デモンバスターズ

 

 

第19話 死霊の街 第三の再会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋全体、床、壁、天井にいたるまで紋様が浮かび、光りだす。
まだ完全じゃないが、光の満ち具合が魔力の溜まり具合だということは簡単にわかる。
この巨大な魔法陣が完成したら、儀式が完了する。
成功か失敗かはともかく、その時栞は確実に殺される。
その前に止めなくては!

祐一 「どけェッ!!」

眼前に立ちふさがるレッサーデーモン二体。
こいつら、バロンゾから祭壇を守ることを命令されているのか、防御に専念している。
多少俺の攻撃を喰らっても、俺を祭壇に近づけまいとする。

くそっ!
時間がねぇってのに・・・!
こうしている間にも、みるみるうちに魔力が溜まっていくのがわかる。

キシャァアアアアア!!!!

遠距離からでも、魔力をがんがん飛ばしてくる。
儀式さえ完了すれば、てめぇらはどうなってもいいってか。

祐一 「こうなったら・・・」

出し惜しみしてる場合じゃない。
一気にケリをつけないと、全部ダメになる。
儀式さえ今は止められれば、そのあとでのバロンゾとの戦いなんて考える必要はない。

ビョォオオオオオオオオ

吹雪のような氷の風が、俺を中心に渦巻く。
どんどん部屋の温度が下がっていく。
俺の刀を中心に、絶対零度の冷気が集束する。

祐一 「氷属性に耐性を持ったってな、こいつの前では無意味なんだよ!」

絶対零度は氷属性なんてものじゃない。
あらゆる分子運動を停止させ、物質結合を崩壊させる、魔の温度。
破壊の冷気。

祐一 「それがアブソリュート・ゼロ・・・・・・消えろっ、氷魔滅砕!!」

 

ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

あらゆるものを破壊する冷気が、渦となってレッサーデーモンを包み込む。
多少ならば氷属性の耐性で耐えられるが、そんなものはすぐに無意味になる。
一瞬にして凍りついた二匹のレッサーデーモンは、粉々になって消滅した。

祐一 「栞!!」

しかし、レッサーどもを倒しても、まだ祭壇の結界がある。
階段を駆け上る俺は、すぐにそれに阻まれた。

祐一 「ぐ・・・ぉぉぉ・・・おおおおおおおお!!!!」

強引に突破を試みるが、今の氷魔滅砕でかなり体力を消耗していて、なかなか進めない。

バロンゾ 「ほっほっ、見事。さすがは《氷帝》。しかしその結果は周囲の魔力の高まりとともに強化されていますから、いくらあなたでも突破は不可能。そこで歴史的瞬間を目撃しなさい」

祐一 「ぐぁっ!」

バァンッ

結界の力のフィードバックで、俺も香里の時みたいに吹っ飛ばされる。
階段の下までには態勢を整えて足から着地するが、それで事態が好転するわけじゃない。

上を見上げると、バロンゾが剣を手にしている。
そして、祭壇に拘束されている栞のところへ・・・。

栞 「ぁ・・・ゆ、祐一さん・・・」

祐一 「栞・・・くそっ!」

俺は再度結界の突破を試みるが、奴の言うとおり、ほとんど前へ進めずに弾き返される。

香里 「栞ィ! お願い、やめてぇ! 生贄ならあたしが代わりになるから、栞を殺さないでぇッ!」

剣を杖に階段のところまで歩いてきた香里が泣きながら懇願する。

バカヤロウ、それじゃ何の意味もないだろうが!
栞が死ねば香里が、香里が死ねば栞が悲しむだけだ。
そんな選択はできっこない。

魔力はどんどん溜まっていく。
もう、俺達に成す術はないのかっ。
くそったれ!
何が《氷帝》だ!
何が《デモンバスターズ》だ!
俺はまた、誰も守れないのかっ!
もう、誰かが俺の前からいなくなるのはたくさんだってのに!!
なんとかしろっ、なんとか!!

・・・・・・一日二度の氷魔滅砕は命取りになりかねない。
だが、一撃で結界を打ち抜くだけの威力がある技はこれしかない。
このまま何もしなければ栞は確実に死ぬ。
氷魔滅砕を使っても、俺が死ぬとは限らない。
むしろ今の俺なら、生存率も高いはずだ。
やるしかない!

祐一 「集まれ、冷気・・・」

くそっ、冷気の集束率が悪い。
一発目と比べて格段に遅い。
しかも、体中が悲鳴を上げやがる。

祐一 「もっと・・・もっとだ!」

バロンゾ 「ほっほっほっ、いよいよ儀式の完成の時だ!」

祐一 「っ!!」

しまった!
魔法陣が・・・完成する。

天井にある最後の方円が光、部屋全体を使った大魔法陣が完成した。
満ち満ちた魔力の全てが祭壇を中心に渦巻いている。

ダメだっ、間に合わねぇ!

バロンゾ 「お別れです、お嬢さん。しかしご安心ください。すぐにお姉さんも、彼も送って差し上げますから、寂しくないですよ」

栞 「っ・・・!」

香里 「やめてぇぇぇっ!!」

祐一 「やめろぉぉっ!!!」

なんて無力だ!
もう、何もできないのかっ!?

バロンゾが剣を振り上げる。
栞が目を瞑る。
香里が絶叫する。
俺は・・・・・・。

 

 

フッ・・・

 

 

祐一 「え?」

バロンゾ 「なっ!?」

光が消えた?
部屋全体を覆っていた魔法陣が消滅し、集まっていた魔力も霧散した。
こんなに大きな魔法陣を、一瞬でかき消したのか!?
いったい・・・誰が?

バロンゾ 「ど、どなたです!? 私の魔法陣を破壊したのは!?」

奴が焦っている。
そりゃあ、目的が達成される寸前で止められたんじゃな。

バロンゾ 「あ、あなた方ですか!? よくも・・・!!」

ドンッ

祐一 「がっ・・・!」

香里 「くぁっ!」

バロンゾの放った衝撃波を避けられず、俺と香里は吹き飛ばされる。
しまったな。
氷魔滅砕を撃ったあとの上、二発目を使おうと無理したから、力が入らない。
せっかく儀式は失敗したってのに、これじゃあの野郎をぶっ倒せない・・・。

バロンゾ 「よくも私の悲願を・・・あと一歩のところで邪魔してくれましたねぇ」

口調はまだ穏やかだが、かなり怒ってるな。
やばい・・・事態があんまりあんまり変わってない。
切羽詰った状態は脱したが、このままじゃ結局全滅する。

そう思った時、一つの影が部屋の中を横切った。
疾風のような速さで駆けるその影は、階段の結界をあっさり破ると、バロンゾに斬りかかった。

バロンゾ 「な・・・!?」

ザシュッ

反応する間もなく、バロンゾが傷を負う。

バロンゾ 「な、何者です!?」

?? 「・・・・・・」

・・・ってちょっと待て!

あれは・・・・・・・・・。

 

 

謎の人物は、装飾の施された剣を手にしている。
血の滴るその剣を、再びバロンゾへと向ける。

バロンゾ 「あ、あなたはまさか・・・! ・・・・・・なるほど、それなら魔法陣を崩したのも、結界をあっさり突破したのも頷けますね」

?? 「・・・・・・」

バロンゾ 「よくも・・・よくも私の悲願を・・・!」

?? 「あなたがやろうとしたのは禁断の儀式。決して許されぬ行為」

バロンゾ 「黙りなさいっ! そんなことを誰が決めたのです!? これは、我らネクロマンサーの理想を実現するためなのですっ!!」

?? 「・・・議論をするつもりは・・・ないわ」

ザシュッ

二太刀目。
これは完全な致命傷となる一撃だった。
バロンゾの体から大量の血が吹き出す。

バロンゾ 「お・・・のれ・・・・・・あと・・・一歩で・・・我が・・・・・・り・・・そう・・・が・・・・・・・・・・・・」

どさっ

倒れたバロンゾは、絶命した。

栞 「・・・・・・」

?? 「ふふ、大丈夫?」

剣を血を拭ったその人物は、栞の拘束を解く。

栞 「あ、ありがとうございます。あの、あなたは・・・?」

祐一 「楓さんッ!!!」

?? 「っ!!」

 

 

俺は声を張り上げて叫んだ。
見間違うはずもない。
あれは、楓さんだ。

白い着物に、緋袴の巫女姿。
長く綺麗な黒髪。
装飾の施された剣、草薙。
魔を払う神聖なる力。
穏やかな外見に似合わない強さ。

全部、楓さんを示している。

祐一 「楓さん!」

だが、俺が呼ぶと楓さんは逃げるように駆け出した。

祐一 「待って!」

体が重かったが、俺は無理やりそれを動かして楓さんを追う。
速ぇって・・・楓さん。

そりゃあ、あっちはほとんど全快で、こっちは消耗しきってんだから仕方ないけど。
なんで逃げるんだよっ。

やっと会えたのに・・・。

逃がしてたまるかっ!

鬼ごっこなら、昔散々やらせたろうが!

日没までに捕まえてみせなかったら夕食抜きとか!

いつもいつも俺に無理難題押し付けやがって、あの人は!

祐一 「待てって、楓さんッ!」

大部屋を出て、通路をひたすら突き進む。
どこをどう通っているかなんて考えてもいない。
道なんか覚えてもいないように進んで、何度か角を曲がるうちに姿を見失う。

祐一 「くそっ!」

さやか 「わっと・・・!」

祐一 「さやか! こっちに巫女服姿で、一見大和撫子な美人だけど、ちょっと抜けてそうな顔してて、子供っぽくておっちょこちょいで意地の悪そうな二十歳前くらいの女の人が来なかったか!?」

俺は咄嗟のことで自分でも何言ってるんだかわからないことまで口走る。

さやか 「え〜っと・・・・・・あっち」

そんな錯乱状態だったから、さやかが見せた微妙な表情を読み取っている余裕はなかった。

祐一 「あっちだな!」

俺はわき目も振らずにさやかが指した方向へ向かって走った。
とにかく走る。
走る。
逃がしてたまるか。
楓さん!

どこをどう通ったかもわからないまま、玄関ホールにまで出る。
門を蹴破るようにして外に出る。

浩平 「うぉ、びっくりしたぁ」

さやか 「な、何事?」

外には、視界を埋め尽くす死骸の山があり、門のすぐ前では折原とみさきが腰を下ろして休んでいた。

祐一 「おい二人とも! ここに巫女服姿で、和風美人なんだけどちょっと子供っぽくて意地悪そうで、抜けてそうな二十歳前くらいの女の人が来なかったか!?」

浩平 「き、急になんだ? あまりの唐突さにボケて返すのすら忘れてしまったじゃないか」

みさき 「というか、わたしに外見的特徴を聞かれても・・・」

祐一 「いいからっ! とにかく誰か来なかったか!?」

浩平 「あ〜・・・それってたぶんさっきの人だよな。めっちゃ強くて俺らを助けてくれた」

祐一 「それだ!」

浩平 「けど、大分前に中に入って行ったっきり見てないぞ」

祐一 「な・・・!?」

しまった。
まだ中か!

祐一 「その人がここに来たら、捕まえといてくれ!」

再び中へ。

 

 

みさき 「捕まえといて・・・だって」

浩平 「こんだけ疲弊してる俺らに、あんな強い人を捕まえろと?」

みさき 「浩平君得意のギャグでなんとかするしかないね」

浩平 「しかしなぁ、俺のギャグは高尚過ぎて、一般人には理解不能だからなぁ」

みさき 「やってみればなんとかなるよ」

浩平 「そうだな。いやぁ、それにしてもこんなに疲れたのはひさしぶりだ」

みさき 「風も気持ちよくなってきたし、もう終わったみたいだね」

浩平 「ああ」

みさき 「この人達、これで静かに眠れるよね」

浩平 「俺も早く帰ってぐっすり寝てぇ」

みさき 「わたしもだよ」

 

 

城の中に戻ってとにかく走る。
絶対にどこかにいるはずだ。
捕まえてやる。
二年前みたいに、もう逃がしはしない。

祐一 「どこだぁーーーっ!! 楓さーーーん!!!!」

 

 

 

 

 

祐一 「どこだぁーーーっ!! 楓さーーーん!!!!」

城中に響き渡りそうな祐一の声だった。

さやか 「・・・いいんですか? 行ってあげなくて」

先ほど祐一と会った通路の壁に寄りかかって、さやかはどこへともなく語りかける。
祐一はまったく気が付かなかったが、壁にはいくつも亀裂が入っており、そのうちの一つの中に、人が一人隠れていた。

さやか 「ねぇ? 楓さん」

楓 「・・・・・・」

 

 

 

 

 

どこだ、どこだ、どこだ!

走る、走る、走る!

あの人を捕まえるには、考えるよりまず走る。
それがいつもの鬼ごっこの鉄則だった。
エリス相手だと頭を使えだのうるさいが、楓さんはそんな面倒な真似はさせない。
考えるよりとにかく動くことを求めてきた。
だからあの人を捕まえる時は、とにかく走ることだ。
いけそうなところは片っ端から当たって、どんどん動いて探す。
見つけたらひたすらに追いかける。

最初の頃は、捕まえ切れずに、よく力尽きた。
そんな時楓さんは、倒れこんだ俺のところまでやってきて、笑顔でゲームオーバーを告げる。
そして、俺の鼻先に料理をちらつかせながら・・・・・・パンの耳ひとつくれなかった。
ゲームに徹底性を求める人だったから。

だけど、たとえ捕まえられなくても、必ず俺のところまで来てくれた。
罰ゲームはしっかりやらされるけど、捕まえても捕まえなくても、いつでも楓さんは俺に笑顔を向けてくれた。
あの笑顔が・・・・・・大好きだった。

祐一 「ぐ・・・っ」

激しい戦いの疲労が一気に押し寄せてくる。
ガクッと来て、俺はその場に倒れ伏す。

祐一 「・・・くそっ・・・」

もう終わりかよ・・・俺。

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・楓さん、俺もうダメっぽい。

ギブアップするから・・・出てきてくれよ。

なぁ・・・。

祐一 「楓さん・・・」

意地悪やめてさ・・・出てきてくれよぉ・・・。

祐一 「・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

祐一 「・・・・・・あー! くっそぉーっ! あの性悪がぁ!」

ふんっ!

全身に鞭打って体を起こす。
そうだ、もう一つの鉄則。
ネバーギブアップ!

あの人が笑顔を向けてくれるのは、最後までやり遂げた時だ。
たとえ成功でも失敗でも、最後までやり抜いた時には、あの人は褒めてくれた。
失敗に対するペナルティーはしっかりあったが。
あの笑顔は、諦めずにやり抜いたことに対するご褒美なんだ。

祐一 「負けるかぁっ!! 逃がさんぞっ、楓さん!!!」

俺は再び駆け出す。
二年前に逃がしたあの人を、捕まえるために・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく