Kanon Fantasia
プロローグ
メルサレヴ歴1792年。
およそ百年近く続いた戦乱の時代も終決を迎えようとしていた。
大陸の中央に位置するメキド大平原。
数千年前に起こった、全ての種族を巻き込んだ大戦の折にも、最終決戦の地となった場所であると言われている、周囲を山に囲まれた盆地である。
そこにこの日、およそ百万にもおよぶ兵が集まっていた。一方は、尚も戦乱が続くことを望む覇王ゼファー・フォン・ヴォルガリフ率いる覇王軍六十万。
もう片方は、それを阻止し、長く続いた戦乱を終わらせようとする東方の太守北辰王が率いる連合軍四十万。数の上では覇王軍が勝っていたが、これまで数度に渡る戦で連合軍は連戦連勝。
覇王軍はこの一戦に全てを賭けるつもりで全軍を率いて決戦に臨んだのである。
そしてそれに応じた連合軍も各国から集まった精鋭を連れてこの地へやってきた。メルサレヴの歴史に残る大決戦の時だった。
北辰 「・・・とうとう、ここまで来たか」
山の上に陣取った連合軍の本陣の中。
眼下に霧がかった平原を見ながら、北辰王は万感を込めてそう呟いた。
傍らに控えているのは一人の若い女。
少女にしか見えない女の名は、水瀬秋子。
北辰王が最も信頼し、また全軍にその名を轟かせる戦女神と呼ばれる存在であった。秋子 「はい、いよいよですね」
落ち着い物腰。
しかし同じく万感を込めて秋子も応える。北辰 「思えば、長い道のりだった。・・・おまえにも、辛い思いをさせたな」
秋子 「いいえ。あの人は自分を貫いて散ったのです。悲しくないと言えば嘘になりますが、私はあの人を誇りに思います」
北辰 「そうか。すまない」
秋子 「主たる者が、滅多に頭を下げたりしてはいけませんよ。私達は、あなたの理想を叶えるために戦ってきたのですから。その礎となるならば、本望です」
決意を語る秋子に対し、北辰王は厳しい、しかし穏やかな顔を向ける。
北辰 「・・・子供は、なんという名だったか?」
秋子 「名雪です。今年で、十才になります」
北辰 「あいつが死んだのが八年前。その娘はほとんど父親のことを覚えておらんだろうな」
秋子 「はい・・・」
北辰 「ならば、おまえまで死ぬわけにはいかんぞ」
秋子 「あ・・・」
北辰 「いいな、よく聞け。この戦、死ねば負けだ。私も、おまえも、なんとしても生きなければならん。もちろん、勝って生き延びるのだ!」
拳を握り締める王。
その胸の中には、自身の友人であった秋子の夫をはじめ、長い戦乱で散っていた多くの者達のことが浮かんでいた。
死んでいった者達、一人足りとも忘れたことはない。
そして、その死を無駄にしないためにも・北辰 「この戦は理想の終着点ではない。ここから始まるのだ」
秋子 「はい。どこまでお手伝いしましょう」
霧がますます深まる中、それに合わせるように両軍の士気も高揚していった。
それが最高潮に達した時、指示を待たないまま前線の兵達が遭遇し、戦闘を開始した。
北辰 「始まったか」
霧の中から爆発音がすると、北辰王は拳を握り締めた。
いよいよ天下分け目の決戦が始まったのだ。このメルサレヴでは、魔法文明が発達しており、科学と呼べるものは過去の時代の遺産であり、今では一部でしかその存在が確認されていない。
しかし、覇王ゼファーはどこからかその技術を入手し、戦に取り入れていた。
その最たるものが鉄砲で、魔法に匹敵する武器として持ち込んでいる。
利点は、誰にでも使えるということと、射程が長いという点だ。
さらに覇王軍の中には、魔物を飼いならす者までおり、その強さは驚異的だった。
しかし、統率力で勝る連合軍が、これまではなんとか勝ってきたのだ。北辰 「勝つ。なんとしてもだ!」
負けることは許されない。
たとえどれほど不利な戦であろうとも。兵士A 「な、何だ貴様は!? ここをどこだとおも・・・がっ!」
兵士B 「お、おい! 何を・・・ぐぁっ!」
北辰 「ん?」
秋子 「何事ですか?」
前方の意識を集中していた二人だったが、突如として後ろから上がった声に振り返る。
何やら陣の中が騒がしかった。
その騒ぎの中心が徐々に迫ってくる。
やがて、陣幕を破ってその男が姿を現した。幽 「邪魔だよ」
底冷えするような殺気を込めた低い声で男はそう告げた。
本人的には軽く告げた程度の調子なのだろうが、聞いた者はそのあまりの威圧感に道を空けてしまうほどだった。
それでも行く手を阻もうとしても者がどうなったのか、男の歩いてきたあとを見れば一目瞭然だった。
男の歩いたであろう線上にだけ、屍が転がっていた。北辰 「何者だ?」
幽 「てめえに用はねえよ。俺はゼファーの野郎をぶっ殺しに来ただけだ。退かねえと殺すぞ」
刃のような輝きを放つ銀色の長髪。
爛々と前を見据える金色の両眼。
返り血をたっぷる浴びて朱に染まった鎧。
長く、細身ながら重厚感を漂わせる、肩に担いだ真紅の剣。
その姿はまさに、魔人の如し。北辰 「・・・千人斬りの・・・幽・・・!」
それはこの戦乱の終末において、突如として現れた男の名であった。
千の人と千の魔物を斬ったと言われる魔人である。百戦錬磨、常勝将軍と謳われた北辰王が、その姿に身震いを覚えていた。
そんな王にはまるで興味を示さず、その横を素通りにしていく幽。秋子 「・・・・・・」
幽 「・・・・・・」
途中、秋子の横を通る時だけ僅かに視線を動かしたが、それでもすぐに興味を失って歩いていった。
兵士C 「と、殿! あんな狼藉者を逃しては・・・すぐに追手を・・・!」
莢迦 「やめておいた方がいいわ」
元 「ああなっては誰にも手がつけられませんからね」
羅王丸 「手ぇ出したら100%死ぬぜ」
幽が現れたのと同じ方向から、さらに三人が現れる。
一人は艶光りする黒髪に、黒曜石のような瞳をした美しい娘。
一人は人の良さそうな顔をした細身の青年。
一人は筋骨隆々とした獰猛そうな男。北辰 「四死聖・・・か」
四死聖。
それは幽を筆頭に、人を超越した死神につけられた呼び名である。
舞姫、莢迦。
牙刃の斎藤元。
鬼神羅王丸。
そして千人斬りの幽。
まさにその力は、天地を揺るがす、絶対無敵・常勝不敗・地上最強!
彼らの通ったあとには、屍の山のみが残るという。莢迦 「ふふ、あなたに勝たせてあげることになるでしょうね、北辰王。もっとも、幽にそんなつもりは欠片もないでしょうけど」
元 「さて、急がないとおいていかれてしまいますね」
羅王丸 「そうはいかねえな。あいつだけ暴れて終わりなんざ許さん」
三人も同じ様に北辰王と秋子の横を素通りし、幽のあとを追っていった。
秋子 「・・・・・・」
羅王丸 「・・・・・・」
一瞬、秋子は羅王丸と目を合わせた。
しかし、羅王丸の方はほとんど意に介せず、先へ進んでいった。
それから数時間後、天下分け目の戦いは連合軍の大勝利で終わった。
しかしこの時、霧が晴れた平原を上から見下ろした者には、戦場を真っ二つに裂いた一本の真っ赤な線を見たという。
そして、負けた覇王軍の総大将、ゼファーを討った者が誰なのか、まったく分からず終いだった。かくして、長く続いた戦乱は終わった。
同時に、四死聖も忽然と姿を消し、天下分け目の戦いで百万の兵を真っ二つに斬り裂いたことを含め、彼らの名は伝説と化したのだった。
この物語の真の始まりは、戦が終わってより七年、メルサレヴ歴1799年から・・・。
あとがきらしきものかもしれない?
今度はカノンでファンタジーです。ってプロローグじゃほとんどカノンキャラは出てませんがね。
カノンキャラメインだが、脇役には他作品のキャラも登場するでしょう。もちろんオリキャラも。
なんか色々パクリのある設定がありますが、気にしたら負けです。気にならなかったらそのまま気にしないで進みましょう。気になっても無視して進むべし。