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11月18日更新…「遷都」「応天炎上」「糸遊」
10月23日更新…「岬にて」「失われた結末」

(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させてくださいね。


◆ 「遷都」「応天炎上」「糸遊」

古代史の歴史謎解き3部作です。
奈良朝末期から平安遷都まで。藤原氏が他氏を排斥して、さらに同族間の権力争いから最後に北家が最高権力を独占するまで、その間に起こった謎の事件の真相を解く歴史ミステリー。

「応天炎上」は、866年の「応天門の変」の真相について、菅原道真が自分が見聞きした出来事と資料から謎解きをするという、いわゆる安楽椅子探偵もの。

「遷都」には特に探偵役はいませんが、奈良から長岡京、平安京遷都まで、井上内親王事件、藤原種継暗殺、早良廃太子事件の謎解き。

「糸遊」の探偵役は「越前」こと紫式部。「かげろふの日記」の記述から安和の変(源高明が陥れられた疑獄事件)の真相と犯人を推理。清少納言はもちろん、安倍晴明まで登場するのは一興。

この作品の紫式部は、藤原氏の男達の政治的には優秀でも「優雅や品格といったものから程遠い暴力的な部分」に嫌気が指して源氏の優雅さに惹かれていくという設定になっているのですが、あらためてこの作品の記述から考えると、藤原氏の他氏排斥のやり方の乱暴さに気付かされますね。

ところで、もう1つ、この時代でも特に謎めいているのが藤原種継暗殺事件なんですよね。だいたい事件の起こり方が異常。
この時代の陰謀は、謀反の疑いをかけられて死刑や流刑になるか、あるいは密かに毒殺されるという展開が多い。それがこの事件では、建設途中の長岡京で、深夜、新都建設の最高責任者が矢で射殺される。
これだけで、他の事件と違う背景を感じませんか?
ここで描かれているよりさらに深い真相がありそうな気がしますね。




◆ 岬にて (短編)

シャドウ群島の小さな孤島コープス島。荒涼たる寂寥の島には、「歳を取りに来た」という、世捨て人のような4家族だけが住んでいた。

そこは、地球が宇宙の中に剥き出しになっている場所・・・
「広大な宇宙と、億万の星と、星雲と、・・・そしてその暗黒の中を、燃えさかる太陽とともに、エーテルの風を切ってまわりながら進んでいく、地球という船が・・・」

「年を取って死んで行くには、宇宙の一番よく見える所で、毎日それを眺め、呼吸しなくてはならん」

ここにあるのは剥き出しのもの、覆われていないもの。
鋭いガラスの切片のような美。
それは甚だしく危険なものなのかもしれない。
だから普通の社会では禁止され、隠されている。
でも年を取った人間は、その危険と、そして美と、向き合える。
地球が宇宙と直接向き合うような場所は、若者には毒なのかもしれない。




◆ 失われた結末 (短編)

昭和13年。友達と遊んでいた少年が行方不明になり、帰ってきた時は老人になっていた。

タイムパラドックスものですが、その仕掛けではなく、昭和のはじめの少年の生活の描写が主になっている作品。
だからオチはイマイチかも。まあ、タイトルの通りです(^^;)




闇の中の子供 (短編)

家族が寝静まった夜、書物をしていた大杉は、玄関の戸を叩く弱々しい音を聞く。外は雷雨である。嫌な予感に襲われながらもドアを開けた大杉は、そこに不思議な姿の子供を見つけた。束ねた黒髪に黒羽二重の紋付という姿、そして「私は殺されます」という言葉・・・

冒頭の雷雨のシーンの緊張感のある文章がいいんですよ。ここを読むと、源氏物語の、「夕顔」の廃屋の夜のシーン「ふと絶えて音もなし」あたりを思い出します。

下敷きとなっているのは歌舞伎の「菅原伝授手習鑑」。歌舞伎やおとぎ話の中で語られる子供たちの悲劇、人間の歴史の闇の部分を描いています。

歌舞伎は、あらためて見ると凄まじいストーリーが多いけど、生き抜くことだけにエレルギーを集中しているたくましさも感じますね。




養子大作戦 (短編)

南太平洋に浮かぶ小さな島国パンヤ共和国。平和な島国が突然、南下するソ連と西進するアメリカの軍事拠点として注目されてしまった。平和を維持するために共和国が取った作戦は、二千年続く王家を利用した意外なものだった。

東西冷戦時代の話ですが、パンヤ共和国の取った政策はある意味画期的(笑)

【 なにしろ東西冷戦を兄弟喧嘩にしてしまうんですから。 】




ハーモニカ (短編)

コンピュータが家庭の中に普及して、子供たちはコンピュータ言語で話をするようになる。わからない大人は1人ハーモニカを吹く・・・

コンピュータ言語がわからなくてもコンピュータは扱えるようになったから、こういう時代は来なかったけど、大人にはわからない言葉でしゃべるというのは同じかな。
やっぱりハーモニカ吹きますか・・・



長生きの秘訣 (短編)

山奥に暮す長命な一家。しかしその一家には、ある秘密があった・・・。

こう書くと、あやしい茸とか、異常な風習などが出て来そうですが、そうではありません。言ってみれば、歴史的な謎です。



恋と幽霊と夢 (短編)

恋に落ちた若い二人は南の島で夢のような時を過ごしていた、しかし彼らの背後には、常に彼らの幸福をじっと見つめる複数の目があった。

タイトルはコメディのようですが、内容は悲惨なもの。

【  「彼らが幽霊のなのではなくて、わしたちが彼らの夢なんだよ」 過去ならともかく、今も夢と現実が重なっているところがあるんですよね。
  】



変貌ーある青年の出発ー (短編)

遊ぶことに夢中で、何事も楽しければいいという、そんな浮ついた生活をしていた青年が、運命の女性に出会った。彼の変貌とは・・・

青年の成長の、これはいいお話です。

【  運命の女性に出会って、自己の人生に対して責任を負う大人に変貌する。若々しい気負いがいいですね。




 (短編)

黒い中型の野良犬。
謎めいたその犬が、いつもあなたの行く所どこにでもいて、観察するように、じっと見ていたら、あなたはどうしますか?

神経質な人たちが、ガン付けたとか飛ばしたとか、見た見ないで喧嘩になることを考えれば、人間は観察することに耐えられないのかもしれません。
邪悪な視線というものありますしね。

【  蝿・・・小さいほど嫌かも  】


◆ 夜が明けたら (短編)

夜の8時過ぎ、夕食も終わってTVを見始めた頃、やや大きめの地震が起こった。
地震はすぐにおさまったが電気は停まってしまい、夜中になっても復旧しなかった。
なぜか電池までもが壊れ、人々は闇の中に閉ざされたまま夜明けを待った。

動物としての人間に擦りこまれている闇の恐怖と、昼の明るさの安心感。夜が明けたら人々が起き出して、社会が活動を始めるという信頼。もしそれがなくなったら・・・

【  不夜城といわれる夜の活動も、所詮は電気というたった1つものに頼り切っている。その電気も車もテレビも電話も、つい100年前にはなかったというのも不思議な気がします。地球の自転まで停めてしまう大技を、さりげなく描いて、後になるほど怖くなってくる作品です。  】



◆ 海の森 (短編)

深夜、家の外で、ずしんずしんという音が近づいてくる。恐る恐る外に出てみると、あたりには生臭い匂いがたち込め、ぬらぬらとした光る跡が家の前を通って山の方向へ消えていた。そこは海峡工事の現場の寮であったが、その後、工事の現場でも事故が続くようになる。

はじまりは定番のホラーのようですが、ラストは意外なところと結びついています。

【  一万数千年前まで、日本列島が像の楽園だったというのはロマンでもありますが 】


◆ 涅槃放送 (短編)

家でテレビを見ていると、近所で学生と機動隊の衝突が起こった。早速テレビでデモの様子を見る家族。自分の住む町がテレビに映ることに興奮していたが、やがてデモ隊は家に中にまで入ってくる。自分の家の中の中継をテレビで見て確認する家族。そこへさらに重大ニュースが飛び込んできた。

「テレビで見たほうがよくわかる。解説も入るし」というのは、今や災害現場でも言えることなんですよね。解説は要りませんが。

でも、この時代は「実際に見たことをテレビで確認する」という時代だったんですね。今は「テレビで見たことを実際に見て確認する」時代になってますが。

【  戦争までもテレビ中継で見るというのは、今やSFではなくなりましたね。 やはり最後のシーンはテレビで見るのかな 



◆ 長い部屋 (短編)

探偵の大杉は、依頼者の屋敷を訪ねたが、すでに依頼者は殺されていた。大杉は逃げていく犯人を目撃するが、同時に後から撃たれてしまう。警察と共に現場を検証した大杉は、犯人が逃げたこんだ部屋がなくなっていることを知る。

これはSFミステリー。読者への挑戦もありますが、SFなので、そのつもりで。

【  なんとなく予想はつくのですが、色のことがネックでした。 】


◆ ツウ・ペア (短編)

酔って家に帰った多木は、そのまま正体もなく眠りについた。ふと目が覚めると、手にべったりと血が付いていた・・・
慌てて洗い流してみたが、手に傷はない。手を洗ったシンクを見ると、長い髪の毛が1本張り付いていた・・・
その後も血は止まることなく、ついには何もない空間からも滴り落ちるようになった。

これもよくあるホラーの展開ですが、さらにもう1つの謎が絡まっています。2つともすでにいろいろな作品の題材にされたものですが、この2つを結びつけるのは思いつかないでしょう。

【  やがて部屋の隅に見たこともない女の姿がぼんやりと浮かんだ。そしてある日、多木は幽霊となって彼の部屋に現れた女と出会ってしまう。思わず近くにあった鋏を手にした多木は彼女を刺してしまう。

種明かしは一卵性双生児の謎。主人公には子供の時に分かれた一卵性双生児の兄がおり、被害者にもまた一卵性双生児の姉がいた。この兄の方が、被害者の姉と無理心中していた。恨みを残して死んだ姉は、犯人と妹に祟る。  




◆ 第二日本国誕生 (短編)

日本の中にもう1つの日本が出来ていた。第二日本国はサービス面で、本来の日本国に挑戦。二つの国家の間で、より多くの国民を獲得するためにサービス競争が開始された。

競争がないところに発展はない。国家をサービス業として、選択出来るものとして見るという視点が面白い。ラストの一言は、民族に関係なく国家を選べるようになったら、という希望かもしれません。



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