デモンバスターズEX

 

 

第4話 魔導実験体の少女達

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女 「・・・ん・・・」

栞 「あ! 祐一さん、気が付いたみたいですよ」

祐一 「そうか」

小川から冷たい水を汲んで、俺は少女のもとへ向かう。
見ず知らずの相手だが、放っておくわけにもいかんのでとりあえず介抱している。

少女 「・・・ここは・・・?」

弱弱しい目で辺りを見回し、不安そうな声を上げる。
俺達の姿を見止めると、少し警戒した表情になった。

少女 「あの・・・」

祐一 「とりあえず怪しい者じゃない、と思う」

栞 「祐一さん、それじゃどっちかわかりませんよ」

祐一 「少なくとも、あんたに危害を加えるつもりは一切ない」

少女 「・・・・・・」

少し見つめあった後、少女は少しだけ表情を緩めた。

少女 「・・・はい」

祐一 「信用してくれたか?」

少女 「・・・悪い人達には、見えませんから」

祐一 「いい人かどうかもわからんがな。とりあえず、大丈夫か?」

少女 「はい」

額にある、冷たい水で冷やしたタオルに手を当てながら、少女が起き上がる。
まだ少し顔色が悪いが、やはり健康状態に異常はまったくなさそうだ。

少女 「あ」

ふと気が付いた少女が自分の両腕に目をやる。

少女 「手枷・・・」

祐一 「ああ、取っておいた」

栞 「正確には、壊しておいた、です」

祐一 「黙ってろ」

既に壊そうとした後があって、鍵穴も潰れてたからな。
俺がその気になれば、鍵穴から鍵の形状を読み取って、氷で鍵を作る事だってできる。
・・・・・・ダンジョンで扉があったり宝箱があったりするとこの能力が便利でな。
よく楓さんやエリスに扱き使われた。
アルドの能力でだって似たようなことできるだろうによ。

それはさておき。

祐一 「・・・どこかから逃げてきたのか?」

少女 「え?」

祐一 「手枷なんて、趣味でつける奴はいないだろう。たぶん」

世の中には変わった奴もいるから、絶対とは言い切れないがな。

少女 「・・・はい」

祐一 「そうか。追われてるのか?」

少女 「はい」

見るからに少女は緊張している。
今にも誰かに襲われるのを、怯えているようだ。

栞 「祐一さん・・・」

祐一 「そうだな。とりあえず、屋敷に戻るか。話はそれからだ」

少女 「あの・・・?」

祐一 「おまえも来い」

少女 「でも・・・迷惑が・・・」

祐一 「心配ないだろ。あの屋敷を落とすのは事実上不可能に近いからな」

あくまで並みの相手ならだが、並みじゃない相手なんて、そうそう来るものでもないだろう。
仮に来たとしても、デモンバスターズが三人もいる以上、負ける気は一切しないしな。

祐一 「そうと決まったら行くぞ。っと、その前にせっかくだから自己紹介しておくか、俺は相沢祐一だ」

栞 「私は美坂栞です」

少女 「えっと・・・・・・・・・ほたる・・・です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ ピシッ

セリシア 「ほーらほらっ、さっきまでの威勢はどうしたのよ!?」

琥珀 「く・・・!」

広大な水瀬屋敷の一角で、二人の少女が戦っていた。
というよりも、序盤こそ戦いの形をしていたが、今では一方的な攻撃となっている。
あらゆる角度から仕掛けられるセリシアの銀髪の斬撃を、琥珀は避けるのが精一杯だった。

 

秋子 「・・・・・・」

戦闘を静観している秋子の額には、僅かだが冷や汗が滲んでいた。

琥珀は決して弱くない。
斉藤や浩平にこそ及ばないが、それに次ぐほどの実力者と言っていい。
普段が普段だけにわかりにくいが、とにかく強いのだ。

その琥珀が、手も足も出ずに翻弄されている。
幼い外見に騙されるようなことは、秋子ほどになればまずないことだが、それでも相手の少女を侮っていた。
セリシアと名乗る少女の力は、驚異的だ。
まともに戦えば、秋子と言えども五分・・・。

何より、肉眼ではほとんど捉えきれない銀糸という武器が厄介だ。
加えてそれを自在に操る技量と、高い魔力。

秋子 「(伊達にナイツ・オブ・ラウンドの一員ではないということですか。琥珀さんでは荷が重い・・・けれど)」

この戦いに介入することは、秋子にはできなかった。
琥珀が、それを拒絶している。
そして秋子は、その理由も知っていた。

秋子 「(・・・何を迷う、水瀬秋子。望むとおりの展開になっているはず)」

 

ザシュッ

琥珀 「っ!」

着物の袖が切り裂かれる。
肌には掠った程度だが、徐々に琥珀は追い詰められていた。

琥珀 「・・・・・・」

セリシア 「もうそろそろ限界でしょ」

完全に主導権を握っているセリシアが余裕の表情を浮かべる。

琥珀 「・・・・・・」

セリシア 「どんな死に方がしたい? 千本の糸で串刺しかなぁ、それとも全身なます切り?」

子供が次に何をして遊ぶかを考えるくらいの気軽な調子でセリシアが思いをめぐらす。
このまま、無邪気な笑みを浮かべたまま平気で人を殺せる少女。
恐ろしいが、兵器としてこれほど完成された存在はないかもしれない。
完璧な殺戮道具だった、この少女は。

琥珀 「・・・こんなものを作るために・・・」

セリシア 「ん?」

琥珀 「あなたみたいな化け物を作るために、あの男がどれくらいの人を犠牲にしたか・・・」

セリシア 「ああ、あなたもそんな、あの男がサンプルって呼んでるものの一つだったのね。見たところ、あたし達みたいな魔導実験体の完成品じゃなくて、研究材料としての異能者・・・ってところかしら」

琥珀 「・・・・・・」

セリシア 「ま、いいや♪ あたしには関係ないし」

すぅっと悪魔の少女の手が上がる。

セリシア 「きーめたっ♪ あなたかわいいから、そのかわいさが台無しになるまで全身を刻んであげる」

銀の光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「?」

なんだ?
屋敷の一部に空気の張り詰めた場所がある。
気をつけてないと気付かない程度だが、気になるな。
行ってみるか。

栞 「祐一さん?」

祐一 「ちょっと急用だ。先に戻ってろ」

あっちは確か、秋子さんの部屋の方だろ。
庭か。

近くまで来ると、明らかに普通でない状況が読み取れた。
屋根や塀などに、細い切り口が無数にあったからだ。
これは、尋常な手段で斬られたものじゃない。
糸・・・か?

お、秋子さん・・・それに琥珀と・・・誰だ?
小さな少女。
見た感じ子供っぽい笑みを浮かべながら手を振り上げて・・・・・・。

祐一 「!!」

俺はその手に光る、銀色の線を見た。
直感的に、それがそこかしこの切り口の原因だと察した。
振り上げた手が振り下ろされようとしている。

ちっ、間に合うか!?

繰り出される銀糸の攻撃を回避しようとする琥珀だが、かわしきれない。
そこへ俺の放った攻撃が割ってはいる。

ピキッ

セリシア 「!?」

琥珀 「!!」

間一髪、糸を凍らせて威力を断つ。

祐一 「お遊びにしちゃ、度が過ぎるぞ、ガキ」

セリシア 「・・・なによー、いいところだったのに邪魔しないでよっ!」

キッと睨んでくる少女。
見た目のかわいさのせいでちっとも怖くはないが・・・わりと強いな、こいつ。
外見に騙されると、痛い目見るだろうが。

セリシア 「ちょっと! 聞いてるのっ、あんた!」

祐一 「あー、聞いてる聞いてる」

うるさい奴だ。
性格は見た目どおりのガキらしい。
ガキはあまり好かん。

セリシア 「むっかーっ、そこ動くんじゃないわよっ!」

あっさり挑発に乗ったな。
単純過ぎる。

ヒュッ パシッ

俺が直前までいた地面で音がする。
見れば細い線が入っている。
やはり、糸だな。
いや、正確にはあの髪の毛か。
なら・・・。

祐一 「秋子さん、池の水借りるぜ」

一言断ってから、池の水を操って一気に持ち上げる。
それを小娘の上からまとめてぶっかける。

ばしゃぁぁぁぁ

セリシア 「きゃんっ」

あっという間にずぶ濡れになる小娘。
小動物みたいにぷるぷると体を振る。

セリシア 「けほっ・・・何すんのよっ!!?」

祐一 「さあな。そっちこそ水浴びなんてして、夏だからってほどほどにしないと風邪引くぞ」

セリシア 「あんたがやったんでしょうが!!」

ヒュッ

再び髪の毛による攻撃。
だが、さっきと比べても格段に遅い。

セリシア 「あれ?」

祐一 「子供にもわかるように説明してやるが、髪の毛は濡れると重くなるぞ」

セリシア 「ああ!! しまったぁ! 濡れても大丈夫なようにしてってあの男に言うの忘れてたぁ!! うぅ〜〜〜、一度ならず二度までも〜〜〜!!!」

一度目というのがいつのことかは知らないが、前にも同じ手でやられたらしいな。
実にガキらしい、学習能力が不足していることで。

祐一 「さて、どうする?」

琥珀 「待って」

祐一 「? こは・・・く?」

声をかけられて振り向くが、そこに俺が知る琥珀はいなかった。
馬鹿みたいと思うほどいつも笑顔を浮かべている琥珀の顔に、今はまるで表情というものがない。
本当に同じ人間かと疑うほどに。
翡翠でもここまで無表情ではない。

祐一 「おまえ・・・」

琥珀 「そいつに聞きたいことあるから」

口調もいつもとは違っている。

琥珀 「あの男はどこ?」

セリシア 「う〜、う〜」

小娘は唸っているだけで聞いていない。
さらに問い詰めようとする琥珀だが、それ前に別の邪魔が入った。

栞 「祐一さん、どうしたんですか?」

祐一 「来たのか。いや、ちょっとしたトラブルらしいんだが・・・」

ほたる 「っ!!」

栞と一緒にやってきたほたるが、見ていたこっちも驚くほどに大きく息を呑む。
そう、小娘の姿を見た瞬間、石にでもなったように硬直し、顔面蒼白になっていた。

セリシア 「ん?」

ほたる 「っ!」

さっとほたるが栞の背後に隠れる。
だが、栞よりほたるの方が若干大きいので、隠れきるには至らない。
それを少しでも自分の体を隠そうと縮こまり、栞がまとっているストールの端を握って震えていた。

セリシア 「あ、ほたるだ。なぁーんだ、そんなところにいたの。あの男が探してるわよ」

ほたる 「っっっ!!!」

その言葉を聞いた途端、ますますほたるの震えがひどくなる。

セリシア 「あいつ、あんたがいないとうるさいのよ。さっさと戻ってよ」

ほたる 「・・・・・・いや・・・」

真っ青になりながら、全身で拒絶するほたる。

祐一 「おい、嫌がってるぞ」

セリシア 「あたしに言われても知らなーい。でもそいつ、一応あたしの妹だし」

祐一 「は?」

どう見てもほたるの方があっちの小娘よりも年上だ。
それが、どうして妹なのか。

琥珀 「・・・彼女も、魔導実験体・・・」

祐一 「なんだそりゃ?」

 

?? 「それは私が説明してやろう」

 

突然乱入してくる新たな声。
振り向くと塀の上に、細身で白衣を着た男が立っていた。

祐一 「今日はまた千客万来だな。誰だよ、おまえ」

?? 「よくぞ聞いた!!」

突然の大声。
しかも態度が超横柄だ。

?? 「私は天才!!」

ほー

?? 「私はグレェートォ!!」

ほほー

?? 「私の頭脳が世界を制するぅぅぅーーーっ!!!」

ほほほー

?? 「我こそがカノン公国に、いやこの地上、否! 天地魔界全てにまでその名を轟かせる世界最高のマッドサイエンティスト!!」

いや、自分でマッドとか言ってちゃ世話ないし。

?? 「ナイツ・オブ・ラウンドの一人にして、超魔法科学の使徒! マギリッド・Tである!!!!!」

ドカーンッ!!

自前なのだろうか。
奴の背後で色とりどりの爆発が起こる。
派手な奴だ。
見た目はそうでもないんだが。

マギリッド 「というわけで、私の作品を返してくれたまえ」

祐一 「何が、というわけ、なのかさっぱりわからん上に、さっきの説明するとかいう台詞を完全にすっ飛ばしてるぞ」

マギリッド 「・・・・・・」

あからさまに呆れ返ったような、こいつ馬鹿か、という思いを丸出しにした顔をされる。
あー、なんとなくこいつがどういう奴なのかわかった気がするよ。

マギリッド 「はぁ・・・単細胞生物と会話するのはこれだから疲れる。いちいち口を動かさなければならないではないか」

祐一 「あーはいはい、頭が悪くてすみませんねー」

こんなのに馬鹿にされても少しも堪えない。

ん?

自信過剰の天才馬鹿の出現が場に及ぼした影響が思いの外大きい。
ほたるはもう失神しそうなくらい怯えているし、何より琥珀が・・・やはり無表情なのだが、その目には明らかな憎悪が込められていた。

マギリッド 「いいかね。頭の悪い君達にもわかりやすいように説明してやるが、セリシアとほたるは私が長年の研究の末生み出した魔導実験体の最高傑作なのだよ。順番的にセリシアの方が先に完成したものだから姉、後から出来たほたるが妹というわけだ。外見など、関係ないのだよ」

わかったかね単細胞生物達よ、と最後に付け加えてマギリッドの説明口調が終わる。
実に度し難く、実に気に食わない男だ。
とりあえず、さっきから琥珀や銀髪の小娘が言ってる、“あの男”とやらがこいつなのだろうが。
他人を見下し、さらには小娘やほたるを完全に物扱い。
いや、おそらくこいつにとっては自分以外の全ては物に過ぎないんだろう。

嫌な奴が現れた。
しかし、一つだけ厄介なことがある。

こいつ・・・マジ強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく