デモンバスターズ

 

 

第12話 修行第二段階

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「さて、この辺でいいだろ」

俺は栞を伴って、秋子さんの所有地の一部だという山の中に来ていた。
ここは滝がすぐそこにあって、なんとなく修行をするのに雰囲気がちょうどいい。
道場から借りてきた木刀を手に、栞と向き合う。

祐一 「俺が油断してたとはいえ、たった一ヶ月で俺から一本取ったのは大したものだ」

栞 「えへへ・・・がんばりました」

祐一 「まぁ、あの程度じゃ充分とは言えないが、とりあえずはノルマ達成だ。約束どおり、今日から次のステップに入る」

栞 「よろしくお願いします!」

神妙な顔つきで栞が礼をする。
気合充分だな。

祐一 「じゃあ、修行を始める前に、次の段階のことを説明しておこうか」

栞 「はい」

俺は右手に持った木刀を顔の前辺りに構える。
片手正眼だ。

祐一 「構えろ」

栞 「えっと・・・はい」

対して栞は、両手で構える通常の正眼。
あの石橋のものに比べればまだまだ未完成だが、そこそこ様になっている。

祐一 「まずは、動くな。動くと怪我をするかもしれんぞ」

栞 「わかりました」

祐一 「ただし気は張ってろ。本当に敵と対峙しているくらいの気でな」

栞 「・・・・・・」

ごくっと栞が唾を呑むのがわかる。
今の俺は殺気こそ出してないが、栞をたじろがせるには充分な剣気を発している。
気圧されずに構えを維持しているのは褒めてやれることだ。

祐一 「行くぞ」

 

シュッ

 

栞 「!!?」

今度は息を呑む暇さえなかったろう。
一瞬にして二人の間にあった五メートルほどの間はなくなり、俺の木刀は栞の首筋につけられていた。
栞は動かないどころか、まったく動けなかったろう。

栞 「・・・・・・」

俺の本気の剣を前に、栞の額にたっぷりと汗が浮かぶ。
それを見て、俺は木刀を引いた。

祐一 「わかったか?」

栞 「えっと・・・その・・・・・・すみません、わかりません」

だろうな。

祐一 「今の俺の動き、見えたか?」

栞 「いえ・・・全然」

祐一 「次の課題は、今のが見えて、かわせることだ」

栞 「そ、そんなの・・・」

祐一 「無理だと思うか?」

栞 「・・・・・・」

まぁ、仕方ないな。
俺も実際無理な話だとは思う。

祐一 「順を追って説明するか」

栞 「はい」

さっきのやつの衝撃から立ち直った栞が、改めて神妙な顔つきになる。
俺の言葉を一字一句逃さずに聴こうとしている。
その姿勢や良し。

祐一 「栞。戦いにおいてもっとも重要なのは、何だと思う?」

栞 「戦いにおいて重要なもの・・・ですか?」

祐一 「そうだ」

栞 「う〜ん・・・・・・・・・」

考え込む栞。
もっとも、これを聞かれて一言で答えるのは難しいだろう。

祐一 「力、速さ、技術、気迫・・・・・・色々とあるが、どれも決定的じゃない」

栞 「・・・・・・」

祐一 「戦いにおいてもっとも大切なこと・・・強くなるためにもっとも大事なのは・・・・・・生きることだ」

栞 「生きる・・・こと?」

祐一 「そうだ。命を捨てても勝たなきゃならない戦いなんて安易に言う奴がいるがな、そんな戦いは一生のうちに何度もありはしない。どんな名目を並べてみても、戦いにおいては生き延びた者が勝ちなんだ」

俺達は生き物だ。
生き物・・・生きるもの。
そんな者達が、その力を最大限に発揮する時、それは生きようとする強い意志を持った時だ。
あの人の受け売りではあるが、数々の戦いを経てそれが正しいことを俺も知った。

祐一 「何のために生きるのか、それは人それぞれだろう。だが理由はさておき、生き物が生きようとする意志は、何よりも強い。だから戦いにおいて強くなるもっとも大事なことは、生きることなんだ」

栞 「・・・・・・・・・」

真剣な顔で聞き入る栞。
このことをすぐに理解するのは、戦いを良く知る者でも難しい。
だがこいつなら、むしろ理解できると思う。

祐一 「わかったか?」

栞 「・・・わかりました。全部を理解・・・はまだできませんけど・・・・・・なんとなくわかります」

祐一 「いい答えだ。それを踏まえた上で次に身につけるべきは、防御だ」

栞 「防御・・・」

祐一 「攻撃は最大の防御とか言うが、それは圧倒的な攻撃力をもってしてはじめてできることだ。防御のできない奴はまず生き残れない。逆に防御を完璧に身につければ、生存率はぐんと上がる」

栞 「・・・はい」

祐一 「これから俺はおまえに対して剣を振るう。もちろん最初は手加減するが、徐々に上げていって、最後にはさっき見せたレベルに達するつもりだ。おまえは俺の攻撃を、とにかくかわせ。動いて避ける、木刀で受け流す、受け止める・・・どんな手段でもいい。俺の攻撃をひたすらかわし続けろ」

栞 「・・・・・・わかりました!」

栞が木刀を構える。
いつでも準備はオーケーみたいだな。
なら、俺も遠慮なく行かせてもらう。

祐一 「行くぞ」

栞 「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、道場では――。

香里 「やぁっ!」

斉藤 「むん」

バチィーン!

竹刀が打ち合わされる音が響き渡る。
中央に陣取って試合をしているのは、香里と斉藤だ。

ここしばらくの香里の稽古熱心は凄まじかった。
祐一のドラゴン退治の噂があった頃からであるから、関連性を誰もが思ったが、変なことを言うと香里に睨まれた。
道場において、怒れる香里を抑えることができる者はいない。

そんなわけで、香里は門下生を捕まえては激しい稽古に明け暮れたが、付き合わされる方は堪ったものではない。
彼女の強さは本物である。
ここぞとばかりに己をアピールしようと躍起になる北川も、あっという間に叩きのめされて退場した。

今日は斉藤がいたので、多くの門下生達はほっと胸を撫で下ろした。
そして、凄まじい二人の試合に見入っている。

香里 「ハッ!」

大上段から振り下ろされる香里の一撃が、下から振り上げた斉藤の竹刀で止められる。
そのまま切り返しで胴を狙うが、これも斉藤の予測の範囲内だった。

香里 「まだまだぁっ!」

さらに攻撃を繰り返す香里。
本来、攻撃的な剣のスタイルを持つ斉藤が、香里の連続攻撃の前に防戦に回っていた。
もっとも、香里の剣は先ほどから一度も斉藤の上を行ってはいない。

斉藤 「パワーとスピードは悪くないが、まだまだだな」

パァーンッ

香里 「!!」

一瞬にして攻勢に転じた斉藤の剣が、香里の竹刀を弾き飛ばす。
次の瞬間には、斉藤の竹刀の切っ先は香里の喉下につけられていた。

香里 「・・・参りました」

そう言って香里は、悔しげに下がっていく。

四天王とは言っても、実際にその中での実力差も大きかった。
香里はその中でも、実力においては一番下であると、自分自身でも自覚していた。

石橋剛健はその姿が示すとおり、百戦錬磨の豪傑だ。
現在三十代中頃だが、若い頃は戦場を渡り歩いたと言う。
その剛の剣は、誰が見ても強者のそれとわかるものだった。

斉藤元は、素性がはっきりしないが、その全てにおいて水瀬道場最強の使い手であった。
現在二十四、五歳で、ここへやってくる前から幾多の修羅場を潜り抜けてきたと言う。
石橋、斉藤ともども、香里とは経験の差が明らかにあった。

そして折原浩平。
この男は香里と同い年であるが、掛け値なしの天才だった。
いつも飄々としているが、本気になれば石橋以上、斉藤にも匹敵するかもしれない。
若いとは言え、道場よりもよろず屋に入ってくるモンスター退治の依頼を多く受け、実戦経験は豊富だ。

そんな他の三人に比べて、自分が完全に劣っていることを、香里は自覚している。
だからこそ悔しかった。

香里 「絶対・・・強くなってやるわよ」

もう一人、道場の人間ではないが、同い年の相沢祐一。
あの男も数々の修羅場を経験してきた強者だ。
圧倒的な力の持ち主。
今香里を突き動かしているのは、あの男に対する対抗心に他ならなかった。

まさか妹が、その男に師事して、自分同様強くなろうとしていることなど、香里は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「るんたった〜♪ るんたった〜♪」

?? 「さやか」

さやか 「あれ、ちゃお〜、おっひさ〜」

?? 「相変わらずみたいね」

さやか 「まぁね〜。でも、どうしたの? 半年振りくらいかな?」

?? 「そうね。それより、あいつはどう?」

さやか 「85点くらいだよ〜」

?? 「そんなこと聞いてないわよ。まぁいいわ。あんたに聞いたアタシが馬鹿だった」

さやか 「♪〜」

?? 「ほんとに・・・少しは大人になったらどうなの?」

さやか 「あなたにだけは言われたくないよね〜。それよりさ・・・ぎゅってしてもいいかな?」

?? 「イヤ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栞 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

祐一 「今日はここまでだな」

岩に腰掛けて空を眺めている俺の目の前には、ぼろぼろになった栞が倒れている。
寸止めじゃ、本当に打たれる恐怖心を持てないから、怪我しない程度には打ち据えた。
だから受け損なえば、ダメージを受ける。
まぁ、初日にしては良く受けた方だろう。

祐一 「明日はまた別の稽古をするぞ。これから当分は今日やったのと明日やるのとを毎日交互にやっていく。飯食ったらここに来て、体ほぐしておけよ」

栞 「は・・・はい〜・・・・・・」

返事をするのもきついって感じだな。
アザになるほど強く打った場所はないから、大丈夫だろう。
へばってるのは、ただ疲れたからだ。
二時間はぶっ通しで動いたからな。
俺はこれと同じことをあの人に、五時間ぶっ通しでやらされた。
長い時は丸一日・・・・・・・・・容赦ねぇんだよな、あの人。
その後の長い戦いのことを考えれば、それくらいは余裕だったんだが。

祐一 「ふむ・・・」

それにしても、俺にあいつらみたいなSの気はないと思っていたんだが・・・。
ああいうひたむきな奴を苛めるのは楽しいな。
などと思ってみたり。

今日はまだ、それほど激しくするつもりはなかったんだが、つい力を入れてしまった。
あのまっすぐな目で見られてると、どうもな。

栞 「ゆ・・・祐一さ〜ん・・・・・・待ってください〜」

後ろから栞がへーこら言いながらついてくる。

祐一 「ゆっくりしてていいぞ」

栞 「こ、こんなところに一人で置き去りにされても困ります」

祐一 「物騒な山じゃないだろ」

栞 「いえ、結構物騒なんです」

祐一 「そうなのか?」

栞 「はい。秋子さんのお使いでこの山に入った人の多くが恐怖体験を・・・」

どんな山だよ、秋子さん。
別に危険な魔物がうろついてるわけでもなさそうだけどな。
だが確かに、並みの山ではないな。

ここを修行の場に選んだのは、ただ雰囲気が良かったからだけじゃない。
元々山ってのは“陽”の気を持つ場合が多いし、そうした自然から出る力が人間の体に眠る潜在能力を引き出しやすくすることもある。
この山はそれが特に強い。
おそらく、他の場所で修行するよりも倍以上の成果が得られるだろうな。
いわゆる霊山ってやつだ。

祐一 「おまえは恵まれてるな」

栞 「そうですか?」

祐一 「いい修行環境に、いいお師匠様」

栞 「いいお師匠様かどうかは・・・」

祐一 「やめるか。面倒だし、胸ないし」

栞 「わっ、わっ、嘘です嘘、とってもいいお師匠様です。もう、そんなこと言う人、嫌いです〜。だいたい、胸は関係ないじゃないですか〜!」

怒ってる怒ってる。
犬みたいな奴。

祐一 「今夜は良く食って、風呂入って、良く寝ろよ。明日はもっと厳しいぞ」

栞 「えぅ〜・・・これ以上厳しくなるんですか?」

祐一 「こんなもの序の口だ」

栞 「ひぇ〜・・・」

青い顔してるな。
まぁ、こいつのレベルじゃ、これ以上の修行なんて想像もできないだろう。
というか、実体験者でないと、地獄の特訓ってのはわからないものだ。

・・・そう、地獄の特訓ってのは。
ふっふっふっふ。

おっといかん。
あれはまだ栞には早いだろう。
俺は今の栞より幼い頃にやったが、土台が違うからな。
今の栞より、あいつらに会う以前の俺の方が強い。

祐一 「さ〜て、明日もばしばし扱くとするか」

栞 「えぅ〜〜〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日。
一足早く栞は昨日と同じ場所へと向かった。

栞 「到着です!」

山を登る際に走ってきたので、まずウォームアップはオーケーだった。
続いて柔軟をやる。
動く前には良く体をほぐせ。
水瀬流第一の教えである。
当たり前のようだが、非常に大事であり、これを忘れて怪我をする人間は多くいる。
基本を守ってこそ、成長もあるというものだった。

栞 「よーし、次、素振りですっ」

いちいち声に出して確認をしつつ、次の行動に移る。
素振りは道場で普段やらされる分に加えて普段からやっていた。
子供の頃病気をしていて、他の皆より体力で劣っていた栞は、最初のうちとにかく素振りをした。
そうしているうちに、今では剣の速さだけは姉の香里にも匹敵するほどにまでなっていた。

栞 「498・・・499・・・500!」

起きてから、朝食の前に200振っている。
加えて今のように500。
道場でも都合500。
夜にも300と・・・現在は一日1500は振っている。
これは道場にいる人間の中でも、香里、斉藤、石橋に次ぐ回数であった。

栞 「ふぅ・・・・・・祐一さん、まだかな?」

軽く体を動かしながら、祐一が来るのを待つ。
と・・・。

がさっ

栞 「? 祐一さん?」

茂みから出てきたのは、待ち人ではなかった。

栞 「・・・子供?」

?? 「こんにちは」

出てきたのは、十歳くらいの少女だった。
左右でまとめられた長い深緑色の髪に、金色の瞳。
整った顔立ちの綺麗な少女である。
だがその表情はあどけないようでいて、どこか大人びている。

栞 「あなたは・・・?」

?? 「くすっ、ちょっと役に立ってもらうわね、あなたに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく