デモンバスターズ
第25話 仲間の絆 真紅の狂宴
魔族が現れる道を潰したことで、町の騒ぎは収束に向かい始めた。
後続がなくなったことで、明らかに中級クラスの、中途半端に知能のある馬鹿魔族どもは動揺し、下級のレッサーデーモンどもは統制もなくただ暴れていた。
こうなっては、もはや連中は水瀬屋敷の面々の敵じゃない。残党の始末は皆に任せることにして、俺達は当初の目的地へと向かう。
さやか 「♪〜」
何故かこいつもついてきているが。
祐一 「何でおまえが?」
さやか 「いいってこと」
先頭に豹雨、続いてアルド、エリス、俺の順で歩き、最後尾からさやかがついてくる。
目指す場所は当然、楓さんの気配が消えた場所。ほどなくして、その丘に到着した。
シルバーホーンの町が見渡せる小高い丘の上・・・・・・だが誰もいない。祐一 「誰もいない?」
エリス 「バーカ。いるわよ」
祐一 「バカ言うな、チビガキ」
エリス 「ガキ言うな、クソバカ」
罵り合いながら、エリスが空間のある部分を手で触れる。
すると、水面のように波紋が広がった。アルド 「空間の歪みですね。この先は異空間に繋がっているということですか」
エリス 「楓はこの中でしょうね。気配が突然感じられたのも、消えたのも、この異空間が結界となって気配を遮断しているからよ」
俺達が感じたのは、膨れ上がった結界で隠しきれなくなった楓さんの力だったってことか。
けど、一度はそうやって力が洩れたのに、再び取り込むとは、敵もさるものだな。エリス 「簡単なものだったけどゲートを開いた敵だから、油断はできないわね」
アルド 「そうですね。かなり高位な魔導師か・・・或いは上級クラスの魔族か」
豹雨 「なんだろうと関係ねェな」
ズバッ
空間の歪みに向かって豹雨の太刀が振られる。
何かが弾けるような感じがして、景色が変わる。
丘の上の景色の一部がぽっかり穴が開いたようになって、穴の向こうは不思議な空間になっていた。豹雨 「ぼやぼやしてんじゃねェ。行くぞ」
さっさと中に入っていく豹雨。
他の四人もそれに続いた。
まさに亜空間、といったところか。
中に入っても、あちこちの景色が歪んでいて、並みの人間じゃ平衡感覚が狂いそうだった。
上も下も、右も左もわからない。
進むための目印になるものもない。と、思ったのだが。
エリス 「分かれ道・・・」
アルド 「の、ようですね」
豹雨 「・・・・・・」
捻じ曲がっていてわかりにくいが、確かに道が五つに分かれているようだった。
俺達は五人。
まるで俺達に合わせて道が五本できたような都合の良さだった。祐一 「敵はこっちに気付いているってことか」
エリス 「当然でしょうね。癪だけど、ここは相手の思惑に乗ってやるしかないわ」
策士エリスがこういうんだから、そうだろう。
確かに、ここで小細工を弄しても仕方がない。
そして何より、この面子では小細工をする必要もまずない。
と、思いたい。豹雨 「・・・・・・」
言ってる傍から、豹雨は迷うことなく正面の道へと入っていく。
この男には、前進する以外の考えはないのだろう。アルド 「豹雨は真ん中ですか。では私は、その右隣に行かせてもらいましょう」
エリス 「アタシは左」
さやか 「じゃあ、私は右端だね」
祐一 「ってことは、俺には左端しか残ってねぇじゃねぇか」
どこか一つが目当ての場所に通じているのか。
それともどこを進んでもどうせ罠が待っているのか。
いずれにしても、進む以外に道はない。よし、行くか!
亜空間の中を、アルドは興味深そうに辺りを見回しながら進む。
アルド 「うーん、なかなかの歪みよう、美しいと言えないこともありませんね。そう思いませんか?」
誰もいないはずの方向へ向かって話しかける。
さやか 「うん、これも一つのアートだね」
だが、応える者はいた。
アルド 「違う道に進んだと思いましたが」
さやか 「どうやらここの空間は刻々と変化してるみたいだね。たまたま同じ場所に通じてたかな?」
アルド 「ふふふ、まぁ、いいでしょう。あなたとは一度、こうしてゆっくりしてみたかったところですから」
さやか 「どうも♪」
良く似た二人だった。
まとう衣装は黒を基調とし、色違いだがつばの広い帽子をかぶっている。
何より、常に笑顔を浮かべながらその奥底に計り知れないものを宿している感じが。
だが、そこから得る雰囲気は対照的だった。アルド 「♪」
さやか 「♪〜」
楽しげな雰囲気で進む二人の前に、何者かが出現する。
外にいた者と違い、より人に近い外見をしてはいたが、明らかに人でない気配を持つ存在。?? 「来たようですね」
黒を基調とする二人とは対照的な白い衣装をまとった男。
清浄を表す白い色を、これほど禍々しく見せる者も珍しいだろうと思わせる男だった。アルド 「魔族ですか」
?? 「その通りですよ」
早くも殺気のぶつけ合いをする両者。
殺意が渦巻く禍々しい空間内で、しかしさやかは平然としている。アルド 「高位の魔族とお見受けしましたが、私達二人を一人で相手するおつもりですか?」
?? 「充分ですとも。何人で来ようが、私には勝てませんからな」
アルド 「大した自信をお持ちのようで、いいですよ、その感じ。名前をお聞きしておきましょうか」
?? 「ロディスティス。ロディと呼んでもらって構いませんよ」
アルド 「では、そのロディさん。いざ、ブラッディ・デュエル」
ヒュッ
アルドの右手に出現したブラッディサーベルが一閃する。
もちろん、上級クラスの魔族であるロディには、その程度の攻撃では当たらない。アルド 「?」
ロディ 「噂に名高いブラッディ・アルドと戦えるのは光栄ですが、まずは頭数減らしをさせてもらいましょう」
さやか 「お」
最初の攻撃をかわしたロディは、さやかを頭上から強襲する。
さやか 「わっと!」
横に動いて上からの攻撃をかわす。
しかしさらにロディは追い討ちをかけてきた。
もっとも二撃目ともなれば、さやかにも防御する余裕がある。さやか 「フレイムウォール」
ボゥッ
下から伸びた炎の壁が攻撃を防ぐ。
そしてその隙に、戻ってきたアルドがロディに斬りかかる。アルド 「私を出し抜くとはなかなかの動きですが、誰が相手かを忘れてもらっては困りますよ」
ヒュンッ
ロディ 「危ないですね、さすがは・・・」
言っている傍から、上に逃れたロディにアルドの追い討ちがかけられる。
今度は決まったかと思われたが・・・。アルド 「?」
攻撃が当たる寸前で、ロディの姿が消える。
アルド 「これは・・・」
敵を見失ったアルドがさやかの下に降りてくる。
ロディ 「残念ですが、この空間の中では、いかにブラッディ・アルドとは言え、私には勝てませんよ」
さやか 「この空間の歪みを巧みに利用して、動きを読まれないようにしてるんだね」
アルド 「ほう」
気配はない。
一度姿が見えなくなると、空間を隔てているため気配を察知することもできないようだ。
一流の実力者ほど目以外の感覚を研ぎ澄まし、それをもって直感で戦うが、ここではそれが通用しない。シュッ
アルド 「!!」
さやか 「!!」
足元からの攻撃を、二人は上に跳んでかわす。
だが跳んだ先にも攻撃の手が伸びていた。さやか 「よっと!」
アルド 「!」
ドスッ ドスッ ドスッ
アルド 「・・・・・・」
四方八方からの攻撃を受けて、アルドの体が落下する。
頭から落ちる寸前で、反転して着地した。アルド 「・・・さやかさん、今私を盾にしましたね」
さやか 「え〜、あなたが庇ってくれたんでしょ♪ それに、アルドさん丈夫だし。この間も祐一君に串刺しにされてぴんぴんしてたし」
アルド 「まぁ、どちらでもいいですがね。どうせこんなものでは・・・」
ブシュッ
体に刺さった金属片を抜き去る。
アルド 「私は殺せませんから」
ロディ 「強がりをいいますね」
アルド 「強がりかどうか、試してみますか?」
どういうわけか、アルドは剣を捨て、空間の中央に立つ。
丸腰の状態だ。ロディ 「・・・何の真似だ?」
アルド 「言ったはずです。そんな攻撃では私は殺せないと。それを証明してみせましょう」
ロディ 「・・・・・・」
はったりに聞こえないこともない。
丸腰では、たとえ攻撃が来るのを予測できても対処はできないはずだった。
それでも、アルドの身から放たれる底知れない殺気が、ロディに不安感を与えた。ロディ 「・・・・・・ならば望みどおり・・・」
空間の歪みから白い影が現れる。
アルドのすぐ目の前だ。
しかも四方八方からも鋭い金属片が飛んでくる。
回避不能と思われた。
ドシュッ
アルド 「・・・・・・ね、言ったとおりでしょう」
ロディ 「・・・が・・・ぁ・・・・・・」
血の檻。
それが似合う光景だった。
辺りに飛び散ったアルドの血が、一気に尖った柱となって伸びたのだ。
全ての攻撃は止められ、ロディ自身の身も貫かれている。アルド 「私の体から流れた血は、そのまま私の武器となる」
さやか 「うわぁ」
怖い男である。
以前祐一との戦いで、あのまま続けたら良くて相打ちと言っていたが、こんな技があるのならやはりアルド優位は動かなかったかもしれない。
しかも、これでもまだ本気とは思えない。ロディ 「ぐ・・・ま、まだだぁ!!」
血の檻から何とか抜け出したロディは、さやかだけでも道連れにしようと悪あがきをする。
ゴォッ
ロディ 「な・・・!?」
しかしその攻撃は、荒れ狂う炎によって全て防がれた。
空間から伸びた金属片は、さやかの体に届く前に溶解している。さやか 「・・・・・・」
アルド 「・・・・・・」
呆然とするロディを挟んで、さやかとアルドの視線が交差する。
ロディ 「あ・・・あ・・・・・・あぁ・・!!」
荒れ狂う炎と、飛び散る血。
真紅の光景が、ロディの視界を覆う。さやか 「残念無念だね♪」
アルド 「それなりに楽しめましたよ。では、ブラッディ・デス」
ザシュッ
白い魔族は、赤く染まって倒れた。
さやか 「楓さんに聞いてたとおりの人だね」
アルド 「ほう、あなたも彼女の知り合いでしたか。それで、どんなことを聞いていましたか?」
さやか 「意外と、フェミニストなんだって」
アルド 「それは違いますよ」
先ほどの、盾にしたの庇ったのの話であろう。
実際には、両方正解であった。アルド 「私はただ、いずれ自分の手で血に染め上げたいと思っている女性が、他人の手で傷つけられるのが気に食わないだけですから」
さやか 「ふぅん、つまり私は、あなたのお眼鏡に適ったってことだよね。あの《血染めの死神》、ブラッディ・アルドの目に留まるなんて、光栄だね」
アルド 「ふっふっふ、あなたの噂も聞いていますよ。《灼熱の魔女》、白河さやかさん」
帽子の下から覗く目が、互いに交差する。
上級クラスの魔族と戦いながらも、この二人の目は常にお互いを捉えていた。
アルドの殺気は常にさやかに向けられており、さやかもまた、そんなアルドから目を離すことがなかった。
友好的に接しているが、一歩道を違えば二人の間で真紅に染まった戦いが行われる、そんな雰囲気である。
いずれ戦うことになるかもしれない。
そんな予感が両者の胸に過ぎった。さやか 「くす♪」
アルド 「ふふ♪」
だが今は、どちらも笑みを浮かべている。
さやか 「物騒な名前だよね〜、誰がつけたんだか。私の呼び名は、《ラブリーバーニング♪》の方が性に合ってるよ」
アルド 「そうかもしれませんね」
さやか 「うふふ」
アルド 「ふふふふ」
気の弱い人間には、心臓に悪そうな微笑合いではあった。
アルド 「では、そろそろ行きましょうか、さやかさん。あんまりのんびりしていると、遅れを取ってしまいそうだ」
さやか 「そうだね♪」
二人は、さらに奥へと進んでいった。
時同じくして、別の空間では――。
エリス 「ふ〜ん、なるほどね」
感覚にして百メートルほどの距離を歩いたところで、エリスはこの空間の性質を概ね理解した。
かなり乱雑なつくりだが、広さはやたらとあり、しかもランダムに変化を繰り返す。
入りやすく、出にくい。エリス 「ま、術者を殺せば消えるだろうから、脱出の心配をする必要はないわね」
ここまで大きな空間だと、豹雨や楓でも抜け出すのは難しい。
楓が結界に囚われるなどおかしいと思っていたが、合点がいった。エリス 「さてと・・・・・・敵でも出てこないとつまらな・・・・・・っ!!」
急に苦しみだしたエリスが膝を付く。
片方の手は胸を押さえ、もう片方は顔を覆っている。エリス 「か・・・はっ・・・!」
目は大きく見開かれ、苦悶の色を浮かべる。
エリス 「こ・・・こんな時に・・・っ!」
さらに、誰かが近付いてくる気配がある。
全身の神経が、それに反応しようとしている。エリス 「ぐっ!」
つづく