デモンバスターズ

 

 

第14話 地上最強の伝説

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?? 「祐一君、ゆーうーいーちーくーん」

祐一 「ん・・・」

誰かが呼んでる・・・。
楓さん?

?? 「起きよーよー、祐一くーん」

う~ん・・・あと五分・・・。

?? 「ほらほら、起きないと・・・」

祐一 「・・・もうちょっと・・・」

?? 「さっさと起きなさいこのウスラバカッ!」

バキッ

祐一 「んがぁっ!?」

いきなり顔面に強烈な衝撃。
何者かのかかとがめり込んでいる。
しかも回転を加えてぐりぐりしてくる。
痛ぇ・・・。

祐一 「だーっ、何しやがるこのガキッ!」

バキッ

エリス 「ガキ言うなっ、年上を敬え!」

起き上がった途端にアッパーを喰らう。
なんだって起き抜けからこんな目に合うんだよ。

祐一 「ったく・・・もう少し静かに起こせよな」

エリス 「感謝しないさいよ。助けてやったんだから」

祐一 「はぁ?」

エリス 「ん」

深緑色の髪を両側で結んだ金色の瞳の少女、エリスが首を振って横を指し示す。
そっちの方に視線をやると、何やら馬鹿でかい岩をそそくさと隠している巫女服姿の女性、楓さんの姿があった。

祐一 「・・・あの、楓さん?」

楓 「ぎくっ・・・・・・な、なにかな~、祐一君?」

祐一 「それ、何?」

楓 「な、なんでもないよ。なんでも・・・」

後ろ手に岩を隠そうとするが、楓さんの細身の体であの岩を全部隠すことなどできるわけもなく、丸見えであった。
ほんとに・・・あの岩で何する気だったんだか。
見た目が子供のエリス以上に子供っぽいところのある人なんだよな。

楓 「にこにこ」

笑ってごまかそうとしている。
が、この笑顔が好きで、ついついごまかされてしまうんだよな。

楓さんは、さっき言ったように、白い着物に緋袴という巫女姿。
長い黒髪に、整った顔立ち。
これでもかって言うくらいの和風美人だ。
見た目俺より一つ二つ上くらいなんだが、四年前にはじめて会った頃から少しも変わっていない。
だから彼女がいったい何歳なのかは知らない。
いつも明るくて、お日様みたいな人だ。

楓 「ほらほら行こう。二人も待ってるよ」

背中に隠した岩をどこかへ放ると、踊るような足取りで他の二人がいる方へ向かっていく。
エリスも肩をすくめながらその後を追っていった。
二人が向かう先には、残り二人の男がいる。

黒衣の男、ブラッディ・アルド。
元暗殺者で、仲間でありながら常に俺達を切り刻むことを考えている、ある意味狂った男だ。
はっきり言って嫌いだが、味方であれば頼りになる。

そしてもう一人・・・・・・斬魔剣の豹雨。
またの名を斬魔王。
散切りにされた黒髪に、鬼を思わせる紅い眼。
着流し姿で、五尺はあろうかという大太刀を手にしている。
この地上で、最強の男。

俺達五人を合わせて、人々はこう呼ぶ。

魔を倒せし者、デモンバスターズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「五百を越す眷属を従え、数万のアンデットモンスターを飼っている真祖ヴァンパイアの城。難攻不落と言われ、魔王達すら従えることの適わなかったこの城を、たった五人で攻め落とそうなんてするのは、アタシらくらいでしょうね」

祐一 「なんだよ、びびってんのか?」

エリス 「バカ言ってんじゃないわよ。ワクワクしてるのよ」

アルド 「ええ、実に楽しみなことですよ。不死者の中でも最強と謳われる真祖ヴァンパイアと、その眷属との戦いは。どんな血を流してくれるんでしょうね」

楓 「やるの? 豹雨」

豹雨 「当然だ。俺達の行く手に立ちふさがる奴は、誰であろうとぶっ倒す」

 

かつて、ある魔王が五千の部下を率いて攻めながら陥落させられなかったという真祖ヴァンパイアの城。
その日俺達は、たった五人でその難攻不落の城砦へと攻め込んだ。
しかも、ヴァンパイア一族がもっともその力を高めるという満月の夜をあえて選んで。

 

ガァアアアアアアア!!!

門番であるワーウルフが、俺達の姿を見るや、襲い掛かってきた。
もはや容赦は一切してこないつもりらしい。
だが、それはこっちも同じこと。

ザシュッ ドシュッ

グギャァアアアアアアア!!!

二匹の狼は、豹雨の一太刀で切り伏せられた。

豹雨 「さあ、行くぜ。邪魔する奴ァ、片っ端から斬り捨てろ。目指すは吸血野郎の首だ」

エリス 「当然。腕が鳴るわよ」

アルド 「いざ・・・ブラッディ・ウォー」

楓 「行こうか、祐一君」

祐一 「おう!」

 

敵は五百プラス数万。
こっちは五。
桁違いの戦力差だ。
それでも俺達は、まったく怯むことなく突き進んだ。

 

エリス 「失せなさい、雑魚どもッ!」

呪われた魔竜の血を引くというエリスの持つ魔力は、最強の不死者ヴァンパイア一族を前にしてもその強大さを見せ付けている。
その声はまるで竜の咆哮のようで、放出された魔力の余波だけで雑魚アンデットモンスターどもは消し飛んだ。

アルド 「骨や死体の相手はつまりませんねぇ。何しろ、誰も血を流してくれないんですから」

血を好む無敵の暗殺者、アルドにとってアンデットモンスターなど障害物にもなりはしない。
幾十も刃のついた禍々しい剣、ブラッディサーベルが、全ての敵を切り刻んでいく。

楓 「理に反する者、黄泉の地へ還りなさい」

楓さんが持つ草薙剣は、魔より生まれ出でた神の剣。
持ち主の望むままに、神と魔、双方を滅する力を持っている。

やはり三人とも強い。
敵はいくらでも沸いてくるというのに、少しも前進する速度が衰えない。
もちろん、俺もな。

祐一 「凍魔天嵐!」

左右の手に一本ずつ氷刀を持ち、周囲のもの全てを凍りつかせる。
不死身のモンスターと言えども、粉々にされれば動けまい。

積み上げられたアンデットモンスターの残骸。
その上に立つのは、無敵の四人。

エリス 「ふんっ、こんなんじゃ歯ごたえがなさ過ぎるわ」

アルド 「もっと血を流してくれる相手が欲しいものです」

楓 「静かな眠りについてね、みんな」

祐一 「まだ先は長そうだな」

全員の視線が先へと向かう。
その先には、ただひたすらに前を目指す最強の男の背中。
俺達も、そのあとに続いた。

 

 

 

 「ここから先へは一歩も通さん!」

巨大な魔物。
一つ目の巨人、サイクロプスだ。
こんなのまで飼ってやがるのか。
さすがにこれは手強いか?

豹雨 「退きな、雑魚。俺はてめェのご主人様に用があんだよ」

 「ならば、我を倒してから進むがよい!」

豹雨 「おもしれェこと言うじゃねェか。なら望みどおり、死にな」

 「ぬぉぉぉっ!!」

ズンッ

巨体から繰り出される拳が床を叩き割る。
俺達は左右に散ってそれをかわす。
パワーは見た目どおり大したものだ。

豹雨 「そんなもんかよ、でかいだけの雑魚が」

 「む・・・!」

豹雨 「今度は・・・俺の番だ」

豹雨が五尺の大太刀を肩に担ぐ。
出るか、あいつの必殺・・・。

豹雨 「総天夢幻流・斬魔剣・・・しぐれ」

 

ヒュッ

 

豹雨の剣が振られる。
緩慢な動きのように見えて、動いた時にはもう終わっている。
神速の剣だ。

 「?」

豹雨 「聞こえるだろう、死へと誘う雨音が」

 「う・・・ぐ、ぐぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

ドシュッ!

 

無数に切り刻まれたサイクロプスの体が崩れ落ちていく。
いったい、あれがどんな技なのか・・・・・・まだ見切れていない。

豹雨 「さあ・・・行くぞ」

この最強の男を先頭に、俺達五人は突き進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死闘の末に真祖ヴァンパイアを倒し、俺達はひと時の休息の中にいた。
あのヴァンパイア一族を滅したことは、地上はもとより、魔界、天界に至るまで衝撃となって伝わっているだろう。
また俺達の最強伝説に、新しい一ページが加わったわけだ。

エリス 「いたた・・・あのコウモリ野郎、思いっきり噛み付いてくれちゃって」

祐一 「油断してるからだよ」

エリス 「あんたこそボロボロのくせに偉そうに言うんじゃないわよ」

楓 「ほら二人ともじっとして、手当てできないよ」

エリス 「こんなのいいから、アタシの傷よーく見てよ。痕が残ったら大変だわ」

祐一 「石みてーに頑丈な体してるガキなんて放っとけばいいって。俺の方が重傷だよ、楓さん」

エリス 「ガキ言うな、引っ込んでなさいバカ!」

祐一 「んだとこいつ!」

エリス 「年上は敬うべし、さらにはレディファースト。全ての事象はアタシの優先を主張しているわ」

祐一 「屁理屈言ってんじゃねぇよ、このババア!」

エリス 「黙れバカ小僧!」

祐一 「うっさいクソババア!」

ドカッ ドカッ

エリス 「った~~~・・・」

祐一 「いってぇ・・・」

楓 「喧嘩両成敗。じっとしてないと、どっちも手当てしてあげないよ」

エリス 「ごめん・・・」

祐一 「すまん・・・」

二人して素直に頭を下げる。
楓さんは怒らせると結構怖い上、俺もエリスもこの人には頭が上がらない。

豹雨 「何遊んでやがんだ、おまえらは」

アルド 「いやいや、実に楽しそうでいいですね」

戦勝気分で機嫌がいいのか、珍しくこの二人も傍に寄ってきた。
あまり馴れ合いはしない連中だが、たまにはこういうこともある。

楓 「この二人がもう少し仲良くしてくれたら、もっと楽しいんだけどね」

エリス 「アタシは悪くないわ。こいつが子供なのよ」

祐一 「こっちの台詞だ、チビガキ」

エリス 「なんですって」

祐一 「なんだよ」

楓 「む~」

エリス 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

二人とも目をそらす。
楓さんの目が怖い。

楓 「あ、アルド君も怪我してる」

アルド 「いえ、私のは構いませんよ。自分の血を見ることのできる機会も少ないですからね。貴重なんですよ」

また危ない台詞を。
血マニアめ。

楓 「豹雨も」

豹雨 「いらんことするな」

楓 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

いつもながら素っ気ない態度だな、豹雨は。
楓さんも苦笑している。
俺達の前で、この二人が会話しているのはあまり見ない。
けどこの二人は・・・・・・。

アルド 「なかなか有意義な日々ですね。けど、いつまで続くでしょうね」

エリス 「ま、アタシらの日常は、毎日が死と隣合わせだからね。味方だっていつまで味方かわからないし」

祐一 「そうだな。むしろ一緒にいるのが不思議に思えることだってあるからな」

豹雨 「・・・阿呆か、おまえら」

アルド 「おや、手厳しい」

エリス 「何よそれ」

祐一 「?」

豹雨 「てめェらは俺様の下僕だろうが。どこまでもご主人様に付き従うのが当然だろう」

エリス 「誰があんたの下僕よっ」

アルド 「そうですね。今は、そうかもしれませんね。ですが、世の中下克上ですからね。気をつけておいた方がいいですよ」

豹雨 「上等じゃねェか。いつかと言わず今からやるか?」

楓 「もう! 喧嘩しない! って言ってるでしょ」

祐一 「でもさ」

楓 「ん?」

祐一 「実際問題。俺達いつまで一緒にいられるのかな?」

楓 「ずっとよ」

祐一 「ずっと?」

楓 「うん、ずっと。だって、私達仲間だもの」

仲間・・・か。
そうだな。

最強の男、斬魔剣の豹雨。

血に塗れた死神、ブラッディ・アルド。

呪われた竜の子、魔竜姫エリス。

慈愛に満ちた大地の巫女、楓さん。

そして俺、氷帝の相沢祐一。

俺達は地上最強の、デモンバスターズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・日も暮れそうだし、今日はここまでにしておくか」

栞 「・・・・・・」

俺は立ち上がって体についた草を払う。
そろそろ戻らんと、夕飯に間に合わない。

栞 「あの・・・」

祐一 「ん?」

栞 「どうして、バラバラになっちゃったんですか。色々あっても、とっても素敵な仲間達だったんじゃ・・・?」

祐一 「そうだな・・・・・・・・・それは、またいつかな」

あの人がいなくなってしまう原因となったあの事件。
あの時の話は、まだしたくはない。
自分自身でも、冷静に見つめなおせるかどうかわからないからな。

祐一 「さてと、おまえはそんなことより、明日からのことを考えろ」

栞 「はい?」

祐一 「今日はチビガキのせいで何もできなかったからな。明日こそ、恐怖の修行メニューのはじまりだ」

栞 「え、えぅ~~~」

今は忘れて、この生活を満喫しよう。
とりあえず、こいつをいじめ・・・修行するのは楽しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

あとがきだろう

平安京(以下“京”):過去編だ。ダイジェストみたいだけど

さやか(以下“さ”):私の出番がない

京:当然だろう

さ:む~。でも、一応ここで未登場だった残り二人も出たことになるのかな

京:確かに、プロローグ以来、まともに出たのはここがはじめてだからな。本格登場までもう少し待たねばならないが

さ:楓さんの性格はどんなもんだろうね~

京:色々予想する要素はあったぞ、祐一の言葉の中に

さ:谷に蹴落とされた云々なんてのもあったからね~

京:さて、次回からはちょっと大きめの話だ

さ:私出る?

京:まあな。あと浩平とみさきも活躍するだろう

さ:次回からもよろしく~、だね♪