デモンバスターズ
第6話 四天王揃い踏み
水瀬道場。
秋子さんが師範を務める水瀬流の道場で、常識的な観点から見ればかなりレベルは高い。
初日にいきなり一悶着起こしちまって、それ以来行っていなかった。
だが今日、ここで暮らし始めて五日ばかり経った日、四天王とやらが全員道場に揃うという話を小耳に挟み、ならば見に行ってみるかということで、今俺は道場に来ている。
「きぇーっ」
「とりゃぁーっ」
おお、この前よりも気合入ってるな。
やっぱり四天王とやらが出てくるからか。さやか 「いやー、君がこの間刺激したからじゃないかな」
祐一 「独り言に割って入ってくるなよ、おまえは」
はじめて会った時もそうだったな。
こいつの現れ方は物凄く不自然でありながら違和感を感じさせないんで、油断すると見逃す。祐一 「この五日間で個別には会ったが、全員揃うのははじめてだな。しかも四人目にはまだ会ってない」
さやか 「四人目・・・石橋さんが最年長なの。ついでに、秋子さんを除けばこの道場で一番偉い人」
祐一 「強いのか?」
さやか 「強いよ」
そりゃ、あの斉藤や香里と並んで四天王やってるんだ。
当然強いだろうな。
あの折原の実力だけはいまだに良くわからないんだが、少なくとも腕は立つ。ふと視線を感じた。
一つ・・・二つ、三つ。
栞がちらちらこっちを気にしてるのと、香里もこっちを見てる。
あとは・・・あのアンテナ、北川だ。北川 「おい」
その北川が俺に声をかけたことで、皆が手を止める。
同じような視線を俺に向けていた。祐一 「・・・ふ〜ん」
なんとも言えない視線だな。
あまり友好的ではないが、さりとて明確な敵意というわけでもない。祐一 「何か用か? 今日は見学のつもりだから、稽古の邪魔はしないぞ」
北川 「もう一度勝負がしたい」
率直だな。
この前負けたのがよっぽど悔しかったか。
あれだけ完膚なきまでにやられれば、そうもなるだろう。
しかし、この前の時は水瀬流を学んでいることに対する自負心があるように思えたが、今日はそれがない。
少しは自分の力を自覚したか。祐一 「フッ・・・いいぜ」
こういう風に向かってくる姿勢は好きだ。
だがこうなると、あまりなめてかからない方がいいな。祐一 「今日は木刀を使わせてもらうぞ。本当に本気で来ないと、怪我じゃすまない」
北川 「望むところだ。今日は無様にやられたりしないっ!」
目の色が明らかに違う。
しかし別の意味での気負いがあるように見えるのは何でだ?
こいつ・・・誰かの視線を気にしてる?道場の中央に向かう途中、軽くさやかと栞の方に目をやる。
すると俺の意図を察したか、二人ともまったく同じ方向を目で指し示した。
・・・なるほどね。五日前と同じ。
九歩の間合いで木刀と木槍を構えて対峙する。北川 「誰か審判を」
祐一 「香里がいいんじゃないか?」
北川 「!?」
祐一 「この中で一番偉いだろう?」
香里 「そうね。じゃあ、やらせてもらうわ」
北川が気にしてるのは香里の視線だ。
いいところを見せたいのかな?北川 「・・・・・・」
祐一 「・・・・・・」
さあ、来い。
香里 「・・・はじめっ!」
合図と同時に北川の槍が繰り出される。
前回と同じだが、鋭さが増している。祐一 「フゥッ」
紙一重で突きをかわす。
連続して突きが来る。
残像が残るほどのスピードで突いてくる槍を、俺は全て体の向きを変えるだけでかわす。
しかしこの間とは違い、俺は徐々にその場を動かざるをえなかった。
それだけ的確に俺の芯を捉えてくる。北川 「はぁっ!」
カツッ
何度目かの突きで、ついに俺は木刀を使った。
祐一 「・・・・・・」
北川 「・・・・・・」
槍と刀が合わされた状態で向かい合う。
お互いの呼吸を計っている状態だ。
これは・・・遊びじゃ勝てないな。遊びモードから試合モードに切り替えようとした時・・・・・・。
?? 「喝ッ!!!」
ビクッ!
道場全体が一つの声で震えた。
腹の底に響くような大音声を発したのは、上手の方の戸から入ってきた筋骨隆々とした男だった。
一目見ただけでその存在感を感じ取れる大きな男。
肌で強さをぴりぴり感じさせる。?? 「稽古をサボって何をしている」
「いえ・・・それは・・・」
決して厳しい声ではないが、門下生達が恐縮している。
?? 「美坂・・・おまえがいながら」
香里 「あら、おもしろいじゃないですか」
斉藤 「それに、北川君も負けたままではいられないでしょう」
続いて入ってきた斉藤も香里に同調している。
?? 「とにかく、勝手な真似は許さん。双方退け」
北川 「くっ・・・・・・はい・・・」
少し心残りといった感じながら、素直に引き下がる北川。
その存在感が示すとおり、あの男が道場内で持つ影響力は大きいらしい。
間違いなくあれが、四天王最後の一人。?? 「客人、門下の者が無礼を働いたそうで」
祐一 「いや、そうでもない」
?? 「道場を預かる身として、謝罪したい」
祐一 「気にしないでくれ。こっちが挑発したようなもんだからな。それに、なかなか楽しめた」
これだけの男が頭をしっかり礼を守って頭を下げる・・・。
まさに侍といった感じだな。?? 「俺は石橋剛健。この道場の師範筆頭を務めている」
祐一 「俺は相沢祐一」
かこーんっ
・・・・・・は?
非常に真面目な挨拶シーンに、不釣合いな音・・・。
何事だ?浩平 「うぃーっす、いやーまいったまいった。おい、その辺に手桶を放って置くのは、やめておけ」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
香里 「・・・・・・」
斉藤 「・・・・・・」
栞 「・・・・・・」
石橋 「・・・・・・」
祐一 「・・・・・・」
さやか 「・・・くすくす」
だから・・・あれのいったいどこがおかしいんだって。
「あの・・・そこに桶置いたの、折原さんです」
「もしかして・・・今のをやるためにわざわざ毎日掃除の時間にだけ来て桶を・・・」
浩平 「おまえらなー、ツッコミのセンスがないぞ」
などと言いながら折原は道場に入ってくる。
浩平 「よーし、今日はこれから俺がボケツッコミのなんたるかをじっくり講釈・・・」
祐一 「せんでいい!!」
浩平 「それだっ!」
グッと親指を立てる折原。
やっぱりわけわかんねー・・・。石橋 「・・・折原・・・」
石橋も頭を押さえている。
どうやらこの存在感ばっちりの侍殿にも、この男だけは御せないらしい。浩平 「ああ、ども石橋センセ、ひさしぶり」
石橋 「たまに顔を出す時くらい真面目にできんのか?」
浩平 「ヤダ」
石橋 「・・・・・・もういい。皆整列!」
声がかかると道場が一斉に動く。
俺は邪魔にならないように端に寄った。神棚の下、中央に石橋。
その左右に斉藤、折原、香里がそれぞれ座る。
四人と向かい合うように、北川や栞をはじめ門下生達が綺麗に並ぶ。
統率は見事なものだな。北川 「礼!」
号令とともに門下生達が頭を下げる。
四天王を交えての、本格的な稽古のはじまりだ。
元々密度の濃い、熱のこもった稽古風景だったが、石橋はじめ四天王の登場でそれがますます引き締まった。
まぁ、四天王と言っても八割以上は石橋の存在だな。
香里は最初からいたし、斉藤は何もしてない時はまるで雲のような奴だ。
そして折原は・・・まったくやる気がない。
本当にあれが四天王なのか、と思わず疑ってしまうくらいだ。石橋 「折原」
浩平 「ん?」
石橋 「来い、たまには体を動かせ」
浩平 「体なら毎日動かしてるからなぁ。夜も」
ギンッ
あ、今なんか異様な殺気が道場を包み込んだ。
なるほど、あんなバカップルでも、みさきは美人だからな。
羨望の対象というわけか。しかし・・・
バキッ
浩平 「うごっ」
祐一 「時と場所と節度を弁えてものを言え」
浩平 「うーん、今のは本気だったんだが」
祐一 「余計にタチが悪いわっ」
石橋 「はぁ・・・・・・いいから来い」
浩平 「うぃっす」
二人がそれぞれに木刀を持って前に出ると、稽古していた連中が左右に割れていく。
中央にスペースができて、そこで二人は対峙する。石橋 「真面目にやれよ」
浩平 「わかってますって」
グッという音がするような感じで石橋が木刀を正眼に構える。
ただの正眼、されど正眼。
全ての構えの基本中の基本にして、攻め守り全ての要素を兼ね備えた、もっともオーソドックスにして至高の構え。
それを改めて認識させられるような、石橋の構えだった。
まさしく、極められた正眼だ。
まったく隙がなく、威圧感が違う。
ただでさえ大きな体が、端から見ているだけで二倍三倍には大きく見える。
まともに対峙したら、十倍くらいに見えるかもしれない。それに対して折原は、納刀状態のように木刀を左手に持ったままだ。
あれは・・・木刀だからわかりにくいが、居合いの構えだ。
こいつはまた・・・なんて静かな構えだ。
石橋の構えが剛の極みなら、こっちは柔。
圧倒的な威圧感を放つ石橋を前にして、まったくそれを意に介していない。石橋が確か存在感と絶対の強さを示すものだとすれば、折原は得体が知れない。
石橋 「・・・・・・」
浩平 「・・・・・・」
全員が固唾を呑んで見守る。
先に折原が動いた。
下がっていた右手が木刀の柄にかかる。
と同時に石橋が振りかぶって踏み込む。石橋 「ぬんッ!!」
浩平 「む!」
キィーン・・・・・・・・・
一瞬後、二人の位置は入れ替わっていた。
おそらく、この場にいる九割の人間は何が起こったのか見えていなかっただろう。
それほどまでに、凄まじいスピードの攻防だった。
もちろん、俺には見えた。まず、踏み込んでいった石橋の刀が下ろされるよりも早く、折原の刀が抜き放たれた。
その剣は、紙一重でかわした石橋の鼻先を掠めていった。
一太刀目をかわした石橋は、振り上げた刀を折原の頭上へと振り下ろす。
本来居合いは抜いた状態を弱点とするが、折原の抜刀はそこで終わらなかった。
初太刀がかわされることは計算済みだったか、薙いだ勢いそのままに右回転で体をずらし、石橋の剣を回避したのだ。
さらに遠心力をたっぷりつけた二の太刀をがら空きになった石橋の背中へ・・・。
だが、石橋も振り下ろした刀を強引に背面にまで回し、折原の二の太刀を腕の力だけで弾いた。
弾かれた折原の刀は、一連の動作が終わった時にはもう腰のところに戻っていた。これだけのことが、一秒程度の間に行われていたのだ。
この動きを正確に見切るには、同レベルの技量がなければ無理だろう。それにしても、石橋の膂力にも驚かされたが、折原のあの抜刀は・・・。
木刀での居合いは、鞘走りがない分真剣よりもかなり遅い。
それであの速度とは・・・。
はじめて、折原浩平という男の本当の力を垣間見た思いだった。
栞 「えいやっ!」
祐一 「ほれ」
ばたんっ
栞 「えぅ〜」
祐一 「だから掛け声はいらんというに」
道場での稽古が終わり、屋敷の方に戻るところで恒例の栞特攻があった。
当然、玉砕だが。栞 「祐一さん、ちょっといいですか?」
祐一 「何だ?」
栞 「確認しておきたいことがあるんです」
祐一 「ふむ」
栞 「さっきの石橋先生と折原さんの立ち合いのことです」
祐一 「・・・ふむ」
話を聞いた。
栞の話というのは、栞が見たあの二人の動きを、俺に答え合わせしてもらいたいとのことだった。
聞いて少し驚いた。
栞はほぼ正確に、あの二人の動きを見切っていた。栞 「確かに凄かったんですけど、この間見た祐一さんの動きに比べると少し遅かったような気もして・・・」
この間ってのは、俺がモンスター退治をした時のだろう。
あの時はひさしぶりだったんで本気を出していた。
俺の本気のスピードよりは、今日の二人は劣っていたろう。
あいつらの本気と俺の本気を比べたらわからんが。それにしても、栞にあの動きが見えていたとはな。
あの中で完璧に二人の動きを見切れていたのは、俺と斉藤、香里、それにもしかしたらさやかくらいかと思ったんだが。
こいつ・・・いい目をしてるな。祐一 「フッ」
栞 「?」
祐一 「栞、さっさと俺から一本取れよ。でないと、いつまで経っても第二段階に入れないぞ」
栞 「もちろんです! えいっ!」
祐一 「ほれ」
栞 「えぅ〜〜〜」
ま、才能はあっても、実力はまだまだだがな。
つづく
一旦あとがきみたいな
平安京(以後“京”):ども〜、作者の平安京です
さやか(以後“さ”):はろはろ〜、るんるんる〜んのさやかで〜す♪
京:この回までで主要メンバーが出揃ったんで、一度ご挨拶を
さ:はいはい、しつもーん
京:何かな、さやかくん?
さ:タイトル“デモンバスターズ”なのに、デモンバスターズの人達全然出てこないじゃん
京:それはそれ、彼らは話の主軸であって、実際に本編は水瀬屋敷の人達を中心に進んでいくのだよ
さ:じゃあさ、タイトル“さやかと水瀬一家の愉快な日々”に変えない?
京:却下。次の質問に行きなさい
さ:じゃ、しつもーん。いつからここは質問コーナーになったんですか?
京:無駄な行を使うな! んなもん、都合だ!
さ:それじゃ次、この話の真のヒロインは私でおっけーですか〜?
京:さあな。最初は楓かと自分でも考えてたんだが、序盤出番ないし。便宜上、祐一にくっついてる暫定ヒロインがいるだろうと思ってはいたが
さ:それが私!
京:と、栞だ。二人の出番はまぁ、たぶん水瀬屋敷のメンバーの中で一番多い
さ:京さん、私のこと好きだもんね〜♪
京:ああそうだよ悪いかよ。とっとと次行くぞ
さ:祐一君強いけど、強さの順列はどんな感じなの?
京:それは一部ネタバレにもなるからな。今のところは、祐一がいて、秋子さんがいて、四天王とみさきがいて、北川がいて、栞がいる感じだろう
さ:設定のまんまじゃん。私は?
京:それは次回のお楽しみだ
さ:他の人達は?
京:ぼちぼちわかっていくだろう。先を焦るな
さ:じゃあ、最後の質問。デモンバスターズの人達はいつ頃登場するんですかー?
京:プロローグから
さ:ボケいらなーい
京:1話から祐一
さ:はいはーい、真面目にー
京:あくまで予定だが、9話、13話、19話辺りで一人ずつ登場するかもしれない。あと、回想みたいな感じの話が途中に入ると思うから、そこで全員出ると言えば、出る
さ:なるほどなるほど。じゃ、もひとつ。この話はどこまで続くんですかー?
京:命ある限り!
さ:嘘だね♪
京:・・・・・・・・・
さ:それではみなさん、引き続き“デモンバスターズ”の応援、よろしくね〜♪
京:お読みいただければ幸いです