デモンバスターズ

 

 

第17話 死霊の街 怒り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くそったれが!
これだけの面子が揃っていながらあっさり栞を攫われるとは!

さやか 「ごめん・・・くだらないお喋りしてないで、さっさと倒しておけばよかった」

祐一 「おまえのせいじゃない。俺が抜けてたんだ」

浩平 「それを言うなら俺もだ。さすがに油断しすぎた」

みさき 「うん、わたしも」

祐一 「責任の追及をしてても仕方がないさ」

落ち着け・・・冷静になれ。
ついこの間エリスに言われたばかりだろうが。
熱くなって周りが見えなくなると的確な判断ができなくなる。

香里 「くっ・・・このっ! よくも栞を・・・!」

幸いと言うべきか、俺以上に憤慨してパニクってる奴がいるお陰で、早くも冷静になれた。
奴は栞を儀式の生贄にするとか言っていたな。
ついでに、これからその儀式の準備をするとも。
なら、儀式とやらを行うまでは栞も無事と思っていいだろう。
・・・たぶんな。
確証はないが、今はそれに賭けるしかない。

祐一 「行くぞ。ここで悩んでても事態は好転しない」

周りは敵だらけ。
いちいち倒しながら進んでたんじゃ、城に着くまでにどれだけかかるか。

祐一 「突っ切るぞ。一転集中で攻撃して走りぬける」

浩平 「だな」

祐一 「やるぞ、さやか」

さやか 「この間のやつ?」

祐一 「少し出力ダウンでな。正面の敵だけ吹き飛べばいい」

さやか 「おっけー」

城まで続く道に陣取る敵に向かって、さやかが螺旋の炎を生み出す。
それだけで一部の敵が炎上するが、そこへさらに俺の一撃が加わる。

祐一 「消えろぉっ!!」

螺旋の中心に氷刀の一撃を打ち込む。
気流は熱い方から冷たい方へと流れ、生まれた竜巻が敵をまとめて薙ぎ払う。

浩平 「おお!」

祐一 「走れ!」

敵が再び集まる前に、城までの距離を一気に駆け抜ける。
後ろから残ったモンスターが追ってくるが、俺が地面を凍りつかせて足止めをかける。

祐一 「香里、落ち着けよ」

香里 「これが落ち着いていられる!? 栞が・・・」

祐一 「焦ったってどうにもならない。栞を助けたいなら、まずは冷静になれ」

香里 「・・・・・・」

実力はかなりあるんだが、いかんせん香里には実戦経験が少ない。
こういう突発的な事態には少し脆い面がある。
折原とみさき、さやかの方は落ち着いていて、助かる。

大丈夫、栞は無事だ。
最悪の事態も想定しつつ、俺はあくまで冷静に、冷静に行動しようと心がける。

 

 

 

 

 

入り口の様子は、教会だった頃の様相を残している。
その後ろにある建物の大きさが違うがな。

祐一 「開くな」

門は閉じていたが、押したらすぐに開いた。
中には入れる。
だが、すぐ後ろからはアンデットの大軍。
街一つ分の死体だ。
全部集まれば相当な数がいる。

浩平 「やれやれ・・・ここは俺に任せて、先に行け、相沢」

祐一 「・・・わかった」

見たところ、城の出入り口はここだけだ。
外の敵も、中に入るためにはこの門を通らなければならないだろう。
なら、前に進む際に背後から襲われるのを避けるため、誰かがここに残って食い止めるのが有効な戦法だろう。

祐一 「おまえ一人でいいのか?」

みさき 「大丈夫。わたしも残るから」

二人が門の外でアンデットどもと対する。
ここは、二人に任せるのが妥当だろう。
俺達は立ち止まってる場合じゃない。

祐一 「任せた。死んだりするなよ」

浩平 「当然だ。とっとと片付けて、おまえの本気を拝みに行きたいからな」

祐一 「ああ、しっかり見に来いよ。今の俺は怒りモードだからな。本気の本気を見せてやるよ」

 

 

祐一、さやか、香里の姿を飲み込み、門が閉じる。
後ろには門、前には敵。
浩平とみさきはその状態で並ぶ。

浩平 「そう言えば、さっきからあまり誰も気にしてなかったけど、この骸骨やゾンビ全部・・・元この街の人間なんだよな、たぶん」

みさき 「香里ちゃんと栞ちゃんは気付いてなかったみたいだけどね」

浩平 「今はまだ気付かない方がいいだろうな。死体とは言え、人間を斬るのは気持ちいいものじゃない」

みさき 「本当にね」

浩平 「大丈夫か? みさき」

明確な敵であれば、浩平もみさきも今まで何人も人間を斬ってきた。
しかし今目の前にいるのは、死んでいるとは言え元は人間、しかも自ら望んで戦っているのではない。
そんな相手を斬ることで、優しいみさきが心を痛めないかと浩平は気遣う。

みさき 「・・・浩平君、わかる? 今わたし、すっごく怒ってるんだよ」

浩平 「・・・・・・」

みさき 「栞ちゃんを攫ったことはもちろん、こんな風に街の人達を研究のためだけに殺して、しかもその亡骸にこんなことを・・・・・・絶対に許せないよ」

浩平 「・・・俺もだよ」

普段、水瀬屋敷のバカップルと呼ばれる二人の顔に、静かな怒りの表情が浮かぶ。
最強クラスの実力者の怒りがどれほど恐ろしいものか・・・。
それを前にして、無事でいられる者はいない。

みさき 「わたし達にできるのは・・・」

浩平 「せめてこいつらを、眠りにつかせてやることだけか」

 

 

外から見たとおり、中はかなりの広さがあった。
入り口のところは辛うじて教会らしさをとどめていたが、少し奥まで進むとそんな雰囲気は一切ない。
ただ、実験の失敗作と思われる死骸が転がっている、不気味な城だった。

香里 「っ・・・!」

いくつも散乱し、腐敗している死骸を見て、香里が顔をしかめる。
実際に人を斬った経験も他の面々に比べれば少ないだろう。
こんな場所に来て、まともな精神状態でいるのは楽ではない。
取り乱さないだけ大したものだ。

まったく、こんな場所に住んでるなんて、あのバロンゾとか言う野郎、やっぱりそうとうイカレてやがるぜ。
いったい儀式とやらで何をするつもりなんだ。

大分進むと、開けた場所に出た。
と同時に、周囲から浴びせかけられる殺気。

祐一 「散れ!」

ズンッ!

廊下を抜けたところで、頭上から何かに襲われた。
左右に散ってそれをかわし、襲ってきた相手を確認する。

祐一 「見るからに、普通じゃない化け物だな」

合成獣、キメラか。
しかもほとんどが死体を接ぎ合わせた、嫌な奴だ。
外にいたようなアンデットモンスターとは格が違う。

ガァアアアアアアアッ!!!

ザシュッ

祐一 「まぁ、俺とはさらに百倍格が違うけどな」

むかってきたアンデットキメラを一刀のもとに斬り捨て、先を急ごうとするが・・・。

さやか 「格が違っても、こう数が多いとね〜」

見れば、広い部屋のいたるところに同等以上のキメラが何体もいた。
それぞれ形は違うが、どれもなかなかレベルの高い敵だ。
雑魚には違いないが、これだけいると手間取りそうだな。

さやか 「ふぅ、ここは私の出番だね」

祐一 「さやか?」

さやか 「祐一君、香里ちゃん、たぶんあのドアが先に進む道だよ。ここは私が引き受けるから、早く行って」

祐一 「大丈夫か、さやか?」

さやか 「・・・私が、こんな状況でもおちゃらけてると思う?」

帽子の位置を手で調節しながらさやかがそう言う。
やっぱり、こいつの力はまだまだ底が知れないな。
この程度の相手、多少てこずったとしても、やられるようなヘマはしないだろう。

祐一 「任せる」

さやか 「おっけー♪」

祐一 「行くぞ香里! ・・・ってもう行ってるし」

香里は既に先に駆け出している。
その行く手をキメラの一体が塞ぐが、さやかの放った炎に恐れて道を空ける。
奴がどいた隙に、俺も走る。

 

 

さやか 「さーてと」

二人がドアの向こうへ行くと、さやかはその道を塞ぐようにして立つ。
周りには、10を超える数のフレアビットを浮かべている。

さやか 「君達に罪はないけど、あのネクロマンサーのやってることには私も怒ってるんだよね」

さらに、一つ一つのビットが大きさを増していく。
部屋全体の温度が上昇するほどの巨大な魔力を前に、知能も本能もないアンデットキメラ達もたじろぐ。

さやか 「さあ、黒焦げになりたい子からかかっておいで」

 

 

俺と香里の二人だけになったが、目的地は目前だった。
気配でわかる。
何かきな臭い感じが、この先からしてくる。

香里 「無事でいなさいよ・・・栞!」

祐一 「着いたな」

さやかを置いてきた場所よりさらに数倍は広い、間違いなくこの城の中心部と思われる大きな部屋に出た。
あちこちに魔道実験で使うような器具が置かれている。
数々の魔道書を収めている本棚、魔力を宿した古代の石版、なんでもござれだ。
そんなものに囲まれて、奥まったところに階段がある。
その上に祭壇が作られ、バロンゾと栞がいた。

祐一 「バロンゾ!!」

バロンゾ 「おや、早かったですね。まだもう少し準備に時間がかかるのですが」

香里 「栞!」

栞 「お姉ちゃん! 祐一さん!」

よし、栞はまだ無事だ。
祭壇に拘束されているようだが、外傷はここから見る限りない。

バロンゾ 「いやぁ、このお嬢さんはいい拾い物でしたよ。100人目、最後の生贄に実に相応しい。素晴らしい力をお持ちだ」

香里 「ごたくはいいわ。栞を返しなさいっ」

剣を構えた香里から発せられる容赦ない殺気。
怖いな・・・並みの人間なら失神してるところだ。

バロンゾ 「残念ですが、それはできない相談ですね。彼女は大事な大事な私の儀式に必要な生贄ですから。返すわけにはいきません」

祐一 「なら、その必要をなくしてやるよ」

俺も氷刀を生み出して、奴に殺気を向ける。

祐一 「おまえが死ねば儀式とやらをする必要もないだろう」

バロンゾ 「ごもっともですな。しかし、せっかくここまで漕ぎ着けたのに、みすみす儀式の成果を見ずに死ぬなど、私はごめんですよ」

おとなしく殺される気はなさそうだな。
だが、栞を返す気がないのなら、あいつを殺して力ずくで取り返すまでだ。

香里 「やぁぁぁぁっ!!!!」

気合を発しながら、香里が祭壇のある場所に向かって階段を駆け上がる。
奴はその様子を薄笑いを浮かべたままでじっと見ていた。

バァンッ!

香里 「きゃっ!」

階段を半分ほど上った香里の体が、見えない壁にぶつかったように跳ね返される。

祐一 「ちっ、結界か!」

階段を転がり落ちる香里。
俺もそっちへ駆け寄ろうとするが、異様な気配を感じて足が止まる。

祐一 「なんだ!?」

バロンゾ 「儀式の準備が整うまで、彼らの相手をしていてください」

周囲に転がっている石版が光を発し、中からこの世のものとは思えない化け物が出現してきた。

祐一 「レッサーデーモン! 下級魔族を召喚していたのかっ!」

こいつらは地上のモンスターとは違う。
下級魔族は知能こそ低いが、その魔力は人間からすれば充分に脅威となる。
それが四匹もかよっ。

バロンゾ 「さしもの《氷帝》も、四匹のレッサーデーモン相手では苦戦するでしょう」

キシャァアアアアアアアアア!!!!!

祐一 「ちっ!」

ドンッ

デーモンのうち一匹が吼えると、そこから魔力の塊が吐き出される。
こいつらの鳴き声には攻撃性の魔力が込められているんだ。
そして・・・。

ヒュンッ

ガキィンッ

大熊のような爪による攻撃も驚異的だ。
その上素早いし、空も飛ぶ。
生命力も高い。
厄介ずくしだよっ。

香里 「っ・・・・・・」

祐一 「気をつけろっ、香里!」

香里 「え・・・きゃっ!」

階段から落ちた衝撃から立ち直った香里が、今度はレッサーデーモンの攻撃を受ける。
なんとか防御したようだが、はじめて見る敵に戸惑っているようだ。

香里 「な、なんなのよっ、こいつらは!?」

祐一 「下級魔族だよ。落ち着いて戦えば大した相手じゃない!」

あくまで、中級上級魔族と比べれば、だがな。
そうさ、魔族とは言え下級なら、ちょっとレベルの高いモンスターと思えば対処できる。
香里のレベルでも、一匹くらいならなんとかなるはずだ。
俺のノルマは三匹か。

祐一 「凍魔天嵐!」

パキィーンッ

まずは一匹・・・何!?

バロンゾ 「私のレッサーデーモンは特別性でして。設定した属性に対する防御力が格段に上がるんですよ。あなたが来た時から、氷属性に対する防御力を強化しておきました」

俺対策ってか。
まずったな。
こっちの動きが読まれてたか。
さやかを置いてきたのがあだになった。

香里 「くっ・・・強い!」

はじめての敵に戸惑う香里は、上手く戦えずにいる。
効かないとは言え、けん制くらいにはなるため、俺は氷柱を放って他の連中を引き寄せる。
とりあえず、香里の方に一匹以上行くのは避けないとな。

祐一 「氷を防御したくらいで、この《氷帝》を倒せると思うなよっ!」

俺の得意分野は、あくまで剣なんだからな。

ザシュッ

キシャァアアアアアアア!!!

背後を取って、一匹の翼を斬り落とす。
これだけで運動性が著しく下がる。

キシャァアアアアアア!!!!!

祐一 「ちっ!」

しかし止めを刺す前に他の奴に邪魔をされる。
やはり氷の力抜きで一度に三匹相手は面倒だな。

バロンゾ 「ほっほっ、では、その調子で踊っていてください。私はゆっくりと儀式の準備をさせていただきますよ」

やばい。
早くこいつらを片付けないと、栞が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく