デモンバスターズANOTHER 〜ノワール・ムーン〜

 

 

第3話 闇夜の遭遇戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運び屋の仕事も色々だわ。
隣の国まで移動することもあれば、同じ町の中で移動することもある。
今回の仕事は後者だ。
けど、かなり変な依頼ではあった。

 

 「届け先は、ちょっと厄介な状況になっているかもしれない」

郁未 「どういうことです?」

 「受取人は、命を狙われている」

郁未 「?」

 「それは別にいいんだ。彼は死を受け入れる気でいるからね。ただ、ずっと前から欲しかった物をくれと言われてね。それを彼のもとまで運んでほしい」

郁未 「物は?」

 「これだ」

郁未 「短剣?」

 「大したものじゃない。ただどうしたわけか、昔から彼はこれを欲しがっていてね。私もただで手放すのも惜しいと思い、今日まで来てしまったが・・・」

 

最期を迎えるという男に、せめてもの手向けとして送ってやりたい。
そう言ってその短剣を運ぶ依頼をされた。
変な話だが、なんとなく心引かれて受けてみた。
どうせ同じ町内なら大した手間にもならないでしょう。

郁未 「舞、行くわ・・・よ・・・・・・って、何してんの?」

舞 「みま?」

屋台でおでん食ってやがるよ、こいつは・・・。

郁未 「ん・・・ちょっと待った。お金は・・・」

懐を探ると、何故か財布がなかった。
そして舞の手元にそれがあった。

郁未 「ま〜い〜・・・!」

舞 「郁未も食べる?」

郁未 「〜〜〜・・・・・・・・・食べる」

ええ、ええ、そりゃあ私だってちょっと小腹が空いてたわよ。
食べたいっちゃ食べたいけど・・・。

郁未 「没収」

というか私の財布なんだけど・・・それを取り上げる。
まったく油断も隙もないったらありゃしないんだから。

郁未 「適当に取って」

 「あいよ」

屋台のおじさんに頼んで盛ってもらう。
夜の屋台で女二人おでんをつつく・・・。
変な光景だわ。

舞 「おかわ・・・」

郁未 「なし。もう行くわよ」

さっさと食べて、私は席を立つ。
勘定を済ませて、名残惜しそうにしている舞を引きずっていく。

郁未 「一応、今回の仕事は急ぎなの。今夜中って話なんだから」

舞 「・・・大根・・・はんぺん・・・たまご・・・」

郁未 「やかましい」

舞 「郁未、けち」

郁未 「誰がけちよっ!」

あんたのペースで食べてたらあっという間にお金なくなるっての。
それにしても、こいつあんだけ食べておいて少しも太らないわよね。
いくら運動してるからって、このプロポーションはむかつくわ。

舞 「・・・・・・郁未、少し太った?」

ぷちっ

郁未 「おのれは! おのれはぁ!!」

ぼそっとつぶやいた舞の胸倉を掴んで前後に揺さぶる。

あんたに付き合ってるせいで自然と私の食べる量も増えちゃうのよ!
仕方ないじゃないの!

郁未 「どーして私の倍は食べてるあんたは全然太らないんだぁ!」

舞 「・・・羨ましい?」

郁未 「こんの・・・!」

いい根性してるじゃないの、舞。
この私に喧嘩売ってるの?

郁未 「今日という今日は・・・・・・!!?」

舞 「!?」

掴んでいた舞の胸倉を離す。
二人して周囲に注意を払った。
誰もいない・・・。

けど一瞬、身の毛もよだつような気配を感じた。
こんなのは、はじめてだわ。

郁未 「・・・・・・急いだ方がよさそうね」

これは予感だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的の家にはすぐに着いた。
依頼人も受取人も、この町ではそこそこ裕福な人間らしい。
命を狙われるってんだから、裏で何かしてるのかもしれないけどね。

郁未 「静かね・・・」

夜なんだから当然だけど、全然人気がない。
誰もいないみたいね。
結構大きな家なのに。

舞 「・・・・・・」

郁未 「・・・・・・」

さっき感じた気配がまだ背中に張り付いているような感覚に、自然と緊張感が高まる。

舞 「・・・郁未、誰か来る」

郁未 「みたいね」

 

カッ・・・カッ・・・カッ

 

足音が廊下の向こうから近付いてくる。
今夜は月も出ていない闇夜・・・。
窓からもほとんど明かりが差し込まない、真っ暗闇だ。

?? 「おや、これはこれは美しいお嬢さん方だ」

ゾクッ

思わず鳥肌が立った。
発せられる気配に総毛立つ。
舞も、すぐに刀を抜ける体勢だ。

?? 「この家の方ではないようですね。どちら様でしょう?」

姿を現す。
この暗闇にあって、それ以上に暗い黒のコートを着て、つばの広い同じく黒の帽子をかぶっている。
その帽子の下から覗く目には、剥き出しでないのに背筋が凍るような殺気が宿っていた。

郁未 「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀じゃないのかしら?」

冷や汗をかきながらも、そう言い返す。

?? 「なるほど、一理ありますね。ですが仕事もありますので、あなた方とはまた後で、ということにしましょう」

黒服の男が前に進みだす。
私達と奴との中間にある階段を目指している。

どうする?

たぶんこいつは、受取人の命を狙う暗殺者、ってとこでしょ。
先に行かれせれば、受取人は死ぬ。
届け物は死後でも構わないとは言われたが、それでは私の気が済まない。

舞 「!」

郁未 「舞!?」

私が決断するよりも早く、舞が駆け出す。
抜刀しざまに黒い男に斬りかかる。

?? 「む!」

ヒュッ

刀の切っ先が男の帽子を掠める。
帽子の広いつばの一部が、ぱっかりと割れた。

?? 「この太刀筋は・・・・・・似ていますね」

舞 「・・・・・・」

?? 「今の剣・・・もしや、総天夢幻流では?」

舞 「!! どうしてそれを!?」

?? 「やはり。いえね、知り合いに同じ剣を使う男がいるんですよ。聞いたことがあると思いますが、その男の名は・・・斬魔剣の豹雨」

舞 「・・・知っているの? その男がどこにいるか」

?? 「今は知りません。どこにいるのやら」

舞 「・・・・・・」

殺気をぶつけて牽制し合う二人の間に私も割ってはいる。

郁未 「あなた・・・何者?」

?? 「人に名を問う時は己から名乗るのが礼儀ではありませんでしたか?」

郁未 「運び屋、ノワール・ムーンの天沢郁未と川澄舞よ」

?? 「ご丁寧に。殺し屋の、アルド・レイ・カークスと言います。皆さんはこう呼びますがね・・・ブラッディ・アルドと」

こいつが・・・あの血染めの死神。
おそらく、デモンバスターズの中でもっとも個人として名を知られているのはこの男だ。
破格の28億という賞金をかけられている史上最悪の暗殺者・・・。
さっきの気配もこいつね。

舞 「・・・豹雨のことを知ってるのなら、話してもらう」

アルド 「ご執心ですね。どういった経緯かは存じませんが、私が素直にお話をするとでも?」

舞 「なら、力ずく」

アルド 「これはこれは、実に楽しそうなお嬢さんだ。好きですよ、美しく強い女性は」

殺気の質が変わった。
やる気ね。

郁未 「・・・舞、これを」

舞 「?」

郁未 「あんたはこれを届けに行きなさい」

舞 「郁未!?」

郁未 「この男は、あんたが捜している男の居所を知らないわ」

アルド 「ほう?」

郁未 「こいつの相手は私がするから、まずは仕事をやってきなさい」

舞 「・・・・・・わかった」

そう、仕事第一よ。
こんな奴とやりあう必要性はない。
けど、止むを得ないわね、この場合。

舞は私から短剣を受け取ると、階段を上がっていった。
残った私とアルドとが対峙する。

アルド 「こちらも美しいお嬢さんですね。私を退屈させないでくれますか?」

郁未 「さあ、どうかしら?」

アルド 「ふっふっふ、いざ・・・ブラッディ・デュエル」

 

 

 

 

 

 

窓の外・・・。

ほとんど何も見えない暗闇の中で、しかし二対の視線がその様子を見ていた。

四つの瞳は、闇夜の中でも淡い光を帯び、視線の先にあるものを見据えている。

窓の中で対峙するのは、髪の長い女と、黒衣の男。

女は素手で、男の手には血のような赤い剣。

?? 「・・・・・・」

じっと、その視線は二人に注がれていた。

 

 

 

 

 

 

階段を駆け上がり、家の主人の部屋へと舞は立ち入る。
そこには、椅子に座った一人の男がいるだけだった。

 「誰かな?」

舞 「・・・運び屋」

 「ああ、そうか。あいつのところからあれを運んできてくれたのか」

椅子に座ったままの男の方へと歩み寄り、舞は例の短剣を手渡す。
それを手にした男は、じっと短剣を見つめる。

 「間違いない・・・やっと手に入れた・・・」

傍らに机の上から、男は盾のようなものを手に取った。
そこには盾そのものと、舞が持ってきたのと同じような短剣とがついている。

 「運び屋。仕事ついでにもう一つ頼まれてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

郁未 「ハァァァァッ!!!」

奴の背後を取って、気を凝縮した掌を打ち込む。
気の力を込めた打撃技で、防御しても相手の体に大きなダメージを与えることができる。

アルド 「む!」

ドォンッ!

私の掌底が壁をえぐる。
外した。

アルド 「なかなかやりますね」

ヒュッ

郁未 「ちっ!」

目の前を奴の剣の切っ先が通過する。
紙一重で回避した。
いくつもの刃がついたあの剣。
あれはガードするわけにはいかない。

郁未 「・・・・・・」

アルド 「いいですねぇ、実に楽しいですよ」

郁未 「私はそうはいかないけどね」

楽しいなんて言ってられない。
はっきり言っていっぱいいっぱいだわ。
これが最強と謳われたデモンバスターズの一角・・・舞の奴よくこんなの一人と互角の勝負をして、さらにその頂点に立っているような奴を目標にできるわね。

アルド 「ふっふっふ、どうしました? 本気を出さないんですか?」

郁未 「さあね」

見透かされてる?

確かに、まだ本気じゃないけど、それは向こうも同じこと。
このままだとじりじり追い詰められるわね。

アルド 「そろそろ、畳み掛けに行きますよ」

郁未 「!!」

ヒュッ

言うが早いか、奴の剣が振られる。
ぎりぎりで回避するけど、すぐ後ろで壁が細切れになる。
あんまり人様の家を壊すもんじゃないんだけどねぇ・・・。

郁未 「つ・・・」

少しだけど、掠った。
左腕にうっすらと血が滲む。

アルド 「やはり、女性が血を流す姿はいいですね。特にあなたのような方は」

血を見て喜んでるの?

郁未 「あなたみたいな人は・・・・・・好きじゃないわ」

アルド 「私は好きですよ。美しく強い女性は」

郁未 「気が合わないわ・・・ね!」

こっちから仕掛ける。
正面から行ったので、当然向こうも真っ向から剣を振る。
その剣を回避して、私は奴の懐に飛び込む。

郁未 「龍気掌!!」

ガッッッ!!!

気を込めた強烈な一撃が炸裂する。
けれど奴は、それをぎりぎりでかわした。
私の右手は、コートの一部を引き裂いただけだった。
だが、風圧だけでも私の龍気掌は充分に肉にまでダメージを与える。
奴の血が飛び散った。

郁未 「!!?」

一瞬、悪寒が走った。
考えるより先に体を動かす。
多少無理な体勢を取っても奴から離れる。

ズカッ!

郁未 「なっ!?」

私がつけた傷から飛び散った奴の血が、ハリネズミみたいにトゲトゲになって膨らんだ。
あんなものを浴びていたら、蜂の巣になるところだったわ。

アルド 「おっと、残念」

郁未 「なんて能力よ」

アルド 「私の体から流れ出た血は、そのまま私の武器になるんですよ」

郁未 「まさか、その剣も・・・」

アルド 「ええ。時間をかけて、いい血を使って磨き上げたんですよ」

うわ・・・。
やっぱり血を見て喜んで・・・狂ってるわね。
やっぱ嫌いだわ、こいつ。

けど・・・強い。
切り抜けられるかしら、この場・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく