デモンバスターズ

 

 

第8話 幻の霊薬を求めて 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香里 「邪魔よっ!」

香里の振るったロングソードが襲い掛かってきたモンスターを切り裂く。
名雪に祐一と栞のことを聞いた(さやかのことは既に頭にない)香里は、超特急でバアラ渓谷までやってきた。
数年前のことだが、鮮明に覚えている道のりを進んでいくと、モンスターの群れに出くわしたわけだ。

香里 「急いでるのに・・・!」

モンスターは次から次へと襲ってくる。
以前来た時とは、生息しているモンスターの数がまるで違った。

雑魚モンスターの攻撃など、今の香里にとってどうということはないが、足場が悪い。
徐々に香里は道から反れ、谷底へ追い込まれていっている。

香里 「栞・・・無事でいなさいよっ」

脳裏に浮かぶのは、かつての光景・・・。

この渓谷にエリクシアの花を探しに来て、それを手に入れた帰り道。
とてつもなく巨大で圧倒的な存在感を持った何かに遭遇した。
それがいったい何だったのかはわからない。
しかし、水瀬流の四天王と呼ばれるようになった今でさえ、思い出すと恐怖に震えるほどの存在。
そんなものがいる谷へ、二度と再び訪れることはないと思っていたが・・・。

香里 「栞!」

妹を想う一心で、香里は駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「ふんっ!」

ザシュッ!

氷刀で切り裂かれたモンスターの鮮血が飛ぶ。
これで十五匹目か。
ったく、雑魚のくせにうじゃうじゃと。
栞は・・・。

栞 「たぁっ!」

カキィンッ

栞 「えぅっ・・・・・・このぉ!」

何とか大丈夫そうだな。

ドスッ

栞の方を見たままで襲ってきたモンスターの眉間を貫く。

さすがに実戦ははじめてらしいからな、栞の動きはぎこちない。
それでも、この程度の敵から身を守るくらいのことはできている。

さやかの方は・・・。

 

さやか 「そーれっ♪」

鼻歌交じりの声でモンスターの中を飛び回っている。
あいつが通ったあとには、火達磨になったモンスターの屍が累々と。
やるな。

俺達は一旦栞を中心に一箇所に集まる。
襲ってきているモンスターは大体半分に減っている。

祐一 「面倒だな。大技で一気に決めるか」

さやか 「あ、じゃあそれ、私がやるよ」

祐一 「なら、俺がちょっくら足止めするか」

敵は円陣の中心に俺達を追い込んだつもりだろうが、追い詰められてるのはどっちか教えてやるよ。

さやか 「あ、そういえば君ってさ、異名とかないの?」

祐一 「はぁ?」

さやか 「二つ名とかさ。それだけ強いんだから、一つくらいそういうのがあってもよさそうじゃん♪」

祐一 「・・・そうだな」

確かに、旅先で会った強い連中は何故かそういう名前で呼ばれてることが多かった。
俺の仲間達も含めてな。
だから自然と、俺にもそんな名前はついた。

俺は力を込めて、俺達の周囲の水分に干渉する。
モンスターどもの足元に狙いを定め・・・。

祐一 「俺の異名、教えてやるよ」

一気に力を解放する。

パキーンッ!!

一瞬にしてモンスターどもの足が凍り付いて固められる。
360度全方位に対してだ。

祐一 「《氷帝》・・・それが俺の異名だ」

さやか 「そうなんだ」

今度はさやかの番だ。
周囲に浮かべていた炎がさやかの右手に集まっていく。

祐一 「おまえの方こそどうなんだ?」

こんな質問をわざわざするのは、その後で自分の異名を自慢したいからだろう。

さやか 「もちろん、あるよ♪」

右手に収束した炎が、螺旋を描くようにして俺達を囲み、周囲に広がっていく。

さやか 「私の異名は・・・・・・《ラブリーバーニング♪》」

祐一 「ら・・・!?」

ゴォオオオオオオオオ!!!

広がった炎が一気に爆発し、周りの全てを飲み込んで焼き尽くしていく。
見た目も派手で、威力も凄まじい、強力な魔法だ。

しかし・・・・・・なんなんだ、ラブリーバーニングってのは・・・。
インパクト強すぎ・・・というかなんというか・・・。

まぁいい。
これで全部片付いたか?

さやか 「あ、ちょっと焼け残っちゃった」

祐一 「詰めが甘いじゃないか」

面倒な。
お。

残っていたモンスターが二体、真っ二つになって倒れる。
その向こうから現れたのは、長剣を携えた美しい女剣士・・・美坂香里だった。

香里 「栞!」

栞 「お、お姉ちゃん?」

突然の姉の出現に驚いているようだ。
かくいう俺も驚いているが、たぶん名雪から聞き出して来たんだろう。
やばいな、怒鳴られるかな?

香里 「栞! 相沢君も、早くこの谷から逃げるわよっ!」

祐一 「は?」

栞 「ど、どうしたんですか、お姉ちゃん?」

栞の疑問ももっともだ。
いつも余裕を感じさせる態度を取っている香里に、今はその余裕がない。
まるで何かに怯えているような・・・。

祐一 「・・・・・・」

さやか 「・・・・・・残ったモンスターさん達、逃げちゃったね」

俺達に恐れをなした、わけではないだろう。
もっと大きな何かに恐れて逃げ出したんだ。

香里 「!!」

見る見るうちに、香里がガタガタと震えだす。
こいつがここまで怯えるなんて。

俺達は全員、その存在がやってくる方向へ振り返る。

そして、それは現れた。

 

栞 「ど・・・ドラゴン・・・」

それを見た栞の体も、また香里と同じように震えだす。
モンスターとしては地上最強といわれる存在、ドラゴンだ。
こいつはその中でも一、二を争う巨体を誇る、アースドラゴンだな。
赤銅色の鱗を持ち、翼は退化して飛べないが、パワーはおそらくドラゴンの中でも最大。

栞 「こ、こんなのが住んでたんですか・・・ここ?」

香里 「あなたは気絶してたから知らないでしょうけど・・・あたしはあの時もこいつに会ってるのよ。あの時は姿を見なかったけど、間違いないわ」

美坂姉妹はもう逃げることすら忘れ、ただひたすらに怯えている。
まぁ、こいつを前に並みの奴じゃそうなっても仕方がない。
が・・・。

 

祐一 「なんだ、ドラゴンか」

さやか 「ドラゴンだね♪」

俺とさやかはあっさりしたもんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名雪 「う〜、心配だよ〜。大丈夫かな〜、祐一達」

秋子 「名雪。心配しないでも、祐一さん達なら大丈夫よ」

名雪 「でも〜、あの香里があんなに怯えてたんだよ? そんなにすごいのがいるのかな〜?」

秋子 「たとえそうだとしても、何も問題はないわ」

名雪 「どうしてそう言い切れるの?」

秋子 「名雪。今この水瀬なんでも屋敷にはね、私が“絶対に勝てる”と言えない人が四人いるわ」

名雪 「四人?」

秋子 「そう。祐一さんと、斉藤さんと、浩平さん、そして・・・・・・さやかちゃん」

名雪 「さやかちゃんが?」

秋子 「ええ。私が勝てるかどうかわからない人が二人もいるのよ。何も心配する必要はないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栞 「ど、ドラゴンか〜って・・・ドラゴンですよドラゴン! 祐一さんドラゴンですってば!」

祐一 「俺の前でドラゴンドラゴンと連呼するな。嫌な奴を思い出す」

栞 「ででで、でも! ドラゴンって言ったら、地上最強のモンスターで・・・すごく強いんですよっ!?」

パニクってるな、栞の奴。
香里も放心状態に近いし。
やれやれ、わりと脆いな。
ま、仕方ないか。
この歳で実戦経験豊富なんてそうそうあるもんじゃない。

どうやら、さっきの音はやっぱりドラゴンの唸り声だったみたいだな。
しかし、はっきり言って、こんなドラゴン如きは問題じゃない。
俺は今まで、ドラゴン如きが小物に見えるほど強大な魔獣と死闘を繰り広げてきたんだ。
それこそ、世界の終末伝説にでも出てくるような魔獣とな。
それに、こいつより遥かに小さくて、遥かに強いドラゴンも知ってる。

祐一 「栞、どうやらおまえはまだ、おまえのお師匠様の力がわかってないようだな」

栞 「え・・・?」

祐一 「見せてやるよ。《氷帝》の本当の力を。格の違いって奴をな」

さやか 「うんうん。それに、この《ラブリーバーニング♪》だっているんだもんね♪♪」

祐一 「・・・頼むからその異名、俺のと並べないでくれ」

さやか 「《氷帝》あーんど《ラブリーバーニング♪》、いざ出撃〜!」

祐一 「はぁ・・・」

まぁいいか。
雑魚扱いしちまったが、ドラゴンとは久しぶりにやりがいのある敵に出会えたぜ。

祐一 「足引っ張るなよ、さやか」

さやか 「ほいほーい」

呆けている栞と香里の置いておいて、俺達はドラゴンに向かっていく。

 

これだけのサイズだ、使う得物も大きい方がいいだろう。
俺は手に大量の水を集め、普段のものより三倍は大きい氷刀を生み出す。
さやかの方も、さっきの倍以上の炎を出している。

グギャァァァアアアアアアアアアア!!!!!

咆哮とともにアースドラゴンが大地を踏み鳴らす。
それだけで辺り一帯に地震が起こった。

祐一 「こんな程度の揺れで!」

足止めにもならん!

あっという間に奴の足元まで達した俺は、今踏みしめた奴の足を下から斬り上げる。
硬い鱗も、分厚い表皮も、この大氷刀の前では大して役に立たん。

さやか 「ふぁいやー♪」

上ではさやかが奴の顔面目掛けて炎を放っている。

連続攻撃によって、ドラゴンは数歩下がった。
しかしすぐさま、強烈なブレスを吐き出してきた。

祐一 「やばいっ」

俺は引き下がって氷の壁を生み出し、そのブレスを防いだ。
硫黄の臭い・・・・・・これには毒があるな。
チッ、ガスのブレスか・・・厄介だな。

それに、アースドラゴンの属性は、五行でいうところの“土”。
五行相克においては、俺の“水”は“土”に負ける。
さやかの“火”は“土”を生み出すが、勝つというわけじゃない。
まぁ、これはあくまで相性の問題だから、そんなに気にすることじゃないんだが。
これでいくと、“土”に勝つのは“木”、風だ。

手っ取り早く片付けるために俺とさやかとで使える風の技は・・・。

ピンッ

思い浮かんだ。

祐一 「さやか、さっきの技、もう一度できるか?」

さやか 「さっきの?」

祐一 「あの螺旋の炎だ。俺と奴の間にそれを作れ」

さやか 「・・・・・・あっ、なーるほど。おっけー♪」

言われたとおり、さやかが炎を集めて魔法を使う。

さやか 「スパイラルバーニング!」

俺の眼前に炎の渦が生まれる。
それは奴のもとまで続いている。

祐一 「行くぜ!」

炎の渦の中心に回転を加えた氷の一撃を叩き込めば、温度差の影響で熱は激しい気流を生み出す。
威力が大きければ大きいほど、空気の流れは大きくなり、竜巻と化す!

祐一・さやか 「「バーニングブリザード!!」」

氷刀による俺の突きが螺旋の炎の中心を貫く。
空気の流れは物理法則に従い、熱い方から冷たい方へと流れ、空気の流れが生まれる。
やがてそれは、竜巻を生じさせた。

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!

 

巨大な竜巻はドラゴンの巨体をも巻き込んでいく。

 

グォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!

 

数千トンはあろうかというアースドラゴンの巨体が、遥か百メートル以上上空へと舞い上がる。
遥か彼方の谷間に・・・落ちた。
いくら生命力の高いドラゴンでも、あの高さから落ちればそうそう無事ではいられまい。
生きていたとしても、すぐに回復はできん。

さやか 「いぇーい♪」

一仕事終えたさやかがハイタッチを求めてくる。
俺は苦笑してそれに応じた。

祐一 「いっちょ上がりだ」

ぱちんっ

なんだかんだで、変な奴ではあるが、こいつは頼りになる。
それがわかった。

 

香里 「う・・・嘘、でしょ?」

栞 「す、すごい・・・」

唖然とする香里と栞。
当然だろうな。
自分達が絶対にかなわないと思ってる相手に、俺達があっさり勝っちまうんだから。
もっとも、ああは言ったものの、ドラゴンは手強い。
俺一人では、さやかがいなければもう少し苦戦しただろう。
合体技ができたお陰で楽に片付いた。
しかし、わざわざ自分から謙虚になることもない。

祐一 「わかったか。俺の力が」

栞 「は・・・はい (私は、もしかして物凄い人の弟子になったんでしょうか?)」

香里 「・・・・・・(あたしが絶対に勝てないと思ったモンスターを簡単に・・・・・・くっ・・・悔しい!)」

羨望の眼差しを向けてくる栞とは違い、香里は今度は恐怖ではなくもっと別の感情で震えているらしい。

祐一 「どうした?」

わかっているのに、わざわざそう聞いてやる。
案の定、香里はキッと俺のことを睨んできた。

香里 「・・・帰る!」

そう言ってずかずかと元来た道を戻っていった。
ふむ、これであいつもさらに強くなるかもしれんな。
楽しみが増えるってものだ。

・・・・・・はぁ、俺も昔あいつらにこうやって実力を見せ付けられながら育ったんだよなぁ。

さやか 「あ♪ あった」

祐一 「は?」

振り返ると、さやかが岸壁を指差している。
そこには、さやかの絵に描かれていたものそのままの花がたった一輪生えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく