デモンバスターズ

 

 

第16話 死霊の街 ネクロマンサー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンデットモンスター。
単体での能力はそれほど高くない・・・まぁ例外もあるが・・・所詮は死体であり、大した敵じゃない。
雑魚だ。
だが、自然発生は絶対にしない。
存在そのものが世の理に反しているからだ。
こいつらには、必ずそれを操る者が存在する。
その可能性としてもっとも高いのは二つ。

不死者か、ネクロマンサー。

不死者というのはつまり、アンデットモンスターの上位種族とでも言うべき存在だ。
ヴァンパイアなどに代表される。
モンスターがまったく知能などを持たないのに対して、不死者は人間以上の知能を持つ、魔族に近い種族。

ネクロマンサーはれっきとした人間だが、禁忌とされる死の魔法を操る最低の魔導師だ。

どちらにしても、厄介な相手であることに変わりはない。

 

祐一 「あそこで待ってる敵は、たぶんそのどっちかだ」

栞 「不死者っていうと、この間話してくれたのに出てきた・・・」

祐一 「ああ、そうだ」

かつて俺達五人が倒した真祖ヴァンパイア。
あれは不死者の中でも最強と呼ばれるものだった。

祐一 「だが、ここの敵はそこまでの奴じゃない」

街一つを支配する程度の奴なら、手ごわいが、手に負えないわけじゃない。
こっちの戦力は充実してるし、問題ないだろう。

浩平 「う〜ん、まさしくゴーストタウンだな」

みさき 「人の気配が、見事なまでにないよ」

香里 「嫌な感じだわ」

さやか 「・・・・・・」

普段おちゃらけてる連中も、さすがにこの光景の前ではおとなしい。
そうならざるをえんだろうな。
まだ昼間だっていうのに、厚い雲が空を多い、夜のような暗さだ。
建物はあちこち腐食しており、明らかに瘴気が満ちているのがわかる。

祐一 「この様子じゃ、街の人間は絶望的だな」

おそらく、生きている人間はいないだろう。
生きていない人間なら、いるかもしれないがな。

香里 「どうするの、相沢君?」

祐一 「まっすぐ城を目指そう。他を当たっても、大した収穫はなさそうだ」

犯人に直接会うのが一番早い。
俺達は周囲に注意しつつ、元は活気があったであろう大通りを進んで、中心部の城を目指した。

 

 

 

 

 

 

浩平 「気付いてるか、相沢」

祐一 「当然だ」

後ろから無数の気配がする。
だが、襲ってこないところを見ると・・・。

祐一 「歓迎されてるみたいだな」

敵に出くわさないが、退路は断たれている。
来い、ってことだろうな。
俺達の動きは敵に筒抜けらしい。
このまま誘いに乗ってやるべきか、それとも意表をついて別行動を取るか。
いや、敵の戦力がわからないうちは、戦力を分散するのは得策じゃないな。

こうやってただ歩きながらも、俺の頭は常に先々を考えている。
昔はエリスがこの手のことは全部やってたから、他の四人はただ暴れてればよかった。
今は、俺が一番冷静に戦況を分析していなければならない。
まとめ役ってのは、案外疲れるものだ。

 

さらに進んでいくと、道の真ん中に誰かいた。
黒い、呪術的紋様の描かれたローブをまとった老人だ。

?? 「ようこそ」

祐一 「誰だ?」

?? 「ほっほっ、人に名を問う時は己から名乗るのが礼儀ではありませんかな? 《氷帝》殿」

祐一 「俺を知ってるのか?」

確かに、裏に精通している奴なら、俺達のことを知っていてもおかしくはないが、目の前の老人に心当たりはない。

?? 「まぁ、色々聞いていますよ。《斬魔王》《血染めの死神》《魔竜姫》《大地の巫女》・・・そして《氷帝》。我々の間では有名ですよ」

なるほど、俺達のことを知っているのは間違いないみたいだな。

?? 「ほっほっ、しかし《氷帝》とまで呼ばれるお方が、随分な小物と組んでおられるようで」

浩平 「小物っていうと、アクセサリーとかか? 俺らって付属品?」

祐一 「そういう意味じゃねぇだろ」

小物呼ばわりされても別に憤慨したりしない辺りはさすがか。
いや、ただ単に無神経なだけとも取れるが、こいつの場合。

祐一 「こっちを知ってるなら、わざわざ名乗るまでもないだろ。そっちのことを教えな」

?? 「よろしい。私はネクロマンサーのバロンゾと申します」

やはりネクロマンサーか。
となると、こいつがこの一件の黒幕ってことだな。

祐一 「そのネクロマンサーが、こんなところで何をしている?」

バロンゾ 「いや何、研究にために大きな施設が欲しかったのと、その研究に必要な材料を手に入れるのに手っ取り早かったので、こうして街一つ乗っ取ってみたんですよ」

祐一 「材料・・・だと?」

すぅっと俺の目が細められる。
俺の予感が正しければ、このあとに続く奴の言葉はあまり気持ちのいいものじゃない。

バロンゾ 「ええ。若い娘の肉体が必要だったんですよ。それも上物のね。街一つ手に入れれば、材料は簡単に手に入りますから」

香里 「なんてことを・・・!」

浩平 「笑えないな」

みさき 「マイナス150点ってところだね」

俺だけでなく、他の連中も奴の所業に対して怒りをあらわにする。
やっぱり、ネクロマンサーってのはロクでもない奴だな。

バロンゾ 「ご質問はお済みですか?」

祐一 「ああ、そうだな」

バロンゾ 「では、私は研究の続きがありますので」

祐一 「待てよ。質問は終わったが、用はまだ済んでないぜ」

バロンゾ 「ほほう、何か?」

祐一 「人の命を命と思わない、外道に対するお仕置きタイムがまだだろ」

右手に力を集中して水を集める。
すぐにでも氷刀を生み出せる状態だ。
折原とみさきも鯉口を切り、香里と栞も戦闘態勢はオーケーだ。
逃がすつもりは毛頭ない。

バロンゾ 「困りましたね。私はこれでも忙しいのですよ」

祐一 「心配するな、すぐに済む」

両者の間に緊張感が漂う。
微妙な間合いだな。
俺や折原でも、この距離を一瞬で詰めるのはちょっと難しい。
こいつ、ただのイカレ魔導師じゃなく、かなりできる。

さやか 「ねぇ、祐一君」

祐一 「ん?」

声をかけられて振り返ると、さやかが手に持っていた帽子をかぶっている。
つばの下から僅かに覗く目に、底知れない光が宿っている。
こいつのこういう姿、アルドを連想させる。

さやか 「ここは私に任せてくれない?」

一言断ってから、ゆっくりと前に出る。

さやか 「嫌いなんだよね、こういう人。ちょっと嫌なこと思い出すから」

こいつがはっきり嫌いなんて言葉を使うのを聞いたのははじめてだ。

さやか 「それに、魔導師は魔導師同士ってね」

浩平 「じゃあ、俺らは“どうし”よう?」

祐一 「・・・・・・」

さやか 「くすくす、後ろの子達の相手してたら?」

退路を断つように、俺達の後ろにはアンデットどもが群れている。
ここは、あのネクロマンサーはさやかに任せるとするか。
あいつなら心配もないだろう。

祐一 「よし、やるぞ!」

 

 

 

後方で戦闘が始まる中、さやかは一人ネクロマンサーのバロンゾと対峙する。
魔導師ゆえに、どちらも武器に相当するものは持っていない。

バロンゾ 「お嬢さんが私の相手をなさると?」

さやか 「うん」

穏やかな雰囲気で向かい合いながら、二人の中では徐々に魔力が高まっていっている。
魔法は発動するまでに時間がかかる。
魔導師同士の戦闘では、いかに相手より早く強力な魔法を撃つかが鍵になる。

さやか 「ファイヤーボール!」

バロンゾ 「ライトニングアロー!」

ほぼ同時にお互いに魔法を放つ。
どちらも魔法も並みの魔導師が使えば一度に一発の代物だが、この二人は一度に十発以上を放っていた。
魔力が高ければ一度に使える魔法の量も増えるのは当然である。

バンッ!

全ての炎の弾と雷の矢が空中でぶつかって相殺しあう。
一発一発の威力は互角といったところだ。
だが爆発に紛れて、さやかは距離をつめていた。

バロンゾ 「おっと」

横合いからの攻撃を、バロンゾは屋根まで飛んで回避した。
道の反対側の屋根に立っているさやかの方を見ると、さやかの周囲に炎がいくつも浮かんでいた。

バロンゾ 「ほほう、ビット魔法とは珍しいものを見れましたな」

さやか 「知ってるんだ」

バロンゾ 「研究の過程で、様々な魔術書を読みましたからな」

ビット魔法とは、自らの魔力を形にして周囲に浮かばせることで、攻撃防御両方に利用するものであった。
これを使えば、ほぼオートで敵の攻撃を迎撃でき、また魔法発動速度を格段にあげることもできる。
使える魔法属性が限られることになるが、威力があがるなど利点は多い。
ただ、消費する魔力も高い。

バロンゾ 「それだけの数のビットを平然と操るとは、どうやら魔導師としての能力はあなたの方が私よりもかなり上らしい」

さやか 「そう思うんだったら、おとなしくお縄になりなよ。今謝れば、寛大な処置が待ってるよ」

バロンゾ 「ほっほっ、残念ながらそれはできない相談ですな。せっかくここまで来た研究を放棄するくらいなら、おとなしく死んだ方が良いですからな」

さやか 「残念だね。じゃあ、あなたが好きな死体さん達と一緒に、火葬にしてあげるよ」

途端に、周囲の温度が急激に上昇し始める。
さやかを中心に、炎の魔力が集まりつつあるのだ。

バロンゾ 「ほう・・・これは」

さやか 「バーニングクリメイション。骨まで焼き尽くしてあげるよ」

バロンゾ 「これは手厳しい。しかしあなたは随分と私を嫌っておられるようですが、何故ですかな?」

さやか 「大したことじゃないよ。ただ昔、失った者を取り戻すために狂気に走りかけた男がいた、それだけのことよ。あの人は結局思いとどまったけどね。ネクロマンシーは手を出しちゃいけない魔術なんだよ」

バロンゾ 「なるほど、あなたは白河さやかさんですな」

さやか 「私を知ってる?」

バロンゾ 「白河律・・・あなたのお父様は、素晴らしい力を持ったネクロマンサーだったと聞いています。昔は尊敬していましたが、結局は死者となった妻よりも、生者であった娘のために魔道を捨てたと聞き、少々失望したものです」

さやか 「そう。私は死を追い求めるあの男が大嫌いだった。でも彼は、最後には死よりも生を求めていた。最期の時まで、それに気付けなかった私自身も嫌い」

バロンゾ 「ほっほっ、あなたは我々には眩しすぎるな。溢れんばかりの生、命の源たる炎を操る美しき魔女よ・・・」

さやか 「お喋りは、お・し・ま・い。研究の続きは、あなたのお好きな死者の世界でどうぞ」

膨れ上がった炎の塊をさやかが放とうとする。
だが標的であるバロンゾは空間を跳躍して姿を消した。

さやか 「逃がさないよ!」

炎を抱えたまま、さやかはそれを追って飛ぶ。
だが、一旦逃げたかに思われたバロンゾの気配は、城とは逆の方向に向かっていた。

さやか 「? 何をする気・・・」

気配が複数に拡散し、さやかは目標を見失う。
それらの気配が、実体を持って襲い掛かってくる。

さやか 「ちっ!」

大きくなった炎を抱えたままでは小回りが利かなかった。
一旦一つに集めた炎を解き、ビットを再度生み出す。
めまぐるしく炎の塊が飛び回り、攻撃してきている敵を迎撃する。

さやか 「どこに・・・?」

レベルの違いを自覚しているのなら、こんな子供だましの技が通用するはずないことはわかっているはずだ。
ならば、向かってきているのは全て囮ということ。

さやか 「まさか・・・」

 

 

 

祐一 「凍魔天嵐!」

パキィーンッ

襲い掛かってきたアンデットどもがまとめて凍りつく。
一度凍りついた氷は、中に閉じ込めた敵とともに砕け散る。
不死身のモンスターも、動けなくなるまで粉々にしてしまえが倒せる。

浩平 「ほらよっと」

刀を納めたまま敵の真っ只中を通り抜ける折原。
いや、実際には凄まじいスピードで抜いて、斬って、納めるを繰り返している。
普通の人間には、あいつはただ歩いているようにしか見えないだろう。

みさき 「遅いよ」

ヒュンッ

長い刀が振られると、四方八方にいる敵が倒される。
盲目ゆえにみさきの剣には死角がない。
横だろうが上だろうが背後だろうが、あいつの剣は全ての敵を捉える。

香里 「たぁっ!」

栞 「やぁっ!!」

美坂姉妹は互いを庇いながら戦っている。
さすがに息はピッタリで、お互いの足りない部分を補いながら敵を倒していく。

この程度の敵、俺達の敵ではない。
しかしいつまで経っても敵の動きが止まらないところを見ると、さやかの奴、まだあのネクロマンサーを倒してないのか。
俺も向こうに行くか。

祐一 「俺はさやかの助っ人に行く。ここは任せたぞ!」

浩平 「任された」

敵が弱いせいで、全員に油断があったのかもしれない。
俺の注意がその場から離れ、皆も気を抜いた瞬間だった。

栞 「きゃあっ!」

香里 「栞ッ!」

祐一 「な・・・!?」

悲鳴に振り返ると、栞が突如として足元に出現した影に吸い込まれていった。
香里が助けに走るが、寸でのところで届かない。

バロンゾ 「ほっほっほ」

祐一 「っ!!」

嫌な笑い声がした方を見ると、屋根の上に栞を捕えたバロンゾがいた。

祐一 「貴様ッ!」

バロンゾ 「いやぁ、実はですね。この街で研究に必要な、生命力に満ちた美しい娘を集めていたのですが、必要な人数100人に、あと一人足りなかったのですよ。いやこのお嬢さんは、実にいい材料になりますよ」

香里 「栞ッ!!」

祐一 「ふざけたこと言ってんじゃねぇ! 栞を返せ!」

バロンゾ 「ふっふっふ・・・これで研究は完成する。この娘を生贄に、儀式を遂行する時が来たのですよ」

さやか 「バロンゾ!」

奴の足元の屋根に向かって、さやかが空中から炎を放つ。
それを避けて態勢を崩した奴を捕えるべく、俺は氷を生み出す。
しかし、俺の氷があと少しで奴を捉えるところで、奴は空間を飛んだ。

バロンゾ 「ほっほっほ、生きのいい娘がたくさん来て助かりましたよ。しかも四人のうち三人は処女だ」

みさき 「じゃあ、わたしって対象外?」

バロンゾ 「美しさは申し分なかったのですがね。研究の材料には新鮮さが大事なんですよ」

浩平 「馬鹿言えよ。みさきはいつまでも新鮮だ!」

みさき 「もう、浩平君ったら」

祐一 「夫婦漫才やってる場合か!」

香里 「栞!」

奴のもとに向かって香里が突っ込んでいく。
ダメだ、あいつに真正面から行っても逃げられる。
案の定、香里の剣は空を切った。

バロンゾ 「しかし、他のお嬢さん方はちょっと私の手には負えないじゃじゃ馬のようだ。その点このお嬢さんなら、ちょうど良い」

栞 「ど、どういう意味ですかっ!」

バロンゾ 「あなたが一番美しいという意味ですよ」

栞 「え、ほんとですか?」

祐一 「真に受けてんじゃねえっ! おまえが一番俺らの中で雑魚だってことだ!」

栞 「そ、そんなこと言う人、嫌いです! って、きゃあ!」

バロンゾ 「では、失礼しますよ。儀式の準備がありますので」

奴の気配が完全に消え、代わりにさらに多くの雑魚モンスターが襲ってきた。
いくら雑魚でも、数が集まれば足止めとしては充分だ。
くそったれが!

香里 「栞ーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく