デモンバスターズ

 

 

第30話 水瀬屋敷の宴 中編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「今、琥珀ちゃんと翡翠ちゃんが歓迎パーティーの準備してるから。楽しみにしててね〜、楓さん♪」

楓 「うん、そうさせてもらうよ」

ガラガラ・・・

三人は体にタオルを巻いた状態で脱衣所をあとにする。
温泉に向かうと、そこには先客がいた。
その光景に、さすがの楓も一瞬ギョッとした。

往人 「ん?」

美凪 「・・・あ」

浩平 「おー」

みさき 「あ」

先客の人数は四人。
男二人、女二人だったが、まったくなんの躊躇いもなく、同じ湯船の中でくつろいでいた。

栞 「きゃっ! って、壁はこの間お姉ちゃんが直したはず・・・・・・ていうかなんですかこれは!?」

風呂場は栞が知る風呂場とは似ても似つかないものに変わっていた。
湯船は大きなものが完全に一つになっていて、打たせ湯があったり、水風呂らしきものも存在している。
そして何より、壁など最初からなく、すぐ横には男子用の脱衣所の出入り口があった。

浩平 「ああ、いちいち壁を取り払うのも面倒だからな。完全な混浴性にしてみた」

栞 「してみないでくださいっ!!」

楓の背中に隠れながら、栞が抗議の声を上げる。
だが当然、そんなことを気にする浩平ではなかった。

さやか 「あはっ、みんないたんだ♪」

美凪 「・・・ちゃお」

往人 「誰だ、そっちの?」

楓 「楓と言います。よろしくね」

往人 「ああ」

美凪 「・・・ちわ」

初対面同士で簡単な挨拶を交わす。

浩平 「よっ、また会ったな」

みさき 「この間はありがとうございました」

楓 「気にしないで。当然のことをしたまでだから」

さやか 「うん♪ みんな紹介終わったね」

栞 「って! どうしてみなさん、さも当然のようにこの状況に馴染んでるんですかっ!!?」

最初はギョッとしていた楓も、特に気にせず男性陣と接している。
さやかをはじめて他の二人は最初からまったく意に介していない。

さやか 「栞ちゃん。世の中なんでも男と女に分けて考えるのは良くないよ」

美凪 「・・・平等が一番」

みさき 「わたしは見えないからそもそも気にする必要ないし」

楓 「お風呂くらいで気にすることなんてないよね」

栞 「おかしいですよっ、みなさん!!」

一人叫ぶ栞。
しかし無情にも、彼女に同調する者はいなかった。

ガラガラ・・・

天よりの使者か。
そう思って栞は新たに入ってきた者の方を見る。

エリス 「ふ〜ん、混浴なの。まぁいいわ」

そもそも隠すべきところを隠してすらいない少女がずかずかと入ってくる。
男達の姿を見止めても全然気にせずその状態で歩いている。

栞 「ああ・・・・・・」

この世に味方はいない。
栞は深く沈みこんだ。

さやか 「ほらほら、背中流しっこしよ♪ 栞ちゃん」

栞 「・・・はい」

うるうると涙を流しながら、栞はさやかについていく。

 

一方湯船の方は、皆楽しげであった。

往人 「あんたには後で、とっておきの芸を見せてやるよ」

楓 「ふふっ、楽しみね」

浩平 「だから俺はこう思ったわけさ、それはお酢だろう、ってな」

エリス 「うわっ、祐一以上のバカがいる」

などとそれぞれに盛り上がっていた。
ちなみに、いつの間にか混浴になった温泉について香里は・・・・・・。

 

香里 『以後、温泉は時間性にします! 女子入浴中に入ってきた男は殺す!!』

 

ということになり、一応皆恐縮していた。
が、当然おとなしく従う者達であろうはずもない。
さらに質の悪いことに、実行犯は全員香里よりも実力が上であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「ぱんぱかぱーん!」

琥珀 「ぱんぱんぱんぱかぱーん!」

美凪 「・・・いぇー」

さやか 「お待たせしました! それではっ、楓さんあーんどエリスちゃん歓迎、大・宴・会〜!!」

琥珀 「わーーーー!!!」

美凪 「・・・ぱちぱちぱち」

相変わらずテンパった盛り上がり方をしているさやかと琥珀。
そしてそれに便乗するテンションの低い美凪。
今日はいつにも増して派手だ。

さやか 「ついでに、魔族から町を守ったぞ記念〜」

ついでかよ・・・。

それにしても、大宴会と題するだけあって、いつも以上に人が多い。

主役である楓さんにエリス。
俺、さやか、秋子さん、名雪、琥珀、翡翠、国崎、美凪、折原、みさき、香里、栞と・・・ここまではいつものメンバー。
さらに今日は石橋、斉藤、たぶん斉藤の奥さんの葉澄さん、北川までもがいる。
主だった者全員と言える。

さやか 「それではまず、本日の主役、楓さんとエリスちゃんの自己紹介あーんど挨拶たーいむ!」

そう言ってさやかが上座にいる二人に振る。

楓 「えーと、楓と言います。祐一君とは一緒に旅をしていた仲で、姉弟みたいなものです。どうぞ、祐一君ともども、私達もよろしくお願いします。はい、エリスちゃん」

エリス 「まぁ、しばらく厄介になるわ。よろしくね、エリスよ」

さやか 「はいはーい、ありがとうございましたー。では、家主の秋子さんより一言」

秋子 「はい。この水瀬なんでも屋敷もますます賑やかになって、嬉しい限りです。今日は無礼講ですから、存分に楽しんでください」

さやか 「はいはい、ではお許しが出たところで・・・」

一旦タメをつくる。

さやか 「は〜じまり〜!!!」

合図とともに、琥珀と翡翠が料理を運び出す。
今日は琥珀だけでなく、秋子さん、名雪、さやか、美凪、葉澄さんらも手伝ったらしく、いつになく豪勢だった。
そして何より、量も凄まじい。
まぁ、これに関してはみさきとエリスがいるしな・・・。

 

 

琥珀 「はい、ちゃっちゃと行きましょう〜」

さやか 「色々企画してるからね〜。当然全員強制参加、拒否権な〜し」

琥珀 「ちなみに拒否した人には、オレンジの刑です」

オレンジの刑?
なんだそれは。
知らないはずなのに、何故か全身全霊で拒否反応が出ている。
何か嫌なことを思い出しそうな・・・。

さやか 「それじゃあ、エントリーナンバー1番!」

往人 「フッ、俺の出番か・・・」

下座の方、台を積んで作った即席の舞台上に国崎が上がる。
なんとなく、いつもとは違ったオーラが出ている。

往人 「ようこそ、国崎往人の人形劇場へ・・・」

もったいぶった調子で挨拶をする。
明かりも消し、琥珀と翡翠が照明もどきを使って演出をしている。

往人 「本日はみなさんに、素敵なショーをご披露いたしましょう」

おお、なんかいつもと違う。
今日はやりそうだな、国崎の奴。
楓さんなんかワクワクしてるのか、上座の方から舞台の近くまでやってきている。

往人 「ご覧あれ!」

国崎が天井を指差すと、そっちへ照明が移り、シルクハットがゆっくりと落ちてくる。
まるで糸で吊っているように緩やかに、しかし実際には吊ってなどいない。
それが地面につくと、シルクハットがひとりでに倒れ、中から礼をした姿勢のいつもの人形が出てきた。
なかなかやるじゃないか。
皆もいつもと違うのを感じ取ったか、次第に興味を見せ始める。

往人 「こちらの人形君、ただの人形ではありません。人々に夢と希望を与える、神秘の人形なのです」

ほほう。
さあ、どうなる?
興奮が最高潮に高まる。
そして、国崎の決め台詞が出た!

往人 「さあ、楽しい人形劇のはじまりだ!」

 

とことことこ

 

とことことこ

 

とことことこ

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一同 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

楓 「・・・・・・」

人一倍楽しみな顔をしていた楓さんが笑顔のまま停止している。
そしてエリスは・・・。

エリス 「・・・祐一以上のバカ、二人目発見」

もう興味を失っていた。
そして誰もが各々食事や話に戻った。
誰も国崎のいる舞台を見ていない。

往人 「・・・・・・・・・・・・」

とことことこ・・・・・・とてっ

壇上の国崎は、固まっていた。
そして人形は、倒れた。

ひゅぅ〜

動かなくなった国崎と人形を、琥珀と翡翠が運び出す。

人形使い国崎往人、退場。

 

さやか 「はいは〜い、盛り下がったところで、次いきまーす!」

ある意味正解だったな、国崎をトップバッターに持ってきたのは。
あれを途中でやられるのはヤダ。
めっちゃ白ける。

さやか 「次はすごいよ〜。題して、水瀬屋敷大食い王決定戦!!」

告げられた内容に、誰もが肩を落とす。
それもそのはず、皆からすれば、こんな企画みさきの一人勝ちに決まっているからだ。
だが俺は、対抗馬を知っている。

さやか 「はい、注目〜」

横手の方では、新たなものがスタンバイされていた。
その脇にいるエリスをさやかが指し示す。
エリスの手には、牛の骨付き肉・・・ざっと十キロ。

エリス 「まったく、どうしてアタシがこんなこと」

そう言いながら食いつき、食べつくすまで僅か十秒。
周りから感嘆の声が上がる。
みさきに勝るとも劣らない大食い振り。
それに対抗するように、みさきの手に持たれている豚肉、同じく十キロ。

みさき 「あむ」

こちらは九秒だ。

エリス 「ふ〜ん」

みさき 「ふふふ」

エリス 「おもしろいじゃない」

さやか 「種目は、わんこ蕎麦〜」

大食いの王道か。
既に琥珀と翡翠は左右でスタンバイしている。
みさきとエリスがそれぞれ席に着き、戦闘態勢。

エリス 「・・・・・・」

みさき 「・・・・・・」

真剣勝負の緊張感が漂う。

さやか 「では、スタート!」

みさき・エリス 「「はい!」」

早ッ!?

通常のものより大きなお椀にたっぷり入った蕎麦。
平らげるのに一秒も要しなかった。
すぐさま次が行くが、これも一秒内。
だがそれに対応している琥珀と翡翠も大したものだ。
あっという間にお椀が重ねられていく。

・・・・・・・・・・・

僅か一分で五十杯に達したところで、両者の手が止まる。
互いに相手を見ている。

エリス 「・・・やるわね」

みさき 「あなたも」

長い戦いになりそうだな。
誰もがそう思った。

 

 

 

 

さやか 「長引きそうなので、次〜」

長期戦となる二人の大食い勝負を一先ず置いておいて、さやかは次に移る。
皆も大食い対決の行方を気にしつつ、次の出し物に興味を示す。

浩平 「よ〜し、俺の番だな」

しまった!
もう一人いたんだった、バカが!

これまた国崎同様、もったいぶった足取りで壇上に上がる。
が、先の例があるため、全員期待はしていない。

浩平 「ど〜も、折原です。まぁ、誰も俺の話になんか期待はしてないんだろうな」

わかってるじゃないか。
そのとおりだよ。
せいぜいさやかとみさきくらいだろうが、片方は壮絶なバトルの真っ最中だ。

浩平 「だから今日は、ちょっと趣向を変えて、真面目な話をしてみようと思う」

ほう?

浩平 「まだ初夏だが、怪談話なんてどうだ?」

ほほう、少しは考えてるのか、バカでも。
いや、まだ油断はできんな、国崎の例もあるし。

浩平 「ある猟師の話だ・・・」

 

・・・中略・・・

 

浩平 「・・・そこでその猟師は、ハッと目を覚ました・・・」

実際、よくもまぁ、ここまで口が動くものだと思う。
次から次へとあーだこーだと話を盛り上げていく。
中には全然関係ない話まで雑じっているんだが、そのお陰で少しずつだが話に感情移入できてくる。
最初はまったく期待していなかった者達も、猟師の思いに同調し始めた。

浩平 「幾日も続く物音・・・猟師はどんどん気味悪がり、夜も眠れないようになっていった」

 

しかし・・・

 

俺達はやっぱり忘れてはいけなかったんだ・・・

 

こいつが・・・・・・折原浩平であることを・・・

 

浩平 「ある日ついに耐えかねた猟師は、勇気を振り絞って音の出所を確かめに行った。遠くからでもわかる大きな栗の木がある場所から、音は聞こえてきた。コーン、コーンと・・・。猟師は唾を呑む」

俺達も唾を呑む。
不覚にも俺達は、折原の術中にはまっていた。

浩平 「やはりあれか、あれなのか!? そう思いながら猟師は、震える体に鞭打って、前に進んだ。そして、そこで彼が見たものは・・・!!」

 

ごくっ・・・

 

浩平 「・・・・・・・・・」

じーっと間を取る折原。
焦らされる俺達。

 

浩平 「・・・そう、そこで彼が目撃したのは・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

浩平 「・・・・・・階段だった」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

浩平 「そう。物音とは、大きな栗の木から落ちた栗が、階段の石畳を打つ音だったのだ・・・・・・・・・以上、階段話でした」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・長い・・・・・・沈黙だった。

何を・・・どう言って良いのかわからないが・・・。

まぁ、あれだ・・・・・・やはりこいつは折原浩平だった・・・と。

浩平 「失礼」

そして折原は、それ以上何も言わずに壇上から去った。
無表情だったが、俺にはそれが、非常に満ち足りた顔に見えたのだった。

楓 「・・・・・・」

一番前でそれを見ていた楓さんは・・・・・・蹲って肩を震わせていた。

祐一 「楓さん?」

楓 「・・・っ・・・っ・・・っ・・・!」

まさか・・・笑ってる?
なんで・・・?
こ、この人もなのか・・・?

さやか 「っ・・・ぷっ・・・くくく・・・・・・・・・っ!」

一方向こうでは、笑いを堪えすぎて悶絶しているさやか。

みさき 「・・・っ・・・っ・・・っぅっくくく・・・・・・」

エリス 「・・・・・・・・・?」

あっちでは、同じく笑いを堪えすぎて苦しそうなみさきと、それを不思議そうに眺めているエリス。
ライバルの異様な姿に、自身の箸も止まっていた。

わからねぇ・・・。
なんでだ?
なんでこいつらにはウケるんだ!?

折原浩平・・・・・・おまえはいったい・・・何がしたいんだ・・・?

いや、たぶん、何もしたくないんだろう。

というか、何も考えてない?

すごい・・・バカの極致だ・・・。

エリス 「・・・究極のバカだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく