田代滝にはこんな伝説があります。


田代滝(たしろだき)の機織り娘(はたおりむすめ)

 むかしむかしのことだ。 西畑(にしはた)の田代(たしろ)に、与作(よさく)という腕(うで)のいい木こりが住んでいた。
ある日、田代滝で木を伐(き)っていると、手を滑(すべ)らせて斧(おの)を滝壷(たきつぼ)に落としてしまった。
与作は裸(はだか)になると滝壷に飛び込んだ。 あちこちさがしていると、機織り(はたおり)をしている娘が目の前にあらわれた。
斧は機織り機(はたおりき)のそばに落ちていた。娘に返してくれというと 「わたしのことをだれにも話さないと約束してくださるなら、
返しましょう。」というではありませんか。 「わかった。だれにも話さない。」というと、斧と一緒に錦(にしき)の反物(たんもの)と
竹串(たけぐし)に刺(さ)した魚をたくさんくれた。 娘はこの世の者とは思われないほど美しかった。家に帰ってみると、
反物は川藻(かわも)で、魚は笹(ささ)の葉(は)であった。
 翌日、与作はまた田代滝に行った。そして、わざと斧を滝壷に落とすと、昨日と同じように滝壷にもぐった。
目の前にあらわれた娘は「また、おいでくださると思っていました」 とほほ笑(え)みながらいった。
与作は天(てん)にも昇(のぼ)る思いであった。

 それからというもの与作は毎日毎日、田代滝に行って娘と逢(あ)った。 ところが与作はげっそりやせてきた。
光明寺の和尚(おしょう)が与作の人相(にんそう)を見ると、死相(しそう)があらわれているではないか。 和尚が話を聞くと、
与作は田代滝での不思議(ふしぎ)な話を語った。「あの滝壷の主は白い大蛇(だいじゃ)だ。おまえさんは白い大蛇に精気(せいき)をとられている。
このままだと死んでしまう」と和尚が言った。与作はびっくりした。 「し、し、死ぬ。どうしたらいいのでしょうか」
「お経(きょう)を唱(とな)えるしかあるまい」 翌日、与作と和尚は滝壷に行った。与作を滝壷のそばに座らせお経を唱えた。
すると与作は何者かにあやつられるように滝壷に入り始めた。 水の中からは美しい娘があらわれ手招きした。その瞬間、和尚は「喝(かつ)」と叫んだ。
すると、娘は白い大蛇に変わって滝壷を泳ぎ回っているではないか。「見たか。あれが娘の正体だ」
(うそだ。あの娘が大蛇なんてうそだ)与作は心で叫んだ。

 与作は翌日また滝壷に行った。すると滝壷の水面が波立ち白い大蛇があらわれた。大蛇は与作に巻きつくと滝壷深く沈んだ。
そっと付いてきた和尚がお経を唱え続けると、与作は半死状態で浮き上がってきた。
 滝壷には蛇の鱗がたくさん浮かび、キラキラ輝いていたとさ。

  おしまい



(斉藤弥四郎  ふるさと民話さんぽ「広報おおたきNo.430」より)