デモンバスターズANOTHER 〜ノワール・ムーン〜

 

 

第7話 エメドキア到着

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セリシア 「うぅ〜・・・服ぼろぼろ・・・」

ほとんど服としての機能を果たさないほどに破けた自らの服を省みて、セリシアは嘆く。

場所は街外れ、黒装束を脱ぎ、普通の貴族に仕えるような姿になった忍者達と、その頭たる重蔵の姿もある。
重蔵は馬車の中、扉を開いた状態で外の様子を伺っている。

やがて、一人の男が近付いてきた。

 「ターゲットは街を離れました。速度に差があり、追跡は困難かと・・・」

重蔵 「うむ」

報告にうなずくと、重蔵は扉を閉め、馬車の中にいるもう一人と向き合う。

重蔵 「取り逃がしました」

?? 「そのようですね」

一目見ただけで高貴さが滲み出ている少女に対し、重蔵は頭を下げる。

重蔵 「申し訳ありません」

?? 「あははー、構いませんよ。このくらいの戦力で舞を捕まえられるわけありませんから。あ! 別に重蔵さん達の力を過小評価してるわけじゃありませんよ。むしろ充分すぎるくらい働いてもらっています」

重蔵 「光栄です。佐祐理様」

高貴なる者の雰囲気を漂わせた少女、名を倉田佐祐理。
カノン公国第一王女にして、ナイツ・オブ・ラウンドの一人でもある。
その立場は、ただ姫であるからではなく、はっきりとした実力に裏づけされたものであった。
優雅な立ち居振る舞いをする、純粋培養された深層の令嬢という言葉が似合う少女。
しかし重蔵は、仮に今この場で仕掛けたとしても、勝てるかどうかは微妙だと思っている。
もちろん、そんなことは絶対にしないが、それだけの実力を持っているのだ、この少女は。
重蔵はあらゆる意味でこの少女に敬意を払い、忠誠を誓っていた。

佐祐理 「これ以上国を留守にするわけにもいきませんね」

重蔵 「御意」

仮にも佐祐理は、カノン公国の姫である。
ナイツ・オブ・ラウンドは任務で遠征することもあるとは言え、一国の姫がいつまでも国を離れているわけにはいかない。
ましてやここより南は、完全にカノンの勢力圏外だ。

佐祐理 「帰りましょう」

重蔵 「は」

佐祐理 「・・・大丈夫。彼女はきっと戻ってきますから。ね、舞」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞 「?」

郁未 「どうしたの、舞?」

何かに反応したように、助手席の舞が背後を振り返る。

舞 「・・・誰かに呼ばれたような気がしたから」

郁未 「空耳でしょ」

私には何も聞こえなかったし。

さくら 「もしかして、幽霊とか」

郁未 「仮にそうだとしたら、気付くわよ」

この世界じゃ、幽霊ごとき珍しくないわ。
まぁ、確かに自然発生することは少ないけど、ネクロマンサーが時々ゴーストなんてモンスターを操ることはある。
けど、そこまではっきりした存在になった幽霊には充分すぎる気配がある。
だからいたら気付く。

郁未 「馬鹿なこと言ってないで。二人とも寝ていいわよ。今夜はぶっ通しで走るから」

さくら 「どっか止まらないの?」

郁未 「連中が追ってくる可能性があるからね。のんびりはしてられないわ」

こっちのスピードにはついて来られないはずだから、一晩も走れば引き離せると思うけど、万が一ということもある。
少しでも遠くまで行っておいた方がいいでしょう。

舞 「・・・・・・・・・すー」

さくら 「あ、舞ちゃん寝ちゃった」

郁未 「乗り心地がよくなって、さらに寝つきがよくなったわね」

寝顔はかわいいわね、舞も。
もう少し柔らかい表情、普段からすればいいのにね、この子は。

さくら 「舞ちゃん、もっと笑えばいいのにね」

同じ事を考えていたのか、さくらが言う。

さくら 「ほらほら、笑うカドには福来る、って言うし」

郁未 「・・・あなたがいれば充分そうだけどね」

会って以来、終始笑顔なような気がするわ、こっちは。
まったくもって、舞とは正反対な。
いや、本質は同じかも。
子供。
でも二人とも、セリシアよりはマシか。
あれの精神は本当に未成熟過ぎる。
仕方のないことだけどね・・・。

さくら 「ふぁ〜〜〜、じゃあ、ボクも寝させてもらうけど、郁未ちゃんも無理しないでね」

郁未 「一晩くらい何の問題もないわよ」

さくら 「じゃ、おやすみ〜」

うたまる 「にゃあ〜」

郁未 「おやすみ」

横で後ろで、二人と一匹が眠りに落ちる。

・・・それにしても・・・連中あそこまで来てたわりには、車の方を狙ってこなかったわね。
足を潰せば、こんな簡単に私達を逃がすこともなかったろうに。

郁未 「ん?」

さっきは急いでて気付かなかったけど、ドアのところに何か挟まっている。
手に取ってみると、手紙だった。
差出人は・・・・・・。

郁未 「・・・倉田佐祐理」

お姫様・・・か。
確か、舞とは親友だって言ってたわね。
来てたのか、それとも手紙だけ届けさせたのかは知らないけど・・・ひょっとしたら、あえて私達を逃がしたのかもしれない。
服部重蔵は公王よりもむしろ佐祐理姫に忠誠を誓ってるし、セリシアは細かいこと考えられるおつむじゃないし。

中身を見てみる。

 

『あははー、お二人ともお元気ですか? ちなみに、佐祐理は元気です。できれば会ってお話したいですけど、立場上それは難しいので、手紙にしました』

 

そんな挨拶に始まり、日々の生活のことだのが延々書いてある。
その辺りをざっと読み飛ばして、大事な部分だけを拾い読みする。

 

『カノンの方は何かと騒がしくて、今は佐祐理達三人以上にお二人に人員を割く余裕はありませんし、加えてこの辺りより南はカノンの勢力圏の外です。車を壊したりはしませんから、重蔵さんとセリシアさんを退けたらちゃっちゃと行っちゃってください。もちろん、二人とも手加減はしませんから、もしかしたらこの手紙読む前に捕まることもあるかもしれませんが、お二人ならそれはないですよね』

 

追っ手の言うことじゃないわね。
何を考えてるんだか、あのお姫様は・・・。
舞の親友だし、案外何も考えてないのかも。

・・・そんなこともないか。
あれで頭のいい娘だし。
ただ単に、情に厚い・・・か。
上に立つ人間としてはどうかと思うけどね。

 

『今はまだ、しばらくのお別れです。でもいつか、戻ってきてくださいね。舞のことは今でも友達だと思ってますし、郁未さんとももっとお話したいですから。きっとですよ。その日まで、お達者で』

 

郁未 「親愛なる川澄舞、天沢郁未へ、倉田佐祐理より・・・・・・」

戻って来い・・・か。
そりゃあ、いつか決着をつけに戻らなきゃならないんでしょうけどね・・・。
私としては、あんまり気は乗らないけど。

郁未 「ええい! 妙な手紙遣してまったく!!」

ヴゥゥゥゥゥン!!!

アクセルを強く踏む。
一気に加速して砂浜を走り抜ける。

走らなきゃやってらんないわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジーク 「まさかたった一人でカノン公国に喧嘩を売るような者がいるとはな」

 

セリシア 「あたしはセリシア! よろしくねっ、郁未♪」

 

マギリッド 「おのれ天沢郁未! よくも私の研究所を!!」

 

佐祐理 「舞! 郁未さん!」

 

炎上する砦。
その中・・・外・・・。
ナイツ・オブ・ラウンドとの出会い。
舞との出会い。
セリシアとの出会い。
佐祐理との出会い。
研究所の責任者、マギリッドの生み出した魔導生物との戦い。
最強の騎士、ジークフリードとの勝負。

私はただ、母さんがいた場所・・・母さんが死んだ場所を見に行っただけだったのに。
随分と色んなことがあったものだわ。
結果として、カノンの要塞の一つを潰して、お尋ね者になって、舞と一緒に逃げ出した。

そして今に至る。

確かに、逃げたままってのは癪だけど。
私だってね、あの大陸一の軍事力を誇るカノン公国に喧嘩売るなんて真似、二度とごめんよ。
わりに合わないわ。
それでも、いつか戻る日が来るのかしらね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さくらと出会ってから十日。
私達は目的の場所、エメドキアの国境を越えた。

郁未 「さて、エメドキアには着いたけど・・・このまま首都まで行く? それともどこか他に行くアテがあるの?」

さくら 「うん。このまま海沿いにしばらく行って」

郁未 「了解」

 

国境を越えてからさらにしばらく海沿いに南下して、私達は一つの町に着いた。
そこは最終目的地ではないみたいだけど、さくらはそこで情報収集がしたいらしい。

さくら 「あのさ・・・できれば、もう少し付き合ってもらいたいんだけど?」

郁未 「いいわよ。どうせ今は他に仕事もないし。あなたにはちょっと興味があるわ」

こんな遠くまでわざわざ来た理由。
それに、私達を雇った理由についても謎が多い。
途中ナイツ・オブ・ラウンドに遭遇するという事件はあったが、あれは私達の方の問題だ。
彼女ほどの力があれば、わざわざ私達を雇わなくても、ここまで来るだけなら問題はなかっただろう。
つまり、本当にさくらが私達を必要とするのは、これからということ。

郁未 「とりあえず、情報が集まりそうな場所と言えば・・・」

と、辺りを見回すと・・・舞がいない。
どこに・・・と思ったすぐに見付かった。
50mばかり先の酒場の前にいる。

郁未 「目敏い奴・・・」

確かに情報収集に最適な場所ではある。
ついでに食事もできて、舞にとっては一石二鳥といったところね。

郁未 「行きましょうか」

さくら 「うん、行こう行こう」

 

酒場に入るなり、舞はまず食事の注文をする。
私とさくらは飲み物を頼む。

さくら 「ねぇねぇ、マスター」

 「はい?」

さくら 「ちょっと聞きたいことがあるんだ。南の島の遺跡について」

ガタタッ

郁未 「・・・・・・」

さくらの言葉には、マスターのみならず酒場に集まっている多くの人間が反応する。
南の島の遺跡・・・という言葉にはそれだけの意味があるのかしら?

 「・・・あんたは?」

さくら 「ボク? うにゃ〜・・・学者かな?」

 「そうかい。けど、だったらやめときな。あの遺跡はもうない」

さくら 「・・・ということは、やっぱり・・・」

 「知ってるなら尚更だ。下手に近付くと命に関わるぞ」

さくら 「・・・・・・」

さくらが顎に指を当てて考える姿勢を取る。
いったいなんのことか、私達にはさっぱりわからない。

舞 「あむあむ・・・・・・これ、嫌いじゃない」

訂正。
私にはさっぱりわからない。
こいつは考えてない以前に聞いてすらいない。

さくら 「けど、それなら何でみんなのんびりしてる?」

 「ああ、確かにアレは襲ってくるが、撃退されてるからな」

アレ?
襲ってくる?
本当に何の話・・・?

郁未 「さくら?」

さくら 「・・・うーん・・・・・・どうしよっかどうしよっか、考え中」

考え中らしい。
私の声も聞こえてない。

さくら 「撃退って言うけど・・・・・・よくできるね。言っちゃ悪いけど、その辺にいる人達でどうにかなるような相手じゃないと思うけど」

ガタガタッ

さっきよりも過剰な反応。
というか、席を立って何人かのならず者が近付いてくる。
不用意な発言をするから怒らせたんじゃないの、さくら。

 「おい小せぇ嬢ちゃん。聞き捨てならねぇな、今のは」

 「まるで俺達がその他大勢の雑魚みたいじゃねぇか」

郁未 「うるさいわよ、あんた達。そのとおりなんだから引っ込んでなさい。話の邪魔よ」

 「んだとこのアマぁ!」

 「ざけたことぬかしてっと、犯んぞこらァ!?」

郁未 「低俗な台詞しか出てこないのが雑魚の証よ。消えなさい」

殺気を込めてチンピラどもを睨みつける。
私の眼光に、皆後ずさった。

 「な、なんだ・・・こいつ?」

?? 「やめておきなさい」

ふいに、別の声が割り込んできた。
頭にターバンを巻いた、肌の黒い男だ。
紳士的な笑みを浮かべているが、嫌な目をしている。

?? 「あなた方の敵う相手ではありませんよ。何しろこの方々は、あのカノン公国から2億の賞金をかけられているノワール・ムーンのお二人なのですから」

男の言葉に波紋が広がる。
賞金の額も、たまには役に立つわね。
チンピラどもはすごすごと引っ込んでいった。

?? 「失礼。余計な真似でしたかな?」

郁未 「どうでもいいわ」

私とターバンの男の視線が交わる。
こいつ・・・・・・本当に嫌な目をしているわね。
何を企んでいる?

?? 「申し送れました。私はバインと申します。縁がありましたら、また・・・」

郁未 「・・・・・・」

縁・・・ね。
ないことを祈りましょう。

さくら 「う〜ん・・・やっぱり自分の目で確かめるのが一番かな?」

郁未 「さくら。いったいさっきから何をぶつぶつ言ってるの?」

周りの騒ぎを意に介さず、ひたすら悩んでいる。

舞 「・・・おかわり」

すぱんっ

同じくひたすら食べている奴に無言でツッコミを入れる。

さくら 「うん! やっぱり見に行こう。郁未ちゃん、出発!」

郁未 「・・・ま、いいわ。話は歩きながらということで・・・行くわよ、舞」

舞 「もうちょっと」

郁未 「なし。ちゃっちゃと歩く」

舞 「郁未、けち」

 

 

酒場を後にし、私達は海岸にやってきた。
目指す島は、肉眼で確認できるほどに近い。
けど、泳いで行ける距離ってわけでもなさそうね。

郁未 「どうするの?」

さくら 「どうしよっか?」

舞 「もっと食べたい」

郁未 「そもそも、あそこに何があるの?」

さくら 「・・・・・・とある魔獣を封じた遺跡があるんだ。けど、封印は解かれてる」

魔獣?
とっさに、さっきの男の目が脳裏に浮かんだ。
あいつなら、魔獣の封印を解くなんて馬鹿な真似をしそうね・・・。
あくまで憶測だから、何も言わないけど。

郁未 「その調査にでも来たの、さくらは?」

さくら 「目的の半分は・・・そうだね」

ふと、辺りの空気が変わった。
同時に、前方の海が大きく波打つ。
何かとてつもない質量を持った何かが動いている。

さくら 「・・・郁未ちゃん、舞ちゃん・・・・・・あれを倒せる?」

郁未 「・・・さあ、聞かれてもねぇ・・・」

さくらの真意はさておき、目の前に出現した魔獣とやらを見て、私は絶句する。
体長・・・40mってところかしらね。
形容しがたい姿をした・・・あえて言うなら鯨の化け物のような・・・よく見ると全然違うような・・・そんな、まさに魔獣だった。

そういえば、聞いたことがあるわね。
大陸の南にある伝説の魔獣・・・・・・・・・その名は、クジャクナタラ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく