Kanon Fantasia

第二部

 

 

第33話 究極の破壊魔法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴子 「おまえはあん時の!」

莢迦 「ふふ」

七年前、秋子、晴子、莢迦の三人はこの場で、同じ戦場にいた。
本陣にて、また最前線にて、秋子と晴子はそれぞれ莢迦と遭遇している。
敵味方両軍合わせて百万を数えたあの戦場を、たった四人で縦断した四死聖の一人だった莢迦と。

晴子 「そないなとこで、何のつもりや?」

莢迦 「私一応巫女だし、鎮魂の舞でもと思って」

晴子 「はんっ、おのれらが殺した霊も仰山おるんやろな〜」

莢迦 「それはお互いさまだよ」

キッと晴子が莢迦を睨みつける。

晴子 「殺したくて殺してるわけやない。戦場では仕方ないことなんや」

莢迦 「ご立派な大義名分だことで。ま、私に言わせれば・・・どっちもどっちなんだけどね。そんなことはどうでもいいんだ」

晴子 「こっちもどうでもええわ。用が済んだならとっとと行かんかいっ」

莢迦 「だーめ」

晴子 「こいつ・・・!」

馬鹿にしているとしか思えない莢迦の態度に激昂する晴子だったが、相手から発せられている異様なプレッシャーを受けてそれ以上前に進むことができなかった。
進もうと思えば進めないこともないのだが、歴戦を潜り抜けてきた晴子の勘が、それ以上前に出ることを拒んでいた。
前に出た瞬間、殺される。
代わりに秋子が少し前に出て莢迦に問いかける。

秋子 「何が目的ですか?」

莢迦 「特に目的というほどのこともないんだけど・・・あなた達に帰ってほしんだよね」

晴子 「なんやて!?」

莢迦 「はっきり言って、戦力外だし、自殺願望者なんているだけ邪魔」

晴子 「こっちは精鋭連れて来てんのや! 戦力にならへんことあるかい!」

莢迦 「敵は魔族だよ?」

秋子 「魔族・・・やはり」

情報が足りないため、確証は持てなかったが、おそらくそうだろうと秋子は思っていた。
突然巨大な都市を出現させるなどという真似、人間にできるはずもない。
相手が魔族となれば人間の軍隊などものの役に立たない。

晴子 「魔族やて・・・? いったい、何が起こっとんのや?」

莢迦 「知る必要ないよ。ここから先は、真に強者だけが上がれるステージ。立ってるだけの私の横を素通りもできないような連中なんて、壊されるために存在する背景と変わらないよ」

晴子 「このっ・・・言わせておけば・・・!」

正直、皆魔族が相手ということでしり込みかけているが、挑発的な莢迦の態度に怒りを募らせる者も多かった。
怒りで恐怖をかき消し、晴子を中心とした何人かが莢迦に詰め寄ろうとした。
だが、両者の間に巨大な影が落ちた。

晴子 「なんや?」

莢迦 「やっと来た。遅いよ〜」

美凪 「・・・これでも飛ばしてきた方なんですが」

みちる 「やっほー、莢迦ー」

降り立ったのは、美凪の移動用飛行魔獣だった。
乗っていた美凪、みちる、夏海、カタリナの四人がその背中から降りる。

晴子 「あんたは・・・」

秋子 「スウォンジー女史・・・」

カタリナ 「お久しぶりです、水瀬将軍、神尾将軍」

秋子 「・・・何故あなたがここへ?」

ここまでくれば、理由は問わずとも秋子にはわかっていた。
しかし、軍勢を代表して質問をする必要があった。

カタリナ 「軍を引いていただけませんか。敵は魔族の中でも上位に位置する者達です。普通の軍勢をいくら集めたところで、相手にはなりません」

晴子 「せやかて! このまま黙って指くわえて見てろ言うんか!? 今はおとなしゅうしとっても、いつ何をしでかすかわからんのやで!」

カタリナ 「サーガイアは既に攻撃を受けました」

晴子 「!」

カタリナ 「幸い被害は最小限で済みましたが、敵の脅威を改めて認識させられました。いたずらに犠牲を出さないためにも、ここは引いてください。この件は、サーガイア魔法学院長、大賢者カタリナ・スウォンジーの管轄の下で処理いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、形の上では連合軍の首脳が集まって決議を取るという形になったが、魔族に関する知識においては一日の長がある大賢者カタリナ・スウォンジー直々の要請でもあり、多くの者が一時後退案を押した。
強硬派は尚も進軍を主張していたが、結局は要請を受けて後退することとなった。

夏海 「結果の見えた会議に半日。組織っていうのは面倒なものね」

莢迦 「うんうん、まったくだ」

常に在野にあった彼女達にとっては理解しがたい世界だった。

夏海 「カタリナはよくあんなのと関わってやってられるわね」

カタリナ 「慣れもありますし、私はもともとから魔法学院上層部の生まれですから」

もっとも、昔はカタリナもそうしたしがらみが嫌で莢迦について行っていたのだ。
こうして割り切れるようになったのは、大人になったということなのか、それとも性分なのか。
遥かに年上の莢迦がこうなのだから、これはおそらく個性であろう。

莢迦 「さってと・・・雑用も終わったし。行こっか」

和みかけていた皆の顔が引き締まる。
みちるも努めて顔を引き締めようとするのだが、元が元だけにかわいくしかならない。

みちる 「んに〜〜〜」

莢迦 「・・・かっわいい〜〜〜」

ぎゅぅ〜

そして皆の気を引き締めた張本人が一番緊張感のない顔をしている。

夏海 「やれやれ・・・いつもと同じね」

カタリナ 「だから気楽に行けるんですよ」

美凪 「・・・緊張は、ほどよくが一番」

莢迦 「さて、ちるちるには特別任務をあげよう」

みちる 「んに?」

莢迦 「万が一に備えて、ここに残っててね。連中がまた動きそうになったら、多少無茶してでも足止めすること」

みちる 「むむ・・・せきにんじゅうだいだね」

莢迦 「そのとーり」

みちる 「わかった! みちるに任せておいて!」

連合軍が再び進軍することは、当分ないだろう。
その時は、既に手がつけられない状態か、全てが終わった時である。
つまり、体よくみちるをおいていくための方便だった。

 

 

 

 

 

それから一時間ほど後、彼女らの姿は魔都のはずれ近くにあった。

莢迦 「他の子達はどうしてる?」

カタリナ 「一足先に来ているはずですけど、突入の際には合図を送ると言ってあります」

夏海 「合図と言っても・・・どうする気?」

美凪 「・・・魔都上空に魔力反応多数確認。中型から大型クラスの魔獣のようです」

聞かされるまでもなく、その存在には他の三人も気づいていた。
レベルからすれば、グランザムやガナッツォほどではないが、一匹でもいれば人間にとっては脅威であろう。
それが空を覆いつくすほどの数いたとしたらどうだ。

莢迦 「魔界じゃ珍しくもない光景だけど、地上で見ると圧巻かも」

広大な魔界においてこそ、多少群れを成していても大きさを感じないが、地上で無数の魔獣が群れを成していると、本当に空が隠れそうだった。

カタリナ 「かなりの数ですね」

夏海 「いちいち相手してるのは面倒よ?」

莢迦 「ちょうどいいじゃない。久々に、アレやって合図代わりにすればいい」

カタリナ 「アレですか・・・?」

夏海 「いきなり大盤振る舞いか。それもいいわね」

美凪 「・・・いつでもオッケー」

莢迦 「じゃ、見せてやりましょ。四大魔女が誇る究極最強の攻撃魔法を」

中心に莢迦を据え、後方に美凪、左右に夏海とカタリナという布陣で四人は正方形を描くように立ち、それぞれが術の組み立てに入る。
一人一人の魔力が極限まで高まり、全ての力は四人が作る正方形を底面とするピラミッドの頂点付近に集中していく。
集められた魔力は、数値にすればおそらく二十万以上。尚も上昇している。

カタリナ 「天門、開きます」

夏海 「精霊の力も満ちたわ」

美凪 「・・・広範囲攻撃目標、補足します」

莢迦 「準備よし・・・っと。行くよ」

魔獣の大群は視認できるところまでやってきていた。
見えるだけでも数は数千。
だがそれだけの数を前に、四人はまったくひるむことはない。
術は完成した。
暴発寸前の桁違いの魔力が今か今かと解き放たれる時を待って荒れ狂う。
そして四人の声が重なり、全てが解放された。

莢迦・夏海・カタリナ・美凪 『ビックバンブレイク!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔都の近辺にいた祐一達は、二重の驚きに包まれていた。
最初に魔都から出現した魔獣の大群にひるまされたが、次の瞬間、それ以上の驚愕に襲われた。
天を光が満たしていた。

幾筋も延びる閃光が、魔獣の群れ全体に広がっていき、光に触れた全てのものを破壊していく。
魔獣はもちろん、建造物も何もかもを呑み込んで光が広がっていった。
光が着弾した場所は大きな爆発に包まれ、それらが重なって大気と大地が激震する。
祐一と佐祐理のアルティメットノヴァでさえ比較にならないほどの桁外れの破壊力だった。

祐一 「なんつー威力だ・・・」

思わず鳥肌が立った。
母の夏海から勝負を持ちかけられた際、祐一は自分のレベルがそこまで上がってきていることを内心喜んでいたが、甘い考えだと気づいた。
何故彼女達が四大魔女とまで呼ばれるようになったのか、その答えが目の前にあった。
あの四人に比べれば、祐一でさえまだまだ有象無象と変わりないことを思い知らされる。

佐祐理 「はぇ〜、すごいですね〜」

フローラ 「でも・・・綺麗」

人によって感じ方はさまざまだったが、一つ確実なのは、それが人の心を少なからず掴むものだということだった。

往人 「偉大なる先人達・・・ってやつか」

祐一 「本人達の前でそれ言ったら叩きのめされるぞ。あいつらまだまだ現役だと思ってるからな」

往人 「まぁ、いいさ。で、どうする?」

祐一 「今のが合図代わりだろ。なら、突入だ!」

人間達の数少ない戦力による、魔都攻撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

莢迦 「う〜ん・・・絶好調だね」

大技を決めたあとにはほどよい疲労感と爽快感が味わえる。

夏海 「それにしても、魔界はほんとスケールが大きいわね。地上の都市だったら一発で吹き飛ばすほどのビックバンを受けて・・・ちっとも壊した気がしないわ」

今の一発で、かなり広範囲に亘って建造物が破壊されていた。
だがそれは、広大な魔都のほんの一部でしかなかった。

カタリナ 「第一陣は退けましたが、魔獣の群れなど魔族にとっては尖兵にすぎないのでしょう?」

莢迦 「だろうね。こっから先は本当に手ごわい連中が出てくるよ」

カタリナ 「どうしますか?」

莢迦 「二手に分かれようか。カタリナと夏海は彼らの方についていって、私と美凪は別行動」

美凪 「・・・どちらが本命ですか?」

莢迦 「臨機応変。それに、戦力は何も私達だけじゃないからね」

祐一達のパーティーとこの場にいる四大魔女。
それらを束ねているのは事実上莢迦だったが、その管轄外にも人間側の戦力は存在する。
いつどう動くか予測のつかない者達だが、この事態に黙ったままでいるような者達でもなかった。

莢迦 「お楽しみは、まだまだこれからだもんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レギス 「魔獣の群れが一撃か。ある程度予測はしていたがな」

足止めくらいにはなるかと思ったが、やはり無意味だった。
そもそも既に、ガレス、セイレーン、ミスティア、ヴァーミリオンらがやられているほどの相手に、いまさら雑魚魔獣をかき集めたところでどうなるものでもない。

シャザード 「どうやら、そろそろ我々の出番のようだな」

ゴーザ 「まさか地上で出番が来るとは思わなかったが」

ベリアル 「少しは骨のある連中もいたってことかよ」

モストウェイ 「ひょっひょっひょ、わりと侮れんものじゃのぅ、人間も」

レギス 「魔都で自由に動き回られるのも面倒だ。好きに暴れてこい」

ベリアル 「当然そうさせてもらうがよ、レギス、てめぇに指図される覚えはねえ」

レギス 「・・・・・・」

ベリアル 「魔王様のお気に入りだからって、あまり大将ぶってんじゃねぇぞ。俺はてめぇが指揮官やってんのが気にくわねぇんだよ、大した力もねぇくせによ。大体てめぇ、今攻めてきてる人間どもに一度負けてんじゃねえか」

四人の魔族の中の一人、ベリアルがレギスに食って掛かる。
魔族の世界は力が全ての縦割り世界であり、横の繋がりは薄い。
より強い者にこそ従うが、同等の相手に従うことはない。
表には出さないがそれは、ベリアルのみならず、他の三人も共通して抱いている感情だった。

レギス 「私に従おうが従うまいが貴様らの勝手だ。だが、魔王様のお膝下を人間ごときがうろついているのを放っておいてもいいのか?」

ベリアル 「けっ、理屈掲げやがって。くそがっ」

従う理由はないが、当面目的は一緒である。
ただ、相手の言われたとおりに行動するのが癪に障るだけだった。

ベリアル 「俺は勝手にやらせてもらうぜ」

ゴーザ 「もちろん俺もだ」

モストウェイ 「というより、わしはもう勝手にやらせてもろぅたぞ」

シャザード 「何?」

モストウェイ 「この間来た人間どもが帰ってから、ちーと罠を張っておいたのじゃ。魔都に入った途端、あやつらは地下迷宮へ落ちる。あそこに高レベルの魔獣も多数おるし、わしの部下も大勢向かわせておる。運のよい奴は早めに地上に戻れるやもしれぬが、大半はそこで死ぬじゃろうて」

シャザード 「それか。確かに先ほど入ってきた連中は落ちたようだが。どうやら貴様の罠をたやすく突破した別のやつらがいるようだぞ」

モストウェイ 「なんじゃと?」

ベリアル 「ほぉ、おもしれぇ。そっちの方が楽しめそうだな。俺はそいつらの方へ行かせてもらうぜ」

ゴーザ 「俺もだ。地下迷宮の方は貴様が好きにすればいい」

モストウェイ 「ひょっひょ、そうさせてもらうわい。あやつらはこの間仕留め損ねたからのぅ」

三人の魔族はそれぞれに出て行く。

シャザード 「私も行こう。あやつらは実力は確かだが、どうにも詰めが甘いところがある」

レギス 「そうだな」

シャザード 「貴様も妙な奴だ。“本気”を出せば我ら四人どころか、魔王様にさえ匹敵する力があるというのに。といっても、それを知っているのは私と・・・セイレーンくらいだがな」

レギス 「・・・・・・」

一人になったレギスは、塔の上から魔都を見下ろす。

レギス 「“本気”か・・・。或いは、使わねばならないこともあろうが、今は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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