‘10 12月号
 #65 新たな世界 

『遺体の全身』を毛布で包むジョニィ。そして視線を抱き合うスティールとルーシーに向ける。2人の怪我はクリーム・スターターにより完治している。
「うううう」「良かった…」
「ありがとう、わたしのルーシー…」
「本当に…無事で良かった」
 スティール氏の目にも涙。そこに愛馬を連れてジョニィが近づく。
「ヴァレンタイン大統領はもういない…死にました」」「スタンドも破壊しました」
「そして死んだあとに…どこかの次元へ消えて行った……」
「これで彼がレースの閉幕式で挨拶する事もない」
「……でもその事を知る人物は『この』世界には誰も存在しません」
「みんないなくなってしまった……もう誰もいない……」
 荒野を見るジョニィ。
「立てるのか?ジョニィ・ジョースター…」
 そう、いつの間にかジョニィは歩いている。
「少しずつ…だけ…もっと劇的な事なのかと…ずっと想像していたけれど」
「月が満月になって行くように……この事それ自体は何気ないもの…だった…」
「スティールさん…全ては終りました…」「ルーシーはもう安全です」
 ルーシーは手を添えてジョニィに感謝する。
「ジョニィ…ありがとう…」
 しばらく先にレース参加者が通りかかる。

「先頭のあれは『ポコロコ』だな」
「『ノリスケ・ヒガシカタ』…『バーバ・ヤーガ』もいる…このまま…」
 そして複雑な表情でスティール氏が語る。
「…………『スティール・ボール・ラン』はゴールを迎えるのだな…」
「レースはおそらく大成功なのだろう…少年時代からの夢だったが…いつしか違うものになっていた…」
「わたし自身がゴールにたどり着けるとは考えてもいなかった」
「そのスティール・ボール・ランの『閉幕式』か……」
 レースは佳境を迎える。
「ジョニィ…?あなたはこれからどうするの?」
 ルーシーが尋ねる。
「…………」「…どうするのか……」
「まったくわからない…」「でも」
「ジャイロを探さなくては…」
「ジャイロの『遺体』を…埋葬してやらなくては…」
「海岸線がどんどん沖へ戻っていく。『友達』がどこかへ流されたままなんて…」
「それで良いはずはない…見つけてやらなくては……」
 双眼鏡を取り出し大西洋を見つめるジャイロ。
「ジャイロがこの『SBR』レースに参加した目的は『彼の祖国で無実にあるとかの少年を恩赦で救うため』」
「少なくともジャイロがこの大陸でどんなレースをしたのかを…彼の祖国と彼の父親に伝えてあげるのがぼくのジャイロに対する感謝と義務…」
「ぼくが最後にする事はそれ……」

 その時、ジョニィは気付く。辺りを見回す。ショックを受ける。
そして馬に乗り出発する。
「ジョニィ?」「何してるの?……どうか…したの?」
「考えられない…バカな…近づいていたなんて…」
「『遺体』がない。毛布ごと…縛っておいた『遺体』が消えた!」
『遺体』が『盗ま』れた……
「盗んだヤツがいる…何者かがここに近づいて来ていた!!」
「『馬の足跡』がある…」
「『敵』はまだいる」

ドドドドドドドドドド

「言っている事がわからないわジョニィ…」
「わ…ワケがわからない…!!たった今、誰かが近くに潜んでいたって事?」
「『遺体』が消えたって…誰かがあたしたちをずっとさっきから眺めていたって事?」
「考えられないが…そうだ…」「この位置で『遺体』を馬に積んでいる」
「近づく『足音』どころか…馬の気配さえ感じなかった…」
「信じられないがそんな技術を持つ者が…そして移動して行った…足跡が向かって行ったのは『東』らしい」
 まだ続くのか…『遺体』争奪戦。
「いったい何なの?何のために…?」
「『ヴァレンタイン大統領』は死んだのでしょう?いったい誰が!?この後に誰がいるというの?何をしたいの?」
「あの『遺体』は本当に必要なものだったのだろうか?」
「ジャイロはあの『遺体』のために死んだ…他の者たちも…そしてこれからも…あの『遺体』のために誰かが死ぬのだろう」
「この『足跡』…見た事がある…すごく知ってる『足跡』だ」「でも誰のだっただろう…?」
「『レースの参加者』の中にいる誰かだ!…」
「こいつが何者だろうと…あの『遺体』が本当に必要なものかどうかだろうかと…あの『遺体』を理解しているのはこの世ではこの『ジョニィ・ジョースター』ただひとりだけだ……」
「絶対に渡さない…決着をつける権利はぼくにだけあるッ!!」
 正体不明の何者かが『遺体』を奪ったことに怒りを滲ませるジョニィ。
「ルーシー…お願いがあるこれからぼくの代わりにジャイロを見つけて欲しい、それとヴァルキリーも」
「それは…ええ、もちろんだけど」
 ここでスティール氏がジョニィに話しかける。
「ジョニィ待て…」「待つんだジョニィ…」
「『追う』というのならひとつだけ…君に忠告してあげれる情報がある」
「今、思い出したんだ…ヴァレンタイン大統領の用意周到さの事を…」
「そう…大統領は…かつて…」
「このレースが始まる直前までマンハッタン島の地下に『シェルター』を建設していた事を思い出した」
「今までの事柄から推測するとおそらくそれは…『そろえ終わった時』に……『遺体』を保管して置くための場所ッ!」
 新たな情報がスティール氏によってもたらされる。
「つまり…!一度そこへ『遺体』を保管したなら…どんな『軍隊』だろうと『スタンド能力』だろうと侵入や破壊は不可能な安全な場所という事だ…」
「間違いない…!!『盗んだ者』はそこへ向かっている!」
「『シェルター』に『遺体』を隠すのが狙いだッ!」「マンハッタン!『トリニティ教会』の地下!」
「それは『SBRレース』のゴール地点と一致するッ!」

『THE Final STAGE』  マンハッタン・ラプソディー

8th.STAGE ゴール(ニュージャージー州 ユニオン・ビーチ) → 
the(Final)9th.STAGE (ニューヨーク州 マンハッタン トリニティ教会)
走行距離 15q  推定走行時間30分
参加者数 45人


 日が昇る。アナウンサーが吼える。
{西の彼方へ消えた光線は必ず東から復活し輝きは必ず戻って来るッ!}
{暗闇の中に消えた各走行馬たちも日の出とともに輝き舞い上がる『塊ボール』として戻って来たッ!}
{本日は1891年1月18日!時刻06時02分ッ!天気は快晴!}
{来たぞッ!来たぞッ!ついにッ!}
 人・人・人ッ!歓声が轟音となりうねりをなす!!
{ついにッついにッ!ついにッ!ついにッ!これが本当にッ!}
{ついにやって来たぞッ!!太平洋のサンディエゴから発射された『SBR』の塊たちは!!}
{今、これよりついにッ!6000qもの大陸を越えて大西洋のマンハッタン島に着弾するウぅぅ!!}
 空には幾つもの気球が浮いている。
{夜を徹して人々がぞくぞくと集まって来ています}
{すでに死者の数32名、負傷者も五百名以上に上るこの大会を全世界の人々が声を荒げて批判していますが}
{それを打ち消すかのようなこの群衆の数ッ!}
{これから着弾するゴールへの感謝を捧げ、ヴァレンタイン大統領を称えていますッ!!}
 アナウンサーの言うとおりヴァレンタイン・コールが巻き上がっている。
{8th.STAGEの『ゴール』はそのまま9th.STAGEの『スタート』となりコース解説は次のとおり!}
{8th.STAGEのユニオンビーチ『ランタン湾』のゴール着順は記録として残り、それぞれの待機しているボートで各馬それぞれアッパー湾をピストン走行で渡ります。そしてブルックリン・グレイブセンド湾さん橋へ}
{コニー・アイランド『シー・ゲートふ頭』からブルックリン橋へ向かいマンハッタン島『トリニティ教会』までは走行距離約15q、およそ30分で決着がつく市街地戦。高速ステージとなります}
 ゴールに着いた順に船に乗せられてファイナルSTAGEのスタートに向かう手筈らしい。しかし、もしかしたらこの船を沈められるなんてこともある…かも?
{おお〜〜っと待ってください!ここで何と『バーバ・ヤーガ』が走行をやめました!}
{馬の脚が負傷していますッ!走行が出来ないッ!『バーバ・ヤーガ』が走るのをやめていますッ!}
{馬の脚が負傷していますッ!}
{ゴール直前での闇夜での悪路の行軍が馬に負傷させてしまった模様ですッ!}
{灼熱の砂漠を耐え忍び!ロッキー山脈に立ち向かいッ!大草原と氷の湖を越えッ、いくつもの河を渡って来たッ!}
{鞍をおろしますッ!『バーバ・ヤーガ』リタイヤッ!}
 つばのある帽子をかぶったヒゲの男が馬を労り鞍をおろす。ゴール直前にしてこういうことが出来る男は天晴れである。

 そして『遺体』を奪った足音を追跡するジョニィ。
「この足跡…」
「『ポコロコ』じゃあない…」「『ヒガシカタ』の足跡でも…」
「でもすごく知っている」
「どういう事だ?…見当がつかないのに…すごく良く覚えている『足跡』だ…」
 怪しい人馬を見かけるジョニィ。角を曲がったその影を追い角を曲がるジョニィだが、影を見失ってしまう。
「……どこだ?どこへ行った?」
 フェンスの向こうに影をみつける。
「『あいつだ』。足跡は『あいつ』のだ…追いついたぞ」
「鞍の前に…『遺体』を持っているみたいだ。積んでいる…」
「『何者』だ?」「ヴァレンタイン大統領は『遺体』に関しては誰ひとりとして信頼していなかった…自分『ひとりだけ』で行動していた…」
「それなのに向かっているのは大統領が秘密に作った『シェルター』へだと?(シェルターがあるとしてだが)」
「でも…あんな乗り手がこのレースにいたとは…くそっ…それにしてもどうやってこのフェンスを越えた?」
「『撃つか』…」
「いや…『射程』がギリギリだ…。あいつ、まさか知っていてこの距離感を保っているんじゃないだろうな?」
「何か変だ、あいつ…まだ推定無罪だが……爪弾の『射程』に入ったら即!始末してやる…」
 タスクでフェンスを破り追跡するジョニィ。クルースはAct.2の形態で出現している。
「射程に入ったぞ。仕留める」
 しかし一瞬にして姿を見失う。
『バカな…こんなヤツが…!?今度はどこへ行った?』
『こんな『走り』をするヤツが『レース』にいるはずがない…』
「『足跡』!」
 しかし…
『とぎれているッ!』
 バックトラックでもしたのか?
いつの間にかジョニィの背後に存在している人馬。
馬の額に星の形がある。この馬は…まさか、いや死んだはずである。
シルヴァー・バレットのはずがない!!汽車に轢かれて死んだはずだ!

「ねえ、スティーブン見て…」
 場面は転じてルーシーとスティール氏。
「見てこれを」「まさか…そんな……」
「あの『足跡』…ジョニィが追って行った…『遺体』を盗って行った者の続いている『足跡』だけど…」
「大統領がいた穴…『穴の底』から続いている…穴の底が足跡の始まりよ…」
「『穴の土の下から』出て来てる。馬の足跡が…」
 額を撃ち抜かれた大統領が埋まっていった場所に再び穴が開いている。
「何なの?誰かが馬に乗って穴から出て来ている…」
違う次元……」

 そして再びジョニィ。謎の騎手に後ろをとられたことに気付く。
振り向いて弾爪を放つ。そしてその男は……!?
『THE WORLD』 オレだけの時間だぜ」
「何!?…うそだろ……D…」
「『Dio』!?」
 しかもあのスタンドもッ!ということはあの能力も……?

ドオオー――ン

 時が止まる…。
そして9本のナイフを構えジョニィに投げつけるッ!!
この攻撃は!?攻撃パターンは!!?

今週のめい言

「決着をつける権利は
 ぼくにだけあるッ!!」

○『遺体』を全て回収した後の保管場所として「マンハッタン・トリニティ教会」の地下にシェルターを建設していた大統領。今までのラスボスと同じく、他人を駒として使用すれども信用することのない大統領がDioにシェルターの存在を打ち明けていたとは到底考えられません。トリニティ教会がファイナル・ゴールということもあり、唯ゴールを目指しているとするのが一番可能性がある答えでしょう。

○何故にDioが再び現れたのか?大統領亡き後にどうやって平行世界を渡って来たのかも不思議である。死んだ後もしばらく空間の穴がふさがらなかったのであろうか?平行世界のDioが基本世界にしかない『遺体』の存在をなぜ知っていたかも謎。次元を越えて来たということは、大統領の能力を理解しており、しかも次元を越えた先にリスクを犯す価値のあるもの―つまり『遺体』があることを知っていたということである。基本世界以外のDioが様々な情報を知っているというのはまさしくオーパーツです。

○そして最も衝撃的なのが「THE WORLD(ザ・ワールド)」である。「スケアリィ・モンスターズ」ではなく「ザ・ワールド」。第8部に対する布石なのでしょうか?まさか単なる読書サーヴィスでもあるまい。

○簡単にスケアリィ・モンスターズとザ・ワールドの能力を簡単に紹介すると…。スケアリィ・モンスターズ――能力は自分を含めた生物を恐竜化させること。恐竜化した生物はDioの支配下に入り命令に従う。恐竜化は身体能力の増強をもたらし、形態もある程度自在にでき保護色を与えることも可能。戦闘力よりも探索能力の方が便利な能力である。

○ザ・ワールド――屈強なヴィジョンを持つスタンド。能力は「短いながらも時を止める」ことであり、攻撃と防御に非常に優れている

○そして往年の「ナイフ攻撃」でジョニィを攻めます。ヴィジョン(タスク・Act.2)が貧弱なジョニィにとって、この攻撃を防ぐのは厳しいと思われます。ただし、致命傷を負わなければクリーム・スターターで治療ができるので、反撃の余地はまだあります。何にしても第7部としては異質の「ザ・ワールドを持つDio」が登場でまだまだSBRの嵐は沈静化していないようです。

○レースは着順に8th.STAGEゴールから次々と船に乗っていき、着いた者から9th.STAGEをスタートするというシステムです。他の騎手が未だにそこら辺を走っていたのが意外でしたけど(笑)。

○ジャイロが亡くなったこととジョニィの脚が動くようになったことにより、ジョニィがレースを続ける理由はなくなりましたが、Dioの登場により強制的(と言っていいでしょう)にレースに再参加することになりました。このまま参加するなら優勝をかっさらって欲しいものです。

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