デモンバスターズ
第27話 仲間の絆 最強の男
豹雨はただひたすら前に進んだ。
この男には、前進する以外の道は存在しない。
どこにどんな障害が存在しようとも、全て薙ぎ倒して突き進んできた。
今までも、そしてこれからも。
?? 「待っていたぞ、斬魔剣の豹雨」
豹雨 「ほう。俺のことを知りながら楯突くか。死ぬ覚悟はできてるみてェだな」
?? 「俺を覚えているか? かつて、俺は自らを魔族の中でもトップの力の持ち主だと思っていた。実際、魔王を除けば魔族を相手に負けたことなどはなかった。いずれは十一人目の魔王となると思ってやまなかった。そこに貴様が現れた!」
ゆっくりと前に進み出る魔族の男。
顔の半分は包帯に隠れ、右腕は肘から先がなく、代わりに重厚な剣がついていた。?? 「人間である貴様に敗北したこの屈辱・・・忘れた日はなかった! そして今、復讐の時は来た!」
豹雨 「・・・・・・・・・誰だ? てめェ」
?? 「な・・・なに・・・?」
豹雨 「知らねェな。いちいち斬った野郎のことなんざ覚えてねェからよ」
?? 「な・・・んだと・・・!」
包帯の巻かれた顔が屈辱に歪む。
豹雨 「何にしても阿呆だな。この俺を前にせっかく拾った命を、わざわざ捨てに来るとはな」
?? 「フンッ、このガレノス、二度とは負けん」
豹雨 「残念だがな、俺様を前に勝った奴は古今東西一人もいねェんだよ。もちろん、未来にもな」
ガレノス 「その自信・・・突き崩してくれる!」
ガレノスと名乗る魔族が魔力を解放する。
実際、言うだけあって凄まじいまでの魔力だった。
間違いなく上級魔族、しかもこの亜空間の別の場所でアルドやエリスが倒した者達と比べても格段に強い。
しかし、そんな敵を前にしても豹雨は一向に動じない。豹雨 「俺は忙しいんだよ。てめェにのんびり構ってやる暇はねェ」
ガレノス 「黙れ! その口聞けなくしてくれるわっ!!」
ゴッ!
右腕の剣が振られると、黒い衝撃波が豹雨を襲った。
それを豹雨は体を横に反らしただけでかわす。ガレノス 「はぁぁぁ!!」
さらにガレノスが剣を振り上げて襲い掛かる。
上から振り下ろされた剣を、豹雨の大太刀が受け止めた。ガキィンッ
ガレノス 「ぐぬぬぬぬ」
豹雨 「・・・ヘッ、おもしれェ」
キィンッ
大太刀が降りぬかれると、ガレノスの体が弾かれる。
両者は僅かに距離を取って対峙した。豹雨 「ちったァやるみてェだな。阿呆の面倒を見に行かなきゃならないんだが、いいだろう、五分だけ相手してやる」
ガレノス 「ふざけるなッ!」
左手の方に魔力を溜め、雷の魔法を放つ。
連続して足元に落ちる雷を、豹雨は跳び下がりながら回避する。
そうして後退していく豹雨を、剣を振りかぶったガレノスが追撃した。ガレノス 「カァッ!」
豹雨 「フンッ!」
ギィンッ
剣と太刀とが打ち合わされる音が響く。
数度それが続くと、再び距離を取りながらガレノスが魔法を放った。豹雨 「どうしたどうした? そんなみみっちい攻撃ばっかりじゃ、五分なんてあっという間だぜ」
ガレノス 「おのれどこまでも愚弄しおって!」
一際大きな雷が放たれ、さらにガレノス本人も剣を構えて突っ込む。
同時攻撃だ。豹雨 「・・・・・・」
片方をかわせば、追い討ちで残った方を喰らう。
回避は楽ではなかった。豹雨 「おらァッ!!」
ブゥンッ
ガレノス 「何!?」
大太刀が降られると、雷の弾は弾けとんだ。
ガレノス 「馬鹿なッ、剣圧だけで我が魔法を・・・!」
豹雨 「ぼさっとしてると死ぬぜ」
ガレノス 「は!」
ヒュッ
ぎりぎりのところで豹雨の太刀をかわすガレノス。
一方的に攻めているのはガレノスの方でありながら、完全にペースは豹雨が握っていた。豹雨 「どうした? もう終わりか。まだ三分残ってるぜ?」
ガレノス 「おのれっ!」
あくまで遊んでいるようにしか見えない豹雨の態度に、ガレノスが憤慨する。
凄まじいまでのスピードで右腕の剣が振られる。
すべての斬撃を、豹雨は完璧にかわしていた。
余裕すら感じられる。ガレノス 「馬鹿なっ!?」
豹雨 「ケッ、魔力はそこそこだってのに、剣の方はからきしだな」
ガレノス 「何を・・・!」
豹雨 「剣の使い方を教えてやろうか?」
ヒュッ
ガキィンッ
ガレノス 「ガッ・・・!」
豹雨は強引に反撃に転じる。
わざとガレノスの剣を狙って太刀を振るった。豹雨 「おらおらァ」
キィン ギィンッ
ガレノス 「く・・・くぉ・・・!」
剣が構えられている場所ばかりを狙って斬りつける。
その一撃一撃が速く、鋭いため、ガレノスは防戦一方となる。ガレノス 「な、なめるなぁ!!」
ゴォッ
魔力を解放することで豹雨の攻撃を防ぐ。
二人の間に再び距離が生まれた。豹雨 「パワーだけはそこそこってとこか」
ガレノス 「どこまでも・・・どこまでも貴様は・・・!」
豹雨 「あと一分くらいだな。次がラストチャンスかもしれんから、よーく考えて攻撃の仕方を決めるんだな」
余裕の豹雨は、太刀を肩に乗せた状態でただ立っている。
攻撃する気も、防御する気も、回避する気も見られない。
本当にガレノスが次の攻撃を仕掛けるのを待っている。ガレノス 「お・・・の・・・れぇ・・・!!!」
完全に怒り狂ったガレノスを中心に大魔力が溜まっていく。
全て解放すれば、街一つ吹き飛ばしかねないほどの力だった。ガレノス 「その余裕! 後悔しながら死ぬがいいッ!!!」
集まった魔力が雷の球体を生み出す。
先ほどのものより遥かに大きく、黒く禍々しい。ガレノス 「死ねぇい! ダークボルト!!」
ドンッ
放たれた黒い雷が豹雨の体を直撃する。
体ごと呑み込んだ雷の球体が、激しくスパークを繰り返す。
中に閉じ込められたものは、圧倒的な雷の力で身を焼かれ、引き裂かれ、跡形も残らないはずだった。ガレノス 「く・・・っくく・・・はぁーっはっはっはっは! やったぞ! ついに斬魔剣の豹雨を倒した! 馬鹿めっ、余裕をかましているからこうなるのだ! ふっはっはっはっはっは・・・は・・・・・・・・・・・・・・・」
開いた口が塞がらなくなる。
唖然とする。
そして、段々とガレノスの表情に恐怖が浮かぶ。
ピシッ
球体にヒビが入る。
そんなはずはないと思っても、現実は甘くなかった。豹雨 「五分だ」
パリーンッ
黒い雷の球体は砕け散った。
中からは、無傷の豹雨が出てくる。豹雨 「まあまあだったな。褒美に俺もいいものを見せてやろう」
斬魔王と呼ばれる者の前に、生き延びる魔物はいない。
その話が、真実であることを物語るように。
魔族の男が抱いたのは、絶対の死の予感。豹雨 「総天夢幻流・斬魔剣・・・・・・しぐれ」
ザシュッ
ガレノス 「あ・・・あ・・・・・・」
豹雨 「聞こえるだろう、死へと誘う雨音が」
大太刀が鞘に納まった時、ガレノスの体は原型を留めていなかった。
楓 「・・・・・・」
先ほどから周囲の景色が亜空間の状態のままだ。
外の様子がわからない。
だがそれはつまり、相手の思惑通りにことが進んでいないということだ。
町は無事と悟り、楓は一先ずほっと一息だった。楓 「さてと・・・」
いい加減、いつまでも結界内に囚われているわけにもいかない。
そろそろ片付けることにした。楓 「すぅ・・・はぁ〜〜・・・・・・」
一度深呼吸。
そして瞑目する。楓 「・・・・・・」
亜空間のランダム性とシンクロして。
その流れの中から、先ほど接した時に、草薙で斬りつけた時に相手に残しておいた自分自身の気配を手繰る。
たとえ広い空間内でも、必ず見付かる。楓 「・・・・・・そこ!」
ザシュッ
草薙剣を、何もない空間に向かって振るう。
だが、楓の剣は空間を越えて敵を斬る。?? 「ぐ・・・ぁあああ・・・!!」
崩れ落ちたのは、はじめて見る姿の魔族だった。
足元に倒れる魔族に向かって楓は剣を突きつける。楓 「茶番は終わりよ」
?? 「な、なんだと・・・?」
楓 「やっぱり、ダークエレメントは二年前に死んだわ。おまえはその残りカスから二年前の記憶を探り出し、それを利用して私を惑わしただけ」
?? 「ぐ・・・・・・」
楓 「人の弱みにつけ込むしか能のない下種が」
その魔族も、曲がりなりにも上級クラスの魔族だろう。
しかし、今の楓の前では、まったくの無力な存在でしかなかった。?? 「・・・・・・惜しかったんだがなぁ」
楓 「言っておくけど、今の私に慈悲はない」
?? 「ああ、そうみたいだ。・・・・・・くっくっく」
楓 「?」
風前のともし火状態の魔族は、笑い出した。
何がそんなにおかしいと言うのか。
死を前にして狂ったか。楓 「何を笑っているの?」
?? 「いやぁ・・・あんたのことさ」
楓 「私?」
?? 「噂と随分違うなと思ってな。あんた、生まれた時から神の光の力を宿した聖女だったってなぁ。数々の奇跡を起こしてみせ、人々から慕われ、ついには民を導く大地の巫女となった」
楓 「・・・・・・」
?? 「心優しく、慈悲深い巫女様って評判だったのになぁ。現実ってのは、違うもんだよなぁ、ってあんたを見てると思うよ」
楓の目がすぅっと細められる。
それは、己の過去に対する思いを馳せる目か、それとも純粋な殺意を宿した目か・・・。?? 「いいねぇ、その憎悪、怒り、殺気・・・どれを取っても一流だが、巫女様には似合わねぇよなぁ。おお、怖い。あんた巫女やめて正解だよ。そんな本性見せられたら、普通の人間じゃ怖くて近寄れねぇよ」
楓 「・・・・・・言いたいことは、それで終わり?」
?? 「最高に心地いい殺気だぜ、楓よぉ。ほんと、あんた巫女やめて良かったよ。俺ぁ、今のあんた好きだねぇ。欲望に正直で、何者にも囚われず自分の意思を貫き通す。綺麗だぜぇ・・・惚れそうだよぉ、楓ぇ・・・」
剣が振り上げられる。
もう、話すことは何もなかった。?? 「ひゃぁっはっはっはっは! おまえ最高だぁ! 楓ぇぇぇ、愛してるぜェェェェェェェ!!!!!!」
ドシュッ!!
狂気に満ちた笑みを浮かべたまま、名も知らぬ魔族の首が飛んだ。
剣を振り下ろした楓は、冷然とその様子を見下ろしている。楓 「反吐が出るわ」
それだけで飽き足らなかったか、楓は草薙を魔族の屍に突き立てる。
光が魔族の闇の肉体を焼き払う。
跡形もなく、消し去っていく。
楓 「・・・・・・おまえなんかに言われなくたって、わかっているわっ」
剣を納めた楓は、顔を歪ませる。
楓 「自分の中に・・・どんな化け物が巣食っているかなんて!」
そう、まさしく化け物だった。
狂おしい憎悪、激しい怒り、凄まじい殺意。
自分は聖女などではない。
誰よりも人間の醜い部分を心に抱える、魔女だった。楓 「ふふっ」
自嘲気味に笑う。
自分ほど魔女という言葉がよく似合う人間も珍しいと思った。
悪い意味での魔女という言葉が。楓 「聖女と言うなら、むしろ人々から魔女と呼ばれるさやかちゃんの方がよっぽど似合ってるよ・・・」
あの少女には表裏がない。
確かに底知れない部分はあるが、全ては純粋なものだった。
嘘偽りのない、素直が笑顔を浮かべられるのがさやかだった。
それに比べて、自分のなんと醜いことか。楓 「ほんと・・・巫女をやめて正解だったのかもね・・・・・・」
もっと人々を導くのに適した人間はたくさんいるだろう。
所詮自分は、光という属性を扱えるだけの、ただの人間に過ぎないのだと、楓は思った。皆の下を離れたのは、ただ体を穢されたからだけではない。
何よりも、自分の心に芽生えた憎悪と怒り、殺意が恐ろしかったからだ。
そんな自分を曝け出すのが、怖かった。
エリス 「!! 祐一、結界が」
祐一 「解ける? 誰かが術者を倒したのか・・・」
歪んでいた空間が、徐々に変化していく。
そして、景色が元の世界に戻っていく。エリス 「ここは・・・」
祐一 「どこだ?」
亜空間内での移動が、外側にも影響を及ぼしたのか、入った場所からは少し離れていた。
エリス 「あ! あれはっ!」
祐一 「楓さんか!」
少し先に、一人たたずむ楓さんの姿を捉えた。
俺達は一目散に駆け出す。
するとこっちに気付いたか、楓さんも走り出した。
俺達と反対の方へ。エリス 「楓!」
祐一 「楓さん!」
エリス 「待ちなさいっ、楓!!」
祐一 「逃げるなっ!」
俺とエリスは逃げる楓さんを追って走った。
けれどいくら呼んでも、楓さんは振り返らずに逃げ続けた。
つづく