デモンバスターズANOTHER 〜ノワール・ムーン〜

 

 

第1話 運び屋“黒き月”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今夜は、いい月が出てるわね。

吸血鬼なんかが好きそうな色の、真円を描く綺麗な月よ。

まぁもっとも、私達は吸血鬼じゃないけどね。

でも、結果としては似たようなものかしら。

?? 「どう思います、依頼人さん?」

 「さて・・・私には何のことやら」

とぼけてくれちゃって。
人間、自分の言動には責任を持つべきだと思うわ。

 「しかし・・・さすがですな。業界ナンバー1の運び屋と言われるだけのことはある」

?? 「当然ですわ。この運び屋、ノワール・ムーンの天沢郁未と・・・」

?? 「・・・川澄舞」

郁未 「の二人に任せてもらえれば、いつでもどこでもどんなものでも、超特急でお運びしますよ」

 「実に頼もしい。頼もしいついでに、もう一つお役に立ってもらえますかな?」

郁未 「構わないけど、その前に依頼料は一仕事毎にいただけないかしら?」

 「これは気付きませんで。こちらを・・・」

目の前に札束が差し出される。
私はそれを手に取ると、中身を確かめる。
うん、全部本物・・・・・・贋金とかいうオチでもないわね。
あっさり出したけど、100万くらいは安いもの、ということかしら。

 「では・・・」

郁未 「ええ、次の話だったわね」

 「次に運んでいただくものですが・・・なに、簡単ですよ。あなた方ご自身を運んでいただきたい」

郁未 「ふぅん」

なんか、きな臭くなってきたわね。
もっとも、最初から、という意見もあるけど。

 「お二人は、あのカノン公国から多額の賞金をかけられているそうで。ご存知でしたか?」

郁未 「もちろん。自分のことだもの」

 「そんなはした金なんて目じゃないほどの額なんですよ。その程度の報酬で満足しているあなた方貧乏人には想像もつかないほどのね」

本性を見せてきたわね。
でも、せっかく悪っぽく決めてるところ悪いけど・・・。

郁未 「回りくどい言い方はやめましょう。要するに、私達自身を公国まで運べ、と言いたいんでしょう」

 「そのとおり。ああ、別に・・・生きていなくても構いませんけど」

辺りから依頼人の部下らしき連中が湧き出てくる。
ざっと五、六十人ってところかしら。

郁未 「いったいいくらの賞金がかかってるのかしら。値段次第では自分で自分を売りに行ってもいいかもね〜、舞」

舞 「・・・・・・」

パートナーの舞に声をかける。
それは戦闘開始の合図でもある。

郁未 「せっかくですから、ちょっとサービスで素敵なパフォーマンスを、パートナーの方からお見せしましょう」

 「?」

舞 「・・・・・・」

不思議そうな顔をする依頼人の前で、舞が腰の刀に手をかける。
一瞬、閃光が走ったかと思ったときには、もう舞の刀は抜き放たれていた。

 「ひっ!」

鼻先すれすれを通り抜けた刃に、依頼人が腰を抜かす。
まだまだ遅い方なんだけどね。

郁未 「さてと、私達そろそろ帰りたいんだけど・・・いいかしら?」

周りにいる連中に睨みを利かす。
さすがに今の舞のパフォーマンスにはびびったみたいだけど、この程度で引き下がる奴らじゃない、か。

 「や、やれっ! 仕留めた奴には倍の給金を出すぞ!」

倍程度の給金がそんなに魅力的なのか、我先にと向かってくる雑魚達。

郁未 「舞、ほどほどにね」

舞 「はちみつくまさん」

クールな外見と声とは明らかにミスマッチな言葉が飛び出す。
いい加減慣れたけど、“はい”を“はちみつくまさん”、“いいえ”を“ぽんぽこたぬきさん”っていうの、やめた方がいいと思うんだけど・・・。

ヒュッ

舞の刀が白い軌跡を残して雑魚を吹き飛ばす。

郁未 「ハッ!」

バキッ

私も向かってきた相手を蹴り飛ばす。
相手は屈強な男ばかりだけど、私達二人を女だと思って甘く見ると、怪我じゃすまないわよ。

 「な、何をしている! 相手は女二人だけだぞ!」

だから、そう思ってると痛い目見るって言ってるでしょ。

舞 「・・・・・・めんどい」

郁未 「は?」

雑魚でも数が多いと面倒ではある。
舞はああ見えて、結構面倒くさがり屋だった、ような気がする。

舞 「・・・郁未、伏せる」

郁未 「おっと」

思わず言われて体を沈める。
止めとけば良かったと、後に私は後悔するのだが。

舞 「せいっ!」

ズバッ

舞が体を一回転させ、刀が水平に薙がれる。
衝撃波をまともに喰らった敵は、例外なく倒れた。
相変わらず無茶な真似を・・・。

 「あわわわ・・・」

郁未 「さ・て・と・・・で、何でしたっけ?」

自分的にももう少し優しくしてやればよかったかなぁ、と思える怖い笑顔で迫る。
あまりの怖さに、依頼人は失神してしまった。
だらしないわね、この程度で。

郁未 「やれやれ、こんなのに引っかかって、今回の仕事は大失敗ね」

依頼人は選ばないと駄目ねぇ・・・。

ズズズ・・・・・・

郁未 「ん?」

なんか、今揺れたような・・・。

ズズズズ・・・!!

やっぱり、揺れてる。
下・・・というより上?

は!

ま、まさか・・・。

郁未 「ま、舞〜、あんたまさか、変なもの斬ったんじゃ・・・?」

舞 「?」

本人、疑問顔。
しかし私は気付いてしまった。
舞のすぐ傍にある柱は・・・・・・結構大事な柱っぽい。
そして・・・見事にその柱は両断されていた。
段々ずれて・・・あ、今にも落ちそう。
ついでに・・・・・・天井も落ちそう・・・・・・。

ズズズズズズ!!!!

舞 「郁未」

郁未 「・・・何?」

舞 「崩れる。危ない」

郁未 「誰のせいだぁぁぁっ!!!」

ズンッ!

柱が完全に落ちた。
支えの要を失った天井は、見る見るうちに崩れ始める。
こんなボロ建物、一分もしないうちに全壊する。

郁未 「さっさと逃げるわよっ」

舞 「はちみつくまさん」

建物は崩れ、私達はぎりぎりのところで脱出に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の名前は天沢郁未。
その筋じゃ、なかなか有名な女よ。
口の悪い奴は蛇女なんて呼ぶけど、自分でも自慢できるくらいの美人だと思っている。
確かに性格は・・・ちょっとアレかもしれないけど。

少し前に、ちょっと大きな魔導実験施設を潰して、それが元で有名になったけど、同時に指名手配もされちゃったのよね。
まぁ、そんなわけで表社会では生き辛くなっちゃって、裏社会の稼業に手を染めるはめになったわけだけど・・・。
でも、汚い仕事は絶対にしないのが信条よ。

そう、私達の仕事は、いつでもどこでもどんなものでもが信条の、運び屋。

その名も黒き月、ノワール・ムーン。

美少女二人による、最強のコンビよ。

そして私のパートナーは、私達を指名手配にしたカノン公国の、元騎士、川澄舞。
無口で無愛想で無鉄砲・・・しかも天然ボケ・・・だけどめちゃくちゃ強い、私の相棒。
今は私と一緒に仕事をしながら、ある男を追っている。
この地上で、最強の男を・・・。

一癖も二癖も三癖もある奴だけど、実力は確かで、いざという時は頼りになる奴・・・・・・なんだけど・・・!

 

 

 

郁未 「あんたは! もう少し後先とか周りのこととか考えて戦いなさいっ!」

舞 「むま?」

うどんを口に入れた状態のまま舞が顔を上げる。
何故自分が怒られているのかわかっていない目だった。

ちなみに、今私達は町の蕎麦屋にいる。
食事中に大声をあげた私に皆の注目が一瞬集まるが、大したことはないのですぐに皆各々の食事に戻った。

郁未 「柱をぶった斬ったら天井が落ちてくるのは当然でしょ! わかるでしょ!?」

舞 「・・・・・・」

ちゅるちゅる

うどんを吸い上げる。
わかってないわね、この顔は。

郁未 「まったく・・・もう少し気配りってものを覚えなさいよ、あんたは。色んな意味で」

こいつはほんと、社交性ゼロなんだから。
・・・まぁ、私もあまり人付き合いは良くないし、人のことは言えないんだけど・・・。

舞 「・・・郁未」

郁未 「何?」

舞 「・・・怒るのはカルシウムが足りないから。小魚食べるといい」

郁未 「誰のせいで怒ってると思ってんのよっ!」

舞 「・・・・・・・・・誰?」

郁未 「おまえだぁっ!!!」

舞 「郁未、うるさい」

郁未 「くっ・・・!」

な、殴りたい・・・。
この澄まし顔を・・・。
迷惑かけてすみませんって謝らせたい・・・!

郁未 「ふぬ・・・くくく・・・!」

舞 「・・・うどん、おいしい」

わかってる。
わかってるのよ。
舞はこういう奴なのよ。

・・・これでも結構悩みはあるはずなのよね。
けど、普段それをまったく見せないのは気丈だからなのか・・・。
それともただの天然なのか・・・。

舞 「・・・・・・おかわり」

・・・・・・限りなく後者ね。

 

 

ふと思い出した。
昔ちょっとしたことで知り合った奴のこと。
そいつも、わりと辛い過去を持っていながら、いつも明るく、笑っていた。
はっきり言って天然だったけど。
名前・・・なんてったっけ?
異名の方は思い出せるんだけどな・・・・・・・・・灼熱の魔女。
似合わないんだけどね。

ちょっとだけ、舞と似てる。

 

 

舞 「郁未は・・・」

郁未 「ん?」

舞 「・・・知り合いに似てる」

郁未 「ふーん」

舞の知り合いって・・・ちょっと想像しにくい。
けど、私と似てるってのはきっと・・・。

郁未 「苦労してる奴なんでしょうね」

舞 「わからないけど・・・ぶっきらぼうだけど優しいところとか」

郁未 「・・・バカ、何言ってるのよ」

こっ恥ずかしいことをぬけぬけと・・・。
私は別に優しくなんかないわよ。

舞 「・・・・・・郁未」

郁未 「今度は何?」

舞 「・・・もう一杯」

郁未 「まだ食うんかいっ!!」

もう四杯目でしょうが!
そりゃ、世の中にはもっと食べる人だっているかもしれないけど、いくら珍しくお金が入ったからって使いすぎは良くないわ。
いつまた文無しに逆戻りするかわからないんだから。

郁未 「これ以上はなし。残りはアレの維持費に回さないとならないんだから」

アレは私達の大事な足。
仕事でも大活躍の、非常に稀で重要なものなんだから。
その分整備にお金がかかる。
お金が入ったからって無駄遣いはできないわ。

舞 「・・・・・・」

郁未 「こら待て」

荷物の方へ伸びかけた舞の手を見咎める。
こいつに持たせて置くと際限なく使うから、私の荷物にしか入っていないのだ、財布は。
油断も隙もない奴。

郁未 「もう行くわよ」

舞 「・・・・・・」

まだ不満そうな顔はしてたけど、頷いた舞があとからついてくる。
こういう辺りは子犬みたいな印象があって、かわいいんだけどね。
これでもう少し食費を抑えて、行動を自粛してくれれば・・・。

 

 

 

 

 

 

町外れの広場。
そこに、シートで覆われたものが置いてある。

郁未 「よっと」

シートを剥ぎ取ると、車輪のついた箱型のものが現れる。
一見すると馬車を小さくしたようなものだけど、なんとこれ、馬に引かせる必要はない。
特殊加工した魔力を燃料に、自動で走るのだ。

魔動自走車。

これこそが私達、運び屋ノワール・ムーンの足。
ちょっと維持費はかかるけど、馬車の数倍のスピードを誇り、しかも連続走行時間も長いという優れもの。
移動が基本である私達の仕事には、かかせないわよね。

運転席の方には私が乗り、その隣の席に舞が乗る。
動かすのは私というのが基本だ。

郁未 「さてと、次の仕事を探しに行きますか」

舞 「はちみつくまさん」

郁未 「ん?」

ふと何気に横を見ると、自走車を置いてあった場所のすぐ横の壁に張り紙がしてあった。
どうやら手配書みたいね。
随分前に張られて、そのまま忘れ去られたって感じのやつと、比較的新しい奴とが並んでいる。

新しい方には、良く知っている二人組。
というか私達、ノワール・ムーン。

郁未 「二人合わせて2億ですって。随分吹っかけたものねぇ」

舞 「・・・2億あれば・・・」

郁未 「こらこら」

何考えてるんだか。
そしてもう一枚の古い手配書には、五人組の男女が描かれている。
これは・・・。

郁未 「デモンバスターズ・・・」

地上最強の集団と呼ばれる五人組。
二人の魔王と七匹の魔獣、さらには真祖ヴァンパイアなど数々の魔物をしとめ、一部では英雄ともてはやされたが、その一方で人間同士の戦争にもちょっかいを出し多大な被害をもたらしたとして、各国が賞金をかけている。

舞 「・・・デモンバスターズ、知ってる」

郁未 「そう言ってたわね」

そう、舞は以前デモンバスターズのうち二人とは会ったことがあるという。
彼女の師とともに戦い、引き分けだったそうだ。

手配書には、こまごまと賞金に関して書かれてある。
一人捕まえるだけでも一生遊んで暮らせる値がついてるわね。

氷帝 7億

大地の巫女 10億

魔竜姫 15億

血染めの死神 28億

斬魔王 40億

総額・・・・・・100億

色んな国が出してる賞金を合わせると、ここまでになる。
特に斬魔王の40億って数字は、あの真祖ヴァンパイアの30億を超えて歴代トップだ。
というか人間でここまでの賞金をかけられた奴は稀過ぎるほど稀だった。

斬魔王・・・本名を雛瀬豹雨。
舞が追っている、地上最強と呼ばれる男だ。
さらに氷帝っていうのも、舞と互角の勝負をしたらしい。
ただそれは四年前のことだから、今はどっちもその頃を遥かに上回るほど強くなっているだろう。
なんにしてもとんでもない話ね。

郁未 「桁、違うし・・・」

けど、額の高さのわりに知名度は低い。
というより、あまりに強くて賞金稼ぎ達も手を出す気になれない、ってところね。
そのお陰でいつしか賞金首としてのデモンバスターズは忘れ去られた。
結局のところ、英雄としての見方の方が強いということね。

郁未 「まぁ、私達には関係のないことだわ」

舞 「はちみつくまさん。けど・・・あの男はいつか倒す」

郁未 「はいはい。行くわよ」

車を発進させる。

さあ、次の街でも稼ぐわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

あとがき

平安京(以下“京”):つーわけで、外伝的ストーリー『ノワール・ムーン』のスタートです

さやか(以下“さ”):どーゆーわけだかさっぱりだけど・・・私の出番がないよ?

京:当然だ。だから外伝なんだ

さ:つまりなんなの?

京:まぁ、あれだ。この二人を本編に出すにあたり、主役級の活躍をするには土台が必要だろうということで、外伝という形をとったのだ

さ:なるほどなるほど。っていうか、主役は私じゃなかったっけ?

京:んなこと一言も言ってない。重要性という意味では上位に位置するとは言ったが

さ:ま〜いいや。それで、この話は時間的にはいつ頃のことなの?

京:ほぼ本編と平行していると考えてもらって結構だ。本編に登場したキャラが出てきたり、こっちで向こうの話が出たり、あっちでこっちの話が出たり・・・するかもしれん

さ:ふむふむ。して、この二人の本編登場時期は?

京:未定

さ:使えない作者さんだね〜

京:やかましいわ。というわけで、たぶん十話前後になる外伝のはじまりです

さ:こっちもあっちもよろしくね〜