デモンバスターズ

 

 

第11話 比較的平穏な日々

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日――。

水瀬なんでも屋敷、よろず屋店前。

往人 「ふっふっふっふっふ・・・・・・今日の俺は一味も二味も違うぜ。なんたって、今朝の飯は格別だったからな」

門の右側には、背の高い銀髪の男が、人形片手に立って不気味な笑みを浮かべている。

往人 「さあ! 見るがいい、俺の本当の力を!」

どんっ

人形を目の前の地面に置き、その上に右手をかざす。
目には見えないが、何かしらの力が働きだす。
するとどうだ、人形はひとりでに立ち上がり、ところこと歩き出した。

往人 「見よ! これぞ国崎家には伝わる一子相伝の法術! さあ、楽しい人形劇のはじまりだ」

やたら大仰に宣言する銀髪の男、国崎往人。
その足元では、人形がひたすらに右へ左へとことこ歩いている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ぐ〜

美凪 「・・・お腹空きました・・・朝食べてません、国崎さん」

門の左側、そこには黒いテーブルクロスがかかった円卓が置かれ、黒いローブを纏った女が座っている。
テーブルの上には水晶があり、女は手にしたカードをシャッフルしている。

ピッ

手の中の束から、カードを一枚抜き出す。

美凪 「・・・今日の天気・・・快晴」

そのとおり、空には雲ひとつなく、太陽が輝いている。
春も終わり、初夏へと向かおうという季節だった。

美凪 「・・・・・・・・・」

誰も来ない。
占い師姿の美凪は右へ傾いてみる。
やはり誰も来ない。
数分してから今度は左へ傾いてみる。
やはり誰も来ない。
ヤジロベーか時計の振り子のように左右に動いてみるが、やはり誰も来ない。

美凪 「・・・お客さん・・・かもーん」

言ってみても、やはり誰も来ない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昼が近付いた頃――。

門の右側には、真っ白になって蹲る往人。
門の左側には、楽しくなったのか左右に揺れることを繰り返している美凪。

そこへ三人目の人間が現れる。
待望の客かと思いきや、彼女もこの屋敷の人間だった。

翡翠 「そろそろ、昼食の時間です」

言うべきことのみを言い終えて、メイド姿の少女翡翠はよろず屋の中に入っていった。

翡翠 「名雪様、昼食の時間です。起きてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「つまりそれは、デンデンムシだったわけだ」

さやか 「ぶーっ!」

いい加減慣れたもので、俺はあらかじめ用意しておいた鍋の蓋でさやかの吹き出し攻撃を回避する。
だから、一体今の話のどこがおかしいんだって?

みさき 「くすくすくす」

笑いながらも食うことをやめないみさき。
なんだかなぁ・・・。

しかしそれにしても・・・今日は妙に食卓にいる人間の数が少ない。
だが、俺がその理由に気付くのはすぐだった。
並んでいる食事・・・。
まともに食っているのは折原とさやかとみさきだけだ。
国崎と美凪は来るなりどこかへ消えた。
名雪は起きてこなかったらしい。
香里と栞は姿すら見せていない。
全ての原因は並んでいる食事にある。
なんだこれは?

翡翠 「・・・・・・申し訳ありません」

いつも無表情の翡翠が、珍しく恐縮している。
そういえば琥珀の姿が見えないが・・・。

翡翠 「実は・・・姉さんが風邪を引きまして・・・私が・・・」

なるほどな。
普段から翡翠が食事を作る姿を見たことがなかった。
全て琥珀任せだったのは、つまりこういうことか。

さやか 「これも、慣れれば結構いいかもよ?」

俺は絶対そうは思わん。
翡翠には悪いが、俺の口は嘘を吐くようにはできていない。
これから、琥珀が風邪の時は注意しよう。

まぁ、パンなのは幸いだったな。
こればっかりは問題が起きようもない。

秋子 「祐一さん、ジャムはいかがですか?」

ガタガタッ

今まで何の問題もなく食事をしていた折原とみさきまでもが、秋子さんの発言と同時に箸を置いて立ち上がった。

浩平 「さてと、アリの巣と風の関連性について調べるとしよう」

みさき 「うん、行こうね」

またわけのわからない研究テーマを立てながら二人はどこかへと消えていく。
これで残ったのは俺と秋子さんとさやかと翡翠の四人だけだ。

秋子 「どうぞ」

差し出されたオレンジのジャムを俺は自分のパンに塗る。

祐一 「どうも」

そして何の疑問も持たずにかぶりついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼過ぎ。

よろず屋の前には再び二人の姿があった。

往人 「ふっはっはっはっは、今の俺は一味も二味も三味も違うぜ。なんといっても、昼のラーメンセットは格別だったからな!」

美凪 「・・・カップ麺と冷凍ごはんでしたが」

往人 「パワー三倍! さあ行くぜっ、楽しい人形劇アルファのはじまりだ!」

再び人形を地面に置き、大仰な宣言をする。
人形はひたすらに、とことこと歩いていた。

美凪 「・・・あ、四葉のクローバー」

道端で摘んできた草に混じっていた。

美凪 「・・・・・・ぽ」

何故か赤くなる。

美凪 「・・・今日の運勢・・・・・・・・・大凶・・・がっくし」

どこからともなく取り出したおみくじの結果に肩を落とす。

そんな二人の間を素通りして、よろず屋の客が店内へと入っていく。

往人 「はっはっはっはっはっはっは!」

美凪 「・・・お米券、いりませんか?」

のどかな昼下がりであった。

 

 

 

 

 

夕方。

浩平 「うむ、有意義な一日だったな」

みさき 「そうだね〜。風も気持ちよかったし」

非常に満ち足りた表情をした浩平とみさきがよろず屋の前を通りかかる。

浩平 「お、国崎、今日も沈没か」

門の右側では、灰となって崩れ落ちた往人の姿があった。

みさき 「どう? 美凪ちゃん」

美凪 「・・・お米券、いりません?」

みさき 「あ、欲しい〜」

みさきが美凪の手からお米券の入った封筒を受け取ると、美凪もまた、非常に満ち足りた表情になった。

美凪 「・・・良い一日」

浩平 「ああ、まったくだ」

みさき 「うふふふふふ」

往人 「・・・・・・・・・うふふ、うはは・・・楽しいにんぎょーげきのはじまりだぞー・・・・・・・・・ラーメンセットくいてーなぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「は!」

目を覚ました。
何があったんだ?
確かパンを食ってたと思ったんだが・・・。

さやか 「あ、起きた」

祐一 「さやか? 何が起こったんだ?」

さやか 「さあ〜、世の中知らない方が幸せってこともあるよ♪」

そう・・・か?
まぁいいか。

だがこの時以降、俺は何故だかジャム恐怖症になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日――。

琥珀 「琥珀、ふっかーつ!!」

さやか 「どんどんどんどん〜♪」

美凪 「・・・ぱふー」

と、いうことになった。
あれだけ元気なのがどうやったら風邪を引くのやら。
しかも翡翠によると結構重症とか言ってたのに、一晩で治りやがった。

琥珀 「自分の体ですから、良く効く薬ができますよー」

祐一 「薬?」

琥珀 「あはー、こう見えても薬作りが得意なんですよ」

薬・・・ね。
こいつが薬・・・なんか怖いな。
警戒しておいた方がいいと、本能が言っている。

琥珀 「さてと、私は復活しましたけど、今度は翡翠ちゃんがダウンしちゃったんですよね」

祐一 「そうなのか」

交互にダウンとは。

琥珀 「と、いうわけで、今日は私が翡翠ちゃんに代わってお掃除をしまーす」

さやか 「あはは〜♪ じゃあね、祐一君」

美凪 「・・・ごきげんよう」

祐一 「は?」

気が付けば二人はどこかへ消えていた。
あまりに自然で、すぐには反応できなかった。
何故そうなったのか、すぐに俺はその理由を知ることになる。

 

 

 

ドカドカドカ

ドンガラガッシャーンッ!

祐一 「ど、どう掃除すればこうなるんじゃーっ!?」

恐ろしい奴だ。
掃除と称して動く度に、いや壊れる壊れる。
吹っ飛ぶ・・・。
僅か数分で綺麗に整っていた部屋が混沌の海と化す。

祐一 「おーい・・・そろそろやめとけー」

琥珀 「ダメですよ。日々の掃除が大事なんですから。まだ全然片付いてません」

いや、おまえが余計に散らかしてる・・・っていうかなんというか。
とにかくおまえ動くな。
普段は別に問題ないくせに、何故か掃除道具を持って動くと必ず何かが壊れる。

琥珀 「よいしょ」

祐一 「どわっと!」

箒掛けしてたんだろ?
何故俺の眼前を箒が通過するんだ?

琥珀 「あはー、すみません」

こいつ・・・掃除にかこつけて俺をやる気か?
本気でそう思ったぞ。

琥珀 「あはー、あはー、あはー♪」

凄まじい勢いでカオスを増やしていく。

祐一 「あーあーあー・・・・・・」

いいのか?
良くないだろ?
いいのかよ?

かなり不安になって俺は琥珀のすることを見ていた。
やはり止めた方がいいのかと逡巡していると・・・。

ヒュッ

祐一 「!!」

パシィッ

手首に鈍い痛みが走った。

栞 「えぅ〜〜〜」

琥珀 「はい? あ〜れ〜」

ドンガラガッシャーンッドカーンッ

二人もつれて混沌の中へ突っ込んでいった。
それはさておき、俺は痛みの走った自分の手首を見つめている。

祐一 「・・・・・・」

いくら琥珀の方の奇天烈ぶりに唖然としていたとは言え・・・。
思えばドラゴン戦にアルド戦があって以来、ますます熱が入っていたとは思っていたが。
まさか一ヶ月やそこらで俺から一本奪うとはな。
掠っただけだが、それでも大した進歩だ。

祐一 「・・・こりゃ、おもしろくなってきたじゃないか」

いいだろう、栞。
お望みどおり、稽古をつけてやろう。
果たして、強くなれるかな、おまえは。

 

 

 

 

 

 

その頃――。

往人 「ふははははははははっ、今日の俺は絶好調である!」

美凪 「・・・ぜっこーちょー・・・いぇー」

 

 

 

 

 

 

夕方――。

俺はたまたま一緒になった折原、国崎らとともに温泉に入っている。
今日も何かわけのわからないことをしてきたのか、折原は非常に満足そうな顔をしていた。
対照的に国崎は、精根使い果たしてミイラ状態になっていた。
お湯につければ元に戻るだろう、ということで、湯船に放り込んである。

祐一 「そういえば・・・ここって温泉宿じゃなかったか? 客が入ってるところを見たことがないんだが?」

浩平 「ああ、俺もないな」

祐一 「・・・・・・」

大丈夫なのかよ、秋子さん。
まぁ、よろず屋の方はそれなりに繁盛しているらしいが。
宿で働いてるはずの琥珀・翡翠もほとんど俺達居候の世話役になってるし、温泉だって使い放題だ。
いいのかな。

ごごごごごごご

祐一 「なんだ?」

突然地響きのような音が響く。
見ればすぐ横にある壁が横にスライドして動いている。

さやか 「やっほー、背中流しっこしよ〜♪」

みさき 「しよ〜」

美凪 「・・・よ〜」

完全に取り払われた壁の向こうから、タオルを体に巻いただけの女達が現れた。

栞 「きゃーっ」

名雪 「きゃー」

香里 「なんなのよっ、これは!?」

桶が飛んできた。
俺はそれを掴み取ると、さやかに聞く。

祐一 「なんだこれは?」

答えは反対側から返ってきた。

浩平 「ああ、俺が秋子さんの許可取ってな。すぐさま混浴にできるよう、壁を取り払う仕掛けを施しておいた」

香里 「秋子さんに直談判してくるわっ!」

名雪 「わ、わたしも〜」

栞 「えぅ・・・その・・・失礼します!」

女風呂の方に残っていた三人はそそくさと脱衣所の方へ戻っていった。
そしてさやか達三人は何の遠慮もなしにこっちへ入ってくる。

美凪 「・・・回収」

湯船の方では、沈んでいた往人を美凪が引き上げている。
みさきが浩平の背後に回り、さやかが俺の後ろにやってくる。

さやか 「はいは〜い、流しま〜す♪」

祐一 「せんでいい」

さやか 「ええ〜、やろうよ〜。お隣さんみたいに」

隣に目をやる。

みさき 「気持ちいい、浩平君?」

浩平 「おう〜、ばっちりだ」

石鹸をつけたスポンジで、みさきが折原の背中をこすっている。

祐一 「いらん」

俺は頭から湯をかぶると、湯船の方へ向かう。
後からさやかもついてきたが、無視した。

さやか 「♪〜」

祐一 「・・・・・・少しは恥じらいってものを持たんのか?」

美凪 「・・・・・・ぽ」

復活した国崎と一緒に湯船に浸かっている美凪が頬を赤らめる。

祐一 「いや、おまえじゃなくて・・・っておまえもだが」

俺がずれてるのか?
いや、断じて違う。
この場にいる連中の方がずれてるんだ。

さやか 「♪〜」

祐一 「はぁ・・・まぁいいか」

平和だねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

あとがき・・・かも

さやか(以下“さ”):・・・お花出す子?

平安京(以下“京”):そんなわかる人にしかわからない中途半端なバラし方するなよ

さ:あの子だね

京:同じだ

さ:ところで、初の2話連続あとがき。どういう心境の変化?

京:なんとなくだ

さ:君そればっかりだね〜。ま、いっか。今回はほのぼの路線?

京:今まで出番が少なかった水瀬屋敷のメンバーがメインだ。往人がひたすらバカみたいになってしまったが。

さ:ほんとだね。一応、もう少しおとなしい人じゃなかったっけ、原作では

京:微妙だな。それよりもう一つ、やっと温泉ネタが書けた

さ:少しだけどね

京:温泉宿にした時からいつかやろうとは思っていたんだが、なかなか機会が・・・

さ:壁が動くなんてびっくりだね

京:我ながらの名シーンだ

さ:迷シーンでしょ

京:・・・・・・

さ:ま〜だまだつづく〜