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ルイーズ・ペニー
Louise Penny


「スリー・パインズ村と警部の苦い夏」
「スリー・パインズ村の無慈悲な春」
「スリー・パインズ村と運命の女神」
「スリー・パインズ村の不思議な事件」
 

(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。

 「スリー・パインズ村と警部の苦い夏」

シリーズ4作目。
今回の舞台はスリー・パインズ村ではありません。
さすがに小さな村で殺人事件ばかり起こるというのも無理があるものね。

今作の舞台となるのはモントリオール郊外の豪華なホテル、
「マノワール・ベルシャス」。
そのホテルに夏の休暇を過ごすためにやってきたのが、ガマシュ夫妻。
結婚以来30年、夏は毎年このマノワールで過ごすことに決めていたのだが、
今年はすでに不愉快な先客がホテルを独占していた。

ホテルを占領していたのは成功した実業家の一族フィニー家の人々。
老夫人と再婚した夫、夫人の子供たち、孫の総勢9人。

仕方なく裏手の狭い部屋に宿泊することになったガマシュ夫妻だったけど、
この一家、お金はあるけど知性はない、良識も社会性もないという、
とんでもない迷惑一家。
ガマシュ警部のことも「商人だろう、夫人は掃除婦だ」と見下して
意味のない優越感に浸ってるありさま。

なんたって今回ホテルに一族が集まった理由がすごい。
それはホテルの庭に亡き実父の巨大な像を建てることになったから。
他人の豪華なホテルに夫の像を建てようとすることから信じられないけど、
もちろん金の力でごり押ししたわけです。

そして嵐の夜、事件は起こる。
長女が建てたばかりの父親の像の下敷きになって死んでいた。

このシリーズは毎回ミステリー的趣向にも凝っているけど、
今回は"嵐の山荘もの"風。
厳密にはクローズドではないけれど、森の中に一軒だけ建つ豪華なホテルで、
嵐の晩、滞在客が殺されるという道具立ては、まさに嵐の山荘。

そして解決も、ミステリー的に挑戦かもしれません。
あんまり納得できないけど・・・
トリックも含めて、なんとなく新本格みたいな作品でした。

そうそう、スリー・パインズ村で起こった事件ではないけれど、
おなじみの住民も登場。
ちゃんとシリーズものになっています。




 「スリー・パインズ村の無慈悲な春」


スリー・パインズ村シリーズの3作目。
平和で美しい村で起こる3件目の殺人事件。

癒しを求めて村に来ると、なぜか殺されてしまう…
本当に平和な村のか?という疑問は置いておいて(笑)、
今回はオカルトテイストな1編。

村で唯一の宿B&Bに滞在する女性が霊媒師と知ったガブリは、
彼女を招いて降霊会を開くことを計画する。
場所は、あの旧ハドリー邸。

朽ち果てた古い屋敷、暗く湿った女主人の寝室、
蝋燭の明かりで照らされた空間で、死者を呼び出す儀式が始まる。
降霊者の言葉に呼び寄せられるようにドアの外で足音が聞こえた時、
一人の女性がショックで倒れた。

まあ、そんなに都合よくショックを起こすだろうかという疑問はありますが、
今回の謎は殺害方法よりも動機探しがメインなので、そのあたりはスルー。

2作目で殺されたのは誰からも嫌われている女性がだったから、
容疑者にも事欠かなかったけれど、
この作品で殺されたのは誰からも愛される太陽のような女性。
そんな女性を殺さなければならない理由はなんなのか?

この辺に人の心の闇があらわれています。
魔術よりも恐ろしいのは人の心。
作中に引用されているフレーズがやりきれない
「ほかの人間の目を通して幸せをのぞいてみるのはどんなにかつらいことだろう」
(「お気に召すまま」)

この心の闇は、実は作中のもう1つの謎解きにもつながっています。
それはアルノー事件の報復としてガマシュを破滅させようとする陰謀の正体。

この二つのストーリーが並行して語られるので、
ちょっとややこしい内容になっているんですけどね。

むしろ警察内の闘争がメインになっているとも言えるかも。
殺人事件そのものは、わりと平凡かもしれません。
それでも人物描写やミスリードはうまいですが。

最後の謎解き部分は、事件のあった部屋に関係者全員を集めて説明するガマシュ。
古き良き探偵小説みたいで、こういうちょっとした趣向も面白いですね。

そうそう、直接謎解きとは関係ないけど、
ある人物に関するどんでんがえしが、個人的にすっきりしました!

そして3作読んで思うこと。
この作家さんの考え方や人生観・社会観は本当に共感できる。
こんなに同じことを考えてる人がいることが不思議なくらいです。

原題は「THE CRUELLEST MONTH」
これも複数の意味を持たせた絶妙なタイトル。


ニコルにイラついていた人は、これですっきりですね(^o^)

重大な手掛かりが英語でないと意味が通じないのが残念。





 「スリー・パインズ村と運命の女神」 


スリー・パインズ村とガマシュ警部シリーズ2作目。

前回は犯行現場に被害者以外の人物がいなかったというのがトリックだったけど、
今回は人がいっぱい。衆人環視の中の不可能犯罪です。

真冬のスリーパインズ村、凍った湖の上、
カーリングの試合の真っ最中、大勢の観戦者の中で一人の女性が殺された。
死因は感電死。

電源は? 電線は?
完全防寒の被害者に通電させる方法は?
そして、なぜ誰も犯人を見ていないのか?

このシリーズは決して奇抜なトリックものではないのですが、
やっぱりミステリーとして不可解な謎がある方が面白いですよね。

コージーミステリーと言われる小説だけど、
謎解きはかなり本格的だと思います。

不可能犯罪を思わせるトリックと、魅力的な村の人々の暮らし、
ガマシュ警部の明晰な推理と人間性、そんな人々の交流。
その絶妙なバランスが最大の魅力。

で、今回殺されたのはCC・ド・ポワティエという女性。
スリーパインズ村では新住民。
夫と娘とともに週末を過ごすために、あの旧ハドリー邸を購入した。

このCCが、また嫌な女なんですよ。
自分はとても優秀な人間だと信じていて、
人は自分を特別扱いして敬うべきだと思っている。
だけど実際は実力も才能もないから、誰にも相手にされない。
結果として、仲間に囲まれた幸せそうな人を憎んでいる。

そんなCCが、なぜわざわざスリーパインズに越してきたのか?

ヒントのほとんどが事件が起こる前に読者に示されているというところは
本格ものでもなかなかないフェアな謎解きだけど、
冬のカナダに住んだことがないとわからないのが残念。

ふと思いついたけど、CCとニコルは似てるような気がしますね。

ちょっとネタバレ

スリーグレイシスの名前・呼び名がビー、エム、ケイ。
そして殺されたホームレスがエル。
言われてみればその通りだけど、なかなか気づかないですね。

CCの性格描写として繰り返し書かれている「まがった椅子をまっすぐに直す」
これが重大なヒントだったんですね。

でも靴音が響くイヌイットのブーツはわかりにくい。




 「スリー・パインズ村の不思議な事件」


カナダの新人女性作家による正統派謎解きミステリー。

文庫本についていた帯によると、英国推理作家協会最優秀新人賞、
アンソニー賞優秀新人賞など、数々の新人賞を受賞した作品。

ただ、この邦題だと正統派ミステリーとは思えないのが残念。
原題「Still Life」は捻りのきいた見事なタイトルなので。

事件が起こるのはモントリオール郊外の平和な村。
村から続く森の中で76歳の女性が殺された。
それも狩猟用の旧式の矢で射殺されるという異常な方法で。

はじめはハンターによる誤射事故かと思われたが、
彼女を射た矢が見つからないことから殺人事件として捜査されることとなる。

画家でもある彼女は美術協会の展覧会に絵を出品することになっていたが、
その絵は長く秘密にされ、誰も見たことがない絵であった。
はたして絵と事件のつながりは?

76歳の女性を殺さなければならない動機とはなんなのか?
その動機や解決に納得できるか、ちょっと懸念しながら読んでいました。
実際、捜査の過程で示唆される動機は殺人を犯す理由としては弱いのではないかと
思ってしまうんですが、でも最後まで読むと納得。
もう、充分ありうる動機です。

小説としては、村の住人と警察の人々のキャラクターを把握するまでがちょっと面倒ですが、その世
界に入り込んでしまえば、あとはスラスラ読めます。
1つの謎が解決すると次の謎が現れるというミステリー王道の展開は新人とは思えないほど。
さりげないエピソードがきちんと伏線になっているし、
推理の過程も無理がありません。

でも私が一番驚いたのは、この小説に登場する若い人の行動や考え方。
これは今の日本が抱える問題そのものではないですか。
とても外国の小説とは思えないです。
もう世界はどこもこんなことになっているんですね。

だからこそ登場するカウンセラーの言葉がとても重いです。

若い人が読むと腹が立つかもしれませんね・・・
海外作品はシビア。人を甘やかしません。

しかし仕事で嘘をつかれると本当に困る。
困るというより仕事に損害が出る。
「出来ない・出来なかった・忘れた」なら、まだフォローのしようもあるのに。


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