ」

さも当然のように琥珀を自らの手におさめようとする奴に対し、琥珀の刀が閃いた。
切っ先が、奴のメガネを両断する。

琥珀 「気安く触らないで」

マギリッド 「・・・反抗的だねぇ・・・前はとっても従順だったのに。やはり、T079がなくては駄目か」

琥珀 「!!」

ヒュンッ

再び琥珀の刀が振りおろされる。
俺の目から見ても充分に速く鋭い斬撃。

ピッ

しかしそれを、奴は右手の親指と人差し指だけで掴み取った。
左手では新しいメガネを取り出している余裕ぶりだ。

マギリッド 「退きたまえ」

蚊でも払うような仕草で、奴の右手の甲が琥珀の頬を打つ。
大した力もこもっていないような一撃だったのに、琥珀の体は数メートルも吹っ飛び、塀に激突して止まった。
塀に打ち付けられた衝撃で、琥珀がその場に崩れ落ちる。
その時点で既に奴の興味は琥珀からそれていた。

マギリッド 「さて、早くほたるを回収しなくては」

祐一 「おい」

マギリッド 「・・・何かね、単細胞生物君」

いかにも面倒くさそうに俺の呼びかけに応える。

祐一 「おまえ、二つ目の換えのメガネ持ってるか?」

マギリッド 「は?」

祐一 「持ってなさそうだな。ご愁傷様」

俺の言葉と共に、奴のメガネのフレームが溶けて、落ちた。

マギリッド 「・・・・・・」

その様子を見ていた奴が、視線を横に向ける。
刀を杖にして立ち上がった琥珀の手には、怪しげな色をしていて、煙を上げている異様な液体が入った試験管が数本握られていた。
どういう原理かはわからないが、あれでメガネを溶かしたらしい。
あの一瞬で。

マギリッド 「・・・やれやれ・・・サンプルの分際で私のメガネを二つも壊すとは・・・・・・お仕置きが必要だねぇ」

はじめて奴の意識が完全に琥珀の方を向く。
敵として認識したようだ。

 

さて、いまいち状況が把握できんが、どうするかな?

敵は二人。
セリシアとかいう糸使いの小娘と、マギリッドとかいうマッド野郎。
特にマギリッドの方の強さは半端じゃない。
はっきり言って、琥珀じゃ分が悪い。
だが、琥珀は助太刀を拒んでいる。

とりあえず様子を見つつ、やらせておくしかないか。
となると残るは、小娘の方だな。
秋子さんとやるつもりらしいが・・・。

祐一 「世話になってる手前、厄介ごとは引き受けなくちゃな」

俺は琥珀とマギリッドの方にも注意を払いつつ、秋子さんと小娘の間に割ってはいる。

秋子 「祐一さん?」

セリシア 「また邪魔する気?」

祐一 「ああ。事情はよくわからんが、世話になってる人に面倒押し付けて傍観してるのもなんだしな」

秋子 「祐一さん、これは私の・・・」

祐一 「ここは俺に任せてくれよ。秋子さんは、栞とあの子を護ってくれ」

こいつらの目的の一つは、ほたるを連れて行くことらしい。
隙を見てほたるを連れ去らせると面倒だ。
栞の力じゃ、まずこの二人相手には歯が立たないしな。
その点秋子さんなら安心だ。

祐一 「な」

秋子 「・・・わかりました。気をつけてください」

祐一 「はいよ」

まぁ、気をつけると言っても、この小娘が相手じゃ・・・。

祐一 「そういうことだ。来いよ、遊んでやる」

セリシア 「バカにしてぇ・・・!! はぁっ!!!」

ヒュッ

さっきとは違う、赤い閃光が走る。
小娘の銀髪の一部が、熱を帯びて赤くなっているんだ。
糸が切り裂いた部分は同時に溶解している。

祐一 「そんな熱量を持たせると、髪が痛むんじゃないか?」

セリシア 「問題ないわ。耐熱能力はばっちりだから」

祐一 「それでいて耐水仕様じゃないのか。中途半端だな」

セリシア 「うっさい!」

連続で繰り出される糸による斬撃。
その全てを見切ってかわしていく。
せっかく自由度の高い武器を使っているのに、攻撃が単調だな。
至極読みやすい。

逃げてばかりもつまらないな。
ここらで反撃と行くか。

俺の両手に氷刀が一振りずつ現れる。

祐一 「凍魔天嵐」

ピキッ

セリシア 「な!?」

祐一 「おまえの熱より、俺の氷の方が勝っていたようだな」

熱を帯びた銀髪は、凍り付いて砕けた。

セリシア 「何よこれ・・・・・・あなたいったい、何なの?」

祐一 「教えてやろうか。デモンバスターズの一人、氷帝の相沢祐一」

マギリッド 「ほう、おまえがあのデモンバスターズの一人とはな」

祐一 「!?」

背後からの声に、俺は横に飛びのく。
すぐそこに奴がいた。

マギリッド 「くっくっく・・・くっきゃっきゃっきゃっきゃっきゃっ!」

な、なんなんだ、こいつは。
っていうか、琥珀は・・・?

視線をめぐらすと、ぼろぼろの姿で塀に寄りかかっている琥珀の姿が目に入った。
まだ意識はあるようだが、とても戦えるダメージじゃないな。
実力差があるとは思ったが、こうもあっさりやられるとは。

マギリッド 「くくく・・・先ほどは下等生物扱いしてすまなかったね」

祐一 「何だよ、随分と態度が変わってるな」

マギリッド 「真の強者に対する敬意は持ち合わせているよ。それ以外は、役に立つサンプルと、立たないサンプルしかないがね」

対等な相手と、それ以下の奴は使えるか使えないか、ってか。

マギリッド 「ふぅむ・・・しかしおまえではないな」

祐一 「は?」

マギリッド 「この辺りで半月ほど前、高エネルギー反応をキャッチしたのだが・・・その正体が気になって最近は夜もろくに眠れないのだよ」

半月前・・・っていうと、ちょうど楓さんとエリスがこの屋敷に住むようになった頃。
ということは、高エネルギーってのは、たぶん楓さんだな。
俺達が楓さんを見つけた時に感じたあれだ。

マギリッド 「何か心当たりはないかね?」

祐一 「・・・いや、ないな」

教える義理はないな。

マギリッド 「そうか、残念だ。それはさておき、私が用があるのはほたると水瀬秋子なのだよ。おまえの力も非常に興味深いが、ここは退いてくれないかね?」

祐一 「さっきも言ったろ、断るって」

マギリッド 「そうか・・・。では、セリシア」

セリシア 「わかってるわよ。さっきから人を馬鹿にしてばっかり・・・ただじゃおかないんだからっ」

マギリッド 「おとなし退く気がないのなら、おまえは一番の脅威になる。悪いが倒させてもらうよ」

祐一 「マジモードにもなれるんじゃねーか、ひょろメガネ・・・ってメガネの換えはないんじゃなかったか?」

マギリッド 「仕方がないから壊れたのを直したよ」

祐一 「あ、そう」

さて、どうする?
小娘の方は魔力だけは高いが、戦い方が単純でどうとでもなる。
ひょろメガネの方だって、一対一なら負けることはない。
が、二対一となると、少し勝手が違う。

祐一 「・・・・・・ま、いいか」

この程度の劣勢がなんだ。
俺は、デモンバスターズの氷帝だぞ?

祐一 「来いよ」

右にマギリッド、左にセリシアを見る形で両手に氷刀を手に構える。
問題は、ひょろメガネの方の戦い方が全然わからないことだな。
小娘と遊びながらでも、琥珀とやりあってるところを見ておけばよかったか。
当たってみればわかるか。

シュッ

まずは先手。
右手のマギリッド目掛けて仕掛ける。
最速の一撃、突きを放つ。

マギリッド 「む!」

避けられた。
だがそれは計算の内だ。
横へ逃れた奴に向かって、刀を薙ぎ払う。

ギンッ!

祐一 「?」

何だ?
金属音・・・、何か手に持っているのか。
さらに追い討ちをかければわかるか。

マギリッド 「すまんが、私は接近戦は嫌いでね」

祐一 「!?」

何かのエネルギーが奴の手に収束し、撃ち出される。
咄嗟に後ろに飛んで回避する。
地面はハンマーでも打ちつけたようにへこんだ。

祐一 「なんだ、今のは?」

魔法の類じゃない。
かといって俺のような特殊能力ともどこか違う。
あえてどちらかと言えば、俺の能力に近い、か?
正体不明じゃ、迂闊に手が出せないな。

セリシア 「あたしのことも忘れないでよね!」

ヒュッ

四方から糸が迫る。
だが、甘いな。

俺は正面、一番最初に向かってきた糸を刀に絡め、そのまま一回転して全ての糸を絡め取った。
そのまま巻き込むように引き込んでやる。

セリシア 「きゃっ!」

祐一 「その鬱陶しい髪、まとめて無くしてやる」

ザシュッ

引き寄せた小娘の髪をまとめて引っ掴み、半ばから切り落とす。
さらに、バランスを崩しているセリシアに蹴りを見舞って吹き飛ばしす。

祐一 「見たところ普通の髪と変わらないが、魔力を込めるといわゆる鋼糸という武器と同質のものになるわけか」

セリシア 「あーっ!! あ、あたしの髪・・・・・・」

結構強く蹴り飛ばしてやったのに、起き上がった小娘はぴんぴんしていた。
やっぱり・・・・・・ほたるを見た時から感付いていたが、魔導実験体ってやつは人間に数倍する自己治癒能力を持ってるみたいだな。
打たれ強さもかなりのものだ。

セリシア 「よ・・・よくも・・・・・・髪は女の命なのにぃぃぃーーーっ!!!」

祐一 「あー、そりゃ悪かったな」

セリシア 「ふっかーーーっ! 殺す殺す殺す! あんた絶対殺してやるっ!!」

祐一 「それでどうする気だ?」

セリシア 「んんん〜〜〜・・・・・・・はぁ!!」

ぶわっ

祐一 「げ」

小娘の魔力が膨れ上がると、髪の毛が爆発的な速さで伸びた。
しかも、なんか前より長くなってないか?

祐一 「失敗したか」

マギリッド 「当然だ。私の作品がセリシアの頭ほど単純だと思わないでもらいたい」

祐一 「自慢してるんだか、馬鹿にしてるんだか・・・・・・まぁいい」

片方の戦力を削ぐつもりが、かえって面倒にしてしまったらしい。
できるだけマギリッドに集中したいんだがな。
こいつ、俺と戦っているけど、隙を見てほたるのことを狙ってやがる。

・・・・・・少し・・・本気で行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく