デモンバスターズ
第9話 第一の再会 ブラッディ・アルド
先日のエリクサーの依頼は、一件落着した。
ただ、あの後栞とさやかの奴が、俺がドラゴンを倒した話を随分誇張して話しまわったんで、何やら周囲の俺を見る目が少し変わったような気がしないでもない。
もっとも、基本的にいつも接してるような連中は変わらない。
名雪とか、琥珀・翡翠とか、折原・みさきとか。
あからさまに変わったのは香里と、道場の連中だな。
まぁ、それはいい。水瀬屋敷に居候するようになって二週間目。
今俺は居間の畳の上で昼寝をしている。
傍らには俺に投げ飛ばされてのびている栞もいた。祐一 「はぁ〜〜〜・・・いいところだな、ここは」
思わず本音が出た。
この陽気のせいだな。
何しろ、春真っ盛りだ。昔、あいつらと一緒にいた頃。
毎日が楽しかった。
しょっちゅう強い奴と戦って、勝っては笑って。
チビガキとは喧嘩して。
あの人には厳しい修行を課せられ。
とにかく充実していた。ここは、あそことは違う良さがある。
安らげる場所、って言うのか。
ここには、あそこにあったいいものはないが。
ここには、あそこになかったものがある。祐一 「・・・このままここにいるのもいいかもしれないな」
あの人のこと、秋子さんに探してもらってるけど。
だけどきっと、あの人は探してもらいたくないんだろうな。
じゃなければ、俺達の前から消えたりしないだろう。祐一 「・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・でも・・・
・・・・・・・・・・・・
祐一 「・・・やっぱりダメだな」
探さなきゃならない。
あの人はきっと今、一人だ。
そして何より・・・・・・。栞 「う〜ん・・・」
祐一 「・・・起きたか」
栞 「えぅ〜、寝込みを襲っても一本取れませんでした・・・」
祐一 「まだまだ工夫が足らん」
栞 「だって〜・・・ドラゴンをあっさり倒すような人にどう工夫したら一撃入れるなんてできるんですか〜」
祐一 「泣き言は聞かん。弟子にしてくれと言ってきたのはおまえだろ」
栞 「う〜」
まぁ、まだまだだな。
二週間程度で一本取られたら沽券に関わるっての。
《氷帝》の名に傷がつく。琥珀 「あ、祐一さんに栞さん、こんなところにいたんですか」
祐一 「よぉ、琥珀」
ここでこうしてると、たまに琥珀か翡翠がやってくる。
翡翠には掃除の邪魔と言われたこともあったか。
家事を受け持ってるこいつらが屋敷内に現れるのは当然のことだな。栞 「どうしたんですか?」
琥珀 「ついに出たんです、シルバーホーンの町にも」
祐一 「何だ、幽霊でも出たのか?」
琥珀 「そんな話は昔からありますよ、全部ニセモノでしたけど」
調べたのかよ。
琥珀 「ああ、浩平さんが何とかの理論とか極みとか言って」
ああ、そうかい。
昔っからああなんだな、あいつは。栞 「それで、何が出たんですか?」
琥珀 「昨今巷を騒がせている謎の怪人、黒衣の死神が」
何・・・?
何だ・・・黒衣の死神・・・なんだか引っかかる。
・・・まさかな・・・。栞 「あ、それ、私も聞いたことあります」
琥珀 「そうでしょう。その姿を目撃した人は、例外なく血まみれになっているという・・・」
栞 「うわぁ・・・怖いですね」
琥珀 「しかもこれは、怪しげな都市伝説じゃなく、実在する話なんです」
さやか 「物騒な世の中だね〜」
祐一 「・・・・・・」
さやか 「? おーい、ゆーいちくーん」
黒衣・・・死神・・・血まみれ・・・・・・まさか・・・。
さやか 「えいっ、ふぁいやー♪」
ボッ
祐一 「ん? どわちゃちゃちゃちゃっ!」
いきなり燃えてやがる!
な、な、何事だ!?栞 「ちょっ、さ、さやかさん!?」
さやか 「んも〜、いつもみたいに、いつの間に! とかつっこんでくれないんだもん」
栞 「だからって燃やすことは・・・」
さやか 「えっへへ〜、こんなあっさり燃やされるなんて、《氷帝》の名が泣くぞ〜♪」
祐一 「・・・・・・」
ぱちんっ
俺は指を鳴らした。
すると、さやかの頭上に大量の水が集まって落ちる。ざばぁーっ
さやか 「きゃー♪」
びしょ濡れになりながら楽しそうにはしゃいでやがる。
まったくこいつは・・・危うくフライド祐一になるところだったじゃないか。祐一 「冷凍さやかにしたろか、このアマ」
さやか 「あ♪ なんだか楽しそう〜」
祐一 「・・・・・・」
ダメだ。
こいつには何をしても無駄だ。
無駄を追求するなんて折原みたいなことは俺はしない。祐一 「俺は寝るぞ」
今日は特に仕事もないみたいだしな。
のんびりさせてもらおうか。・・・それにしても・・・黒衣・・・血・・・気になるな。
夕飯も終わった頃。
名雪 「う〜ん、どうしようかな〜?」
祐一 「何してんだ?」
この間ほどではないが、わりと深刻な顔つきでうろついている名雪を発見した。
名雪 「あ、祐一」
祐一 「また厄介な仕事でも入ったか?」
名雪 「厄介というほどじゃないと思うんだけど、ちょっとやってくれそうな人がいなくて」
なるほど。
この時間じゃ、折原とみさきもいない。
道場に連中もほとんどが帰ってる。祐一 「どんな仕事だ?」
名雪 「護衛。最近なんか物騒らしくて。しかも町長さんの家に暗殺の予告状が届いたとかで」
祐一 「それは、穏やかじゃないな」
今どき予告状とはレトロだが、本物だとしたら質が悪い。
名雪 「道場の人何人か引き受けてくれたんだけど、ちょっと心配で」
祐一 「おまえってわりと心配性だよな」
名雪 「当たり前だよ〜」
のんびりぽ〜っとしてるからな。
けど一応、よろず屋を秋子さんから受け持ってる責任みたいなのがあるんだろ。
こんな風に見えて、実は気苦労があるのかもしれない。・・・・・・主に仕事を受けてるのが折原じゃなぁ・・・。
祐一 「なぁ、名雪。折原との究極の寝坊談義はどうなった?」
名雪 「わたしに聞かれてもわからないよ。なんか色々聞いて勝手に話進めてくし・・・。みさきさんとさやかさんはしきりに横で頷いてたけど、わたしにはさっぱりだったよ〜」
祐一 「そうか」
それは災難だったな。
しかし、ほんとあいつは色々問題のある奴だよな。
一度道場で強いってことをしっかり認識してなかったら、ただのバカとしか思ってなかったぞ、実際。・・・ん、そういえば、暗殺の予告とか言わなかったか、こいつ。
祐一 「名雪、暗殺の予告って話、もう少し詳しく聞けるか?」
名雪 「詳しくって言われても、気持ち悪いものだったみたいだよ。血みたいな赤いインクで、“今夜、あなたの身を血で染め上げに参上する”なんて書いてあったって」
血・・・。
血か・・・。
予感が強まる。
昼間の話を聞いたときからずっと引っかかっていたもの。
まさか・・・な。
だが・・・。祐一 「場所はどこだ?」
名雪から場所を聞いた俺は、道場の連中と一緒に町長とやらの護衛についた。
別に俺としては、町長ってのがどうなろうが知ったことじゃない。
だが・・・黒衣の死神・・・そして血・・・・・・気になる。町長 「がっははははは、護衛は全部で五十人。しかも水瀬屋敷から精鋭六人が駆けつけてくれたのだ。どんな暗殺者が来ようと、問題ないわい!」
精鋭六人、か。
ま、確かにそうだな。
他の護衛は・・・はっきり言ってものの役に立ちそうもない。
道場から来てる五人は、さすがに腕は立つ。
だがもし、相手が俺の予感どおりだとすれば、こいつらはおろか俺でさえ・・・。平静を装いながら、俺は内心冷や汗状態だった。
ここへ来てから、ますますこの思いが強まっている。
この・・・空気・・・。祐一 「・・・・・・外れてくれるといいんだがな・・・俺の予感」
と思いながら、当たっていろという俺もいる。
もしかしたら・・・あの人に繋がる可能性もあるから。
そして、まず当たっていると思っている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
深夜・・・。
そろそろか。祐一 「・・・・・・殺気!」
来たか!
庭・・・複数だな。「うわぁっ」
「がはっ」
ちっ、やっぱり使いものにならない連中だ。
祐一 「あんたらは町長さんの周りを固めろ!」
道場の連中にそう言いおいて、俺は窓から外に飛び出る。
闇の中に浮かぶ黒装束の人影が五つ。
普通の暗殺者だ。
そこそこの腕だが、俺の相手じゃない。ザシュッ
不意打ち気味に一人目を倒す。
暗闇での、それも暗殺者の戦いでは音は厳禁だ。
どっちにとっても余計なものになる。祐一 「・・・・・・」
「・・・・・・」
両者無言で庭の茂みの中を飛び回る。
接近した際に一撃で倒す。二人目。
さすがにここへ来て俺を強敵と見なしたか、動きが変わった。
残った三人が連携を取り始めている。
面倒になる前にカタを付ける!ヒュッ・・・ザシュッ
三人目!
先手を打ってさらに一人仕留める。
残り二人になった敵は、前後から同時に仕掛けてきた。
そんな程度の戦法で、俺を倒せるものかよっ。右手に元々持っていた氷刀に加え、左手にも少し短めの同じものを出現させる。
二刀を前後に突き出し、二人の暗殺者を同時に片付ける。これで、五人。
確認した分は全て片付けた。
殺気はもう・・・・・・。ゾクッ!
違う!
こいつらは囮・・・いやただの別働隊だ!暗殺を依頼するのなら、複数の組織を雇う場合もある。
だが、俺が予感するあいつは、絶対にこんな雑魚と組んだりはしない。
こいつらとは別に動いてる。
しかも殺気は・・・町長の部屋からだ!俺は最大速度で元いた部屋に戻る。
少し考えれば、外の連中が囮のようなものだと気付けたろうに。
予感に囚われて、冷静さを欠いていた。祐一 「くっ・・・!」
窓から中を見ると、明かりが全て落ちていた。
暗闇の中、その闇よりも暗い黒衣の男が立っている。
その足元には、血に染まった死体が無数に。道場の連中は・・・!?
無事か・・・さすがだな。
多少傷は負ったようだが、問題なく動けるレベルだ。?? 「ふふふっ、なかなか歯応えのある人達がいますねぇ」
こ、この声は・・・!
?? 「まぁ、あなた方のお相手はまた後でするとして、まずは依頼を完遂しましょうか」
音もなく、黒衣の男が放心している町長に近付く。
道場の連中もまったく反応できない。?? 「それでは町長さん、ブラッディ・デス・・・血に塗れた死を」
間に合え!
カキィンッ
?? 「!?」
振り下ろされた刃は、町長に当たる前に弾かれる。
俺があらかじめ仕掛けておいた氷の壁が効力を発揮したのだ。?? 「これは・・・」
闇の中、俺と奴の視線が交差する。
一瞬の驚きの後、あいつは確かに・・・笑った。
そして消えた。祐一 「あんたら! ここを頼む!」
他に敵がいないとも限らないが、外で相手した程度の連中なら道場の面々で問題ない。
それよりもあいつだ!俺は消えた奴を追って外に飛び出した。
町長の家を離れ、街の屋根の上を伝って飛び回る。
そして、そこに奴はいた。
高い屋根の上に立って、こっちを振り向いて・・・俺を、待っていたな。?? 「これはこれは、お久しぶりですね」
祐一 「ああ、そうだな」
複雑な気持ちだった。
いつか思った。
もし俺達が別れ別れになることがあったなら、俺とこいつは真っ先に敵同士になるだろう・・・って。
それが今、現実のものとなっている。あいつが・・・敵として俺の目の前にいる。
黒いロングコートに、つばの広い黒い帽子。
まさに黒衣。
身に纏う血の臭い。
そして・・・桁外れに圧倒的な殺気。ピースが揃った。
黒衣、血、殺気。
あいつの存在を示す三つのピースがそろい、俺の予感は全て的中した。?? 「いつか言いましたよね。あなたは強くなると。それが楽しみだと」
祐一 「ああ、覚えてるよ」
?? 「実に楽しみですよ。あれから二年経ちましたね。あなたがどれくらい強くなったのか、本当に楽しみだ」
穏やかな声。
しかし、全身が痛みを訴えるほどの殺気を放っている。
こいつほど強烈な殺気を持った存在を、俺は他に知らない。?? 「ようやく巡ってきた機会です。さぁ、ブラッディ・デュエル・・・血に塗れて戦いましょう、《氷帝》相沢祐一君」
祐一 「アルド・レイ・カークス! ・・・・・・ブラッディ・アルド・・・」
つづく