Kanon Fantasia

第二部

 

 

第37話 焔の煌き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽 「おおおおおらぁぁぁ!!!」

ベリアル 「がぁああああああ!!!!」

それは、人智を超えた戦いだった。
幽の剣とベリアルの拳が打ち合わされる度に、建物が一つ崩れ落ちる。
圧倒的なパワーとパワーのぶつかり合いである。

ベリアル 「くっくっく、くぁーっはっはっはっはははは、楽しいぜぇ、千人斬りの幽! こんなに楽しいのは数百年ぶりだぁっ!」

全魔力を解放し、桁外れのパワーを発するベリアルが無数の火球を連射する。
それを幽は、あるものは弾き、あるものをかわしつつ回避する。
やがて火球に混じってベリアル本人が突撃を仕掛けてくる。

ベリアル 「どぉらぁぁぁっ!!」

凄まじい一撃を幽が防御する。
幽自身は無傷だったが、その背後は百メートル近く吹き飛んだ。

幽 「・・・けっ、そんなもんかよ」

ベリアルの拳を受け止めている剣が真紅に燃え上がる。

幽 「無限斬魔秘剣・紅蓮烈火ァ!!」

今喰らった一撃と同等以上の爆炎がベリアルを包み込む。
炎が高く燃え上がる中、二人はもう攻撃を再開している。

幽 「おらおらおらぁ!」

ベルアル 「どりゃどりゃどりゃぁっ!!」

嵐のような斬撃と拳打の応酬である。
ほとんどの攻撃は相殺しあっているが、何発かずつは確実に相手に命中していく。
双方がぼろぼろになっていく中、二人の目の輝きだけはどんどん増していった。
二人の魔人による戦いは、いつ果てるともしれず続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、美凪・栞・みさきの三人とゴーザの戦いを続いていた。
だがこちらは、徐々にゴーザにペースを取り戻されつつあった。
美凪の参戦で一時は押していたが、冷静になったゴーザの前では、三人でもパワー不足である。

みさき 「美凪ちゃんが加わってやっと本気になったってところだね」

栞 「まだまだ自分の方が上とでも言いたげですね」

美凪 「・・・これだけの魔力差があれば、仕方ありませんね」

栞 「どれくらいなんですか?」

美凪 「・・・十一万です」

栞 「はい?」

思わず耳を疑う。
魔力という単語とその数字とがすぐには結びつかなかった。

美凪 「・・・ちなみに、私が四万弱、栞さんが二万ほど、みさきさんが一万ちょっと・・・三人合わせても七万くらいです」

その差四万。
四大魔女クラスがあと一人いてやっと互角になるほどのレベルだ。

みさき 「上位魔族の魔力は桁違いだって言うけど、ここまで違うとはね」

栞 「魔力が全てじゃありませんよ。幽さんがいい例です」

美凪 「・・・はい。幽さんの魔力は0、その相手の魔力は十三万です」

栞 「頭痛くなりますね」

ゴーザ 「どうした、ようやく力の差に気付いたか?」

先ほどまでは少々焦っていたように見えたゴーザも、すっかり余裕を取り戻している。
だが実際には、ゴーザは内心冷や汗をかく思いをしていた。
いまだに、得体の知れない視線は感じられる。

ゴーザ 「(早くこの小娘どもを片付けて、正体を見極めねばならんな)」

ベリアルと、頭が悪いが実力は確かなあの男と互角以上に戦うような相手が他にもいるとしたら、それはかなり厄介な話だった。

ゴーザ 「貴様らでは俺に勝てん。鎌の小娘の攻撃力は少々厄介だが、技量がまるでない。遠野美凪、俺を惑わす動きは大したものだが、明らかに攻撃力不足だ。問題にならん」

栞 「言ってくれますね」

美凪 「・・・でも、正解」

栞の持つ鎌、ディアボロスは伝説の武器の一つであり、その攻撃力は魔族にとっても脅威だが、まだ栞はそれを扱い始めて日が浅い。
美凪は、攻撃系魔法はさほど得意ではなかった。

美凪 「・・・メテオフォールならダメージも与えられるでしょうが、確実に当てるのは難しそうです」

栞 「なんとかその隙を作れれば勝てますか?」

みさき 「ねぇ、今さらなんだけどさ」

美凪 「?」

栞 「なんですか?」

みさき 「この三人で共闘してるのって、何だか因縁めいてるね」

栞 「って、今それどころじゃないでしょう!」

みさき 「そうかな? 時は違っても、みんな幽と一緒にいた時期がある女達だよ、わたし達」

美凪 「・・・そうですね」

栞 「・・・一緒にしないでください。私はあんな人のこと好きなんかじゃないんですから」

みさき 「うふふ」

美凪 「・・・ふふ・・・・・・行きましょうか」

栞 「ええ」

みさき 「うん」

三方に分かれて攻撃を仕掛ける。
何とかして隙を作り出し、大技を叩き込めば勝てるかもしれなかった。
というよりも、それしか勝ち目はない。

みさき 「っ!!」

だがゴーザは、分かれた他の二人には見向きもせず、みさきだけを狙って動いた。

ゴーザ 「貴様はまだ何かを隠している・・・一番厄介そうなので最初にやらせてもらおう」

みさき 「・・・くっ!」

攻撃を回避しきれない。
栞と美凪の援護も間に合わなかった。
ゴーザの攻撃がみさきを捉える瞬間、閃光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

浩平・往人コンビと、魔獣ガナッツォの戦闘も継続中だった。
はじめて組むにもかかわらず、二人のコンビネーションは完璧で、魔獣はただ翻弄されている。

往人 「どこを見ている、ウスノロ」

ガナッツォ 「ガァッ!!」

浩平 「これでも喰らいなっ!」

ザシュッ

二人は魔獣の周囲を円を描くように移動しながら攻撃を仕掛けている。
全ての攻撃はほぼ確実に決まっているが、不死身の魔獣の再生能力は、この程度の攻撃ではどうにもならない。

浩平 「嫌な奴だな」

往人 「おい、本当におまえの作戦で大丈夫なんだろうな?」

浩平 「さぁな。けど、俺の必殺剣の前に、再生能力など意味はない」

もう何度目になるか、浩平が斬撃を喰らわせる。
傷は一瞬で再生してしまい、ダメージは皆無に等しい。

往人 「まぁいい、だめなら次の手を考えるまでだ」

先ほどから、往人が魔獣を引き付け、浩平が攻撃するという戦法を取っている。
浩平に考えがあると聞いて、往人は魔獣が今いる場所から遠くへ行かないようにしていた。

往人 「あとどれくらいだ?」

浩平 「これで終わりだ。五秒でいいから奴を動きを止めてくれ」

往人 「十秒くらいなら止められる。・・・・・・魂縛り!」

人形使いの呪縛により、魔獣ガナッツォがその場に繋ぎ止められる。
必死に逃れようとするも、びくともしない。

往人 「無駄だ。俺の呪縛からは逃れられん」

浩平 「よっしゃ、行くぜ! エターナルソード解放!」

ついに全ての力を発揮したエターナルソード。
ラグナロクやレヴァンテインなどとも並ぶ伝説の剣である。
力が解放されると同時に、先ほどまでに斬りつけた空間が全て光を発する。
その全てが繋がると、魔獣の全身がすっぽり収まってしまう。

往人 「ほぉ・・・」

浩平 「うまく避けろよ、国崎」

往人 「当然だ」

浩平 「喰らえッ! 次元斬空封滅剣ッ!!」

剣が振り下ろされるとともに雷が走り、魔獣がいる空間が崩壊する。

往人 「おお・・・!」

浩平 「どんなに強力な再生能力があろうと、空間もろとも吹き飛ばしてしまえば無意味!」

亀裂の入った空間に一撃を加えることで、空間そのものを決壊させる。
浩平とエターナルソードによる最強の必殺剣である。
断末魔の悲鳴を上げる間もなく、不死身の魔獣ガナッツォを次元の彼方へ消え去った。

浩平 「ふぅ・・・一丁あがりだ」

往人 「さすがにしんどかったが、魔獣如きで俺達の相手は務まらなかったな」

浩平 「だな。向こうが心配だし、行くか」

往人 「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーザ 「・・・む・・・」

みさき 「・・・・・・」

ゴーザの攻撃がみさきに届くことはなかった。
二人の間に一振りの刀が突き立っており、それがゴーザの攻撃を防いだのだ。

ゴーザ 「!!」

飛来した刀の軌跡を追ってゴーザが上を振り仰ぐ。
そして見つけた。
先ほどから向けられるプレッシャーの正体を。

ゴーザ 「あれか!」

 

莢迦 「ふふっ」

建物の屋上に腰掛けて戦闘を見下ろしているのは莢迦だった。

莢迦 「浩平君に往人君、やるもんだねぇ。彼にも負けてないかも」

ガナッツォを退けた二人の評価をしてから、再び下に視線を戻す。
ゴーザという魔族が見上げているが、降りていくつもりは毛頭ない。
この場は彼女達に任せるつもりだった。

莢迦 「みさき、その刀貸してあげるよ。ひさしぶりに見せてよ、あの元と同門下にあって双璧と謳われた剣の冴えを」

 

みさき 「!!」

目の前に突き立っている刀を掴み取ると、そのまま地面を削るようにして振り上げる。

ゴーザ 「むぉ・・・!」

予想以上の斬撃の速さに、ゴーザはのけぞってかわす。
その際に鎧の一部が切り裂かれていた。

ゴーザ 「小娘・・・!」

みさき 「もう剣は手にしないつもりだったけど・・・あなたを倒すためには出し惜しみをしてる場合じゃないね」

莢迦からの借り物の刀、久遠を構え、みさきはゴーザと対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィッ!!!

幽の剣とベリアルのかぎ爪とが激しく打ち合わされる。
既に周囲は直径百メートル近く平らになっていた。
二人の戦いの余波が建造物を軒並み吹き飛ばし続けた結果だった。

ベリアル 「へっ、やるじゃねえか」

幽 「てめぇもまぁまぁってとこだな」

これほど激しい戦いを繰り広げているにも関わらず、二人の顔に疲弊の色はまったく見られない。
それどころか、どんどん充実しているように、幽もベリアルも笑っていた。

戦いこそ己を表現する手段。
戦いこそ至高の目的。
戦いこそが最高の快楽。

そんな二人の戦いは、いつ果てることなく続くかと思われた。

ベリアル 「・・・くくくっ」

先に均衡を崩しにかかったのは、ベリアルの方だった。

ベリアル 「はぁーっはっはっははははは!」

高笑いとともに今までで最高の魔力を放出する。
人間の感覚から言えば、これだけの戦いをして尚余力があることに、次元の違いを感じさせられるであろう。
普通の人間ならば、の話だが。

幽 「ほぅ」

ベリアル 「感謝するぜ。ひさびさにいい時間を過ごさせてもらった。が、そろそろ終わりだ。てめえは俺には勝てねぇ」

膨れ上がった巨大な魔力がベリアルの両腕に集中する。

ベリアル 「何故なら! てめぇは人間で、俺様は魔族だからだぁッ!!」

魔力を溜め込んだ両腕を体の前で組み合わせる。
左右から圧縮された魔力がさらにそのパワーを倍増させる。

ベリアル 「これで終わりだァッ! ファイナルカラミティ・・・クラッシャー!!!」

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!

解放された魔力が一気に破裂した。

幽 「!!!」

回避不能なほど巨大な魔力の奔流が幽の体を呑み込む。
それは全てを巻き込んで大地をえぐっていく。
数百メートル、否数千メートルに渡って突き進んだエネルギーは、最後に大爆発して幾十もの建物を崩壊させた。

ベリアル 「くっくっくっく・・・はっはっはっはっはっは!!」

最終奥義を放ち、勝利に酔いしれ、笑い続けるベリアル。
いつまでも笑い続けているかと思われたが、その顔が凍りついた。

ベリアル 「・・・・・・・・・・・」

幽 「いい感じだったぜ。ほんのちぃーとばかり驚いちまったよ。だが、今度は俺の番だな。真の千人斬りの剣、真の無限斬魔剣を見せてやるぜ」

ベリアル 「な・・・に・・・?」

驚愕するベリアルの前で、幽の剣が纏う炎が赤から黄金へと変わっていく。
幽の金色の眼とあいまって、黄金色に世界が彩られる。

幽 「無限斬魔神剣・・・・・・焔(ほむら)」

金色の閃光が走った。
ほんの一瞬で、幽の姿はベリアルの背後にあった。

ベリアル 「・・・・・・な、なんだ・・・何をした!?」

光が走った以外、何かが起こったようには見えなかった。
しかしベリアルは、振り返ることすらできず、得体の知れない悪寒に捕らわれている。

ベリアル 「不発・・・? いやしかし・・・・・・」

幽 「もう終わってるんだよ」

硬直するベリアルの背後で、幽は剣を納める。
段々と、ベリアルの顔が驚愕と恐怖に染まっていく。

ベリアル 「あ・・・あ・・・・・・あぁ・・・・・・!!!  馬鹿なっ・・・この俺が・・・・・・最高位の魔族であるこの俺様が・・・人間ごときに・・・!!!!!」

幽 「とくと見な、炎の煌きを」

金色の軌跡が、幽の剣が通った後に生まれる。
それは膨れ上がり、ベリアルの身を呑み込んで燃え上がる。
飛び散る金色の火の粉が、空へと駆け上がっていく。
死の瞬間、ベリアルは確かに、光り輝く黄金の炎を見ていた。

幽 「人間だろうが魔族だろうが関係ねぇ。強ぇ奴は強ぇ、それだけだ」

 

 

 

 

莢迦 「無限斬魔神剣・焔。私の必殺ギガフレア斬を正面から破った唯一の技・・・・・・。生身の状態で撃てるなんて、今の幽はかつての幽の比じゃないね」

以前ならば特別な状態でなければ撃てなかったはずの、幽の最強奥義。
莢迦ですら、この技は自分が受けた時と合わせて五回しか見たことがない。
この技を受けて無事だったのは、莢迦ともう一人だけ。
あとの三回も幽が本気を出しておつりが来るほどの強敵が相手だったが、今と同じように、チリ一つ残さず敵は燃え尽きた。

莢迦 「ある意味においては、奥義・紅蓮鳳凰の方が強力な技とも言えるけど、威力に限って言えばこの焔の方が上。今の幽なら或いは、二つの特性を合わせた最強最大の技を生み出せるかも・・・」

ぶるりと震える。
わかっていたことだが、やはり興奮する。
天地神魔界と敵なしの莢迦と同等の域に達する者が、彼女と同じ人間の中にいる。
莢迦もまた、戦いの中に己を見出す人種だった。

莢迦 「さくら、バハムート、蒼龍、フレイヤ、夏海、羅王丸、元、ゼファー、音夢ちゃん、祐一君・・・・・・みんなみんな強いし、まだまだ強くなる子達もいるけど、やっぱり私を一番熱くさせてくれるのはあなただね、幽!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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