Kanon Fantasia

第二部

 

 

第35話 闇の王

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フローラ 「誰も、いないね?」

祐一 「そうだな」

他と同様、祐一とフローラも皆を探すよりも、前進することを考えて行動していた。
だが、他と違うのは、二人はここまで一切敵に遭遇していないことだった。
敵の本拠地で罠にはまって地下に落とされ、しかし敵がまったく出てこないのは奇妙なことである。
おかげで楽に進めるが、ここまで完全に敵がいないと、かえって不気味だった。

フローラ 「生き物の気配がしないのって・・・すごく気味悪い」

ずっと人間社会から離れて生活してきたフローラだったが、代わりに森の生き物に囲まれていたため、寂しいと感じたことはなかった。
けれども、もしこの場所に一人でいたら、どれほどの寂しさを感じるか想像もつかない。
それほどまでに命の気配が感じられない場所だった。

祐一 「魔界の都市っていうくらいだから、魔族が住んでるのか思いきや、そんな様子は全然ないよな。ほとんど、都市全体が城っていう印象しか受けない」

いったいこんなものを地上に浮上させて、魔族は何をしようというのか。

フローラ 「! 誰かいる!」

どこまでも続くかと思わせる長い通路の先に、人影が見えた。

祐一 「・・・誰だ?」

仲間の者でないのは間違いない。
しかし、今まで遭遇してきた魔族とは雰囲気が異なる。

?? 「・・・・・・・・・・・・くっくっく」

そいつは、祐一とフローラの姿を見ると、肩を震わせて笑い出した。
異様な雰囲気に、祐一は危険な臭いを感じ、フローラを探させる。

祐一 「おまえ、何者だ?」

?? 「くっくっく・・・幾万年・・・待ったことか。さすがの我にも、この年月は長かったぞ」

祐一 「? 何のことだ?」

?? 「わからぬか? まぁ、無理もあるまい。我にとっては数万年も、少々長かった程度のものだが、人間にとってはそれこそ悠久の時とも言える年月であろうからな。覚えていないのは無理はない」

祐一 「数万年?」

?? 「だが、我は覚えている。間違えようはずもない。再びおまえ達を探し当てる日を待ち続けておったわ。よくぞ再び我が前に現れてくれた、奇跡王、そして時の聖女よ」

祐一 「奇跡・・・王?」

フローラ 「時の聖女・・・」

二人にとってははじめて聞く言葉だった。
だが、不思議と心に響く。
強力な言霊が感じられた。

?? 「再会を祝して祝杯を挙げたいものだな。おまえ達の血で」

祐一 「・・・・・・おまえが何を言ってるのかはわからないが、一つだけ確かなのは、俺達の敵だってことみたいだな」

?? 「ふふふっ、貴様は覚えていまいが、あの時の屈辱、一秒たりとも忘れたことはないぞ、奇跡王」

祐一 「その奇跡王ってのが何のことかは知らないが、そこを退かないなら、倒させてもらうぜ」

?? 「やってみるがいい! 我があの時と同じと思ったなら大違いだ!」

ゴォッ!!

狭い通路内に突風が巻き起こる。
膨れ上がった魔力に祐一は気圧される。

祐一 「ぐ・・・!」

?? 「我は闇の王! ダークロード!!」

ダークロードの右手に闇の魔力が集まり、剣をかたどる。
祐一もデュランダルに魔力を込めて剣を生み出す。

闇 「行くぞ!」

祐一 「おおおおお!!!」

光と闇が激突する。
反発する属性同士は、激突によって凄まじいフィードバックを発生させる。
押し合いに負ければ、相手の攻撃とあわせて跳ね返った自分の力までも喰らってしまう。

祐一 「ぐぅぅぅぅぅぅ!!」

闇 「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ」

両者の力は一見互角。
と思われたが、徐々にダークロードの力が祐一を圧倒し始める。
やはり、純粋な魔力の総量対決では人間である祐一は不利だった。

祐一 「(やばい・・・・・・っ)」

このまま押されれば、自分だけでなく後ろにいるフローラまで巻き込まれる。
そうさせるわけにはいかない。

祐一 「なら・・・・・・光皇天翔!」

足元から吹き上げる光の魔力が、二つの力を上へ押し上げる。
力の流れが反らされ、天井が突き破られた。
崩れ落ちる瓦礫の煙で、互いの姿を見失う。

祐一 「・・・・・・(そこか!)」

正面からの打ち合いでは勝てない。
ならば、先手必勝。

祐一 「光刃連撃!!」

ズババババババババッ

ありたっけの力を込めてダークロードに斬りかかる。
相手は反応が遅れ、防御できていない。
ここで一気に畳み掛ければ勝てると見た。

祐一 「光皇乱舞!!」

持てる技と力を全て叩き込む乱舞技でダークロードを吹き飛ばす。
フローラと出会って以来充実し続けている祐一にとって、過去最大の力が発揮されていた。
今までに戦ったことこのある相手ならば、おそらく瞬殺するほどの力であろう。

祐一 「ハァァァァァァッ!!!!!」

ドォーン!!!!

最後の一撃が決まり、ダークロードが瓦礫の向こうに消える。

祐一 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

今の一瞬に、出せる力の全てを注ぎ込んだ。
当然、体力も根こそぎ持っていかれた。

祐一 「(決まってろよ・・・)」

目の前で瓦礫の一部が崩れ落ちる。
警戒する祐一だったが、構えるよりも早く、隙間から飛来した黒い刃が祐一の腹部を深々と切り裂いた。

祐一 「が・・・はっ・・・!」

口からも大量の血を吐き出し、祐一が倒れ付す。

フローラ 「祐一さんっ!」

悲痛な声を上げてフローラが倒れた祐一の下に駆け寄る。
瓦礫の中からは、まったく無傷のダークロードが起き上がった。

闇 「くっくっく、奇跡王よ、おまえの力はそんなものか。人間というのは不便なものだな。せっかく鍛えた力も技も、ほんの百年足らずで無に帰してしまう。たとえ転生しても、また一からやり直しだ。つまらん生き物だな」

祐一 「ぅ・・・がはっ!」

フローラ 「っ!!」

見ているフローラの顔が青ざめる。
どう見ても、助かる傷ではない。
出血もひどすぎる。

フローラ 「ゆう・・・いち・・・さん・・・」

闇 「呆気ない。覚醒する前ではこんなものか。まぁよい」

ゆっくりした足取りでダークロードが祐一とフローラのもとに歩み寄る。

祐一 「ぅ・・・フ・・・ローラ・・・・・・にげ・・・ろ」

フローラ 「祐一さん・・・」

青ざめていたフローラの顔の、決意のようなものが浮かぶ。
首から提げているクロノスをぎゅっと握り締め、笑顔を浮かべる。

祐一 「な・・・にを・・・?」

フローラ 「祐一さん・・・待ってるから。ちゃんと助けに来てね」

懐中時計が光を発し、それがフローラを、そして祐一の体を包み込む。

闇 「む? 時の聖女よ、何の真似だ?」

フローラ 「(お願いクロノス、ユグドラシル、私に力を貸して!)」

光は一瞬激しさを増し、ダークロードも思わず目を覆う。
目を開けた時、祐一の姿はなく、フローラだけがその場に倒れていた。

闇 「ちっ、逃がしたか・・・。だが、まぁよい。この小娘が我が手元にあれば、きゃつは必ずやってくる。そして三人目が揃えば・・・くっくっく・・・我が野望が成就する瞬間も近いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「いやまったく、こういう時はみさきさんがいると大助かりだよな」

みさき 「誰にだって一つくらい取り柄はあるものだよ」

多くの者達が地下迷宮をさまよっている頃、浩平とみさきの二人は難なく魔都の中心部近くまで侵入していた。
みさきの能力をもってすれば、罠などを見破るのはたやすいことだった。

みさき 「でも、わたしのわがままに浩平君まで付き合わなくてもよかったんだよ?」

浩平 「何言ってるんだよ、仲間だろ。それに、俺もここに用があるんだからな」

みさき 「無理はしないでね」

浩平 「心配するな。俺は天下を取るため以外は基本的に自堕落なのがモットーだ」

みさき 「そういうところ、瑞佳ちゃんがいつも嘆いてたよ」

浩平 「あいつは世話焼きだからな」

呑気な会話をしているが、そこはこの二人、常に周囲に対する警戒心はなくしていない。
何しろここは敵の本拠地なのだから、気を抜けばどこから襲われるかわからない。
だが、それにしてもほとんど敵にも会わず、簡単に通れ過ぎているようにも思えた。

浩平 「どうも変だな」

みさき 「うん・・・待って。何か聞こえる」

浩平 「敵か?」

みさき 「というよりも、誰かが戦ってる。これは・・・」

 

ゴォオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

確認するまでもなかった。
進行方向の先で炎の柱が上がっている。

浩平 「あそこだな」

みさき 「うん!」

二人はその場所に向かって駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォオオオオ!!!

栞 「・・・・・・」

炎が収まっていくのを、栞は呆然と見ていた。
まだ傷が完治していないはずである。
満身創痍のはずなのだ。
それが・・・。

栞 「これが・・・」

火勢は増すばかりだった。
彼の眼は輝きを増し、剣はさらに紅く燃え上がる。

敵として対峙している相手は全て上位クラスの魔族のはずだった。
それが、幽を前に障害物の役割すらなせていない。

ベリアル 「たいしたものだな」

ゴーザ 「人間でこれほどの力を持った者がいるなどと、すぐには信じられん」

だが、その圧倒的な力を見せる幽を前に、まったく動じていない二体の魔族がいた。
その二人だけは、他とは明らかに格が違う。

ベリアル 「歯応えのありそうな奴! こいつは俺の獲物だぜ」

山羊の角を持った魔族、ベリアルが幽の前に進み出る。
もう一人、黒い鎧の魔族は静観している。

幽 「へっ、一匹ずつなんざまどろっこしいな。二匹まとめてかかってきな」

ベリアル 「威勢もいい。だがそういう台詞は、俺を倒してから言いな!」

ガキィッ!!

両者が交差する。
スピードはほぼ互角だったが、激突した時、幽の方がパワー負けしていた。

幽 「ちぃっ!」

魔剣ラグナロクに炎をまとわせ、敵に向かって振りかぶる。

幽 「紅蓮烈火ァ!」

魔族達をことごとく焼き払ってきた真紅の炎である。
激しく燃え盛る炎はベリアルの全身を包み込み、全て焼き尽くす、はずだった。

ベリアル 「けっ、ぬるいぜ!」

バァンッ

全身から魔力を放出し、ベリアルは炎を掻き消した。

ベリアル 「おらおらぁ!」

幽 「ぐっ・・・!」

逆にベリアルの猛攻に、幽は防戦を強いられる。
かつてないほど充実して見える幽が完全に押されていた。

栞 「幽さん!」

加勢しようとする栞の前に、もう一人の魔族ゴーザが立ちはだかる。

栞 「いつの間に!?」

ゴーザ 「他にも掃除せねばならんゴミはたくさんあるのでな。この場も早々に片付けさせてもらおう」

栞 「ゴミですってっ!」

ブゥン!

大鎌、ディアボロスが唸りをあげてゴーザに襲い掛かる。
だが、栞のその一撃を、ゴーザは片手で受け止めた。

栞 「!!」

ゴーザ 「時間はかけん。苦しまずに死なせてやろう」

栞 「くっ・・・!」

飛び下がろうとする栞だったが、一足遅く、ゴーザの剣が振り下ろされる。

ザンッ!

ゴーザ 「・・・・・・む」

だが、ゴーザの剣が捉えたのは栞の体ではなかった。
斬られて倒れたのは、ただの人形である。

ゴーザ 「まだ虫がいたか」

往人 「ゴミだの虫だの、人間なめんのも大概にしとけよ」

栞 「あなたは・・・?」

寸前で栞を助けたのは、人形使いの国崎往人であった。

往人 「ったく、連中はあんな罠に簡単にひっかかりやがるし、俺は一人だし。まぁ、俺的には一人の方が動きやすいんだがな」

愚痴をこぼしながら往人は栞を地面に下ろす。

栞 「ありがとうございます」

往人 「礼を言う気があるんなら、後でラーメンでも奢ってくれ」

ぶっきらぼうな男だ。
そういう印象を栞は抱いた。
どこか幽に通じる部分もある。

ゴーザ 「一人増えたところで同じだ。我々の敵ではない」

浩平 「なら、さらに二人増えたらどうだ?」

ゴーザ 「む」

新たな声に振り返ると、折原浩平が立っていた。
既に剣を抜いて、いつでも戦える態勢だ。

ゴーザ 「変わらんな。雑魚は束になっても雑魚だ」

浩平 「言ってくれるな」

往人 「そうまで言われちゃ引っ込んでられんな」

栞 「私だっていますよ」

それぞれに構えて魔族と対する。
だが、それでもゴーザはまったく動じない。

ゴーザ 「何度も言わせるな。同じことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻る     次へ