Kanon Fantasia

第二部

 

 

第31話 因果を断つ剣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「おぉおおおおお!!!!」

光の剣、デュランダルを振りかざす祐一は、パワーにおいてミスティアを圧倒していた。
先ほどまで完全に攻め手だったミスティアが、防戦一方である。

ミスティア 「ぐ・・・っ!」

祐一 「どうしたっ、そんなもんかよっ!」

ドォンッ

強烈な一撃が入り、ミスティアを後方に吹き飛ばす。

ミスティア 「っ・・・おのれ・・・!」

屈辱と驚愕の入り混じった表情でミスティアは祐一を睨みつける。
人間であっても、戦い方次第で魔族に匹敵することはミスティアもある程度わかっていた。
しかし、今目の前にいる相手はそれとはまったく違う。
魔力の量において既に上位魔族と比肩していた。

ミスティア 「(なんだというのだ、こやつは! 人間どころか、魔族にさえこんな奴はいない)」

祐一 「・・・・・・」

一方の祐一自身も、若干の戸惑いを覚えていた。
かつてないほど強大な魔力を扱っていながら、まるで余裕があった。
言うなれば絶好調。

祐一 「(あそこに行ってからか)」

つい先ほど、ユグドラシルという木のあった場所、フローラと出逢った場所に行ってから、全身が研ぎ澄まされたようになっていた。
いつもより遥かに強く魔力の流れを感じ、さも当然のようにそこから大量の力を引き出せる。
まるで自分の体ではないかのように。
だがどちらにしても、今まで苦戦していた上位魔族を相手に、互角以上の戦いができるようになったのは確かだった。
まったく負ける気がしない。

祐一 「覚悟しろ、ミスティア」

ミスティア 「・・・わらわの名を、気安く呼ぶでないわっ!」

相手を同格以上と判断したミスティアは、一切の意地もプライドも脱ぎ捨て、全力でこれを向かい打った。
最上レベル同士の、まさに死闘が繰り広げられる。

祐一 「おおおおお!!!!」

ミスティア 「あああああ!!!!」

巨大な魔力のぶつかり合いに空気が激しく振動する。
幸いレイリスが離れた場所にミスティアを誘い出していたので、周囲に人はいないが、もしいたなら、戦いの余波だけで怪我をするところだったろう。

ガキィンッ

ミスティア 「ぬぅ・・・っ!」

押されているのはミスティアの方だった。
影を使って攻撃をかわしてはいるが、それすらも徐々に追いつかなくなってくる。
祐一のパワーと、光属性の剣の攻撃をまともに受ければ、上位魔族と言えどもひとたまりもない。
数分間の攻防の末、ついに祐一が押し切った。

祐一 「喰らえっ」

態勢を崩した敵に向かって、剣を水平に薙ぐ。
続いてその軌跡が消えないうちに振り下ろしの第二撃も放った。

祐一 「光天十字剣!!」

二つの光の斬撃を同時に炸裂させる大技。
対サーペント戦では不発だったが、威力は相当なものである。

ザシュッ!

それが完璧なタイミングでミスティアの体を捉えた。

ミスティア 「が・・・はぁっ!」

強烈な一撃を受けて、ミスティアがダウンする。
技が決まったことを確信した祐一は、そのまま剣を納めた。

祐一 「・・・ふぅ・・・」

静かに息を吐き出す。
これだけの戦いのあとでも、まだ祐一には余裕があった。
自分でも信じられないほど調子がいい。

ミスティア 「ぐ・・・・・・」

祐一 「もうやめとけよ。いくら魔族ったって、今の一撃は自分でも驚くくらい完璧に決まったんだ。並大抵のダメージじゃないはずだ」

事実、ミスティアは立ち上がりはしたものの、それで精一杯だった。
祐一はそれ以上相手をせずに、レイリスがいる方へ戻っていく。

レイリス 「祐一様」

祐一 「これはおまえの問題だろ。こいつをどうするかは、おまえが決めろよ」

捨て置けば、力を回復したミスティアは再びレイリスの命を狙ってくるだろう。
それならば、今倒してしまった方がいい。
だが、仮にもミスティアはレイリスにとって異母姉になる。
肉親を殺すことは、祐一には躊躇われた。

レイリス 「よろしいのですか?」

祐一 「こいつのことは気に食わん。正直完全に倒しておきたいところだけど、一応こんなのでも、おまえの家族だろ」

レイリス 「・・・申し訳ありません」

最初に遭遇した時から祐一にはわかっていた。
命を狙われながら、レイリスはミスティアを少しも憎んでいなかった。
今も、見逃したいと思っている。
それを祐一は尊重した。

祐一 「さて、行くか。まだあっちは戦闘中みたいだからな」

レイリス 「はい」

ミスティア 「ま、待て! 情けをかけるつもりか!?」

激昂した声で二人を引き止めるミスティア。
瀕死に近かったが、それでも尚上位魔族たるほどの殺気を発している。

レイリス 「あなたは私が憎いのでしょうし、私も姉として敬ってなどいませんが・・・・・・同じ血を分けた方を殺したくはありません」

祐一 「そういうことだ。それに俺は基本的に殺さないで済むならその方向でいきたい。レイリスがいいって言うんだから、さっさと行け」

二人は立ち尽くすミスティアに背中を向けて立ち去ろうとする。
しばらくそのままでいたミスティアだったが、残る力を振り絞ってその背後を狙った。

ミスティア 「死ねぇっ、レイリス!!」

祐一 「!!」

レイリス 「ミスティア!」

ドシュッ!!

間一髪、振り返った祐一とレイリスの剣の方が速かった。
祐一の光の剣と、レイリスの双剣が三本の軌跡を描いてミスティアを斬った。

ミスティア 「おの・・・れ・・・・・・魔族の血を・・・汚す者・・・め・・・・・・・・・」

最期の瞬間まで、憎悪を溢れさせながら、ミスティアの体が霧散していく。
残りカスとも言うべき灰が、レイリスにまとわりつく。
死して尚、その憎しみは尽きることはなかった。

レイリス 「・・・・・・姉さん」

祐一 「レイリス・・・」

レイリス 「あの人は、誰よりも純粋な魔族でした。誰よりも、魔族を崇高な種族だと信じていたのです。善し悪しはさておき、とても純粋だった。・・・・・・・・・私が、彼女を狂わせてしまったんです」

魔族を崇高と思えばこそ、そこに人間の血が混じることが許せなかった。
だからその血を引くレイリスをひたすらに憎んだ。
その憎しみによる深い闇が、一人の魔族を狂気に導いたのだった。

レイリス 「哀れな方です。けれど、それを生み出したのは、私なんです」

祐一 「おまえが気に病むことじゃないだろ」

レイリス 「はい。・・・・・・でも・・・なんででしょう? 好きでも嫌いでもない人でしたけれど・・・こんなに悲しいのは・・・」

肩を震わせるレイリスを、祐一は抱き寄せた。
うつむいたままのレイリスは、泣いているようだった。

レイリス 「・・・申し訳ありません。見苦しいところをお見せして・・・」

祐一 「気にするなって言ったろ。悲しい時は泣けばいいさ。遠慮しないでな」

少しの間、レイリスは祐一の腕の中で泣いた。
ほんの一、二分の間ではあったが。

フローラ 「あの〜・・・」

と、二人が離れたタイミングを見計らって、フローラの声がかかる。
さすがに恥ずかしくなって、祐一とレイリスが素早く離れる。

祐一 「よ、よぉ・・・」

フローラ 「もしかして、忘れられてた?」

祐一 「そ、そんなことはないぞ」

フローラ 「いい雰囲気だったね、二人とも。もしかして、噂に聞く、恋人っていうものかな?」

レイリス 「いえ、私は祐一様に仕えるメイドに過ぎません。そのような大それたものではございません。ところで、あなたは?」

ほんの数秒で立ち直り、メイドとしてのプロの表情を浮かべて、メイドに過ぎないと言っておきながら、まるで主に近付くものを威圧するような感じで祐一とフローラの間に割ってはいる。

フローラ 「あ、えと・・・私はフローラ・・・です」

レイリス 「私はレイリスと申します。お見知りおきを」

フローラ 「うん、覚えた」

それからしばらく無言の向き合い。
レイリスはあくまでメイドとして一見控えめに、フローラは少し警戒心を含ませたしかし親しみやすい笑顔で向き合っているのだが、漂う空気に一種異様なものが混じっていて、祐一はいづらかった。

祐一 「あ、あの〜、二人ともどうした?」

こういう時、えてして男は弱いものである。
二人によって祐一の言葉は黙殺された。
そこへさらに話をこじらせそうな四人目が介入する。

夏海 「飛ばしてきた私が今さっきついたばかりなのにどうしてもう祐一がいるのかが気になって見にきてみれば、なるほど楽しそうね」

祐一 「楽しそうねじゃないだろうが、母さん」

夏海 「どうやら新しい出逢いがあったみたいね」

祐一 「そんなことよりも、佐祐理さんは?」

切羽詰った様子のその質問に対し、夏海は笑顔で答える。

祐一 「そうか・・・」

夏海 「ぱぱっと効いちゃったみたいよ。すぐに元気になるだろうって、さくらが・・・・・・って、のんびり話してる場合でもなさそうね」

別の、ミスティアとは別の、しかし同等の巨大な気配が上空に出現した。

 

 

 

 

 

 

ヴァーミリオン 「きゃぁーっきゃっきゃっきゃ! おまえら全部まとめて皆殺しだぁっ!!」

半身が黒焦げで吹き飛んでいるヴァーミリオンが、空にあらかじめ用意しておいた魔力のもとにいた。
本来は適当に楽しんだ上で、最後の後始末に落とすつもりだったのだが、予定変更だった。

ヴァーミリオン 「みんなまとめて吹き飛んじまいなっ! はっはっはっはっは!」

 

みちる 「うっそー!? あいつ生きてたの!?」

美凪 「・・・これはうっかり」

気配を察して戻ってきた美凪は、己の迂闊さを反省する。
倒したと思った敵が意外な行動に出る可能性は、昔莢迦によく教え込まれたことだった。

カタリナ 「芳乃さん! なんとかならなかったんですか、あれ!?」

さくら 「そのつもりだったんだけど・・・どうやら異空間に戦闘の余波で生まれる魔力をためていたみたいだね。すぐにさっき以上の魔力を集められちゃったよ」

 

ヴァーミリオン 「じたばたしても無駄だぁ! どうせみんな消えるんだからなぁ! さぁ、絶望しろ、恐怖しろ、俺様を楽しませろぉ!!」

 

祐一 「好き勝手言いやがって、あの野郎」

祐一を先頭に四人も合流する。
舞や美春も戻ってきた。
だがそれだけの面子が揃いながら、具体策もなく、ただ上空にたまっている魔力を見上げていることしかできなかった。

夏海 「これはさすがに高みの見物とはいかないか」

カタリナ 「多少無茶をしてでも、止めなくてはなりませんね」

美凪 「・・・私も・・・」

夏海 「あんたは引っ込んでなさい」

カタリナ 「それ以上は本当に死にますよ」

メテオフォールはカタリナのアルテミスノヴァ同様、最後の切り札とも言うべき美凪の最強魔法である。
一度使えば魔力が著しく減ることとなる上、体力の消費も激しい。

美凪 「・・・ですけれど、万一の時にお二人が動けないのでは困ります」

カタリナ 「それはそうですが・・・」

かと言って、この場に上空の魔力をどうにかできるだけの力の持ち主は他にいない。
やるしかないと思った時、制止がかかった。

カタリナ 「倉田・・・さん?」

佐祐理 「あははーっ、ここは任せてくれませんか? 迷惑をかけた分の償いをしなくちゃいけませんからね」

呪いの後遺症など感じさせない、むしろ佐祐理は気力魔力ともに充実しており、笑顔もいつにも増してまぶしい。

佐祐理 「祐一さん!」

祐一 「おう!」

呼ばれた祐一はすぐにその意図を察した。
二人の合体技とすることで、最強の魔法となったあの技を・・・。

佐祐理 「強化版ですから」

祐一 「なら、俺も本気の本気で力集めるぜ。しかも今の俺は絶好調ときた」

地面に剣を突き立てる。

祐一 「おおおおおおお!!!!!!」

気合とともに膨大な量の魔力が集まってくる。
人間の体に収まりきらない魔力が暴れ狂うが、祐一はそれらを全て支配していた。

 

ヴァーミリオン 「もう何をしても遅いってってんだろうがぁ! 死ねぇ!!」

 

力をためている間に、上空の魔力が放たれる。
会心の笑みを浮かべたヴァーミリオンが、全てを吹き飛ばす様を見届けようとする。
だがそれは、決してかなわぬことだった。

佐祐理 「行きます!」

祐一 「行け!」

カタリナから教わった最強魔法アルテミスノヴァ。
それを佐祐理なりにアレンジし、祐一とのコンビではじめて実現する究極魔法を編み出した。
その名も・・・。

佐祐理 「アルティメットノヴァ!!」

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!

光の極大魔法が真上に向かって放たれる。
途中で落ちてくる魔力を呑み込んで、まっすぐヴァーミリオンに向かっていく。

ヴァーミリオン 「そ、そんな・・・・・・ばかなぁ!!?」

ダメージを受けていたヴァーミリオンは避けること叶わず、光に呑み込まれ、跡形もなく消滅した。

 

美凪 「ぱちぱちぱち」

カタリナ 「驚きました。私が苦労して編み出したあの魔法のさらに上位版を作り出してしまうなんて」

夏海 「確かに、彼女もすごいけど・・・それ以上に・・・・・・」

 

フローラ 「わぁ! 祐一さんってすごいんだ」

レイリス 「お疲れ様です、祐一様」

我先にと祐一のもとに駆け寄る二人。
素早い行動に、一番近くにいた佐祐理は思わず後ずさり、舞は完全に出遅れた。

佐祐理 「・・・・・・あははーっ、やっぱり佐祐理と祐一さんのコンビは最強ですよねー」

ことさらに名前の部分を強調して言う。

レイリス 「・・・もちろん、私の主たる祐一様でございますから」

対抗して、私の主、の部分を協調するレイリス。

フローラ 「頼れる人っていいよね。やっぱり私の運命の人かな」

一人フローラだけは他の二人を黙殺してマイペースに振舞う。

祐一 「・・・・・・」

美少女に囲まれて本来なら幸せ者と言われる立場にあるのだが、どうにも居心地が悪い祐一であった。

 

美凪 「・・・ハーレム」

カタリナ 「魅力的な方ですからね。夏海さんにとっては自慢の子供ですか?」

夏海 「・・・そうね」

どこか上の空で夏海は答える。
その目はずっと息子である祐一に対して向けられていた。

夏海 「(さっきの魔族との戦い、そして今の合体技・・・・・・祐一の扱った魔力は普通のレベルを遥かに超えていた。それこそ、莢迦級だった・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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