こんな展開もあり?
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「よっし!時間ぴったり!」

タイミングを計って、路地から出て行き、クラスメートとその兄に声をかける。

「雪希ちゃーん、せんぱーい、おはようござい・・・」

とすっ

「はぅ・・・・・ぷるぷる」
「わっ、お兄ちゃんいきなり・・・」

路地から飛び出してきた相手に対してその男、片瀬健二はチョップをお見舞いした。
絶妙な角度で決まったそれに、喰らった相手は青い顔で白目をむいている。

「また朝からうるさいのに会っちまった・・・」
「だからって、いきなりチョップは・・・」
「パチッ・・・はっ、そうですよ先輩!ひどいじゃないですかいきなり打つなんて!まだ何も言ってなかったですよ。ただ普通に挨拶をしただけなのに叩くなんて、そういう暴力的な性格だと、そのうちニュースで取り上げられたりしちゃいますよ。青年の家庭内暴力とかって。そうなったら先輩本人はともかく雪希ちゃんがかわいそうじゃないですか!大体なんですかそのだらけた顔は!元気が足りませんよ!朝からそんな調子じゃ、大切な一日を棒に振ります!そもそも先輩は・・・」

とすとすとすっ

「う゛・・・・・ぷるぷる・・・かく」
「わわわっ、進藤さん!」
「朝からうるさすぎだ。ほっといて行くぞ、雪希」
「え、えっと・・・」

すたすたと歩き去る健二。
一人おろおろする健二の義妹、雪希。
そして顔面蒼白で気絶している少女、進藤さつき。
三人は同じ学校の生徒であり、今のは毎朝のおなじみの光景である。







「まったく先輩は、人の事をなんだと思ってるのよ?」

家に帰り着くと、さつきはまず最初に健二に対する不平を漏らす。
あの後さらに下校にも会ったが、その時も数発殴られてその隙に逃げられた。

「はぁ、もっと聞き上手ならいいのになぁ、先輩は」

さつきは基本的に明るく、人当たりのいい性格である。
子供の頃はもう少しとげのあるところもあったが、その辺りは丸くなったと本人は思っているし、周りも認めている。
が、その分饒舌になったとも言われたが。

「はぁ〜、一番言いたい事は、言えないのにな・・・」

机に置いてあるノートにささっと落書きをする。
はっきり言って似ていないが、健二を描いたつもりだった。

「ぬぬぬ・・・、先輩のばっかやろー」

ノートを放り投げて椅子の背もたれに深く体を預ける。
とそこで携帯の音が鳴った。

ぴっ

「はいはい、いつも明るく爽やか元気よくがモットーの進藤さつきでーす。どちら様でどういったご用件でしょうか?」
『もう、相変わらずね、さつきは』
「あれ?お姉ちゃん。ひさしぶりー、電話してくるなんて半月ぶりくらい?全然連絡くれないんだもん、ひょっとして彼氏でも出来て、妹なんかに構ってる暇はありませんかー?」

電話の相手は姉のむつき。
全寮制の高校に通っているため、家にはおらず、たまにこうして電話がかかってくる。

『一人で考えを先行させないでよ。彼氏なんてまだいないわ』
「そうなんだ。お姉ちゃんは美人だから、男は放っておかないと思うけどなぁ。あ、でも女子高じゃ出会いの機会も半減かな?全寮制だしね。そうそう、子供の頃は私がお姉ちゃんに近づく虫をみんな追っ払ってたんだよね〜」

一言話せば三倍になって帰ってくる妹のおしゃべりの性質をよく知るむつきは、早めに用件を述べる。

『あのねさつき、今度の休みにそっちに帰るから』
「え、そうなの?・・・」
『だから、お母さん達にもそう伝えておいてね』
「うん、わかった」
『じゃ、今度ね・・・』
「あ、ねぇそれより聞いてよお姉ちゃん、あのね・・・」

ツーツー

愚痴をこぼそうと喋りだした時には、既に電話は切れていた。
話が長くなる前に切り上げる辺りは、さすが姉と言うべきだろうか。
話し出すと止まらなくなる妹の性質と、それを回避するタイミングを心得ている。
言いたい事が溜まっているさつきは喋り足りないもどかしさを抱える。

「むむむ・・・、この行き場のない言葉をどこに向けるべきか・・・」

こうして、再び次の日、さつきトークの嵐が吹き荒れる事になる。







そして迎えた休みの日。
待ち合わせ場所に姉のむつきは・・・。

「・・・来ない」

さつきがいくら待てどむつきは現れない。

「電車が遅れてる?そんな事はなさそうだし、朝寝坊・・・はお姉ちゃんに限ってないだろうし。電車で別方向に行っちゃったとかはありそうだなぁ・・・、或いはとっくに着いてるんだけどふらふらしてるうちに迷子になったとか。もう、こういう時に携帯あると便利なのにお姉ちゃんは持ってないし!大体お姉ちゃんは昔からぽーっとしてて、流行にも疎いし、そもそも・・・」
「進藤さん?」

一人ぶつぶつ文句を言っていると、よく知った相手に声を掛けられる。

「雪希ちゃん?なんでここに・・・?」
「ちょっとお兄ちゃんと買い物に。進藤さんは誰かと待ち合わせ?」
「そうなのよ。聞いてよ雪希ちゃん、あのね・・・」

たまたま通り合わせた不運か。
兄と違ってお人よしの雪希はさつきの愚痴を延々聞かされる事となった。



一方問題の姉はどうしているかというと・・・。

「どうしよう・・・、迷っちゃった・・・」

妹の予想した通り、時間よりも早く着いたので散歩をしていたら、元の場所に戻れなくなっていた。
実際には百メートルも離れていないのだが・・・。

「困ったなぁ・・・。さつき、怒ってるだろうな」

自分が方向音痴である事を改めて自覚するむつきであった。

「そういえば、昔もこんな事あったっけ。確か・・・」
「あれ?進藤?」
「はい?ええ、私は進藤ですけど、どちら様でしたっけ?」

声を掛けられる。
その瞬間が少しデジャブの様な感覚になった。

「何言って・・・、て、あれ?進藤じゃない?でも進藤で・・・???」
「あ!もしかして、妹のお知り合いの方ですか?」
「おお、なるほど。進藤の姉か。だから似てるんだな」
「たぶん、そう思います」
「それで、その進藤のお姉さんが何してるの?なんかさっきからうろうろしてたけど」
「え!?み、見てらしたんですか?」

ちょっと恥ずかしい気分だ。
この歳で迷子でおろおろしてるところを同年代の男子に見られるとは。

「あれ?」
「どうなさいました?」
「なんか昔にも同じような事があったような・・・」
「え?あなたもですか?私も・・・」

二人して何かを思い出そうとするポーズを取る。
往来の真ん中で共にそうしているのは妙な状態だったが、考えに夢中の本人達は気にしていない。

「「あ!」」
「もしかして名前、むつき、って言わないか?」
「ひょっとして、健二さん、と仰いませんか?」

ほぼ同時に聞きあう。
同時に思ったとおりの相手だったとわかり、互いに吹き出す。

「はははっ、やっぱりむつきちゃんか。昔遊んだ」
「ふふふ、驚いてしまいました。まさか健二さんとこんな形で再会するなんて」
「そうかそうか。確かあの時も妹と待ち合わせをしてて迷子になってたよな」
「もう!恥ずかしい事思い出させないでください。いじわるですね」
「はははははは」
「うふふふふふ」



「だからね雪希ちゃん、そのケーキ屋さんがすっごくおいしくてね」
「は、はぁ・・・」

なかなか現れない姉に関する愚痴を聞いていたはずが、いつの間にか話はいつもの雑談になっていた。
先ほどまではボーリングでハイスコアを出した話だったのに、今はケーキ屋の話をしている。

「あ・・・、お兄ちゃん・・・と、進藤さん!?」
「はぇ?どしたの雪希ちゃん・・・って、先輩・・・に、お姉ちゃん!?どうして二人が・・・」

いつかと似た光景。

「あ・・・」
「よう進藤、迷子のお姉さんを連れてきたぞ」
「け、健二さん!そんな大きな声で迷子なんて言わないでくださいよぉ」
「気にするな。それより雪希も一緒か。というかその様子じゃ進藤に捕まってたな」
「あ、はは・・・」
「なな、なんで先輩とお姉ちゃんが一緒にいるの・・でございますか?」

動揺のため、言葉づかいがおかしくなるさつき。
そんな妹の様子に気付かず、むつきは少し浮かれた調子で話す。

「そこで会ってね。それよりさつきは憶えてる?健二さん。ほら、昔海で一緒に遊んだ」
「ふ、ふーん・・・」
「ふーん、って。驚かないの?さつき」
「だって・・・」

知ってたもん。
その言葉を飲み込み、さつきはその場から走り去った。

「さつき!?」
「進藤さん!?」
「なんだ?」







「・・・はぁ、何してるんだろ、私」

姉達の前から走り去って、公園まで来てしまっていた。
迎えに行った姉を置き去りにしてどうするのか・・・。

「まさか家までの道で迷子にはならないと思うけど・・・・・はぁ」
「何してんだ?おまえ」
「わわわぁっ!」

どすんっ

突然目の前に顔が現れ、座っていたブランコから後ろに落ちてしまう。

「せせっ、先輩?」
「パンツ見えてるぞ」
「わーっ、先輩のえっち!」

さつきはスカートの裾を抑えながら勢いよく起き上がる。

「信じられません!何考えて生きてるんですか先輩は!いつもえっちな事で一杯とか?あ!もしかして毎晩妹の雪希ちゃんをダシに禁断の行為に耽っているとか」
「進藤」
「ああ、確か先輩の身の回りにはかわいい人とか綺麗な人とかがいましたよね。早坂先輩とか、小野崎先輩とか、神津先輩とか・・・。その人達とも・・・。もしかしてもう実際に!?そそそっ、そんなのはいけませんよ先輩!?」
「こら進藤」
「ああでも!男の人ならそういうのは仕方のない事なのかも・・・?でも社会的には問題ありですよね!そうなると味方は妹の雪希ちゃんだけ。そうしてまた禁断の世界への新たな一歩が・・・」

ぽかっ

「聞け、さつき」
「あいたたた・・・、今日のは意外と効きませんね・・・、て、さつき?私の名前?」
「そうだおまえの名前だ。頭でも打ったか?」
「先輩に打たれました」

不満のある目でさつきが健二を見上げる。

「まぁそうだな。それよりも、その・・・、今更言うのも変だが・・・」
「?なんですか、先輩?」
「ひさしぶりだな。その・・・、昔一緒に遊んだ頃からすると」
「ふーんだ。お姉ちゃんには今日会ったばかりで気付いたのに、私にはまったく気付かなかったっていうんですか?」

横を向いて膨れるさつき。
そういう仕草を見ると、こいつもかわいいやつだなどと健二には思えた。

「いやその・・・、苗字知らなかったしさ。名前、さつきってんでなんか引っかかってはいたんだよな、ははは」
「笑ってごまかすな、バカ健二」
「お、昔の口調が出たな」
「知りません」

膨れたままさつきは健二の横を通って歩き去ろうとする。

「まぁ、待て。せっかくの再会だ。それを祝しておまえにいい物をやろう」
「どうせろくな物じゃないんでしょう、先輩の贈り物ですからねぇ」
「大した物ではないな。ちょっと動くなよ」
「?」
「よっと」
「え?それって、リボン?」
「雪希にと思って買ったんだが、あいつにはちょっと似合わない色なんでな」

さつきの髪を結んだ、白いリボン。
かつて姉に贈られた赤いリボンとは、対照的な色。

「おまえはうるさすぎるからな。その色で少しはクールダウンしろ」
「・・・・・。そうは言っても、明るく爽やか元気よく、が私のモットーですから。今更この性格は変えられませんよ、性分ですから。そもそも私がうるさく感じるのは先輩がだるそうにしてるからですよ。もっと元気を持ちましょうよ元気を。そうですね・・・、早朝マラソンなんてどうですか?目が覚めて、きっとすっきりした気分で学校に行けますよ。いいですねそれ、私でよかったらお付き合いしますよ。この進藤さつきに、ぜーんぶおまか・・・」

とすっずびっどかっ

「うがっ・・・・・ぷるぷる・・・きゅぅ」
「やっぱりうるさい」







「(先輩に、健二に再会した時のお姉ちゃんの顔。やっぱりお姉ちゃんも健二の事好きなんだ。でも私は、彼に会うためにわざわざ遠い隣町の学校まで来たのよ。今更お姉ちゃんに譲る気なんてこれっぽっちもないですからね。こればっかりはいくらお姉ちゃんでも譲れない。リボンを貰った時点でおあいこだからね。近くにいる分私の方が有利・・・)」
「ねぇ、さつき。私、これからは週末はこっちに帰ろうかな」
「なにっ!?」
「ひさしぶりに会えたら、健二さんとお話したくなって」
「・・・・・そう・・・(最強のライバル出現!?ただでさえ先輩の周りには雪希ちゃんとか早坂先輩とかいるのに・・・。負けるもんですか!)」



「健二先輩は、私のものなんだからっ!」







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to be continued?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき
 短編集第二段は「みずいろ」から、やかま進藤こと、進藤さつき。デビュー作からはそれなりに経ってから書いたものだけれど、やはり初期時代の作品と言えよう。つまり、かなり古い。この頃は文字通りのSSを書いていたのだなぁ、と思わせる話である。今ではすっかり変則的な作品ばかり書いておるからのぅ。
 話のコンセプトとしてはやはり単純明快、原作にはないやかまモードの進藤シナリオへ発展しそうなしなそうな、そんなお話。