デモンバスターズ

 

 

第3話 水瀬家の人々

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故こういうことになったのだろう?

さやか 「あにょはせお〜、晩ごは〜ん♪」

美凪 「・・・あにょはせお」

名雪 「二人とも、ごはんの時は、いただきます、だよ」

香里 「あ、名雪、しょう油取ってくれる?」

栞 「お姉ちゃん、私にもください」

往人 「むぐむぐむぐ・・・美味いぞ琥珀」

翡翠 「私は翡翠です」

琥珀 「あはー、往人さんまだ覚えないんですかー?」

秋子 「うふふ、やっぱり大人数で食べるのは楽しいわね」

祐一 「・・・・・・」

・・・わからん。
いや、とりあえず状況を説明しておくか。
今俺は、水瀬家の晩の食卓にいる。
何故といって強引にお呼ばれされてしまったのだから仕方がない。
で、来てみればこの人数だ。
一応自己紹介は受けたので整理しておこう。

まず上座に座ってるのがこの屋敷の主、水瀬秋子さんだ。
この人は・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間ほど前――。

祐一 「あんたが水瀬秋子か?」

秋子 「ええ、そうですよ」

祐一 「色々と情報通だって聞いて来たんだけど?」

秋子 「そうですね。人より少し物を知っているかもしれません」

祐一 「なら単刀直入に・・・人を探してる」

俺はそう言って探し人のことを細かく彼女に説明する。
聞きながら秋子さんは考える仕草を何度かしていた。

秋子 「・・・すぐに思い当たる人はいませんね」

祐一 「やっぱりか」

別に期待してたわけじゃない。
こんなのはいつものことだ。
・・・ちょっとがっかりはしたが。

秋子 「ですが、少し時間をかければかなりの情報を集められますから、見つけられる可能性は高いです」

祐一 「本当か!?」

秋子 「この大陸上のことなら、大抵の話は入手できます」

祐一 「そうか」

まだ、望みはあるかもしれないか。

秋子 「ところで・・・」

祐一 「ん?」

秋子 「祐一さん、私のことを覚えていませんか?」

祐一 「は?」

覚えているも何も、俺とこの人は初対面・・・・・・あれ?
本当にそうだっけ・・・。

秋子 「祐一さんは、相沢一族の生き残りでしょう?」

祐一 「ど、どうしてそれを!?」

秋子 「簡単なことです。私も相沢一族の出身なのですよ」

祐一 「!?」

相沢一族。
それは異能の力を受け継ぐ家系の名称だ。
その力を恐れた権力者によって、七年前に滅ぼされた。
俺一人を残して。

秋子 「私の姉の名は、相沢夏海と言いました」

祐一 「母・・・さん?」

じゃあ、この人は俺の・・・。

秋子 「だから、祐一さんがまだこんな小さい頃、私はあなたに会ったことがあるんですよ」

そう言って秋子さんが地面から十センチくらいの位置に手のひらをかざす。

祐一 「いや待て、生まれたばかりでももう少し大きいぞ」

秋子 「うふふ、冗談です」

なんだかなぁ・・・。
それにしても、この人が俺の叔母さん?

秋子 「どうですか、祐一さん、そのお探しの人が見付かるまでここで暮らしては」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだった。
それでこんなことになってるんだよな。

まぁ、それでだ。
上座の秋子さんから見て右側に俺がいる。
そしてのその俺の向かい側にいるのが、水瀬名雪。
秋子さんの娘。
つまり俺の従姉妹にあたるわけだな。
おっとりしてはいるがしっかり者に見える秋子さんと、顔は似てるんだがこっちは本物のおっとりさんだ。
というかぽけぽけだな。
もっとも、俺がこいつの真の恐ろしさを知るのは、一晩明けてからのことなのだが。

続いて、俺の列にずらり並んだ三人。
こっち側から、白河さやか、俺と最初に会ったおてんこだな。
次に遠野美凪、それでもって国崎往人だ。
三人とも何かしらの理由で、この屋敷の居候しているらしい。
さやかはさっき説明したとおり。
美凪はぽーっとした子で、一見知的かと思えばわけのわからないことを口走ったりする。
ほんのちょっと話しただけだが、わけのわからない奴だ。
国崎は旅芸人らしいが、ちょっと見せてもらった芸とやらはつまらなかった。
確かに能力面では驚けるのだが、芸としては三流だな。
そう言ったら落ち込んでたが。

反対側、名雪の列にいるのは、美坂香里と美坂栞。
この二人は姉妹らしい。
妹の栞にはさっき道場で会ったな。
香里の方は、今はじめて会ったが、ひとつ言えるのは。
こいつはあの斉藤にも劣らないくらい強い、ということだった。
斉藤が四天王がどうとか言ってたから、こいつもその一人かもしれない。
さっき道場で見た中にそれらしい奴は他にいなかったから、後二人は同じくらい強い奴がいるってことか。
少しはつまらなくなさそうだな。

一番末端の席にいるのが、琥珀と翡翠。
琥珀はさっきさやかと一緒に街で会った着物の子だ。
翡翠はその双子の妹ということで、二人並ぶと良く似ている、というか瓜二つ。
見分ける手段は服装、琥珀は着物に割烹着で、翡翠はメイド服だ。
或いは瞳の色、それぞれ名前と同じ色をしている。
後は表情、琥珀が終始笑顔なのに対して、翡翠はにこりともしない。
とにかくこの二人は、ここの家事を受け持っているらしく、この料理は全て琥珀によるものだそうだ。
なるほど、美味い。

 

 

とまぁ、全員の紹介が終わったところで、都合よく食事も終わった。

さやか 「さてと、それじゃさっそく・・・」

祐一 「ん?」

さやか 「新居人の祐一君による、自己紹介たーいむ!」

琥珀 「いえぇーい!」

美凪 「・・・いぇーい」

なんか一部で妙な盛り上がり方をしてる連中がいる。
テンションの高い奴らだ、最初に会った時からわかってたが。
もっとも、若干一名、同調してるくせにテンションの低い奴もいるが。

名雪 「うん、わたしも祐一のこと知りたい」

香里 「あたしも興味あるわね」

栞 「わ、私もですっ」

往人 「んぐんぐ・・・おかわりくれ」

翡翠 「もうありません」

まったくこっちを気にかけてない奴らもいたりするな。

秋子 「そうですね。これから一緒に暮らすんですから、お互いのことを良く知っておいた方がいいですね」

祐一 「けど、大体それぞれに会った時に簡単なことを言いましたよ?」

さやか 「ちっちっちっ、わかってないな、祐一君。こういうのは雰囲気なんだよ」

琥珀 「そうそう。やっぱりみんな揃ってからの自己紹介は基本ですよ」

どういう雰囲気で、何が基本なんだか。
さっき思ったとおり、この二人に関しては妙なのに引っかかった。
犬にかまれたって感じなのかな。
でもまぁ・・・・・・つまらなくはない。

祐一 「じゃあまぁ、しょうがない」

リクエストもあることだし。
しばらくは厄介になるんだ、自己紹介くらいしてもいいだろう。

祐一 「相沢祐一、十八歳だ。職業は特にない、あちこちをぶらぶらしてるよ」

栞 「・・・それだけですか?」

琥珀 「もっとこう、趣味とか、特技とか」

祐一 「趣味は・・・今は特にないな。特技ね・・・」

そうだな、アレを披露してもいいか。

祐一 「なら、こんなのはどうだ?」

俺は皆が注目する中、右手を顔の前にかざす。
上に向けられた手のひらの上にあるものが集まっていく。
やがてそれは誰の目にでも見える形となって現れた。

名雪 「水?」

祐一 「そのとおり」

水となって集まったものをさらに凝縮していく。
最終的にはピンポン玉くらいの大きさの氷の塊になった。

琥珀 「おおー」

栞 「すごいですっ」

祐一 「ほれ」

出来上がった氷を隣にいるさやかに手渡す。

さやか 「わっわっ、冷たい冷たい〜」

直接手で持ったら冷たいだろうな。
本物の氷なんだから。

さやか 「美凪ちゃん、パス」

お手玉していた氷をさらに横にいる美凪に方ってよこす。
キャッチした美凪はしばらくじーっと考えていたが、やはり冷たかったのだろう。

美凪 「・・・国崎さん、パス」

往人 「もが?」

呼ばれて振り向いた国崎の口の中に氷を押し込む。
何事かという顔をしていた国崎は、そのまま口を動かしてボリボリ音をさせながら氷を食った。

ボリボリ

往人 「んぐ・・・・・・不味い」

祐一 「そりゃそうだ」

ただの氷だからな。
不純物を含まない純水とは言え、だからと言って美味いわけはない。

琥珀 「へぇ〜、おもしろいですね」

祐一 「ま、こんな特技ならある」

名雪 「他にはないの?」

祐一 「後は剣を少し使う程度だ」

香里 「少し、ねぇ」

意味深な表情を向けてくる香里。
なんとなく威圧感を感じないこともない。

香里 「北川君をあっさり退け、斉藤さんと互角の勝負をしておいて少しなのね」

祐一 「少しだな。俺は、俺より遥かに強い連中のことを知ってるからな」

そう、だから俺程度の腕では少しだ。
決して水瀬道場の連中が弱いわけじゃないが、俺が知っている世界とは次元が違うんだ。

香里 「是非あたしも、一度手合わせしてみたいわね」

祐一 「機会があったらな」

しばらくはここにいることになりそうだし、機会はいくらでもあるだろ。
あの斉藤や、この香里みたいな実力者がいるなら、退屈はしないだろう。
けど、人探しもしてもらって、その上ただ居候するんじゃ心苦しいな。

祐一 「秋子さん、ここにいる間、何か俺にできることってあるかな?」

親しき仲にも礼儀あり。
これもあの人から言われたことだ。
あんまり守ってないけど。

秋子 「そんなに気にしないでもいいんですよ、祐一さん」

さやか 「そうそう、私達だって居候の身だけどなーんにもしてないし」

翡翠 「何もしてらっしゃらないのは、さやか様だけです」

香里 「そうね。他はみんな、多かれ少なかれよろず屋の仕事はしてるし」

さやか 「う・・・」

ハイテンションまっしぐらだったおてんこ娘がはじめて言葉に詰まった。
自覚はあるらしいな。
つまりこの中でこいつだけがプータロー状態というわけか。
・・・こいつのお仲間はなんかヤダ。

祐一 「というわけで秋子さん、俺にも仕事くれ」

秋子 「そうですか? じゃあ、やっぱりよろず屋の方ね。詳しくは名雪に聞いてください」

祐一 「了解」

さやか 「私の立場・・・もしかして悪い?」

つんつん

美凪 「・・・のーぷろぶれむ」

さやか 「美凪ちゃん?」

美凪 「・・・私と国崎さんもほとんど何もしていません」

さやか 「あ、そっか」

往人 「ちょっと待て。よろず屋の客引きしてやってるだろ?」

名雪 「往人さんの芸と美凪ちゃんの占い屋・・・まったく人集めてないよね」

往人 「ぐはっ」

さやか 「えっへへ〜、おっなかまおっなかま♪」

美凪 「・・・お仲間・・・いぇー・・・」

・・・・・・うん、こいつらのお仲間はヤダ。
仕事しよう。

香里 「剣の腕立つんだし、道場で指南役って手もあるんじゃない?」

祐一 「うーん・・・俺の剣は完全な我流だからな。それに、さっきので道場の連中には反感を買ってると思うし」

それに人に教えるのは苦手だ。

香里 「そう、残念ね。たまには顔出してよ」

祐一 「そうするよ。そう言えば、さっき斉藤が四天王とか言ってたんだけど、道場にはそんなのがいるのか?」

香里 「ええ、いるわよ。ちなみに、あたしもその一人」

やっぱりな。

香里 「後斉藤君はもう知ってるとして、他に二人、石橋さんと折原君」

祐一 「そいつらも、やっぱり強いのか?」

香里 「そうね。たぶん斉藤君が一番強いと思うけど・・・・・・なんだ、やっぱりあなたも強い人が好みな質?」

祐一 「かもしれん」

何しろここ二年ほど全然本気を出した覚えがない。
それ以前はぎりぎりの戦いだって何度も経験してるのに。
久々に強いのがごろごろしてる場所に来たんで、興味を持って当然だ。

香里 「あともう一人、強い人はいるけど・・・・・・あ、そうそう、当然秋子さんも強いわよ」

秋子 「あらあら、こんなおばさん相手にしてもつまらないでしょう?」

祐一 「とんでもない。十分若いでしょう。そのうちお手合わせ願いたいものだよ」

秋子 「お手柔らかに」

今聞いた道場関連の人間だけじゃない。
この食卓にいる半分・・・栞と名雪はそれほどでもないが、あの双子、それに国崎と美凪、さやかもなんとなく得体が知れない。
どうやら・・・・・・おもしろくなってきやがった。

 

こうして、俺は水瀬家の居候となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく