デモンバスターズ

 

 

第23話 仲間の絆 魔族襲来

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬前まで、町は平和そのものだった。
だがそれは、あまりに突然崩れ去る。

空中に出現した暗雲から雨のように降り注ぐ赤い隕石。
その一つ一つが地上に到達すると、人間の倍以上の巨体と、禍々しい姿、鋭い爪と翼を持った悪魔。
下級魔族レッサーデーモンの群れであった。

すぐに町は混乱に包まれる。

キシャァアアアアアアアア!!!!!

 「きゃぁああああ」

 

ザシュッ

 

少女の悲鳴が響き渡る。
だが彼女に向かって振り下ろされた爪が血に染まることはなかった。
血に染まったのは、魔族の体の方であった。

浩平 「大丈夫か〜?」

 「は、はい・・・」

浩平 「なら、早く逃げな」

助けた少女を逃がし、浩平は斬り捨てた相手を見下ろす。

浩平 「レッサーデーモンの大群かよ。気の利いたギャグが出てこねぇな」

笑えない状況だった。
並みの人間にとっては、下級魔族でも充分すぎる脅威となる。
浩平クラスの実力者なら、一体一体はそれほど苦労しないが、群れとなると話は別だ。

浩平 「のどかな昼下がりに、庭の草でも数えたかったのにな」

 

ザシュッ ドシュッ ドバッ

 

後ろの方では、やけに景気良く魔族達が斬られる音が響いている。
珍しくキレたみさきが大暴れしているのだ。

浩平 「飯時に真上から降って来るんだもんなぁ・・・」

 

みさき 「ご飯の邪魔をする子は、マイナス三万五千点だよっ!!」

 

食べ物の恨みは恐ろしい。
浩平とみさきの家付近に落ちた魔族達の不運というものだった。

浩平 「どこのどいつが召喚したんだか知らないが・・・」

猛威を振るう魔族達の姿を見回して、浩平は薄笑いを浮かべた。

浩平 「短慮なことだ」

知って挑む命知らずか、それとも知らずにやってきた愚か者か。
いずれにしても、襲ってきた魔族も、その黒幕も運のないことだった。
ここ、シルバーホーンの町がどういうところかを知らずにやってくるとは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

町の惨状は、郊外にある水瀬屋敷からでもすぐに確認することができた。
すぐさま秋子は屋敷内にいる人間を一通り集めた。

秋子 「門下生のみなさんは町の人達の避難を誘導してください。相手は魔族ですから、単独行動は避け、二、三人以上で固まって動くように」

 「「「はいっ!!!」」」

見事に統制の取れた道場門下生達が屋敷を出て町へ向かう。

秋子 「斉藤さん、浩平さん、みさきちゃんは町にいますね。彼らなら、一足先に敵の撃退に当たってくれているでしょう」

石橋 「私もすぐに参ります」

秋子 「私も行きますよ」

石橋 「あなたが出るまでも・・・」

秋子 「目の前で困っている人達がいるのに、こんなところで高みの見物をしているわけにはいきませんよ」

石橋 「ごもっとも。では、お先に」

門下生が全員町へ向かったのを見届けてから、石橋剛健も魔族を撃退するべく屋敷を後にする。
これで屋敷に残っているのは、ほんの僅かだ。

秋子 「さてと、久しぶりに体を動かすとしますか」

琥珀 「私も行きますよー」

秋子 「ええ。名雪、翡翠さん、留守をお願いね」

名雪 「うん。気をつけてね」

翡翠 「行ってらっしゃいませ」

秋子 「行ってきます」

琥珀 「行ってきまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「邪魔だッ、退けェ!」

ザシュッ

眼前に立ちふさがったレッサーデーモンを一刀の下に切り伏せる。
この間のネクロマンサーが従えていた奴は強化が加わっていたから少々苦戦したが、元々この程度の下級魔族は大した敵じゃない。
俺の邪魔をするなら、全て薙ぎ倒すだけだ。

 「うわぁあああ」

祐一 「ちっ!」

どこのどいつだ、こんなものを呼び出したのは。
悲鳴が聞こえたんじゃ、無視するわけにもいかない。
楓さんも気になるが、まずはこっちが先か。

キシャァアアアアアアアア!!!!

祐一 「失せろ、雑魚魔族!」

ザシュッ

町の人に襲い掛かろうとしていたデーモンを斬り捨てる。
逃げ遅れた人達が逃げていく。
敵はまだまだいるってか。

ザシュッ!

祐一 「!!」

だが、俺に向かってこようとしたレッサーデーモンが背後から真っ二つにされる。

斉藤 「よう」

祐一 「おまえか」

この間の勝負以来だな。

っと、敵はまだまだいるな。
周囲を取り囲むように十匹。

祐一 「おまえ、左手の傷はいいのか?」

かなりの深手だったはずだが、あれで剣が握れるのか?

斉藤 「ああ、葉澄は回復魔法が得意だからな」

祐一 「葉澄?」

斉藤 「妻だ」

祐一 「ほう、つま・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・つまぁ!?

祐一 「おまえ、結婚してたのかっ!!?」

斉藤 「何かおかしいか?」

いや、確かに年齢的には結婚しててもおかしくないけどよ。
それにしたって・・・。

祐一 「あー、その奥さん、おまえがそんな怪我して帰っても何も言わないのか?」

斉藤 「葉澄はできた女だ。俺の性癖は良く知っている」

祐一 「あー・・・そう・・・」

なんだよ・・・ラヴラヴなの、折原とみさきだけじゃねぇじゃねぇか・・・。
こいつがねぇ・・・。

斉藤 「それより、何やら急いでいたようだが?」

祐一 「ああ、ちょっとな」

斉藤 「なら、ここは俺に任せてさっさと行け」

祐一 「いいのか?」

レッサーデーモン十匹を一人は、わりときついぞ。

斉藤 「早く行け。邪魔だ」

祐一 「言ってくれるな。そのうち決着付けてやるよ」

問題ないな。
こいつなら。
ここは任せて、先へ進もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

石橋 「はぁああああぁぁぁぁ!!!!!!」

ドンッ!!!

気合が物理的衝撃を持っているような凄まじい威圧感が、知能を持たない魔族すらも押しのける。
十匹以上の魔族がその男一人を前に前進をやめてしまう。

石橋 「さあ、ここから先は一歩も通さん」

まさに壁だった。
周りで見ていたものは、倍以上の大きさを誇るレッサーデーモンが、石橋の半分にも満たない小さな存在に見えたという。

 

 

琥珀 「あはー♪」

翼を持ったレッサーデーモンは空を飛び、それゆえに水瀬流の門下生と言えども苦戦は必至である。
だが、その不利をあっさり跳ね除けている人物が一人。

琥珀 「はい♪ いっちょうあがりですっ。・・・・・・・・・これ、薬の材料に使えませんかね?」

竹箒に乗って空を自在に飛び回り、さらにはその箒が仕込み杖になっていて、すれ違いざまに魔族を斬り捨てる。
切り取った魔族の肉片を手にしながら、何やら物騒なことを言っているが。

 

 

秋子 「あらあら」

頬に軽く手を添えるお決まりのポーズで、秋子は魔族と向き合っていた。
石橋のような存在感や、琥珀のような派手さはないのだが、見ている者誰もが本能的に感じ取っていた。

格が違う、と。

秋子 「私の住む町に攻めてきたのが間違いでしたね」

どこから出したのか、右手に剣、左手に槍という特異な二刀流で、秋子がレッサーデーモンに挑みかかる。
物理攻撃が来るかと思いきや、身構えた魔族を襲ったのは魔法による衝撃だった。

秋子 「水瀬流の全てを極める私に、あなた方では役不足ですよ」

魔法を受けて怯んだレッサーデーモンを、秋子の剣が斬り、槍が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

往人 「遠野、俺は腹が減った」

美凪 「・・・はい」

往人 「昼飯の途中なんだ」

美凪 「・・・はい」

往人 「・・・・・・だがな、これで町が半壊したら、復興活動として俺の芸で人心を和ませることができまいか?」

美凪 「・・・・・・ぐー」

往人のアイデアに対し、美凪が親指を立ててみせる。
ナイスな考えらしい。

往人 「くっくっく・・・そして今まで俺を認めなかった町の連中は俺に対する認識を改め、国崎流法術を恐れ崇めることだろう」

美凪 「・・・ははー」

往人 「そして広がった国崎流の信者も増え、俺は教祖様として人々を平伏させるのだ」

美凪 「・・・宗教?」

往人 「そうなれば寄付金も集まってがっぽがっぽのうっはうはだ!」

美凪 「・・・うっはうは・・・・・・ぽ」

往人 「はぁーっはっはっはっはっはっは!!!!」

美凪 「・・・・・・・・・ぽぽっ」

台詞だけを聞いているといつもどおりの馬鹿なやり取りをしているようにしか見えないだろう。
だがこの二人、戦闘の真っ最中であった。

普段は誰にもウケない、つまらない芸でしかない往人の法術が、最大限に力を発揮している。
あらゆるものが周囲を飛び交い、レッサーデーモンを攻撃していく。

さらに、いつもは売れない占い道具でしかない美凪のカードも、武器としての役割を果たしている。
カード魔法と呼ばれる、シャッフルすることで魔力を溜め、引いたカードの絵柄に合わせて力を発動する特殊能力である。

往人 「国崎流大教祖往人様の誕生だ! ばんざーいっ!!」

美凪 「・・・ばんざーい」

往人 「ふっはっはっはっはっはっは!!!!」

美凪 「・・・いぇー」

 

 

 

香里 「・・・あんなのが強いなんて・・・サギだわ・・・」

栞 「お二人が戦うところってはじめて見ましたけど、本当に強かったんですね」

地味に戦う美坂姉妹は、大きな声で馬鹿みたいな妄想を膨らませている往人と美凪を見て呆れる。

石橋 「おおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」

琥珀 「あはー、あはーっ♪」

秋子 「うふふふふふ」

往人 「ふはははははははははっ」

美凪 「・・・・・・・・・ぽぽぽっ」

はっきり言ってまともに戦っているようには見えないのに、全員香里、栞や他の門下生とは比べ物にならない戦果を挙げている。
色んな意味で、皆人間離れしていた。
人間離れした馬鹿も含めて。

香里 「真面目に生きてる人間の方が馬鹿みたいじゃないっ」

栞 「あの人達を見てると、浩平さんとみさきさんが普通に見えますね・・・」

ため息をつく美坂姉妹。
ちなみに、この二人でもまだマシな方である。
北川など、地味な救援活動の指揮を執っていて、描写すらされないのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓 「・・・・・・」

ダークエレメント 「・・・・・・」

亜空間の中で、楓は頭を押さえる。
なんとなく、思い切り心配しながら叫んでいたのが気恥ずかしくなるような心境だった。
ぽりぽりと頭を掻く。

楓 「なんか・・・アテが外れてるみたいだけど?」

まったくもって馬鹿みたいなのだが、実際魔族の侵攻はまったく進んでいない。
出たら目な強さを持った面々によって次々に倒されていっている。

ダークエレメント 「・・・くっくっく・・・人間どももなかなかやるではないか。だが我があんな下級魔族どもだけを連れてきたとでも思っているのか」

楓 「・・・・・・」

確かに、相手は仮にも魔王の端くれ。
二年前の戦いで自らも倒され、部下の大半も死に絶えたはずだが、新たに強力な部下を纏め上げてきたとしてもおかしくはない。
まさかレッサーデーモンごときが主戦力ではあるまい。
だとすれば、中級、上級の魔族も出てくるか。
そうなれば今戦っている者達でもそう易々とはいかない。

楓 「(それにしても・・・・・・なんて面子なの)」

町の各方面で戦っている者達の姿を、ここからは逐一確認することができる。
楓が知る限り、今この場には一国家にも匹敵するほどの戦力が集まっていた。

ミルブス王国影の精鋭部隊、ダークウルヴスの三番隊長にして、最強の使い手と言われた斉藤元。
軍神と称えられ、かつて大陸西の戦乱の只中にあって無敵の傭兵として名を馳せた石橋剛健。
法術と呼ばれる独自の能力を伝える国崎一族最後の生き残り、国崎往人。
星詠みの一族の血を引き、特殊なカード魔法を操る遠野美凪。
ネオエターニア国に生まれた麒麟児、折原浩平。
盲目の剣聖、川名みさき。
そしてそれらを束ねるのは・・・。

楓 「水瀬秋子・・・・・・」

水瀬流宗家にして・・・・・・・・・。

さらにこの場には、デモンバスターズの《氷帝》相沢祐一。
稀代のネクロマンサーを父に持ち、自らも灼熱の魔女と呼ばれる白河さやか。
この二人もいる。

それこそ、かつてのデモンバスターズに匹敵するよう、或いはそれ以上の最強集団となりうるだけの面子が揃っていた。

ダークエレメント 「さあ、いよいよ本番の始まりだ!」

楓 「!!」

魔族達の動きが変わった。
ただ闇雲に暴れていただけだったレッサーデーモンの統制が取れ始めた。
中級以上の魔族が出てきた。

楓 「やっぱり・・・ここで黙って見てる場合じゃない!」

亜空間の中、出口を求めて楓は行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく