デモンバスターズ

 

 

第22話 仲間の絆 蘇る悪夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓 「はぁ・・・私、何してるんだろう・・・」

遠くにシルバーホーンの街を見渡せる丘の上で、楓はため息をつく。
あの後、一度は離れておきながら、自然と足が祐一やさやかと追って、ここまで来てしまった。
逃げているはずなのに、会ったら離れることができない。

楓 「バカみたい・・・」

自虐的な笑みを浮かべる。
いい年をして、自分の行動にも責任を持てないでいることに対する蔑みか。
ただ、どうにもならない気持ちを持て余していた。

楓 「祐一君・・・エリスちゃん・・・アルド君・・・さやかちゃん・・・・・・・・・・・・豹雨・・・」

会いたい。

けれど、会えない。

楓 「私・・・どうしたらいい?」

 

?? 「おとなしく死を受け入れるというのはどうだ?」

 

楓 「っ!!?」

邪悪な気配を感じて跳ね起きる。

楓 「誰!?」

?? 「くっくっく、我が声を忘れたか?」

楓 「?」

?? 「つれないものだな、身も心も曝け出し合った中だというのに」

楓 「!!!!」

楓の目が大きく見開かれる。
それと同時に、おぞましい記憶が実体のように辺り一帯を包み込む。

楓 「こ、これは・・・!」

?? 「忘れはしまい。二年前、あの時のことを」

楓 「嘘・・・・・・だって、おまえは消滅したはずじゃ・・・」

?? 「そうそう、彼奴らによってな。お陰でここまで力を取り戻すのに二年もかかってしまったぞ。魔王ともあろうものがなぁ」

楓 「あ・・・!」

フラッシュバックが起こる。
過去の、二年前の記憶がどんどん蘇っていく。
決して思い出したくない、けれど決して忘れられない。
彼女が仲間達の前から姿を消す原因となった、あの忌まわしい出来事の記憶・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デモンバスターズとは、魔を倒せし者の意。
その名が広く知れ渡るようになったのは、彼らが魔族の中でも最強の存在、十人しか存在しない魔王のうちの一人を倒してからだった。
人間がたった五人で魔王を倒したという話は、魔界、地上、天界にいたるまで広がり、彼らは一気に有名になった。
七匹の魔獣、さらには魔王すら従えられなかった真祖ヴァンパイア。
数々の魔を倒した彼らは、いつしか最強の二文字を背負っていた。

二年前――。
彼らは第二の魔王と戦うにいたった。
数々の上位魔族を従える魔王との戦いは、地上最強である彼らであっても熾烈を極めた。

豹雨 「はぁーっはっはっはっは! ちったァ、歯応えのある奴ァいねェのかよ!!」

そんな中にあっても、斬魔剣の豹雨の強さは圧倒的と言えた。
上位魔族を相手に、互角どころか二、三体を同時に相手にしてこの余裕振り。
総天夢幻流斬魔剣しぐれが炸裂すれば、どんな敵も必滅だった。

アルド 「さあさあ、どうしました? もっと私を楽しませてくださいよ。いざ、ブラッディ・デュエル」

エリス 「こんなものなの! 前の魔王の部下達の方がよっぽどやりがいがあったわよ!」

祐一 「俺達の方が強くなりすぎたんじゃないか」

破竹の勢いで突き進む中、全員の中に油断が生まれていたのかもしれない。
意外過ぎる相手の脆さに、つい攻め込みすぎてしまった。
敵の罠にはまり、五人は別々の場所へ飛ばされる。
飛ばされた先には、それぞれ敵の幹部クラスが待ち受けていた。
豹雨、アルド、エリス、祐一の四人はそれぞれの敵と一対一での戦いを繰り広げる。

同じ頃、楓は一人、魔王本人と対峙していた。

楓 「各個撃破が目的ということ? 珍しく、エリスちゃんの作戦ミスかな」

ダークエレメント 「くっくっく、我が力を持ってすれば貴様らをまとめて葬るなど容易いわ」

楓 「そうかな?」

ダークエレメント 「だがそれではつまらんのだよ。我はさらなる力を得て、魔王を超えた存在となる。そのためには、光の力を持った神聖なる巫女・・・おまえを取り込むのが一番早い」

楓 「狙いは、私一人ということ?」

ダークエレメント 「そのとおりだ」

楓 「甘いよ。確かに、私一人でおまえを倒すのは無理かもしれないけど、みんなが来るまで持ち堪えることはできる」

ダークエレメント 「甘いのは貴様の方よ!」

黒き魔王、ダークエレメントの声が響くと、楓を取り囲むように四人の魔族が現れる。
そのいずれもが、他の四人が一対一で戦っている者達と同等以上の力の持ち主だった。

ダークエレメント 「この四人を相手に、どこまで持ち堪えられるかな?」

楓 「くっ・・・!」

確かにかなりの悪条件だった。
だが、光を操る楓は、元来対魔族戦は五人中もっとも得手としている。
特に、ダークエレメントとは反属性であるため、相性はいい。

楓 「これしき・・・凌いでみせる!」

それからは激闘だった。
普段は穏やかな楓だが、その実力は高い。
高いどころか、或いは潜在能力においては豹雨すらも上回る。
アルドと戦っては一太刀も浴びることはなく、エリスと戦ってはその力を全て押さえ込み、祐一にいたっては剣の師匠だ。
何より、仲間を信頼する彼女は、持ち堪えれば必ず皆が駆けつけると信じればこそ、苦しくとも戦えた。

楓 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

長い戦いの末、四体の魔族は全て楓の前に倒れた。
さすがに相当消耗はしたが、まだ魔王が相手でも充分に戦える状態だった。

楓 「ふぅ・・・さぁ、次はおまえね」

ダークエレメント 「くっくっくっく・・・・・・我と戦う? それはないな」

楓 「?」

ダークエレメント 「我が眷属どもよ、良くやった。大地の巫女・楓よ、もはや貴様は我が掌中にある!」

床全体が蠢き、闇が楓の体を飲み込もうとする。

楓 「こんなもので!」

巫女の持つ光の力は、闇を打ち払う。
闇の力は、楓には通用しないはずだった。

楓 「う・・・!?」

ダークエレメント 「貴様は我が何か仕掛けるのを警戒していたようだが、一つだけ警戒し損ねたな」

楓 「ま、まさか・・・!」

楓は自らの体を省みる。
全身に付着する、闇に属するものを。

ダークエレメント 「そう! 貴様が倒した我が眷属どもの返り血よ!」

体中を覆う返り血が、光の力を封じ込み、闇の力を増幅する。
成す術もなく、楓の体は闇に取り込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

楓 「くっ!!」

ザシュッ

草薙剣を薙いで、過去の幻影を切り裂く。
闇が晴れ、眼前には二年前と同じ闇色の敵が存在している。

ダークエレメント 「どうした? ここからがいいところではないか」

楓 「・・・・・・っ」

ダークエレメント 「思い出さんか? 我が体内での貴様の姿を」

楓 「やめろっ!」

ダークエレメント 「我が闇にその身を弄ばれ、狂うほどに乱れ、何人にも見せられん痴態を我が前で晒したことを」

楓 「黙れッ!」

ダークエレメント 「心の底まで我が前に曝け出したであろう。魂までも溶け合う寸前であったからなぁ。貴様が抱いていた思い、全て知ったぞ。己が捨てた民への罪悪感、貴様が仲間と呼ぶ者達への思い・・・・・・そうそう、仲間と言う割には随分と助けに来るのが遅かったなぁ。貴様が思っているほどに、彼奴らは貴様を思っていなかったのではないかぁ? んん?」

楓 「だまれ・・・」

ダークエレメント 「それに、我にその身を弄ばれながらも、ずっと心で叫んでいた男・・・」

楓 「黙れと言ってるのッ!!」

ザシュッッッ

光が一閃し、ダークエレメントの体の一部を切り裂く。
だが、ダメージも受けていない闇の魔王は、薄笑いを浮かべて上空から楓を見下ろす。

ダークエレメント 「貴様の言う仲間とやらはどうした? 我が前で晒した、快楽を貪る雌の本性を恥じて、仲間に顔向けできぬか。我が闇に穢れたその身を晒すのが怖いか?」

ヒュッッッ

再度草薙剣が振られる。
その一撃は回避したダークエレメントだったが・・・。

ダークエレメント 「ぐぉ・・・!?」

光の結界に阻まれて、動きが止まる。
地面に下りざるを得なかった闇の魔王を、楓の眼光が射抜く。
彼女を良く知る者なら、それが本当に彼女であるかを疑いたくなるほど、激しい憎悪と殺意に満ちた目だった。

楓 「また会えて良かったわ、ダークエレメント」

ダークエレメント 「ほう」

楓 「自分自身の復讐をする機会ができた」

圧倒的な殺気。
荒れ狂う怒り。
全てを覆い尽くす光の力。

楓 「闇の一欠けらも残さず、消し去ってあげるわッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「これは!?」

以前さやかと祐一を訪ねて以来、シルバーホーン周辺をうろうろしていたエリスは、突如出現した巨大な気配に反応して顔を上げる。
間違えようはずもない、強大な光の力。

エリス 「楓!?」

 

 

 

 

 

 

アルド 「ほう、これはこれは」

時を同じくして、アルドもまた、一つの仕事を終えた状態でその気配を感じ取る。
今いる場所から、シルバーホーンまではそう遠くない。

アルド 「二年振りですね」

 

 

 

 

 

 

シルバーホーンに程近い街道を、一人の男が歩いていた。
散切りにした黒髪、着流し姿に、五尺はある大太刀を肩に担いでいる。

?? 「・・・・・・」

この男もまた、大きな気配を感じ取って顔を上げる。

?? 「ちっ、世話焼かせやがって、阿呆が」

 

 

 

 

 

 

ガタッ

祐一 「・・・・・・!」

昼食を待ちながら無為に時を過ごしていた俺は、テーブルを蹴飛ばす勢いで立ち上がった。

これは・・・この気配は・・・!

周りが何事かと思うのも気にかけず、俺は表に出る。
庭にはさやかがいて、深刻そうな顔つきで空を見ていたが、それを何かと関連付けている余裕は俺にはなかった。

この気配は、間違いなく楓さんのものだからだ。
ついこの間、やっと掴んだ手がかりが切れてしまったと思っていたのに、こんなに近くに。

祐一 「!!」

だが、唐突に現れた気配は、また唐突に消え去った。

祐一 「楓さん!」

俺は気配を感じた場所を目指し、水瀬屋敷を飛び出した。

 

 

 

飛び出していく祐一の背中を目で追いながら、さやかは考えをめぐらす。

さやか 「(楓さんなのは間違いないけど・・・いったい何が?)」

現れ方と消え方が普通ではなかった。
さやかの知識からすると、最初に現れたのは結界を突き破って中から力が洩れたもので、消えたのは結界が再び機能したからだろう。
だとすれば、楓が誰かと交戦中・・・しかも楓の力を覆い隠せるほどの結界を作れる相手ということだ。

秋子 「さやかちゃん?」

さやか 「秋子さん、ごめん。私と祐一君、たぶんお昼ごはんいらない!」

そう言い置いて、さやかも祐一のあとを追って水瀬屋敷を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堕ちていく感覚。
それに似ていた。

楓 「・・・どこに行ったの?」

亜空間とでも言うべきか。
上下の感覚が曖昧で、水の中のようでもあるが、少し違う。
結界に包まれているのは最初からわかっていたが、奇妙な場所に取り込まれたものだ。
だが、二年前の時のような感じはない。

楓 「どうしたの? 私の体が欲しいんじゃなかったの?」

脱出は難しそうだが、むしろ楓にとってはこんな場所での戦いは望むところだった。
先ほどの場所は町が近すぎて、下手をするとそっちへ被害が及びかねない。

ダークエレメント 「ほほう、自分のことより町の人間の心配か」

楓 「!!」

どこからともなく魔王の声が響く。
だが、空間内で声が反響し、場所を特定できない。

楓 「どこにいるのっ!?」

ダークエレメント 「巫女の使命を捨て、民を捨てたような女が、他人を心配するか」

楓 「おまえには関係ない!」

ダークエレメント 「他人を思う心・・・激しい怒りと憎悪の中にあっても、それは忘れんか。立派なことだが・・・」

ヒュッ!

草薙剣を振り下ろす。
空間に亀裂が入るが、すぐに再生した。
手ごたえはない。

楓 「何が言いたいの? こんな亜空間に閉じ込めた程度で、私をどうにかできるつもり?」

ダークエレメント 「外見にそぐわず勝気なところも相変わらずだな。しかしな、我も以前のような手は、部下を失ってしまったために使えん」

楓 「・・・・・・」

ダークエレメント 「正面から戦っても貴様を倒すのは容易いが、取り込むことはできん。ならばあの時同様、貴様を精神的に追い詰めてやろう」

楓 「何を・・・」

ダークエレメント 「この亜空間は、時間をかけて作り上げた巨大なもの。貴様と言えども抜け出すには時間がかかる。間に合うかな?」

楓 「何をするつもりなの!?」

嫌な予感がして楓は声を荒げる。
だが、相手がこの広いという亜空間のどこにいるのかもわからない状態では、ただ叫んでも無意味なだけだった。

ダークエレメント 「くっくっく、見るがいい」

楓 「!!」

鏡のような周囲の空間に、どこかの風景が映し出される。
それは、つい先ほどまで楓が見ていたシルバーホーンの町であった。

楓 「まさか・・・!」

ダークエレメント 「この町は、間もなく魔族によって攻撃される」

楓 「なんてこと! 町の人達は何の関係もないのにっ!」

ダークエレメント 「だからこそ効果がある。貴様が素直に我がものにならないばかりに、無関係な人間が大量に死ぬのだ」

楓 「!!」

ダークエレメント 「さあ、ショータイムだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく