デモンバスターズANOTHER 〜ノワール・ムーン〜

 

 

第4話 奇妙な依頼人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その視線の主は、じっと郁未とアルドの戦いを見ていた。
まるで、何かを見極めようとするように・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郁未 「ちっ!」

ザシュッ

繰り出される血の剣の斬撃を紙一重で回避する。
さっきからこんな状態が続いているわ。
返り血を浴びると命取りになるから、迂闊に攻撃できないし。
なんて面倒な敵なのっ!

アルド 「逃げ足はなかなかのものですが、そればかりでは退屈ですよ」

郁未 「あなたの趣味に付き合ってる暇はないわっ」

逃げ回っているうちに階段を上がる。
もう仕事の方も終わってる頃でしょう。

アルド 「ブラッディストーム」

郁未 「!!」

さっき流れた血がいくつもの刃となって襲ってくる。
まさに血の嵐だけど・・・当たったらそれこそ蜂の巣ね。

 

ズガァーン!!

 

私は後ろの壁を突き破って部屋に突入する。
壁を破壊した時に飛び散った破片で攻撃を回避した。

舞 「郁未?」

郁未 「舞、仕事終わった?」

舞 「・・・次の仕事入った」

郁未 「はぁ?」

この非常時に、何よそれは!

郁未 「仕事は一つずつ、っていつも言ってるのに!」

舞 「・・・前の仕事は終わった」

そりゃそうだけど・・・そもそもまだ報酬もらってない。
簡単な仕事だから報酬少ないんだけど・・・こんなの相手にするって知ってたらもっと吹っかけるべきだったわ。

郁未 「何? 次の仕事って」

舞 「・・・これを、依頼人に届ける」

そう言って舞が差し出したのは、盾と二本の短剣が交差したオブジェ。
そんなに高価なものには見えないけど、なかなかの造りをしている。
短剣は、私達が運んできたものだ。

郁未 「これが・・・・・・!」

話は後ね。

アルド 「ふっふっふ、今度は二対一ですか?」

郁未 「さあ、どうかしらね」

舞と二人がかりなら勝算も高いけど・・・・・・。

本気でこの男を倒そうとするなら、どうしたって命のやり取りになるわね。
正直わりにあわないわ。

郁未 「・・・行くわよ、舞」

舞 「はちみつくまさん」

アルド 「来ますか」

よし・・・。

ダッシュ!

さっきと同じように正面から奴に突っ込む。
けど、さっきとはスピードが違うわよ。

 

ガツッ!

 

アルド 「・・・・・・」

郁未 「・・・・・・」

剣を振るう間も与えず、傷を負わせないように相手の武器を封じる。
両者の視線がコンマ何秒かの間交差した。

離れる。
舞の剣が奴の背後から振られ、後退をさせない。
そして私の攻撃。

郁未 「龍気掌!!」

それはまさしく龍の気の塊。
激しく荒れ狂うその力を、右手に込めて叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルド 「・・・・・・・・・逃げましたか」

最後の一撃。
あれはアルドを狙ったものではなかった。
今、アルドの足元には大穴が開いている。
先ほどの龍気掌で穿たれたものだ。
まともに喰らえば果たしてアルドと言えども無事でいられるかどうか、そういう破壊力だった。

アルド 「これだけの力がありながらあえて本気の戦いを避けましたか。天沢郁未・・・・・・面白い女性ですね」

少し興味がわく。
かつて仲間であった女性や、先日同じく仲間であった少年と戦った時に出会った少女。

アルド 「好きですよ。美しく強い女性は。血のドレスを着せて差し上げたくなる」

歪んだ笑みを浮かべ、アルドは部屋の奥へと進む。
そこには、一人の男が椅子に腰掛けていた。

 「今日は千客万来だな」

すぐ近くで激しい戦いが繰り広げられていたと言うのに、男は気にした風もない。

 「で、今度は誰だ?」

アルド 「殺し屋、アルド・レイ・カークスと申します」

 「そうか」

アルド 「覚悟はできておられるようで。では・・・ブラッディ・デス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郁未 「ふぅ」

朝。
報酬の50万を手に、私達は町中を歩いている。

舞が受取人から受けた依頼は、盾と二本の短剣からできたオブジェを元の依頼人に届けること。
そして、受取人が死んだあと、墓にともに入れてほしいという話を伝えること。
特に値打ち物ではなかったが、本人にとっては大事なものだったらしい。
自分でそれを完成させて、その上で一緒に墓に入れろって頼むなんてね。

郁未 「舞、あなただったら、何か墓の中まで持って行きたい物ってある?」

舞 「・・・さあ?」

そうよねぇ。
わかるわけないわよね、そんなの。
少なくとも、まだまだ生きてる私達にはそんなものはない。
あの男は、自らの死期を悟っていたからそんなことを思えたのか・・・。
本人が死んだ今では、全ては謎、ね。

郁未 「・・・にしても、あんなのとやりあったってのに、50万は少なすぎよね」

ブラッディ・アルド。
噂どおり、いえそれ以上の強さだったわね。
あんなのとまともにやり合ってたら、命がいくつあっても足りないわよ。

舞 「・・・・・・」

そしてあいつは、舞が探している男の元仲間なのよね。
どう思ってるのかしら、この子は。

舞 「・・・お腹空いた」

舞の視線の先には・・・。

郁未 「はぁ・・・あんたが何か考えてると思った私が馬鹿だったわ・・・」

舞 「お腹空いた」

睨まないでよ、その程度のことで。
その一言だけで圧力をかけてくる。

郁未 「はいはい、行きましょう」

 

?? 「あの〜、ちょっといいかな?」

 

郁未 「ん?」

舞 「?」

声をかけられて、私達は後ろを振り返る。
けれど、視線の先には誰もいなかった。

?? 「こっちだよこっち。わざとらしいけど喧嘩売ってる?」

誰もいないんだけど、声はする。
下から。

私達は視線を下げる。
すると、小さな少女が私達のことを見上げていた。
身長・・・140cmってところね。
年齢は・・・ちょっと不詳。
見た目は十歳前後に見えなくもないんだけど、表情がわりと大人びている。

郁未 「どちら様?」

子供相手の口調と普通の口調とどっちにするか少し迷ってから、後者にした。

?? 「えっと・・・ね・・・」

言いにくそうにしている。
何かの視線を気にしているようだけど・・・・・・。

舞 「・・・・・・」

すぱんっ

郁未 「おのれかっ!」

今から食事に行こうというところを邪魔されてご立腹の舞が、無表情なんだけど目を攻撃色に染めて少女を睨んでいたのだ。
そりゃ怖がるってものよ、誰でも。

郁未 「とりあえず、このお馬鹿のこともあるし・・・食事でも一緒しながら話しない?」

?? 「うんっ、全然おっけ〜♪」

?? 「にゃあ〜」

郁未 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

・・・何かしら、今のは?
少女のものとは別の、もう一つの声。
猫の鳴き声・・・だとは思うけど。
近くに猫は・・・・・・・・・いた?

郁未 「・・・一応聞きたいんだけど・・・それ、何?」

私は少女の頭の上に乗っている白い物体を指差して問う。

?? 「ああ、うたまるだよ♪」

うたまる 「にゃあ〜」

郁未 「名前じゃなくて・・・何?」

?? 「う〜ん・・・・・・猫?」

嘘だわ、絶対。
確かに、猫目だし・・・全体的にそうじゃないとは言い切れない雰囲気をかもし出してはいるけれど、断じてこれは猫ではないわ。
強いて言うなら、こけしのような猫の置物とでも表現した方が正しいわね。
しかもどうして疑問系なのよ?

舞 「・・・かわいいからいい」

郁未 「いいの!?」

?? 「うんっ、いいよね〜」

うたまる 「にゃあ〜」

郁未 「・・・・・・」

あ、眩暈が・・・。
もういいわ。

郁未 「ほら、行くわよ、舞」

舞 「はちみつくまさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

食事中。
舞は大好物の牛丼にありつけて、ご満悦だ。

?? 「ボクは芳乃さくら。さくらでいいよ♪」

うたまる 「にゃあ〜」

芳乃さくら、ね。
金髪碧眼で、長い髪はツインテールにしており、両側でピンと立ったリボンがアンテナみたいだ。
そして何より、小さい。

郁未 「ちなみに・・・・・・何歳?」

さくら 「うにゃ・・・いくら同姓だからって、女の子に対していきなり歳を聞くのは失礼だよ?」

舞 「郁未、失礼」

郁未 「ぐ・・・」

こ、こいつにつっこまれるなんて・・・!
屈辱!

さくら 「でも、気持ちはわかるけどね。ちなみに十八歳」

郁未 「同い年!!!??」

ちなみに、私は十八歳で、舞は十九歳。
そりゃ、見た目より大人びているとは思ったけど、どう見たってこの子は十歳前後にしか・・・。

さくら 「十年くらい前からずっとこのまんまだよ」

でしょうね。
成長止まってる・・・一番の成長期に全然伸びてない・・・。
う〜ん・・・。

郁未 「・・・まぁ、形ばっかり大きくて中身子供の奴もいるし・・・」

舞 「? 誰?」

おまえだ。

舞 「・・・わかった。郁未」

郁未 「おまえだっつってんでしょ!」

舞 「・・・言った?」

郁未 「ええ、ええ、言ってないわよ! 思っただけよ!」

さくら 「賑やかだね〜、うたまる」

うたまる 「にゃあ〜」

は!
いけないいけない。
どうも舞と話してると自分を見失うわ。

郁未 「こほん・・・・・・それで、話って何?」

舞 「牛丼がおいしいということ」

郁未 「そうそう、これ結構いい牛使って・・・ってちっがーう!!」

さくら 「ボクもそう思うよ。いい牛だし、味付けも抜群だね」

郁未 「だから・・・!」

舞 「さくら、わかってる」

さくら 「まかせてよ♪」

舞 「・・・・・・」

さくら 「・・・・・・」

グッ

互いに親指を立てて笑い合う。
舞の方はちょっと口の端を吊り上げただけだけど。
牛丼一つで共感しあえるなんて・・・単純な奴ら・・・。

郁未 「話を進めていいかしら?」

もうつっこむ気力もないわ。
とっとと話終わらせましょう。

さくら 「実は、二人を運び屋ノワール・ムーンと見込んで、頼みがあるんだよ」

郁未 「・・・・・・」

真面目な話みたいね。
さくらの雰囲気がちょっと変わった。
姿は歳不相応だけど、雰囲気は歳相応どころか、それ以上に上に思える。
底知れない感じのする子ね。

郁未 「やっぱり、私達の正体を知った上で声をかけてきたのね」

さくら 「そうだよ。昨夜、腕前の方も確認させてもらったし」

郁未 「なるほど、視線を感じると思ったら、あなただったのね」

さくら 「気付いてたの!?」

さすがに驚いたみたいね。

郁未 「甘く見ないでね」

さくら 「・・・・・・うん、やっぱり頼りになりそうだぞ。でも待てよ・・・本当にいいかな。いや、だから確かめるんだし・・・」

何かぶつぶつ言っている。
丸聞こえなんだけど、内容は良くわからない。
どうも私達は吟味されているみたいだけど。

さくら 「どうしよっかどうしよっか、考え中・・・」

顎に指先を当て、真面目な顔で考えている。

舞 「・・・おかわり」

郁未 「するなっ!」

ビシッ

こっちが真面目な話してる間に三杯目に入ってやがったよ、この子は!
四杯目を頼ませてなるものか。

さくら 「よしっ、決定!」

結論が出たらしい。

さくら 「頼みがあるんだ」

郁未 「聞きましょう」

さくら 「ボクを南の、エメドキアまで運んでもらいたいんだ」

エメドキア・・・大陸の南端に位置する国だったわね、海沿いの。
なかなか遠いけど、カノン公国とは逆方向だし、私達が向かいたい方向とは一致する。
けど、距離的になかなかあるわよね・・・。

郁未 「距離があるわね」

さくら 「お金なんだけど・・・現金がなくって、これで我慢してくれる?」

そう言ってさくらが差し出したもの、それは・・・。

郁未 「き・・・!」

声を出しかけて引っ込める。
素早くそれをさくらから受け取って手元で確かめる。

金塊・・・だわ。

それも、この手触り、大きさと重さの比率から言って・・・。

郁未 「・・・純金・・・完全な・・・」

そんなに大きくないけど、これ一つで100万は下らないわね。

さくら 「ちなみに、まだある」

懐からさくらが同じものを取り出して見せる。

さくら 「とりあえず、それを手付金ってことで、残りは向こうに着いてからで、どうかな?」

一つ100万・・・五つあれば500万・・・十個あれば・・・・・・。

郁未 「いいわ」

これだけ出すってことは、それなりに危険を伴う仕事なんでしょうけど、これだけの量の純金ならつりあいは取れるわ。

郁未 「仕事は、芳乃さくらをエメドキアまで運ぶ・・・ってことでオーケー?」

さくら 「イェス、OK」

郁未 「というわけで、舞、南へ行くわよ」

舞 「むま?」

郁未 「ってこらぁ! 私の分食べてんじゃないわよっ!!」

舞 「冷めるとおいしくない」

郁未 「だからってぇ!」

舞 「おいしい」

満ち足りた表情を・・・!!

さくら 「にゃはは、よろしくおねがいしますにゃ〜、郁未ちゃん、舞ちゃん♪」

郁未 「はぁ・・・ええ、よろしく、さくら」

舞 「・・・ほほひふ」

郁未 「食うか喋るかどっちかにしなさいっ」

舞 「あむあむ」

食べるんかい、それで。

舞 「牛丼、とても嫌いじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

あとがき

平安京(以下“京”):ダ・カーポより、さくら参戦。ちなみに原作では十五歳・・・でもあの子はさらに三年くらい経っても変わらない気がする・・・・・・いや、そんなことはないのだが、気にしない!

さやか(以下“さ”):かわいいよね〜

京:オリキャラはあまり出ずに、色んな作品から少しずつキャラが出てくるのが、この話の特徴だ

さ:ぎゅってしたいよね〜

京:おい

さ:おみやげにして持って帰りたいよね〜

京:だめだこりゃ。では

さ:お持ち帰りさくらちゃん一つください♪

京:ないって、そんなもの