「持ち上げたものは落ちる」 「立てたものは倒れる」 「差し込んだものは抜ける」 .etc
これらは物理の根本であり、自明の理と言われるものである。
今回のトンネル天井の崩落事故発生後、中日本高速道路の最初の記者会見では
「想定外の事故」とのたまわった。
その後、次第に明らかにされるトンネル天井の構造を知って驚いた、と言うか呆れかえった。
なんと、一切の保護機能を持たない吊下げ構造なのだ。
想定外どころか誰が見ても想定される事故ではないか。
以前、原発事故の時に、絶対安全のことを書いたが
この構造も絶対安全、本質安全（フェイルセーフ）についての思慮がまったくなされていない。
吊下げ部が破損したら致命的な破壊、災害に直結する構造なのだ。
「吊下げ部が破損したらどうする」の思慮が欠如している。
破損した場合でも致命的な破壊に至らない構造、
もしくは、人的被害が生じない対策が採られていなければならない。
ここでもまた 「吊下げ部は破損しない」 という安全神話（妄想）からスタートしているのである。
報道などによると維持管理の問題として責任の所在を追及しているようだが、
技術屋の端くれとして感ずるのは、維持管理以前の問題、設計上の欠陥であり、
この設計を承認した、関係省庁の手落ちである。
そもそも吊下げ金具の固定に使用しているケミカルアンカーボルトが間違い。
現場に携わった技術屋なら、吊下げの目的でケミカルアンカーなど絶対使用しない。
ケミカルアンカー等のコンクリートに穴を明けてボルトを差し込んでアンカーボルトとする工法は、
代替工法、簡便工法として行われるもので、正規工法では使用することはありえない。
恐らくこの工事にたずさわった現場の技術者、職人さんのなかには今回の惨事を
予測し危惧していた方が沢山おられると思います。
以下に、アンカーボルトの事例について少し説明してみましょう。
アンカーボルトの本来の姿は「アンカー（錨）」の名前の通り、物体が移動しないように固定することか役目なのです。
通常は「基礎」と言われるベース上に機械装置等を固定するために用います。
本来の使用例の場合だと、機械等はコンクリートの上に乗っているのですからホールアンカーの
充填樹脂が劣化したり、コンクリートが破損しても直ちに脱落破壊等の致命的な事故にはなりません。
ですから略式であるホールアンカーの使用が認められるのです。
トンネル天井で吊下げ支持に使用したのは、まったくの邪道、コンクリートの物性や樹脂の物性を無視した
暴挙であります。コンクリートは圧縮強度は高いが引張り強度は低く、長期の震動や設置場所の化学的条件
などで物理的性能が著しく影響を受けるものであります。
畑違いの私でさえ持っている基本的な認識を土木建築の専門技術者がもってないはずがありません。
アンカー部が破損したら直ちに落下するのは明白、それなのに何故このような設計がなされたのか
不思議でなりません。そこにはコスト削減、工期短縮、メーカーの拡販など商業的思惑から、
人としての良心を失った営業・技術集団が間違いなく存在したということなのでしょう。
コンクリートの使用環境による脆弱性を考えれば不適切な使用法であることは明白である。
恐らく脱落アンカーボルトのかなりの割合で樹脂はもったがコンクリートが破壊してるものがあるだろう。
以上の事例に示すように、トンネル天井で使用されているケミカルアンカーの事例は
極めてリスキーで私に言わせればありえない工法である。
ハヤカ流の言いたい放題を言わせてもらえば
「なんかキナ臭いな〜」である。
ゼネコン、メーカー、お役所、政治力の
所謂、政官民が不純な目的で結託して認定された工法としか思えない。
当然、性能上の強度は充分満たしていて、その数値は破損はありえないレベルであるとは思いますが。
それはあくまでも初期性能であり、コンクリートの状態も、施工も理想状況での数値なのです。
お役人も専門家でありますから、当然、経時変化についての懸念、構造的なリスクは感じたはずですが、
結果的には認めてしまったわけです。そこには政治的な圧力があったか、おいしい賂があったか、
それとも単なる頭デッカチの数値偏重バカであったかは定かではないが、
「安全第一」ではない別のところでの合意が成立したということでしょう。
それが規格化されて全国四十何箇所かに造られてしまっているのである。
「恐ろしくてトンネルなんぞ利用できないワイ！」である。
トンネル自体は何千年の実績があり、「人類の英知」の証であるアーチ構造で
極めて安定した構造物であるのに、邪心にまみれた現代人の浅薄かな考えで余計な付帯物を
追加するからこのような惨事が起こるのである。
本質安全ならぬ、本質不安全な構造物であることが明白になった今
首都高の道路公社？が決断したように、
この構造の天井は全て撤去するのが正しい処置であると思うものである。
Ｈ２４/１２/７