デモンバスターズEX

 

 

第3話 カノン公国の刺客

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「ん?」

季節はどんどん夏真っ盛りへと向かう頃。
ふと部屋の前を通りかかると、中から数人の気配がする。
暇だったので覗いてみることにした。

 

琥珀 「丁」

さやか 「半」

美凪 「・・・丁」

みさき 「じゃあ、わたしは半」

浩平 「出揃ったか?」

 

・・・あまり係わり合いになりたくないメンバーだな。

 

楓 「丁!」

エリス 「・・・・・・」

 

ああ、あの二人もいたのか。
なんにしても、折原が中心にいる時点で問題大有りな気がするが。
見れば折原の手には、例のバクチで使うあれがあった。

浩平 「よーし、いいか?」

真剣な表情で周りの女達を見回す折原。
だが俺はもうこの男の真剣な顔は信用しない。
まぁ、剣を持っている時は別だが。

しかし、折原を囲んでいる女達は真剣そのものだ。
エリスを除いて。

浩平 「勝負!」

折原が手に持った壺を退ける。
が、そこにあるべきはずのサイコロはなく、代わりに飛び出したのは・・・。

美凪 「・・・蝶々」

琥珀 「あはっ、綺麗ですね」

浩平 「答えは・・・蝶だ」

祐一 「手品かよっ!!」

いかん・・・ついつっこんでしまった。
関わらないつもりだったのに。

エリス 「バカもここまで極まると感心するわね」

浩平 「褒めるな、照れるぜ」

エリス 「褒めてないわ」

楓 「でも、おもしろかったよ」

祐一 「そうか?」

なんとなく読めないこともないオチだった気もするんだが。
相変わらず、折原も折原なら、それでウケてるこいつらもなんだかなぁ。

今日もこんな、バカをやっている普通の日だった。

少なくとも、この時点ではそう思っていた。

この後、俺はいつもどおり栞の稽古に、折原とみさきはまたわけのわからん暇つぶしをしに、美凪はどこかで風化しているであろう国崎のもとへ、琥珀は買い物へ、 楓さんとエリスはどこかへ消え、さやかは今日は家でごろごろしてるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マギリッド 「ふぅむ、実に興味深い。既にかなりの時間が経ちながらも、尚これだけの残留エネルギーが計測できるとは。先の高エネルギー反応の正体、実に研究しがいがある」

シルバーホーンの町を見渡せる丘。
先日の魔族襲来の一件で楓がいた場所に、二つの人影があった。
一人はひょろひょろに痩せた白衣の男。
もう一人は十二、三歳くらいの銀髪の少女だ。

セリシア 「ねぇ〜、早く行かないのぉ〜?」

マギリッド 「黙っていろ。任務など研究の付属品でいいのだよ」

セリシア 「それ、逆だと思うけど・・・・・・あたしは早く暴れたいのぉ!」

マギリッド 「ならさっさと行け。やることはわかっているな?」

セリシア 「当然! あ、でも、もう一つの方が知らないからね。あんたが勝手にやってよ?」

マギリッド 「当然だ!! あれは大切なものなのだぞ!? おまえのような粗暴な奴になど任せておけんわ!」

セリシア 「ふん」

ならばこんなところで調べごとなどしていないでさっさと行け、と言いたいセリシアだったが、言ってもどうせ聞かないのだろうと思い、放っておくことにした。

セリシア 「んじゃ、行ってきま〜す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水瀬屋敷を少し離れて、楓とエリスは町を少し外れた場所にある並木道を歩いていた。
屋敷で馬鹿騒ぎをしていた時とは違い、張り詰めているわけではないのだが、真剣な表情を二人ともしている。

エリス 「はいこれ」

楓 「ありがとう」

隣を歩く楓に、エリスが束になった紙を渡す。
受け取った楓は、一番上から順に目を通していく。

エリス 「でも変な頼みするわね。水瀬屋敷の関係者の素性と・・・・・・ここ十数年間のナイツ・オブ・ラウンドの構成なんて」

楓 「うん・・・ちょっとね」

エリス 「・・・いったい何を心配してるわけ?」

楓 「心配ってほどじゃないよ。備えあれば憂いなし、ってエリスちゃんもよく言ってるでしょ」

エリス 「まぁね。確かにナイツ・オブ・ラウンドは厄介な相手だから、情報があるに越したことはないけど・・・・・・あんたまさか、みんな守ってやろうなんて考えてるんじゃないでしょうね?」

楓 「・・・・・・」

エリス 「馬鹿にしないでよ? 水瀬秋子は確かに強いし面倒な相手だけど、あの女が何を企んでようと、アタシ達はいつだってそういう奴らを相手にしてきたわ。祐一のバカにしたって、アタシにしたってね、あんたに守ってもらうなんて冗談じゃないわよ」

楓 「そんな失礼なことは考えてないよ。けど、他の子達はそうはいかないでしょう」

エリス 「まぁ、そうね。どうつもこいつも強いとは言っても、ナイツとまともにやりあえるのは、アタシらを除けば、さやかと斉藤元、それに浩平のバカくらいだわ」

楓 「・・・・・・」

エリス 「ま、あいつらだってアタシにかかれば敵じゃないけどねぇ〜」

自慢げに胸を張るエリス。
一方で紙に書かれてあることを読んでいる楓の表情は徐々に険しくなっていく。

楓 「・・・ねぇ」

エリス 「ん?」

楓 「これ、間違いないよね?」

エリス 「アタシの情報収集は完璧よ。調べきれないことがあったとしても、調べ上げたことに間違いはないわ」

楓 「・・・水瀬秋子・・・・・・いったい何を考えているの?」

エリス 「答えは、簡単でしょ」

楓 「・・・・・・」

エリス 「アタシはそんなことより、最近のナイツ・オブ・ラウンドの入れ替わりの方が気になるわね」

楓 「ここ十年弱の間に、抜けたのは二人・・・水瀬秋子と川澄舞。その他にも新加入があって、私が知る頃とは半分も変わっている。それに・・・・・・このゼルデキア・ソートっていうのは何者?」

エリス 「それだけはどうしてもわからなかったわ。他も相当な面子が揃ってるけど、その男だけは一切の素性がわからない」

楓 「・・・《蒼穹の戦乙女》水瀬秋子の後任として入った・・・それ以外は不明」

エリス 「・・・・・・楓」

楓 「ん?」

エリス 「随分と臆病になったんじゃないの? あの女が何を企んでいようと関係ないわ。おもしろいじゃない、相手があのナイツ・オブ・ラウンドなら、不足はないわ」

エリスの口元がつりあがる。
少しの間のきょとんとしてそれを見ていた楓の顔にも、やがて笑みが浮かぶ。

楓 「・・・そうだったね」

手にした紙の束を全て破り捨てる。

楓 「悩むだけ損、か」

エリス 「アタシ達は、誰の挑戦でも受けるわ。それが、最強の二文字を背負う者の流儀よ」

楓 「そして必ず・・・」

エリス 「勝つ!」

楓 「うん」

 

 

楓 「(・・・でも・・・水瀬屋敷の関係者と、ナイツ・オブ・ラウンドとの間に個人的な因縁のある人間が多いっていうのは、絶対に偶然でありえない。水瀬秋子は、ナイツ・オブ・ラウンドを潰す気でいる?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋子 「・・・どちら様ですか?」

誰かの気配を察した秋子は、自ら庭へと歩み出る。
そして気配の主は、屋根の上に立っていた。

セリシア 「あなたが水瀬秋子って人?」

秋子 「ええ、そうですよ」

屋根から秋子を見下ろしているのは、黒いドレスをまとい、銀髪をなびかせた幼い少女。
無邪気な笑みを向けてくる少女に対し、秋子もまた穏やかな微笑で応える。

セリシア 「若ぁ・・・聞いてた歳って確か・・・」

秋子 「若いと言っても、あなたには到底及びませんよ」

セリシア 「そりゃぁ、あたしはぴっちぴちだもんね」

秋子 「かわいらしいですね。それで、どちら様かしら?」

セリシア 「ああそうだ、忘れてた。あたしは、ナイツ・オブ・ラウンドの一人、セリシアよ」

秋子 「・・・・・・」

半分は予測していたことだった。
だから秋子に驚きはなかったが、目の色が微妙に変わる。
顔は笑っていながら、目の方は違った。

秋子 「ご用は何かしら?」

セリシア 「あたし小難しい話苦手なのよね。単刀直入に言うけど、戻ってくる気ない?」

秋子 「それは、ナイツ・オブ・ラウンドに復帰しろということでしょうか?」

セリシア 「残念ながら、円卓に空き椅子はないわ。けど公王様が、それなりの立場を用意するとか言ってるみたいよ」

秋子 「・・・・・・断ったら?」

セリシア 「あたし的にはその方がおもしろいなぁ」

少女の指が微かに動く。
すると秋子のすぐ横の地面が何かによって斬れる。
常人には見えまいが、秋子には一瞬走った銀の光が見て取れた。

秋子 「それが答えですか」

セリシア 「そ♪ さぁ、そっちの答えはどっちかにゃ?」

沈黙。
そして両者の間に緊張が走る。
秋子がノーと答えを出せば、その瞬間から命のやり取りが始まるだろ。
だが、答えを出すよりも先に状況は変わった。

 

琥珀 「秋子さーん、ただいま帰りましたー」

買い物籠を手に、琥珀がひょこひょこと歩いてくる。

琥珀 「あれ? お客様・・・・・・」

その琥珀の手から、買い物籠が落ちる。
普段からひと時も絶やさない笑みを浮かべる琥珀の顔から、一切の表情が消え、その目はまっすぐ屋根の上の少女、セリシアに向けられていた。

琥珀 「・・・・・・セリシア」

セリシア 「? あたしを知ってるの? あなた誰?」

琥珀 「あなたがいるってことは、あの男もいるの?」

セリシア 「あの男?」

琥珀 「マギリッド」

セリシア 「ああ、なーんかおもしろいエネルギーがあるとかなんとか。仕事なめてるのよね、あの男。親じゃなかったら殺してやりたいわよ」

秋子 「! ・・・そういうことですか。琥珀さん」

琥珀 「・・・・・・」

セリシア 「あ、もしかしてあなた、あの男に捨てられた口? そうよねぇ〜、あの男にとっては最高傑作であるあたしがいればいいんだものね。っていうか、一年前の事件で研究所吹っ飛んじゃって、あたし とあともう一つの以外の研究材料は全部パーなんだけどね〜」

琥珀 「ごたくはいいの。あの男はどこにいるの?」

表情も、口調さえも普段の琥珀とはまったく違う。
一切の温度を感じさせないほど冷たいものだった。

セリシア 「教えてあげなーい。ま、あたしに勝ったら教えてあげてもいいかな。もっとも、出来損ないのサンプルじゃあ、あたしの敵にはならないだろうけどねぇ」

ふふんと鼻を鳴らすセリシア。
だが琥珀は、その台詞を半分までしか聞いていなかった。
セリシアが喋り終わるより前に、琥珀の姿は彼女の背後のある。

セリシア 「!!」

ザシュッ

どこから取り出したのか、仕込み杖になっている箒を手にした琥珀がセリシアの背後から斬りかかる。
まったく遠慮のない一撃が、セリシアの背中を切り裂いたかに思えたが・・・。

琥珀 「!」

刀を振りぬいた姿のまま、琥珀の体が硬直する。
まるで見えない糸にその身を縛られているかのように。

セリシア 「物騒だなぁ。箒って掃除する道具でしょ?」

逆のその背後、屋根のてっぺんに腰掛けたセリシアがそう言って笑う。
下にいる秋子からは、琥珀の体を拘束する銀色の糸・・・セリシアの髪の毛を見ることができた。

セリシア 「やっぱあなたじゃつまらないや。今は水瀬秋子とお話の最中だから、そこでおとなしくしててね。あたしの髪の毛は、刀なんかじゃ斬れないから」

琥珀 「そう」

ヒュッ

セリシア 「わっ!?」

余裕の表情を浮かべるセリシアの顔面目掛けて琥珀の刀が突き出される。
後ろに転がり落ちるような形でそれを回避するセリシアの顔に、はじめて驚きの色が含まれた。

セリシア 「な、なんでぇ!?」

琥珀 「斬れないのなら、溶かせばいい」

右手には刀を持ち、さらに琥珀の左手の指の間には、数本の試験管があった。

琥珀 「この中身を調合すれば、どんな物でも溶かす劇薬になる」

セリシア 「・・・溶かした・・・ですってぇっ!!」

少女の顔に怒りが浮かび上がる。

セリシア 「女の命をよくもぉ! 傷んだらどうしてくれんのよっ!?」

琥珀 「知らない。けど、あの男の居場所を教えれば、髪を手入れする薬をあげるわ」

セリシア 「そんなもんいるかっ! あんたの鮮血をシャンプー代わりにして洗ってやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・」

栞 「余所見してると危ないですよっ、祐一さん!!」

ヒュッ

側面から来る栞の鋭い打ち込み。
だが、俺を捉えるにはまだまだ甘い。

祐一 「そういう台詞は切っ先一寸でも俺に掠らせてから言うものだ」

ぱしっ

栞 「えぅ〜〜〜」

さらっと捌いて、栞の体はもうお約束のように木の幹へ突っ込んで・・・。

栞 「えぅ!」

お、踏みとどまった。
少しは学習したらしいな。

栞 「まだまだですっ!」

祐一 「おう、その意気だ」

先日の勝負で香里にリベンジを果たされ、今度は逆リベンジに燃えている。
少しずつだが確実に成長していくのを見るのは、師匠として悪くない気分だ。

栞 「えぇい!」

祐一 「ほい」

ばしっ

栞 「えぅ、えぅ・・・」

どさっ

祐一 「?」

倒れる音が横からする。
だが、たった今弾いたばかりの栞は、まだバランスを崩して奇妙な踊りを踊っている。

栞 「わ、私じゃないですよ、今の」

祐一 「知ってる」

誰かがいる。
音のした方へと近付くと、人の気配を感じた。
か細いが、荒い息遣いが聞こえる。

がさっ

祐一 「いた」

茂みを掻き分けると、倒れている人間がいた。
歳は大体、十六、七ってところだろうな。
しゃれっ気も何もない、囚人服を少しマシにした程度の白いワンピースドレス風の服。
軽くウェーブのかかった長い髪は、薄緑色をしている。
肌は白い服に負けないくらい真っ白だ。
そして息が上がっている。

少女 「・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・」

祐一 「おい、大丈夫か?」

俺はその少女を助け起こして様子を見る。
疲弊してはいるようだが、見たところ健康に異常はなさそうだ。

祐一 「ん?」

よく見れば、少女の両手は拘束されていた。
手枷がはめられているのだ。
足の方には何もつけられていないが、靴は履いておらず、裸足だった。
しかしそれにしては妙な点がある。
裸足でこの山道を歩いてきただろうに、擦り傷一つない。

少女 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

どうも、色々と訳有りっぽいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく