何処かの聖杯戦争
3
――凪沙――
セイバーを召喚してから二日目。
既に聖杯戦争は始まっている。
召喚を行った反動で昨日は半日寝ていたのだけど、その間に最後のサーヴァントも呼び出されたらしく、7組のマスターとサーヴァントが出揃った。
聖杯戦争の開始は、7体のサーヴァントが呼び出された瞬間となる。
だからもう、いつどこで戦闘が始まってもおかしくない。
そんな中、私は普段どおりに登校した。
(わからんな。戦が始まっているというのに学舎へ通うことに何の得がある?)
霊体化してついてきているセイバーは、私の行動がご不満みたいだった。
それもそうだろう。
命のやり取りを目前にして、呑気に勉強なんかしてる場合じゃないだろうという意見はわかる。
けど、私としては言い訳するのはやめてもやっぱりこの聖杯戦争には巻き込まれたという思いが強いため、それに日々の生活を乱されるというのは不本意なのだ。
対処に追われるほど戦いが激化するまでは、学生らしく普通に学校へは通うつもりでいた。
「私はね、魔術師であると同時に女子高生なの。それはどっちが優先されるべきとかいうものじゃなくて、どっちもあるべき私の姿だから」
(理解できなくもないが、わざわざ余計な苦労を背負う可能性もあるぞ)
「学校が戦場になるかも、ってこと? それはたぶん、ないと思うけど」
魔術の秘匿は、魔術師にとって最も優先されるべき事柄の一つだ。
これを破ると、魔術協会がかなりうるさい。というか最悪始末される。
真っ当な魔術師なら、たとえ聖杯戦争というこの特殊な状況下においても、一般人が大勢集まる場所での戦闘は避けるはずだった。
「まぁ、中にはトチ狂って仕掛けてくるのもいるかもしれないけど、少なくとも“あの人”は絶対に来ない」
(君の兄とやらか?)
「兄さんは魔術師の鑑だからね。私の家と、人目につく所では絶対に襲ってこない。私が学校に通うのは兄さん対策でもあるのよ」
(それほど兄と争うのを厭うか)
「それもあるけど、兄さんはたぶん・・・・・・ううん、間違いなく今回の聖杯戦争で一番手強いマスターだよ。準備が整わない内は、兄さんとの戦闘を避けるのが最優先」
(ふむ。まぁ、実際の戦闘になった時はさておき、大まかな方針は君に任せよう。それまで私は口を出さないことにする)
「うん、ありがとう」
昨日一日で、やっとセイバーと普通に接することはできるようになった。
サーヴァント相手に、いつまでも照れてる場合じゃないものね。
雑念を捨てないと、兄には絶対に勝てないし。
とはいえ、しばらくは様子見に徹したいというのが本音だった。
殺し合いに身を投じる覚悟は二日経ってもやっぱりまだできてないし、未知の敵にいきなり挑むというのも危険だ。
まずは自分からは動かず、他のサーヴァント同士が戦うのを偵察しながら情報を集めて、ついでにセイバーとの連携ももっとちゃんと打ち合わせをして、準備万端整えてから本番に臨む。
うん、それでいこう。
安全第一。
石橋は叩いて渡るがセオリー。
―――って、思ってたんだけど・・・・・・。
お昼休みに屋上に出た途端、私は息を呑んだ。
給水塔の上。
校舎で一番高いその場所に、彼女はいた。
灰色の髪に、ゴシックロリータのドレス。どこか浮世離れした少女は、ぼんやりとした表情で給水塔の淵に腰掛けて空を見ていた。
見た目だけでも充分に学校という空間に似つかわしくないけど、それ以上に直感的にわかった。
少女は魔術師だ。
魔術師は魔術師を知る。
私だって名門の生まれ。しかも生まれつき持った魔術回路の多さは歴代屈指と言われた身ではあるけれど、彼女はたぶんそれ以上だ。
見た目は幼いけど、それだけで判断すると危険な相手。
何だってこんな魔術師がここにいるのか――
って、何を呆けたことを言ってるのか私は。
今がどういう時で、ここがどういう場所かを考えれば、今ここに見慣れない魔術師がいる理由なんて、一つしかないじゃないか。
どうする?
まさかこんな白昼堂々、しかも何百人もの学生が集まる校舎に敵が現れるなんてまったくの想定外。
こっちの準備はまったく整ってないし、周囲の人を巻き込まないように戦うなんて器用な真似は不可能。
そもそも今この場に誰か来たらその時点でやばい。
こんな不審者そのもののゴスロリちびっ子が見付かったら大騒ぎ間違いなし・・・・・・
って、あれ、そういえば何で昼休みなのに誰も屋上に来ないんだろう?
この学校の屋上は昼休みにはもっと人で賑わって――
ああ、そうか。人払いの結界か。
私は全然気付かなかったけど、たぶんあの女の子が普通の人は近付かないように予め結界を張っておいたんだ。
で、魔術師である私には結界の効力は通用せず、そこに結界があることにすら気付かなかった私はまんまと人気のない屋上に結果として誘い出される羽目になった、と。
わ、こっちは全然ダメなのに相手は準備万端じゃないの。
これがまさに飛んで火に入る夏の虫?
何この私のお間抜けさ!?
(凪沙よ。とりあえず落ち着くことを推奨するぞ)
何でセイバーはそんなに冷静なのよ!?
(ここにいるのはあの少女だけだ。サーヴァントの気配はしない。それに敵意も感じないだろう)
あ、そういえば・・・・・・。
言われてみれば、女の子はこっちに気付いているのかどうかさえも怪しい様子で空だけを見ていた。
落ち着いて周囲を窺うと、わかる範囲では簡単な人払いの結界以外には何も仕掛けがあるようには見えなかった。あくまで私にわかる範囲で、だから何とも言えないけど。
何より、女の子にはセイバーの言うとおり、敵意らしきものがまるで感じられない。
じゃあ、この遭遇はまったくの偶然?
いや、そんなはずはない。
あの子の狙いが私個人にあったかどうかはともかく、少なくとも彼女は、この近くにマスターが一人いると当たりをつけて待ち伏せていたのだろう。そこに私がまんまとかかったというわけだ。
では、彼女の狙いは何か。
それは考えてもわからない。
敵意がないのなら、話してみればいいではないか。
兄だったら私が隙を見せたら問答無用で襲ってくるだろうが、そうしなかった以上向こうも話し合いにくらい応じる気はあるのだろう、と、思う、たぶん。
私は意を決して、給水塔の上の女の子に向かって声をかけた。
「こ、こんにちは~。いい天気だね?」
うわ、私馬鹿だ。
何今の?
今時こんなベタベタな挨拶一般人相手にもしないよ。
それをもしかしたら殺し合いをしに来たのかもしれない魔術師相手にしてどうするのよ。
セイバー召喚の時といい、逆境に弱すぎだよ私。
「予報では、今週一杯はずっと晴れって言ってた」
なのに、彼女は律儀に私の問いかけに答えていた。
そういえば昨日今日と天気予報とか見てないな。そっか、しばらく晴れなんだ。
「今夜」
「へ?」
「今夜、ここで待ってる」
空に向けていた視線を私に移して、少女はそう告げた。
それが、宣戦布告なのだと気付いたのは、彼女の姿が私の前から消えた後のことだった。
そして、夜――。
「はぁ・・・・・・どうしよう・・・」
来てしまった。
午後八時。まだ夜も更けたというほどの時間ではないけど、学校という空間が静まり返るには充分な時刻だった。
下校時間になってから、わざわざ一度家まで帰って、改めて学校までやってきた。
それで、家まで行ったのだから何かしら対策を講じてから来ればいいものを、結局何の用意もしないまま身一つで来てしまった。
準備万端整ってから戦おう作戦、早くも挫折。
学校はシンと静まり返っていた。
宿直の先生とか、見回りの警備員とかいそうなものだけど、それすらまるでいない。
昼休みの時と同じだ。今度は学校全体に人避けの結界が張られている。
ここを戦場にする気満々ということだろう。
となれば、ここが私のホームグラウンドとも言うべき私の学校だとしても、地の利は向こうにあるかもしれない。
敵の情報はまったくない。
けれどもし仮に相手のサーヴァントがキャスターだとしたら、私が知らないほんの短い間に、ここは既に敵の要塞と化している可能性もあった。
私のサーヴァントはセイバー。
おそらく正面切っての白兵戦ならば、どのサーヴァントが相手でも互角以上に戦えるだろう。
警戒すべきはそれ以外の手段による攻撃。
ここが敵の砦なら、何らかの罠が仕掛けられているかもしれないし、それなら相手が堂々と姿を見せることはないだろう。
――と、思ったのだけど。
見上げた先、
昼休みの時にあのゴスロリ少女が座っていた給水塔の上に、
あの女の子よりもいくらか年上な風貌の、やはり少女の人影があった。
細い三日月――そういえば私がセイバーを呼び出した日は新月だった――を背負って私を見下ろすその姿は神々しくて、またしても私は、思わずその存在に見入ってしまった。
そんな私の視界を遮るように、目の前に騎士の背中が現れる。
実体化したセイバーが私の前に立って、頭上の相手を見据えていた。
昼間は姿を見せなかったセイバーが、相手の姿を見ただけで私の指示も待たずに実体化した、その意味。
「サーヴァント―――」
――今夜、ここで待ってる。
そう少女が言ったその場所で私を、私達を待っていたのは、白いドレスを纏い、長い髪を風になびかせた、少女の姿をした英霊だった。
「律儀にちゃんと来るなんて、真面目ちゃんね、あなた」
鈴を転がしたような綺麗な声で、少女のサーヴァントが上からものを言う。
「あの子ったら、場所だけで時間を指定しないんだもの。一晩中待ちぼうけさせられるんじゃないかと思ったわよ。もしそうなったらあなたのこと、人に見せられないくらいひどい目に合わせてやろうと思ったけど、ちゃんと来たからそういうのは無しで、正々堂々相手をしてあげる」
月の下から、彼女の姿が消える。
何が起こったのかわからず、私は呆然とした。
度し難い隙の見せ方だったろう。
セイバーが私の前から横へ移動したのを見て、はじめて少女のサーヴァントがグラウンドに降り立ったのだということに気付いた。
給水塔の上から、私の右方向10メートルほどの位置。
視認できない超速による移動だったのか、魔術を利用した転移だったのか、それすら私には理解できなかった。
ただ気がついたら、彼女の立ち位置は変わっていた。
「さて、見たところあなたのサーヴァントは騎士みたいね。となるとまずアサシン可能性から除外かなぁ? 正気っぽいからバーサーカーでもない。ならあとは得物が剣か、長物か、飛び道具か・・・・・・
。
うん、セイバーかな。腰の剣は飾りって風には見えないし」
私が呆けている間に、彼女は既にこちらの分析を始めている。
しかもあっさり私のサーヴァントがセイバーと見抜かれている。
まぁ、これは当たり前か。
セイバーと来たら、自分の武器を隠そうともしないんだもの。さすがに鞘に納まった状態では、どんな剣かまではわからないし、どこの英霊かまで知られることはないと思うけど。
「あなた、セイバーってことでいいかしら?」
「そういう汝は、さしずめキャスターか」
「あら、決め付けるわね」
「簡単な推察だ。汝は私の姿を見て騎士だと思い、それによって該当し得ないアサシンを可能性から外した。が、それならば同様の理屈でキャスターも外すはずだが、汝はその名を口にしなかった。それはその必要がないから、即ち汝が既にキャスターを知っていることの証。
それだけでは別の場所でキャスターと遭遇したことがあるため、とも考えられるが、汝の出で立ちや内包する魔力の強さなどから、キャスターである可能性は高いと踏んだまでのことだ」
「なるほど。剣を振るしか能のないお馬鹿じゃなさそうね。さぞや名のある騎士と見受けられるわ」
「尋常な名乗りを挙げたいところだが、マスターの許し無しに真名を明かすわけにもいかん。許せよ」
「構わないわ。こっちはそもそも名乗る気なんてさらさらないし」
・・・・・・・・・私、置いてきぼり・・・・・・。
セイバーと、たぶんキャスターは早くも駆け引きを開始している。
彼らの会話は当たり前のことだけど世間話なんかではなく、僅かなやり取りから相手の正体を探ろうという意図によるものだ。
そういう意味では、今のはどっちかって言うとキャスターの方が一枚上手。
今のやり取りでセイバーは、自分が剣だけしか取り得のない者ではなく、冷静に相手を分析する戦術眼も持ち合わせているということを明かすことになった。
それだけでは直接弱点に直結するような情報ではないけれど、少なくともセイバーが油断のならない相手ということは教えることになった。
まぁ、セイバーは敵の油断をつく、なんて戦い方は好んでしないんだろうけど。
「セイバー、あまり余計なお喋りは・・・・・・」
「わかっている。キャスターを相手に言葉の駆け引きで勝てるとは思っていない。
だが相手に教養のない一兵卒のように侮られるのは心外だ。言うべきことは言っておかなくてはならない」
そういうのが挑発に乗せられてるって言うんだけど――まぁ、いいか。
いつまでもこうしていても仕方ない。
やっと私も冷静さを取り戻してきた。
周囲にあの女の子、キャスターのマスターと思しき気配はない。どこかに潜んでる可能性はあるから警戒は怠らないけど、差し当たって対処すべきは眼前の脅威。
元より、サーヴァントを相手に魔術師とは言え人間が太刀打ちできる道理はない。
サーヴァントを倒せるのはサーヴァントのみ。
それが聖杯戦争のルールだ。
「セイバー、準備はいい?」
「当然だ」
当然、か。そうだよね。
準備ができてないのは私だけ。
セイバーは呼び出されたその時から、いつでも戦う準備はできていたんだ。
今だって、必要なことはただ一つ。
私が一言、“戦え”と言えばいいだけのこと。
それでセイバーは、目の前の敵を倒すために全力を尽くすだろう。
キャスターは会話が途切れてきり無言。
けれど退く気配はない。
そもそもこの舞台を用意したのは向こうだ。当然向こうの準備も万端。
こっちが動くのを待っているのは余裕の現われか、それとも何かの罠か。
どちらにしても、必要なのは私の決断一つ。
セイバーも、そしておそらくキャスターも、私が決めるのを待っている。
またいつもと同じだ。
他に選択肢なんてない。
ここへ来てしまった時点で、戦う以外の道などありえない。
けれど迷うな。
たとえ止むを得ずだとしても、それは――
―――私が、自分で選んだ道だ。
「全部任せるわ、セイバー。あなたの力を、私に見せて」
「承知した。我が主」
瞬間、セイバーは銀の疾風となった。
動いた、という事実しか私には認識できない。
駆けるセイバーの姿は、人間の肉眼で捉えられる速度ではなかった。
その神速の踏み込みから繰り出される斬撃をかわすなどという芸当は、同じサーヴァントでもなければ不可能だ。
けれど相手は、そのサーヴァントなのだ。
唸る剣風。
自らの身にそれが迫るより早く、キャスターは白い閃光となって正面からセイバーを迎え撃っていた。
それは想定外の動きだった。
セイバーとは即ち剣の英霊。剣をもって戦う白兵戦においては無類の強さを発揮するサーヴァントだ。
キャスターとは魔術師の英霊。ならばサーヴァントとしての真髄は魔術にこそあり、断じて騎士を相手に接近戦を挑むなどありえないはずだった。
「魔術師が騎士たる私に正面から挑むかっ、愚劣!」
一瞬にして0まで縮まる二人のサーヴァントの距離。
本来の領分を離れて接近戦に持ち込んだ時点で、キャスターは成す術もなくセイバーの剣に斬り伏せられる。
サーヴァントの常道から考えて、それが当然予測された結末だった。
けれど予測に反して、振り下ろされたセイバーの剣は虚空を切るのみに終わった。
「な―――」
キャスターの今の動きは明らかに不自然だった。
いや、もちろん私にはちゃんと見えてなんていないのだけど、何というか、とにかくおかしい。
人間的に有り得ない動きだった。
というよりも、そこにいたはずなのにそこにいなかった、とでも言うのか。
まるで最初にそこにいると認識していたキャスターが幻であったかのように、セイバーが剣を振るった瞬間にキャスターの姿はそこから人一人分ほど横にずれた場所にいた。
剣を振り下ろした直後の隙をついて、キャスターの掌がセイバーの鎧に押し当てられる。
ダイナマイトが炸裂したような爆音が響いて、セイバーの身体が仰け反りながら後退した。
「セイバー!!」
「――大事ない」
セイバーは健在だった。
現代魔術では考えられないような大魔力の炸裂だったように見えたけれど、さすがに騎士のサーヴァントが持つ対魔力は破格だった。
一撃で仕留め損なったキャスターは落胆した様子もなく、追い撃ちもかけるべく魔力を集中しだす。
その現象に、私は瞠目した。
だって、私が何小節もかけて練り上げるような魔力の塊を、キャスターは呼吸するようにあっさりと、しかも無数に生み出していたのだから。
それは伝説上の魔術師としても破格。
レベルとしては魔法の域にも等しい、神代の魔術だ。
轟音と共にセイバーに向かって撃ち出される魔力弾。
その一つ一つが必殺の威力を持った大魔術だったが、それを――
「むんっ!」
セイバーは剣の一振りで直撃弾を相殺し、掠っただけの攻撃はダメージを与えることなく霧散した。
何てデタラメ。
キャスターの攻撃も滅茶苦茶なら、それをものともしないセイバーも化け物だった。
これが、サーヴァント同士の戦い!
再び斬り込むセイバー。
キャスターは攻撃の手を緩めないが、そのいずれもセイバーの前進を僅かたりとも妨げるものではなかった。
直撃する魔術だけを剣で切り払いながら、スピードをまったく落さず突進するセイバー。
最初と同様、セイバーの斬撃は確実にキャスターを捉えたかに見えた。
しかし、今度もキャスターの姿は不自然に掻き消える。
不自然な動きで瞬時にキャスターが移動したのは、セイバーの真後ろ。
両手を大きく振りかぶったキャスターの手には、魔術師には相応しくない、巨大な得物があった。
寒気がした。
アレは先ほどまでの魔術とはまったくの異質なものだった。
如何なる対魔力をもってしても、アレの一撃を防ぐことは適わないだろう。
「セイバー、避け――」
私に言われるまでもなかったろう。
セイバーは振り向き様、キャスターの一撃に合わせるように剣を振り抜いた。
キャスターの異質な武器も、宝具たるセイバーの剣に影響を及ぼすほどの力はなかったのだろう。攻撃を防がれたキャスターはセイバーから大きく距離を取った。
離れたことで改めてその姿をはっきり見ることが適ったソレは、死神の大鎌だった。
見ているだけで冷たい汗が額から落ちる。
アレは死を振り撒く、恐るべき凶器だ。
「まさか、宝具?」
「いや、違うな。確かにあれ自体は強力な魔器のようだが、宝具ほどの神性はない。その証拠に」
セイバーが指し示した大鎌の一部分――おそらくセイバーの剣と打ち合ったところ――には亀裂が入っていた。
二つの武器が交わった結果、セイバーの剣が持つ格が、キャスターの大鎌を上回った証だった。
「ご名答。これはただ趣味で作った遊び道具よ。あなたの剣みたいな、確たる信仰の対象となった『尊い幻想(ノウブル・ファンタズム)』じゃない」
自身の得物に走った亀裂を眺めながら、キャスターが目を細める。
「でも、格の低い英霊の宝具になら匹敵するくらいのものなつもりだったんだけど」
そうだろうとも。
見ているだけで禍々しい気配に圧倒される魔器は、宝具の域に達していなくてもそれに匹敵するほどの脅威だ。
そんなものを遊び道具と言ってのけるキャスターにも空恐ろしいものを感じる。
まったく、いきなりとんでもない敵と出くわしたものだ。
「あなた、大した英霊みたいね」
けれど私のセイバーとて、決して劣ってなんかいない。