デモンバスターズ

 

 

第2話 対決!水瀬道場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「水瀬・・・・・・なんでも屋敷」

なんつー表札だ。
冗談としか思えないネーミングなんだが、実際中の様子を見ると、ああなるほど、と思えてしまう。
まず広い。
いったいどこからどこまでの水瀬とやらの敷地なのかよくわからないが、聞くところによる、とりあえず見えるところ全部らしい。
見えるもの・・・山だな、ちょっとした。
まぁ、土地のことはともかく、主要な建物は四つ。
本屋敷に、何でも屋?、温泉宿に、道場。

さっきの二人。
お嬢様なおてんこ娘が白河さやか。
着物の女の子が琥珀。
ともにここの住人らしい。
で、ここまで俺を連れてくるなりどこかへ消えやがった。

祐一 「どうしろってんだ・・・?」

こんなだだっ広い場所に一人置いておかれても、さっきと大して状況が変わらんじゃないか。

祐一 「ふぅむ」

じっとしてるのもつまらないので、その辺をぶらぶら歩く。
やはり広い。

そして思い出すのが、酒場で聞かされた場所のこと。
そういえば、あの時は適当に流していたから忘れかけてたけど、水瀬って言ってたよな、確かあのマスターも。
眉唾と思ってたけど、これだけの規模の土地を持っている人なら、国家機関とまではいかなくてもかなりの情報網を持っている可能性も・・・。

祐一 「ん?」

ふと、声がしてそちらを振り向く。
何かを打ち合う音と、大勢の気合声が聞こえる。
なるほど、道場があるとか言ってたが。

祐一 「覗いてみるか」

ただ闇雲に歩き回るよりは、つまらなくないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 「てやぁー」

 「うりゃぁー」

気合とともに木刀やら竹刀やらが打ち合わされる。
思ったとおり、やってきた場所は武術の道場だった。
ざっと数えて・・・三十人くらいか。

祐一 「道場の大きさのわりには少ないな」

スペースがたっぷりある。
お陰で皆存分に暴れまわれているようだが。

祐一 「・・・・・・」

二十人くらいが左右に分かれてそれぞれに稽古をしている。
他の連中は素振りをしてたり、動きを模索してたり、ただ稽古を見てたりしている。

少し見てわかったが、ここにいる全員、酒場でのした連中とは比べ物にならないくらい強い。
そこで思い出した。
水瀬流。
少数派だが、大陸でも一、二を争うとも言われる流派の名前だ。
表札のインパクトに圧されて、すぐには繋がらなかった。

しかし・・・・・・。

祐一 「・・・大したことないな」

ぼそっと。
本当は声に出すつもりはなかったんだが、どうも俺はたまにこうやって思ったことが口に出てしまうらしい。
それが原因でいらない諍いが起こることもある。
今回も、どうやら目敏く聞きとめた奴がいた。

?? 「おい、おまえ。今、大したことないとか言わなかったか?」

またでかい声で。
お陰で全員が手を止めてこっちを注目してるじゃないか。

俺の独り言を聞きとがめてきたのは、俺と同い年くらいの、アンテナみたいな跳ね髪が特徴の、木製の槍を持った男だった。
動きを見る限り、たぶんこの中じゃトップクラスの使い手だろうが・・・。

祐一 「ああ、言ったな」

大したことないことに変わりはない。

アンテナ 「言うじゃねぇか。ここを水瀬道場と知って言ってるのか?」

祐一 「そうだな」

アンテナの言葉には、怒りよりも嘲りが感じられる。
俺の言葉を戯言か見栄とでも思っているのか。

祐一 「フッ」

アンテナ 「何がおかしい?」

祐一 「いいや。ただ、水瀬道場ってだけでそんなに偉そうにできるのかな、ってな」

道場にいる連中の目つきが少し変わった。
さすがに怒ったか?

アンテナ 「言うじゃねえか。そこまで言うんだから、おまえは相当強いんだろうな」

祐一 「少なくとも、ここにいる全員よりはな」

アンテナ 「おもしれぇ! 上がりな、勝負してやるよっ」

乗りやすい奴だ。
こうもあっさり挑発に乗るとはな。
かなり悪し様に言ったが、こいつの実力はなかなかのものだろう。
久々につまらなくない相手になるかもしれない。

祐一 「んじゃ、お邪魔するぞ」

靴を脱いで、裸足で板張りの道場に上がる。
勝負のためか、中央付近にいた連中が周囲に散っていく。

祐一 「得物はあるか?」

アンテナ 「木刀ならそこにかかってるぜ」

祐一 「うーん・・・竹刀はないか?」

アンテナ 「何?」

祐一 「木刀だと危ないだろ。お、あっちだな」

俺は竹刀がかかっている壁の方へ歩いていく。

祐一 「竹刀、借りていいか?」

ちょうどそこに女の子がいたので、一言断ってから竹刀を一本手に取る。

女の子 「えっと・・・はい、どうぞ」

手にした竹刀をその場で二、三回片手振りする。
うむ、悪くない。

アンテナ 「おい待てよ。木刀が危ないってのはどういう意味だ?」

祐一 「木刀だと、当たり所が悪いと怪我どころか死ぬこともある。竹刀なら、怪我はしても死ぬことはまずない。安全だろ」

 「こいつ、ちょっと調子に乗りすぎだな」

 「おい北川、構わないからやっちまえよ」

北川? 「ああ、もちろんそのつもりだ。ここまでコケにされて黙ってられるか」

俺と、北川とかいう槍を持ったアンテナ男が道場の中央で向かい合う。
相手の得物は当然木製の槍から変わっていない。

北川 「俺はこのままこいつで行くぜ」

祐一 「ああ、構わん。俺は別に危なくないから」

さすがにここまで挑発行為を繰り返すと、相手は怒髪天状態だな。
それくらいになってもらわないと張り合いがない。

大体道場での基本、九歩離れた間合いで対峙する。
相手は両手で持った槍の先を地面すれすれにした状態で構えている。
俺はただ右手に持った竹刀をだらりと下げているだけだ。

北川 「おい、誰でもいいから合図しな」

女の子 「あ、じゃあ、私が」

さっきの竹刀のところにいた女の子が輪の中から抜け出てくる。

北川 「栞ちゃん、頼むよ。けど危ないからもう少し下がって・・・」

祐一 「いいさ。そっちの方には行かないようにするから。栞って言ったな、頼むよ」

栞 「はいっ。では・・・・・・」

北川 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

緊張感が高まる。

栞 「・・・はじめ!」

合図と同時に北川が大きく踏み込んでくる。
速い。
下から跳ね上げられた槍の切っ先がまっすぐ突き出されてくる。
いい突きだが・・・。

祐一 「ふぅっ」

軽く体をひねっただけで、俺はその突きをかわす。
即座に槍を引いた北川が第二撃を繰り出してくる。
続けて三回、四回と次々に繰り出される突きを、俺は全て紙一重で見切って回避する。
この間、俺は最初に立っていた場所から一歩たりとも動いていない。
十回以上突きをかわされてから北川もそれに気付いたのだろう。
足元を狙ってきた。
ここで俺ははじめて自分の竹刀を使う。

バチッ

軸足となっている俺の左足に向けて放たれた槍を、俺の竹刀が弾く。
弾かれた槍を北川は頭上で旋回させ、真上から振り下ろしてきた。

北川 「つぇぁっ!!」

バンッ

これは床を叩く。
俺はこの一撃もその場にいる状態でかわした。
槍を振り下ろした状態の北川に対し、俺の竹刀が下から振り上げられる。

北川 「チッ・・・!」

それをかわすために、北川は大きくバックステップする。
だがすぐさま取って返し、再び強烈な突きを放ってきた。

祐一 「!!」

ピッ

北川 「な・・・!?」

だがその突きは、俺が無造作に突き出した竹刀の先で止められていた。
別に驚くほどのことじゃない。
俺はこれと同じことを真剣でやることも可能だ。
竹刀の広い切っ先ならたやすいことだ。

北川 「ぐ・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

一見押さえているだけに見えるこの状態だが、微妙な力加減で押すことも引くこともできないようになっている。
下手に槍を引けば、俺の一撃が確実に北川の体を捉える。

北川 「な・・・っめんなよっ!!」

それを承知の上で、北川は槍を引いた。
ただ引くのではなく、同時に俺の竹刀を弾くことによって反撃を封じた。
しかし、その程度の動きで俺を倒そうなど、笑止だな。

北川 「おらぁっ!!」

おそらく渾身の一撃であろう突きを、俺は竹刀で受け流しつつ、一緒に突っ込んできた北川の体を掴んで引き倒した。

ドタンッ

北川 「がっ!」

その頭上に、逆手に持った俺の竹刀が落とされようとする。

栞 「そこまで! 勝負あり!」

俺の竹刀は、北川の顔ぎりぎりの所で止まっている。
もちろん最初から寸止めするつもりだったが、栞の終了の合図はいいタイミングだった。
俺が止めようとするよりも早く止めに入ったからな。

祐一 「勝負ありだとよ、北川」

竹刀をどけてそれを自分の肩に乗せる。
負けた北川の方は呆然としているらしく、まだ起き上がれないでいる。
完全な敗北だからな、落ち込みもするか。
試合の方も俺が圧勝してるし、北川が汗だくなのに対して俺は息一つ切らしてない。
この北川もいい線行ってたが、やっぱり俺の相手じゃなかったか。

祐一 「・・・ん?」

周りを見渡すと、殺気だった連中が十人ばかり、木刀やらを持って俺を囲んでいる。

祐一 「何の真似だ?」

 「おまえ、いったい何者だ?」

 「散々俺達を馬鹿にしやがって、ただで帰れると思うなよ」

しまった。
挑発しすぎたか。
別にこの場にいる全員相手にしたって勝てるけど、こういうのはつまらないじゃないか。

栞 「ちょ、ちょっと待ってください! この人は正々堂々戦って勝ったのに、これはないんじゃないですか!?」

審判をしてくれた子、栞が皆を押しとどめようとするが、効果はない。

 「退いてろ、栞ちゃん」

 「水瀬流をコケにしてただで済ませられるか」

面倒なことになったな。
逃げるか?

 

?? 「何の騒ぎだ?」

 

と、たった一声で道場全体の注目を集める声がした。
見れば入り口のところに、背の高い痩せ気味の男が立っている。
穏やかそうな表情と裏腹に、眼光は鋭い。

こいつ・・・強い。

 「斉藤さん!」

 「いいところに来てくれた。実は・・・」

門下生の奴らがことの次第を斉藤という男に説明している。
さて、どう反応してくるか。

斉藤 「ほぅ、なるほどね。まさか北川君がそうもあっさり負けるとは」

男は道場に上がると、視線は俺の方へ向けたまま、竹刀が置いてある壁の方へ歩いていく。

斉藤 「酒場で見かけた時から只者ではないと思っていたが」

あの時あそこにいたのか、こいつ。

竹刀を手に取った斉藤が俺の前まで歩いてくる。

斉藤 「どうかな?」

祐一 「ああ」

それ以上の言葉はいらなかった。
俺とこいつは、お互いに強さを感じ取って、やり合いたいと思っている。
それだけで十分だった。

空気を感じ取って、周りに集まっていた門下生達が再び引いていく。
もちろん北川も、栞も今度は下がった。
俺達の対決には、審判もいらない。

斉藤 「・・・・・・」

すぅっと斉藤の竹刀が下段に下がり、そのまま右から回して後ろに持っていく。
いわゆる脇構えというやつだ。

祐一 「・・・・・・」

対する俺は、右肩に担いだ竹刀をそのままに、左手も柄に添える。

遊び心を出してたさっきの試合とは違う。
俺の目も、斉藤の目も鋭い光を放ち、真剣そのものだ。
高まる緊張感が周りにも伝わり、誰かが唾を飲み込む。

祐一 「!!」

斉藤 「!!」

まったく同時に、二人の目がカッと見開かれる。
それに伴い、両者ともに踏み込み。
斉藤の剣は右下からの逆袈裟、俺の剣は右上からの袈裟懸け。
どちらも凄まじいスピードで竹刀が振られる。

バチィンッ!!!!

二つの竹刀が打ち合わされる甲高い音。
そして、砕けた竹刀の先が二本、宙を舞った。

祐一 「・・・・・・」

斉藤 「・・・・・・」

互いに剣を振りぬいた状態で止まっている。
どちらの竹刀も、打ち合わされた場所から折れ飛んだのみならず、握っている部分から残った部分全体にもひび割れが入っている。
俺達の技に、竹刀が耐えられなかったのだ。

斉藤 「引き分け」

祐一 「だな」

世の中まだまだ広いな。
こんなに強い奴がいるなんて。
久々に熱くなれたぜ。

斉藤 「うちの者が迷惑をかけたかな?」

祐一 「いや、俺の方にも問題がなかったとも言えん。気にしないでくれ」

斉藤 「わかった」

祐一 「それよりも悪かったな。竹刀壊しちまった」

斉藤 「それは俺も同じだ。気にしないでいい。すまないが、誰か片付けておいてくれ」

 「あ、は、はいっ」

言われて門下生の何人かが飛び散った竹刀の欠片を拾い集めていく。
どうやら実力があるのみならず、この斉藤という男はこの道場でも高い位にあるらしいな。

さやか 「あ、いたいた〜。君こんな所にいたんだね」

とそこへ、さっき人をほっぽらかしてどこかへ消えた白河さやかが道場に顔を出した。

斉藤 「なるほど、彼女の客人だったか」

祐一 「う〜ん、そうとも言うし、ちょっと違う気もするな」

どちらでもいいらしく、斉藤はもう俺に背を向けて道場を後にしようとしている。
背中を向けたといっても、意識は尚も俺に向いていた。
仮に背中に向かって仕掛けても、この男を倒すのは一筋縄ではいかないだろう。

斉藤 「そうそう、名前を聞いていなかったな。俺は水瀬道場門下四天王の一人、斉藤元」

祐一 「俺は相沢祐一だ」

斉藤 「相沢祐一。次は・・・真剣で」

そう言って斉藤は道場を出て行った。
真剣で、ね。
今度あいつとやりあう時は、どっちかが死ぬ時かもな。

さやか 「ほらほら、早く来て来て〜」

祐一 「わかったって。んじゃ騒がせたな。また後で寄るかもしれないんでよろしく」

一応そう言い残し、俺はさやかに引きずられるように道場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく