Kanon Fantasia
第二部
第34話 地下迷宮
音夢 「いたた・・・・・・いったい何が起こったって言うのよ?」
魔都に入ったと思ったら急に選考に覆われて、気が付いたらこの場所にいた。
周囲はレンガ造りの壁に覆われており、全体的に広いが、それでも魔都という広大の場所にあっては狭い印象を受ける。
前を見ても後ろを見ても、先の見えない通路が続いていた。
そして肌寒い。音夢 「地下・・・かな。なるほど、侵入者に対する罠というわけですか。こんなにあっさり引っかかるとは、迂闊でした」
?? 「ガァアアアアア!!!」
バキッ
背後から唐突に襲ってきた魔物を裏拳であっさり沈黙させてから、音夢は顎に手を当てて考える。
考えると言っても、ここでじっとしていても仕方がない。
今のような雑魚でも、大群で襲ってくれば厄介だ。
進むしかないのだが、前と後ろのどちらがいいものか。音夢 「・・・っ」
ふと気が付いたが、セレスティアが微妙に反応している。
手にとってかざしてみると、前の方を指し示した。音夢 「こっち?」
セレスティアは理の鍵と呼ばれる神具。
それがわざわざこうして示した道なのだから、概ね信じるに値するであろう。
音夢はそれ以上迷わずに前進を開始する。
しばらく行くと、分かれ道に突き当たった。
音夢 「今度は・・・・・・?」
耳を澄ますと、何かが聞こえる。
「ひょぇえええええええ」
声である。
しかも音夢にとっては非常になじみの深い、間違えようのない声だった。音夢 「まったくあの子は」
声のする方へ向かって駆け出す。
向こうもこちらへ向かっているらしく、声はどんどん近付いてくる。美春 「ひょぇええええええええええ」
音夢 「美春!」
美春 「へ? 音夢先輩!」
耳があったらピンと跳ねて、尻尾があったら思い切り振りそうな勢いで美春が音夢に気付き、走る方向を変える。
美春 「せんぱ〜い、助けてくださ〜い!」
音夢 「却下。敵前逃亡は認めません。自分で片付けな・・・さい!」
すれ違いざまに美春の背中にセレスティアを突き立て、戦闘モードを起動させる。
反転した美春のロケット弾攻撃によって、追ってきていた魔物の群れを撃退する。ドカーンッ
美春 「ぶいですっ!」
音夢 「お馬鹿! もっと静かな武器使いなさいよっ、崩れるわ!」
美春 「ひぇえええええええ」
今度は二人して崩れ落ちる天井から逃げる羽目になった。
音夢 「後で反省文五枚」
美春 「せ、せめて三枚に・・・」
そんなやり取りをしながら二人は地下通路を進む。
後ろに道は完全に塞がれてしまったため、前進する以外に道はない。美春 「それにしても、何だかとんでもないことに関わっちゃいましたね、今更ですけど」
音夢 「そうね」
保安局の人間として覇王一味を追っていたものが、いつしか魔族との戦いに巻き込まれている。
だが、音夢には巻き込まれているという印象がまったくなかった。
むしろ、この戦いに宿命めいたものを感じている。音夢 「(どうしてかな? 大事なこと、何か忘れてるような・・・)」
何よりも、莢迦との対戦あたりから、妙に体の調子がよかった。
その後の魔族ガレスとの戦いといい、全力を出せる時間が長くなっている上、回復も早い。
大きな戦いを前に上り調子なのはいいことだが、少し自分の体が不気味だった。美春 「あ、先輩、誰か来ます」
音夢 「そうみたいね。敵?」
美春 「いえ、たぶん・・・」
曲がり角でばったり出くわしたのは、あゆとレイリスだった。
向こうも警戒していたらしく、互いに構えた状態だったが、相手が誰かを知って警戒を解く。あゆ 「二人とも無事だったんだね。よかったよ」
美春 「あゆさんとレイリスさんも、ご無事でなによりですよ〜」
音夢 「レイリスさん、他のみなさんは?」
レイリス 「わかりません。ここまでは、あゆさんと合流できただけで・・・。ここは、かなりの広さがあります」
音夢 「そうでしょうね」
仮にこの地下迷宮が、魔都全域の地下に広がっているとしたら、しかもそのあちこちにランダムに飛ばされたのだとしたら、全員と合流するのは至難の業だろう。
音夢 「たった四人でも、合流できただけ幸運だった、と考えるべきですね」
レイリス 「どうしますか?」
音夢 「なんとかして地上に出て、中央を目指しましょう。みんな最終的には、その結論に辿り着くはずです」
闇雲に探し回るより、確実に全員が行き着く場所と目指した方が効率がいい。
敵の本拠地とは言え、皆そうそう簡単にやられるような面々ではあるまい。
同じ頃、潤と香里の二人も迷宮の中をさまよっていた。
しかも敵に追われている。香里 「まったく、冗談じゃないわね」
潤 「この間やっとの思いで倒した奴らと同程度の敵がうじゃうじゃいやがる・・・」
正直、ついてきたものの、二人ともメンバーの中ではレベル的に劣っている。
香里 「情けないわね、これでも華音ではトップクラスの実力者なんて言われてたのに」
井の中の蛙大海を知らず、とはよく言ったものだと、二人は旅に出て思った。
そんなことを考えているうちにも敵は迫ってくる。潤 「やばい、囲まれたぞ」
香里 「ちょっと、苦しいかしらね」
潤 「なぁ、美坂。もしかしたらここで死ぬかもしれないからさ、その前に俺、おまえに言っておきたいことがあるんだけどよ」
香里 「あとにしなさい。もし、なんて冗談じゃないわ。まだ名雪のことだって助けてないのに」
潤 「それもそうだな。まずはここを突破して・・・」
二人は互いに背中合わせになって魔物の群れと対峙する。
次々と襲ってくる敵を相手に、潤の槍と香里の戦斧が繰り出される。
かなり善戦するものの、いかんせん多勢に無勢だった。香里 「はぁ・・・はぁ・・・」
潤 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・マジでやばい、か」
そう思った時、一条の光が魔物群れを切り裂いた。
ザシュゥゥッ!!
潤 「!?」
その筋に、潤は見覚えがあった。
忘れようと思っても忘れられない、そんな太刀筋だった。?? 「おやおや、騒がしいと思ったら。少しは成長したようですが、この程度の連中にてこずっているようでは、まだまだですね」
反対側では雷撃が魔物を薙ぎ倒している。
香里 「あなたは・・・」
?? 「こっちは片付きましたよ」
?? 「ええ、歯ごたえのない敵です」
潤 「斉藤元・・・」
香里 「天沢郁未」
覇王城以来、姿を消していた二人、四死聖の斉藤元と、元十二天宮の天沢郁未である。
潤 「なんでてめえがこんなところにいやがる?」
元 「心外ですね。戦場こそ俺の居場所、少なくともおまえ達よりもここは俺にふさわしい場所だ」
郁未 「あなた達がいるってことは、栞も来てるの?」
香里 「栞だったら、また千人斬りと一緒にどこか行ったわよ」
郁未 「そう」
元 「まぁ、幽も必ずここへ来るでしょうからね、気長に待つとしましょう。まずはこの地下から脱出するのが先決です」
郁未 「そうですね」
元 「よかったら一緒にどうです? あなた方のレベルでは、二人だけでここを抜けるのはきついでしょう」
潤 「くっ・・・!」
非常に腹立たしい物言いだったが、悔しいことに事実だった。
しぶしぶついていくことにしたが、そこでふと思い当たった。潤 「そういえば、おまえらはいつからここにいるんだ?」
元 「少なくとも、あなた達よりは先にですね。随分と歩き回っているのですが、なかなか出口が見付かりません」
郁未 「平たく言えば、道に迷っているわ」
香里 「根本的解決にはなってないのね・・・」
迷子が四人に増えただけだったが、戦力的にはそこそこ充実した。
本々はは敵味方の四人が連れ立って歩くのも、奇妙は光景である。
こちらは佐祐理と舞。
他のメンバーとはかなり離れた位置に落ちてしまったらしく、舞の力をもってしても皆の居場所はわからなかった。
仕方なしに、皆も同じように考えるどうと思い、中央を目指して進んでいる。舞 「っ・・・誰かいる」
佐祐理 「味方・・・じゃなさそうですね」
前方にある気配は、明らかに人間のものではない。
二人は身構えて進む。モストウェイ 「ほほう、一番乗りは嬢ちゃん達か」
シャザード 「貴様が仕留め損ねた連中か。ならば、軽視はできんな」
舞 「おまえ!」
佐祐理 「あははー、この間の借りを返すいい機会ですね」
立ちはだかる二体の魔族。
片方は先の戦いで舞達に重傷を負わせ、佐祐理に呪いをかけたモストウェイだった。モストウェイ 「ひょっひょっひょ、おもしろいことを言う。ここにおるのは魔軍最強の二人と言っても過言ではない者達じゃぞ」
佐祐理 「なるほど。最強でその程度では、魔軍とやらの底も見えましたね」
モスとウェイ 「相変わらず顔に似合わず口の減らない小娘じゃな。今度は前のように手加減はしてやらんぞ」
佐祐理 「望むところです。舞はあっちの人をお願い」
舞 「・・・・・・」
頷いてはみたものの、舞にはまったく余裕がなかった。
モストウェイもそうとうなものだが、もう一人の魔族はまた別格のような気がしていた。シャザード 「私の相手はおまえか。名を聞いておこう」
舞 「川澄舞」
シャザード 「そうか。我が名はシャザード、魔軍最強の剣士だ」
黒い刀身の片刃の剣を抜いて舞に対して向ける。
舞も同じくレヴァンテインを構えた。舞 「・・・・・・」
シャザード 「・・・・・・」
剣士と剣士が剣を抜き合ったなら、もはや言葉は不用。
どちらからともなく仕掛ける。ギィンッ
舞 「っ・・・!」
スピードは劣っていない。
だが、剣の重さがまるで違っていた。
打ち合わせただけで、舞の体が後方に吹き飛ばされる。シャザード 「いい筋だ。だが、パワー不足だな」
ヒュッ
追い討ちに繰り出された剣をかろうじてかわす。
だが反撃まではできず、二度三度と斬りかかられるのを避けるのがやっとだった。舞 「こ・・・のっ!」
正面から来た相手に対し、剣の重力場を使ってカウンターを喰らわせる。
一瞬面食らったシャザードだったが、すぐに態勢を立て直した。シャザード 「ほう、魔剣レヴァンテインか。噂には聞いていたが、この目で見るのははじめてだな」
舞 「・・・・・・」
もう一方で、佐祐理とモストウェイの戦闘も行われていた。
こちらは一進一退。
狭い通路ゆえに大技を出せず、小技での小手調べを繰り返している状態だった。モストウェイ 「おのれ小娘・・・」
佐祐理 「どうしました? もう余裕がないんですか。大したことないですね」
モストウェイ 「図に乗るなよ」
能力が精神状態によって左右されるのは人間でも魔族でも同じことらしい。
佐祐理も人間としてはかなり魔力が高い方でも、最上位魔族たるモストウェイには遠く及ばない。
だから佐祐理は、モストウェイを挑発して力のコントロールをずさんにさせているのだ。
単調は攻撃ならば、どれほど威力があってもかわすことは可能だった。佐祐理 「(なんとか隙を見つけて、一発で決めないと)」
それだけが唯一の勝算だった。
佐祐理 「さぁ、佐祐理に呪いをかけた分、舞や祐一さんを傷つけた分、今ここで変えさせてもらいますよ」
舞 「・・・・・・」
シャザード 「どうした、来ないのか?」
完全に優勢ながら、シャザードには舞を追い詰めているという感じがしなかった。
何か得体の知れない協力は力が、威圧感を与えてくる。シャザード 「・・・・・・何者だ? 川澄舞ではなかろう」
舞 「・・・・・・そうね」
口調が変わった。
表情も先までは違っている。まい 「あたしはもう一人の舞。この剣そのものよ」
シャザード 「なるほど、そういうことか」
ドゴォーーーンッ!!!
地下迷宮が揺れる。
二つの大きな振動がひとところで起こったのだ。
片方はまいの重力波、もう一つは佐祐理の放った魔法である。佐祐理 「・・・・・・」
モストウェイ 「むぅ・・・」
佐祐理 「(はずした!)」
モストウェイ 「小娘・・・このわしに一度ならず二度までもこのような・・・死ね」
怒気をはらんだ冷たい殺気。
それとともに放たれる強大に魔力を前に、佐祐理に成す術はなかった。佐祐理 「っ!!」
体をこわばらせて目を瞑るが、予測した衝撃は訪れない。
佐祐理 「これは・・・!」
魔力の一撃から佐祐理を守ったのは、光の障壁だった。
さらに、雷をまとった魔力の塊が前方にある。?? 「佐祐理ちゃん、その雷球を撃ち抜きなさい!」
佐祐理 「夏海さん? はい!」
シルヴァンボウに魔力を込めて弓を引く。
放たれた弓は雷をまとい、モストウェイ目掛けて一直線に飛んでいく。モストウェイ 「ちぃっ!」
寸前で空間移動をして、モストウェイはその場から掻き消えた。
夏海 「また逃げたか」
カタリナ 「やはり、そうそう簡単にはいきませんね」
佐祐理 「夏海さん、それに先生」
夏海 「厄介な罠に引っかかっちゃって。ま、お約束かしらね」
舞 「・・・・・・」
佐祐理 「あ、舞、大丈夫だった?」
舞 「・・・大丈夫」
モストウェイ同様、シャザードも逃げ去っていた。
が、舞は釈然としない。
シャザードを退けたのはまいであって、舞ではない。カタリナ 「とにかく、先へ進みましょう。あれほどのレベルの敵がこれからはいくらでも出てくるでしょうから、慎重に」
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