デモンバスターズ

 

 

第21話 決闘!祐一vs斉藤

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斉藤に連れられてやってきたのは、裏山の中。
人気のない場所に来たな。

祐一 「こんなところに連れてきてどうする気だ? 断っておくが、俺にそのケはないぞ」

斉藤 「折原みたいなボケはいらん。抜け」

祐一 「・・・・・・」

まぁ、予測はできてたけどな。
最初に会った時から、いつかこいつとは真剣勝負をする時が来ると。
けど今は・・・。

祐一 「やりあう理由がないな」

正直今は、戦う気分じゃない。

斉藤 「すぐ近くに強い奴がいる。剣を持つ者として、その相手と戦おうとするのは自然なことではないか?」

祐一 「確かに、そうかもしれんが。俺とおまえが戦ったら、最悪どっちかが死ぬぞ」

斉藤の実力は、たぶん俺とほぼ互角だ。
試合モードなんかじゃ勝てない。
真剣を扱うからには、本気でかかる必要がある。
そして本気で戦ったら、相手を殺さないと決着がつかない。

斉藤 「命をかけない勝負がどこにある」

祐一 「居候と門下生とで殺し合うなんて、どっちが勝っても秋子さんに立てる顔がないだろう」

斉藤 「そんなことを気にするような質ではあるまい」

祐一 「・・・・・・」

ちっ、どうあってもやる気かよ、こいつ。
今までいくらでも機会はあったのに、何で今になって。

斉藤 「どうした?」

祐一 「やっぱり気乗りしない。またにしようぜ」

斉藤 「・・・なら、やる気が出るような話でもしてやろうか」

祐一 「?」

斉藤 「ルークスヒルの惨劇」

祐一 「!!!」

な・・・んだと・・・?

斉藤 「ルークスヒルという地に、特殊な能力を持った一族が住んでいた。あまりに異質で、あまりに強力なその力を恐れたある王国は、その一族の抹殺を命じた。実行犯は、王国の影の仕事を受け持つ特殊部隊“ダークウルヴス”。その三番隊長の名は・・・・・・斉藤元」

祐一 「・・・・・・」

斉藤 「そして滅ぼされた一族の名は・・・・・・相沢一族」

 

ガキィーンッ

 

俺の氷刀による一撃を、抜き放たれた斉藤の刀が受け止める。

斉藤 「どうやら、やる気になったようだな」

刀が弾かれ、二人の距離が広がる。
斉藤は以前も見せた、刀を後ろ低い位置に持つ脇構え。
俺は右手にただ刀を持っているだけだ。

祐一 「・・・・・・」

斉藤 「・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ルークスヒルの惨劇。
俺の・・・相沢一族の虐殺が行われた日。
特殊で強力な力を持つと言っても、本当に強いのは一握りだ。
ほとんどは、大した力もない・・・女子供に老人だっていた。
それを、奴らは皆殺しにしやがったんだ。
俺は、たった一人生き残った。

俺にもっと力があったら・・・そう思った時だった。

斉藤 「いい殺気だ。久しく感じていなかった、殺し合いの空気が心地いい」

祐一 「聞いちまったら・・・もうあとには引けねぇよ」

冷気と殺気が入り混じって、斉藤の身を貫く。
だが奴は、平然とそれを受け止めている。

斉藤 「最強と謳われた《デモンバスターズ》の一人、《氷帝》の力、とくと見せてもらおう」

祐一 「殺してやるぜ、斉藤元!」

食うか食われるかの、命をかけた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栞 「267・・・268・・・269・・・」

さやか 「・・・・・・」

屋敷の庭で栞が素振りをしているのを、さやかはぼんやりと見ていた。
絵になるかな〜、などと思いながらも、筆を取る気にはならなかった。

栞 「281・・・282・・・」

さやか 「るんたった〜♪」

歌ってみる。
やはり、あまり気分は晴れない。

さやか 「ふぅ・・・」

栞 「300! ・・・ふぅ・・・・・・どうしたんですか? ため息なんてさやかさんらしくありませんね」

さやか 「私もそう思うよ」

いつも明るく、お日様ポッカポッカ向日葵のような女性が、今日は曇り空のようだ。
いや、今日と言わず最近、ネフィルスの街から帰って以来、祐一ともども元気がなかった。

栞 「はぁ、祐一さんも相手してくれませんし・・・・・・どうしちゃったんですか? さやかさんまで」

さやか 「どうしちゃったんだろうね〜・・・」

栞 「祐一さんが元気ない理由は・・・楓さんって人のことが原因ですよね」

さやか 「そうだね〜」

栞 「そういえばお姉ちゃんもあまり元気ないですよね。自分が不甲斐ないとかなんとか・・・」

さやか 「そうだね〜」

栞 「私の稽古も全然進みませんし」

さやか 「そうだね〜」

栞 「・・・・・・」

さやか 「そうだね〜」

栞 「アイスが食べたいですね」

さやか 「そうだね〜」

栞 「・・・秋子さんのジャム食べたくありません?」

さやか 「そう・・・・・・じゃないね〜」

栞 「聞いてました? 私の話」

さやか 「聞いてたよ。うん、聞いてた」

怪しい、と栞は思う。
だが追求しても仕方がない。

栞 「さやかさんまで、何悩んでるんですか?」

さやか 「ただの思春期だよ」

栞 「え!? あ、相手は誰ですか!?」

さやか 「な〜に慌ててるのかな〜? ひょっとして、栞ちゃんも誰かラヴなのかな〜?」

栞 「わ、私は別に・・・」

さやか 「ほらほら、おねーさんに話してごらんなさい♪」

栞 「し、知りません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィーンッ!!!

二つの刀が打ち合わされる音が山に響く。
パワーとスピードは完全に互角だった。

祐一 「っ!!」

斉藤 「っっ!!!」

互いの刀を弾き合って間合いを離す。
離れてすぐに、斉藤は刀を後ろに引く構えに戻る。

祐一 「またそれか。馬鹿の一つ覚えみたいに!」

既に数回剣を交えているが、斉藤が放ってくる技はこれだけだった。

斉藤 「牙刃・・・・・・戦場において同じ敵に出くわす確立は極めて低い。ならば、複数の技を編み出すよりも、一つの技を徹底的に磨き上げて必殺技にする方が大きな意味がある。この技で、俺は今まで幾多の敵を葬ってきたのだ」

祐一 「そうかよ。だがな、そう何度も同じ技を見せてると、馬鹿でもかわし方を思いつくぜ!」

再び牙刃を繰り出す斉藤。
斜め下から高速で繰り出される斬撃を上手くかわすのは難しいが・・・。

祐一 「見切った!」

俺は奴の刀の軌道を完全に見切り、態勢を崩さずに回避する。

祐一 「もらった!」

斉藤 「甘い!」

前に繰り出されていたはずの斉藤の剣が、奴の懐近くまで入り込んだ俺の頭上から落ちてくる。

祐一 「ちっ!」

なんとか横に転がってかわすが、その際に足を僅かに斬られた。

斉藤 「とった!」

転がる俺の上から斉藤の剣がさらに振り下ろされる。
だが・・・。

祐一 「おおおおおお!!!!」

斉藤 「!!」

起き上がる反動を利用して、俺は自分の刀で奴の刀を受け止め、さらに勢いのままに押し返す。
否、弾き飛ばす。

ブゥンッ!

剣を振りぬくと、斉藤の体が大きく吹き飛んだ。

ズゥンッ!

木をなぎ倒して、斉藤の体が地面に沈む。

祐一 「甘いのはどっちだったかな?」

斉藤 「ふふふ・・・やはり思ったとおり、おまえは俺を熱くさせてくれるな」

頭から血を流していたが、斉藤の目はますます輝きを増してきている。

斉藤 「そろそろ、殺す気で行かせてもらおうか」

祐一 「寝惚けるなよ。殺す立場にあるのは、俺の方だ」

俺も斉藤も、おそらく最強レベルの使い手だ。
そんな二人が放つ殺気も最強レベル。
とっくの昔に、この辺りからは生き物の気配がなくなっている。
俺達の放つ殺気に、恐れをなして逃げ出しているのだ。
虫の子一匹残っていまい。

斉藤 「はぁああああ!!」

祐一 「おぉぉぉおおお!!!」

ギィーンッ!

二人の体が交差し、剣と剣とが合わされる。
斬撃の余波だけで、俺達の体は互いに傷つけられる。
もはや二人ともぼろぼろになりつつあった。

ガキィンッ

斉藤 「!!」

いい加減普通の攻防じゃ決着がつかない。
俺は右手に持った刀で強引に斉藤の刀を押さえ込む。
そして、左手に作り出した二本目の氷刀を突き出した。

祐一 「これでっ!」

斉藤 「なんのっ!」

ドスッ

これに対し斉藤は、左の掌をかざした。
奴の手を、氷刀が貫く。

斉藤 「っ・・・ぬぉおおお!!!!」

ザシュッ

祐一 「がっ・・・!」

右手一本で振り上げられた斉藤の刀が俺の左肩を大きく切り裂く。
振り上げられて不安定になった奴の刀を、俺の刀が弾き飛ばす。
さらに体が泳いだところで、頭突きをかましてやった。

ゴッ!

斉藤 「ぬっ・・・・・・ふんっ!」

ガッ

祐一 「ぐはっ」

突き出された俺の顎に向かって、斉藤の膝蹴りが繰り出される。
そこで俺が怯んだ隙に、斉藤は距離を取った。

祐一 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

斉藤 「ふぅ・・・ふぅ・・・ぬんっ」

ドシュッ

左手に刺さったままの氷刀を抜いて右手に持つ。

斉藤 「どうやら、使えそうだな」

祐一 「ふんっ」

氷刀は一度生み出すと、俺の手にない限り操ることができない。
手の内にあれば消すこともできるが、奪われると他人に使われることもある。
誰かのために即席の武器を作ることもできるが。

祐一 「・・・・・・」

左腕は・・・動かないな。
感覚が全然ない。
筋は切れてないみたいだが。

斉藤 「・・・・・・」

あいつも、左手は使い物にならない。
どちらも右手一本、武器も一つ。

斉藤 「そろそろ・・・ケリをつけるか」

祐一 「そうだな」

右手一本でも、斉藤は牙刃の構えを取る。
俺は右手を高く振り上げて、大上段の構えになる。
どちらも一撃必殺の構えだ。
次で、決まる。

誰にも止められん。
俺達の戦いは・・・。

祐一 「うぉおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

斉藤 「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

全ての力を込めて、俺と斉藤がともに相手に向かって踏み込む。
最後の一撃が繰り出されると思われた瞬間・・・。

 

秋子 「そこまでです!」

 

祐一・斉藤 「「!!」」

斬り合う寸前だった俺達の動きが止まる。
声をかけて止めたのは、秋子さんだった。

秋子 「人の家の庭で、殺し合いは遠慮していただけませんか?」

最初の声こそ厳しかったが、今度は穏やかな微笑で、そう告げる。
戦意も殺気も、一遍で吹き飛ぶような微笑だった。

祐一 「・・・・・・」

斉藤 「・・・・・・」

どちらからともなく、剣を引く。
斉藤は手にしていた氷刀を俺の前に放り投げ、自分の刀を拾いに行った。

斉藤 「腑抜けた顔をしていたんで喝を入れるつもりが・・・少々熱くなりすぎてしまったようだ。命拾いしたな」

祐一 「おまえがな」

斉藤は僅かに笑みを浮かべ、刀を納めながら山を下りていった。
俺も二本の氷刀を消し去る。

秋子 「祐一さん」

祐一 「秋子さん、知ってたのか? あいつがルークスヒルの惨劇に関わっていたこと」

秋子 「ええ、知っていましたよ」

祐一 「なら・・・」

秋子 「でも彼は、そんな国のやり方に失望して、出奔したそうですよ」

祐一 「・・・・・・」

まぁ、どっちでもいいか。
いまさら復讐なんてことは、最初から考えてないんだ。
最後には、剣を扱う者として、純粋に戦うことだけ考えていた。
闘争心のままに、奴を殺すことだけを考えて・・・。

秋子 「とりあえず、傷の手当てをしましょう」

祐一 「いい」

秋子 「そんな姿でみんなの前に出たら、心配をかけますよ」

祐一 「・・・そう・・・だな」

俺は甘んじて、秋子さんの治療を受けた。
いつだって家庭的な安らぎを与えてくれる人だが、今この時ほど、この人に母親に近いものを感じたことはなかった。
なんとなく、こんな風に血に汚れた自分を晒すのが嫌だった。

・・・汚れた自分?

もしかして・・・あの人も、そうなのか?

今の自分を、俺達の前に晒すのが嫌だから・・・逃げてるのか?

どうなんだよ・・・楓さん・・・。

俺は、どうしたらいい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

あとがきといえばあとがき

平安京(以下“京”):2話以来となる祐一vs斉藤の勝負。今回は真剣勝負だ

さやか(以下“さ”):最悪死人が出るような戦いだったね〜。ところで、どっかで見たような戦闘シーンなんだけど

京:君はいちいちつっこむね。シーンどころか、斉藤の元ネタがまんまなんだから、気にしちゃだめだって

さ:斉藤さんは『Kanon Fantasia』にも出てるよね

京:若干性格違うけどな。あ、『Kanon Fantasia』は私のHPにある長編ファンタジーSSです。この話とは違って、弱い祐一君が成長していく話・・・・・・のはず

さ:さて、次からはまたまた大きな話なんだよね

京:というか、死霊の街編からずっと続いていると言ってもいい。言うなれば、楓問題完結編だ!

さ:ほほう、つまり一件落着すると

京:さあ、それはどうかな

さ:むむ?

京:それは見ての・・・

さ:お楽しみ〜

京:では

さ:つづきもよろしく〜

京:あ、でも先にノワール・ムーンの方が完結する

さ:がくっ・・・そうなの?

京:そのつもり