デモンバスターズ

 

 

第31話 水瀬屋敷の宴 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大食い対決は尚も続いていた。
折原のお陰で遅れを取ったみさきが猛追を見せたり、エリスが五杯分を一秒で平らげる離れ業を見せたりと、既に人間の食のレベルを超越したバトルが繰り広げられていた。
まだ、続きそうだな・・・。

 

名雪 「3番、水瀬名雪、寝ます」

壇上には三人目のエントリー、名雪がいた。
宣言から一秒未満後・・・。

名雪 「・・・くー」

・・・寝た?

てくてくてくと香里が壇上に上がっていく。
手には何故かハリセンが握られており、近付くなり振り上げた。

スパーンッ

名雪 「・・・・・・くー」

続いて香里は名雪の襟首を引っつかんで前後にゆすり、さらに往復ビンタをお見舞いする。

すぱぱぱぱぱぱぱぱんっ

名雪 「・・・・・・・・・・くー」

香里 「・・・本当に寝てるわね」

そのまま、完璧に寝ている名雪を引きずって、香里は退場していった。
なんだかなぁ・・・。

 

 

 

さやか 「え〜と、じゃあ次は・・・・・・石橋さん、なんかお願いできますか?」

石橋 「む」

呼ばれた石橋のおっさんが何やら考え込む。

石橋 「宴会芸と言われても特にないんだが・・・・・・では、一指し舞うとするか」

懐から扇を取り出して立ち上がる。

斉藤 「ほう、石橋さんは舞いをやるので?」

石橋 「たしなむ程度だがな」

斉藤 「それはちょうど良かった。実は私も、こういうものをたしなんでいまして」

そう言って斉藤は後ろにおいてあった木箱を引き寄せる。
中から取り出したのは、小鼓だ。

石橋 「ほう、鼓をやるのか」

斉藤 「ええ。それに妻が笛を少々」

斉藤の傍らに控えていた葉澄さんの手には、既に笛が持たれている。

石橋 「では」

斉藤 「よろしく」

葉澄 「よろしくお願いいたします」

というわけで、三人により舞い囃子が始まった。
たしなむ程度などと言っていたが、とてもそうは思えなかった。

斉藤の小鼓。
葉澄さんの笛。
石橋の舞い。

舞い囃子のことはよくわからないが、三人のレベルが並みじゃないことはわかった。
彼らの世界に引き込まれるような感じがする。
なんというか・・・見事だった。

楓 「わぁ・・・」

楓さんも目を輝かせている。
彼女も確か舞いをやるんだよな。
それで共感するところもあるんだろう。

やがて舞いが終わり、宴会場は一時不思議な感動に包まれていた。

 

 

さやか 「さて、見事な舞いに続いては・・・・・・祐一君の登場で〜す!」

祐一 「なにっ!?」

ちょっと待ておい、俺にあれの次をやれってのか?

さやか 「責任重大だよ〜」

確かに、せっかくいい気分に浸ってる皆を白けさせるわけにはいかないが、だからってその役を俺に押し付けることないだろ。
そりゃ、折原や国崎には絶対に任せられない場面だけど・・・もっと他に・・・。

さやか 「はいはい、男らしくないぞ。ちゃっちゃとやる」

祐一 「やるったってなぁ・・・・・・あー、琥珀翡翠、扇子ないかな? できれば五つ六つ欲しいんだが」

翡翠 「どうぞ」

祐一 「ああ、ありがと」

っていうか今どこから・・・そもそもどうしてすぐに出てくるんだ?
いや、つっこむまい。

祐一 「芸なんて言われたって、俺にはこんなことしかできないぞ」

そう言って右手に持った扇子の先を水平にかざす。
その先端から、水が飛び出る。

祐一 「これだって、種がわかってちゃ大しておもしろくもないだろうに」

さらに左手に持った扇子からも水を出す。
いわゆる水芸というやつだ。
自分の能力を使いこなす練習のために、昔はよくやった。
随分ひさしぶりだな。

さやか 「おお〜」

琥珀 「わはっ」

一部の連中が目を輝かせ始める。
ふむ、ちょっとやる気になってきた。

それから俺は扇子から扇子へ水を移し変えたり、複数の扇子を操ったり、出した水で色々なものを表現したりといったことをやってみた。

祐一 「ほい、白糸の滝」

六本の扇子を縦に並べて順番に水を流していく。
正面から見ると細い水が流れる滝のように見えるだろう。

どうやら皆、それなりに盛り上がってくれたようだ。
まずまず、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も様々な出し物があったが、ようやく一段落した。
もうとっくに日も暮れてるよ。
始めたの昼だぞ。

エリス 「ふぅ〜、さすがにきっついかも・・・」

祐一 「だろうな」

大食い対決は、両者が1500杯を平らげたところで蕎麦が底をつき、引き分けとなった。
つーか、合わせて3000杯分・・・・・・。
食う方も食う方だが、出す方も出す方だよな。

エリス 「もうちょっとで決着ついたのに」

本当かよ?
まったく、化け物だな、どっちも。
どこに消えるんだ、食った分は。

さやか 「いやいや〜、白熱した戦いだったね〜」

祐一 「おまえもよくもまぁ、次から次へと・・・」

徹底的に盛り上げやがったな。
しかも、最初にあの二人のせいでテンションが下がったものを、あとからあげていくという手法。
平然とあの二人を生贄にしやがったな。

祐一 「悪女・・・」

さやか 「♪〜」

エリス 「ところで・・・さっきから何か臭うんだけど・・・食べ過ぎて鼻がいまいち利かないわ」

祐一 「? そういえば・・・あと何だかほろ酔い気分・・・」

さやか 「あ〜、飲み物に密かにお酒が雑じって・・・」

エリス 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・」

エリス・祐一・さやか 「「「お酒!!!?」」」

まずい!
いや、よく考えれば予測できない事態ではなかったが・・・油断していた。
お酒が紛れ込んでいる、ってのはやばいだろ。

エリス 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・」

俺達三人は、ある気配を感じて、一斉に同じ方向を振り向く。

楓 「にゃは〜♪」

遅かった。
既にできあがっている楓さんが、そこにはいた。

 

 

 

まぁ・・・そりゃあな・・・宴会と言えばお酒だろうとも。
既にあちこちでできあがった連中がいる。

北川 「みさか〜、俺ぁ・・・俺ぁ・・・・・・ぐ・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

香里 「ぷっ・・・くく・・・あっはははははははは! 北川〜、あんたって良く見ると、変な頭〜!」

どかっ どかっ どかっ

北川は泣き・・・香里の膝枕状態で号泣している。
香里は笑い・・・めっちゃイメージ崩壊しとる。
自分の膝の上に乗っている北川の頭をしこたま叩いていた。

北川 「うわぁぁぁあああああ!!!!」

香里 「あっははははははははは!!!!」

どかっ どかっ どかっ

北川・・・明日には死んでるかもな。

 

石橋、斉藤、葉澄さんらは、さすがに大人だな。
酒は飲んでも飲まれるな、ってやつだ。
当然秋子さんも加わって、中央の騒ぎからは外れている。

 

琥珀 「ほ〜らほら、翡翠ちゃ〜ん、もっともっと飲みましょうねー」

翡翠 「ね、姉さん・・・も、もう・・・」

琥珀 「うりうり〜、あはーっ、嫌がる翡翠ちゃんもか〜わい〜♪」

翡翠 「うっぷ・・・もう・・・だめ・・・・・・」

ポーカーフェイスの翡翠が、潰れかけている。
逆に琥珀の方は飲めば飲むほど悪ノリしていっているが、飲まれている雰囲気はない。
完璧に楽しんでいる。

 

みさき 「それでね〜、その時浩平君がね〜」

美凪 「・・・・・・ぽ」

こっちはこっちで、互いに酒を交わしている。
話題に上がっているのは、それぞれの男のことだ。
男どもは退場したっきり帰ってこない。

美凪 「・・・国崎さんは・・・・・・」

みさき 「わぁ・・・」

何やら、18才未満は聞いてはいけない話をしているらしい。
放っておこう。

 

名雪 「くー」

栞 「すぴー」

最初から寝ている名雪と、一口で潰れた栞はどちらも夢の中だ。

 

 

楓 「にゃは〜ん、祐一君っ、何余所見してるの♪」

祐一 「ぐぼっ!」

い、一升瓶をいきなり口に突っ込むのはどうかと思うぞ、楓さん・・・。

さやか 「いや〜、困ったもんだね〜」

楓 「む」

さやか 「ぎくっ」

楓 「さ〜やかちゅわ〜ん」

さやか 「は、はい〜?」

楓 「にゅふふふふふ・・・・・・そりゃっ」

さやか 「わっ」

素早くさやかの背後に回った楓さんがさやかの胸に手を伸ばす。

楓 「さやかちゃん、大きくなったかな〜?」

さやか 「わっ、ちょっ、くすぐったいですよ〜、楓さ〜ん」

さしものさやかも、酔っ払いモードの楓さんには敵わないか。
この人、普段は自制して飲まないんだが・・・・・・昔俺とエリスがふざけて無理やり飲ませた時は・・・・・・・・・。
以来俺達は、絶対この人にお酒は飲ませまいと誓ったのだが。

楓 「うりゃぁーーーっ!!!!」

ばこんっ

祐一 「・・・ってぇ・・・・・・」

いきなり奇声を上げた楓さんのちゃぶ台返しが俺の脳天を直撃する。
酔った楓さんの行動パターンはまさに予測不能だ・・・。

楓 「ぅぅ・・・ぐすっ、どうせ私は・・・巫女失格・・・ううん、人間すら失格なのよ〜〜〜よよよよよ」

今度は泣き出したか。
微妙に笑えない台詞を言いながら。
あまりにひどい泣きなので、思わず慰めに入るが、それが失敗だった。

楓 「あっはははははははははははは!!!!!!」

ばきっ

祐一 「ぐは・・・・・・」

一瞬にして笑い上戸になり、弾ける際に拳が俺の顎を直撃した。
この人・・・見かけのよらずパワーあるから、痛ぇ・・・。

エリス 「今のうちに・・・」

祐一 「あ、こらエリス、逃げんなっ」

エリス 「やーよ!」

隙を見て逃げ出そうとするエリス。

楓 「1番! 楓、うったいまーす! エ〜リスちゃんの〜す〜きな〜ひと〜は〜♪」

エリス 「!!!!!!!」

ばきっ

どごぉーーーんっ!!!

一瞬にして反転して戻ってきたエリスの拳が楓さんを殴り飛ばす。
障子を突き破り、庭まで吹っ飛んでいった楓さんはそのさらに先の塀にまで突っ込んだ。

さやか 「うわぁ・・・」

祐一 「ちょ、ちょっとやりすぎじゃ・・・?」

エリス 「楓があの程度でくたばるわけないでしょっ!!!」

真っ赤になって叫ぶエリス。
そんなに嫌だったのか、ばらされるの。
誰なんだ、こいつが好きになる相手なんて。

エリス 「ううう〜〜〜、飲むわよっ!」

どん、と腰を落として、瓶ごとラッパ飲みする。

エリス 「ぷはぁ〜〜〜」

さやか 「お〜、いい飲みっぷりだね〜」

エリス 「もうひとーつ!」

やれやれ・・・収拾つかなくなってきたな。
それなりに楽しいし、良しとするか。

楓 「もぉ〜、エリスちゃんったら照れちゃって〜」

うわ、もう復活しやがった。
しかもちょっと汚れてる以外無傷だし。

楓 「別に隠すことないのに〜、好きな相手がゆ・・・」

ばきっっっ!

どっっっごぉぉぉーーーーーーーんッ!!!!!!

今度は楓さん、裏山まで飛んでいった。
よっぽど嫌なんだな・・・。

さやか 「あ〜、私はなんとなくわかったよ」

祐一 「何がだ?」

さやか 「誰かさんがとっても照れ屋だってことと、誰かさんがとっても鈍チンさんだってこと♪」

祐一 「?」

エリス 「琥珀! もっと酒ッ!」

琥珀 「はいはい、ただいま〜」

翡翠 「ぅ・・・やっと・・・おわった・・・・・・」

あっちはあっちで、不憫な妹だな。
あんな姉を持つと苦労も多いだろうに。

 

 

 

 

 

ほとんどの連中が沈没した宴会場を後にして、俺とさやかは吹っ飛んでった楓さんを探しに出た。
普段の楓さんなら何も心配することないだろうが、今は酔っ払いモードだ。
どんな状態かわからん。

さやか 「いや〜、楽しかったね〜♪」

祐一 「そうか? いや、楽しかったのは確かだが、大変でもあったぞ」

さやか 「楓さんのあれはね〜」

祐一 「おまえも知ってたのか」

さやか 「うん」

微妙に視線をそらしながら答える。
やはり相当なものだったんだろうな。
今日は全然マシな方だからな。

さやか 「ふぅ、私も少し酔ったかも」

そう言ってさやかは夜空を見上げる。
俺はそんなさやかの横顔を見て・・・・・・不覚にも見惚れてしまった。
最初から一応わかってはいたが、こいつはすごく綺麗だ。
それこそ、楓さんに勝るとも劣らない。
いつもの強烈な個性のせいでわかりにくいのだが。

さやか 「ここにはいい人ばっかりだよね〜」

祐一 「ああ、そうだな」

さやか 「楓さんとエリスちゃんも加わって、ますます楽しくなりそうだよ」

祐一 「・・・今思い出した。おまえ、あのネフィルスの街の時、楓さんのこと隠してただろ」

さやか 「さ〜てね〜?」

祐一 「ったく」

まぁ、もういいけどな。
最終的に、あの人は帰ってきた。
万事オーケーだ。

さやか 「綺麗な星空」

祐一 「ん・・・そうだな」

さやか 「・・・・・・♪」

ぎゅっ

祐一 「な、なんだよ?」

突然さやかが両手で俺の腕を捕まえる。
ちょうど腕を組むような感じだ。

さやか 「なんかいい気分だし〜、今日の君は私の恋人役にけって〜♪」

祐一 「そんなお手軽な・・・」

さやか 「いいのいいの♪」

祐一 「何がいいんだか」

さやか 「じゃあ、こういうのはどう? 憧れの女性に失恋した哀れな男の子を、おねーさんが慰めてあげるってのは」

祐一 「・・・言うなよ・・・それを・・・」

そうはっきり失恋なんて言われると、ショックが大きいよ。
エリスだって遠慮してたってのに、こいつは・・・。

祐一 「第一なんだよ、おねーさんってのは」

さやか 「君、十八歳でしょ? 私十九歳♪」

祐一 「一つしか違わないだろ」

さやか 「一つでもおねーさんはおねーさん。ほらほら、おとなしくおねーさんに慰められなさい♪」

祐一 「嫌なこった。おまえだけはお断りだ」

さやか 「素直じゃないな〜♪ あ、ほらっ、楓さん発見♪」

祐一 「ああ、ほんとだ」

隕石でも落ちたように地面がえぐれてて、その先にある木の根元で、楓さんがすやすやと寝息を立てていた。
本当にこの人は、いったいいくつなんだか・・・。

祐一 「こうやって見ると、この人子供なんだよなぁ・・・」

さやか 「仕方ないんじゃないかな?」

祐一 「ん?」

さやか 「楓さんって、小さい頃からずっと聖女様って言われて、誰かに期待されて・・・・・・みんなの理想どおりの人間であろうとしてきたから、普通の子供時代ってなかったんじゃないかな?」

祐一 「・・・・・・」

そうかもしれないな。
なら、少しくらい子供っぽくても、大目に見てやるか。

祐一 「ほら楓さん、こんなところで寝てると風邪引くぞ」

楓 「むにゃむにゃ・・・・・・ひょぉ〜うう〜〜」

祐一 「・・・・・・」

さやか 「怒らない怒らない」

祐一 「誰も怒ってねーよ」

まったく・・・・・・。

楓 「んにゃ・・・だめだってばぁ、豹雨ぅ・・・」

祐一 「・・・・・・」

やっぱり、むかつくかも。
人のこと散々心配させやがったくせに、幸せそうに寝やがって・・・。

祐一 「キスでもしたろか」

さやか 「あ!」

祐一 「へ?」

もちろん、振りだけのつもりだったのだが。
楓さんの頬に近づけた俺の口の前に、さやかの手が差し出される。
咄嗟のことで反応しきれず、そのままさやかの掌に口付ける。

祐一 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・」

祐一 「・・・冗談のつもりだったんだが」

さやか 「いやでもほら、一応楓さんは豹雨さんの恋人だし。悪ふざけでもこういうのはいけないと思うよ?」

少し早口にさやかの口が動く。
まぁ、確かに悪ふざけはよくないかもしれん。

祐一 「すまん」

さやか 「ううん、全然問題ないよ」

祐一 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・」

・・・なんだかなぁ?

 

こうして、楓さんとエリスが水瀬家に来た日の夜は更けていく。
また明日からも、騒がしい日々が続くのかねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

あとがきといえば・・・

平安京(以下“京”):宴会ネタ大好き

さやか(以下“さ”):やっと書けたね〜

京:作者的ポイントは、中編の温泉シーンと、往人、浩平のシーン、それに後編での楓のはっちゃけぶり。

さ:ほとんど全部じゃん

京:さて、次回から新編突入

さ:題して〜

京:デモンバスターズEX!

さ:なんのひねりもなーい

京:ノワール・ムーンで出てきた面々もじゃんじゃん登場

さ:で、どんなお話になるの?

京:それは秘密だが、色んなキャラと過去の因縁を持つやつらが現れたり

さ:ほうほう

京:さらに、タイトルに相応しく、さらに強力な魔族との戦いが・・・

さ:おお

京:あるかもしれない

さ:なるほど〜

京:ちなみに、EXのキーパーソンは四人!

さ:ほほう。ということは・・・祐一君に私で・・・

京:おいこら、勝手に勘定するな

さ:違うの?

京:さあ?

さ:む〜

京:ネタばらしはここまでだ。次回からもよろしく

さ:み〜てね〜♪