生き埋めになるという行動を強制し続けられた大統領。幾層幾世界の次元を越えてもD4Cを蝕む『回転』を払拭することはできなかった。
黄金比率を持つ黄金長方形から生まれる回転は無限の軌跡を描く。
そしてジョニィのタスクは無限の効果をD4Cに与えた。
逃れることが不可能だと悟った大統領は再び『基本世界』に戻り、ジョニィの説得にかかる……。
「落ちつくんだ………ジョニィ・ジョースター」「撃つなよ。まずはわたしの話を聞くんだ」
「おまえがわたしを殺す事など簡単だ……冷静になって聞くだけでいい」
「うう…う」「あああ…」
「わたしはすでに敗北している。これは『取り引き』だ……」
「物事の…片方の面だけを見るのはやめろ。死んだジャイロ・ツェペリをこの世界へ戻せるのは…」
「わたしのこの『D4C』の能力だけだ」
「う…うるさいぞ……しゃべるな…」
「僕に話しかけるのはやめろッ!」「ここで全てを終らせるッ!」
その時、ルーシーに再び異変が起こる。全身から『遺体』が剥がれるようにルーシーの身体から出て来る。
地面に突っ伏すルーシー。
「わたしの目的はその『遺体部位』を全て手に入れる事…ただそれだけだ」
「手に入れる事の結果としてそうなったが君たちの命を奪う事ではない」
「この世界のジャイロ・ツェペリは海に消えた……その肉体は朽ち果てる…」
「だから別の世界から連れてきても2人のジャイロが出会って『消滅する』事はない…わたしには出来る…」
大統領の言葉に心が揺らぎ始める。
「さあ…この『無限の回転』を『止めて』くれ…」
「この回転には方向がある…逆の回転を再びわたしの『D4C』に撃ち込んでくれ」
「さっき撃った爪弾と逆方向の回転だ」
「出来るはずだ……!おまえの『スタンド能力』!!まったく逆の『無限の回転』を撃ち込んでくれ……」
「プラスとマイナスで止まるはずだ」
「ここへジャイロを連れて来れるぞ……」
闘いはまだ続いている。ジョニィの息は未だに荒い。
「ジャイロがここに戻って来るというのか?」
「約束する」
「無事で無傷のジャイロが……!!」
「約束する」
「そしてそのままぼくとジャイロを逃がしてくれるというのか?」
「約束する。誰にも報復はしない…」
「全てを無かった事にすると誓う。今後、君らに決して手は出さないし、行きたい所へ行けばいい。賞金のためレースを続けたければ続けるといい」
「わたしは『遺体』だけ手に入ればいい……」「ただのそれだけだ」
「ここに戻って来るというジャイロは…もう同一人物じゃあない…」
「『違う世界』の……異次元の『違うジャイロ』のはずだッ!!」
「ジョニィ・ジョースター…未来の事なんかわかる者がいるのだろうか?」
「違う心で違う過去のジャイロが来たとしても…あるいは君と友達でないジャイロ・ツェペリが来たとしても」
「これからのジャイロ・ツェペリはジャイロ・ツェペリの道を行くのだろう……重要なのはこのわたしたちの世界で生きている事なのだ」
「うう…う」「ハァーハァー」
大統領の言葉に揺れるジョニィ。
「ここから話す事はとても重要な事だ。それだけを話す」
「わたしの行動は『私利私欲』でやった事ではない」
「『力(パワー)』が欲しいだとか誰かを『支配』するために『遺体』を手に入れたいのではない」
「わたしには『愛国心』がある。全てはこの国のために『絶対』と判断したから行動した事…」
「君も体験したはずだ。あの『遺体』のところには『幸せ』や『美しいもの』だけが集まる」
「『不幸』や『酷いもの』はどこかへ吹っ飛び…他の誰かが『ヘタ』をつかむ」
D4Cが『遺体』の影響で発現した「空間の『スキ間』に入る」能力――SBR20巻より「ラヴ・トレイン」と名付けられている――のことを話す大統領。
「それが人間世界の現実であってあらゆる人間が『幸せ』になる事などありえない」
「美しさの陰には『酷さ』がある」
「いつも『プラス』と『マイナス』は均衡しているのだ」「その聖なる『遺体』がッ!」
「仮に地球の裏側のどこかのルール無用の『ゲス野郎ども』の手に渡ってみろ!自分の欲望でしか考えないゲスどもの事だ」
「この国の将来にどれだけ残酷な出来事が起こる事になるのだろう……」
「それだけは阻止しなくてはならない!」
「わたしの大統領としての絶対的な『使命』は!」
「この世界のこの我が国民の『安全を保証する』という事!それに尽きるからだ!」
「このSBRレースはそのために行われ、『スタンド使い』たちに『聖なる遺体』を集めさせる唯一無二の手段だった」
「人間の世界では歴史でわかるように劇的変化のある時、必ず戦闘が行われる」
「逆に言うなら戦いの犠牲が出るからこそ『大切なもの』が手に入る」
「このレースで死んでいったものはそれであり、必然な結果だった」
「わたしの行動にミスはなかったと信じている」
SBRレースで散って行った数々のスタンド使い。そして参加者たち。
「戦争ではなく『SBRレース』であったからこそ犠牲者は最少で済んだのだ」
「お願いだ『ジョニィ・ジョースター』早まるな」
「『遺体』を正しく理解しているのはこのわたしだけだ……どこかの国に渡してはならない……」
「わたしは死ぬ事は恐れない。だが時間が欲しい、今は死ねないのだ」
「私のこの体の中の『無限の回転』を止めてくれ…」
ルーシーから『遺体』が剥がれ出て行く。時間は多くないだろう。
「あんたは『正しい人』なのか?……信じたい…もしかして『いい人』なのかも?と…信じたい」
「僕の行動の方が『悪』なのかもしれないと…」
「でも『保障』がない……」
「あんたは大統領だ。その『回転』を止めて『遺体』を手中にしたとたん『だまし討ち』をするかもしれない」
「ジャイロを戻す前に……または再び『殺し屋』や『軍隊』を送り込んでくるかもしれない」。僕らの『安全の保証』なんかどこにもないっ…」
「わたしは『誓う』と言った。わたしは一度口にして誓った事は必ず実行して来た……『報復』は決してしない」
「だからそれを僕に『信じさせて』みろ!!」
保障…それをジョニィに信じさせることができるか?人質も物質もないのなら弁舌で説得するしかない。そしてそれは政治家であるヴァレンタインの得意技でもある。
「あんたが『いい人』だという事を…」
「力と才能のある『うそつき』ではなく…『正しい道』を行く人間であるという事を…今!ここで僕を説得してみろッ!!」
「説得できたら喜んで『回転』は止めてやる」
「ジャイロに会いたい…あんたが『いい人』だという事を信じられたらどんなに素晴らしいだろう」
「『無事なジャイロ』をもう一度ここに戻したい……みんなをここに戻したい」
「僕にあんたを信じさせてくれ」
ポケットから何かを取り出し、ジョニィの手元に投げ落とす大統領。
「それは『H・P(ホット・パンツ)』のスプレーだ。彼女も犠牲者になったが異次元世界の『H・P』からさっき取り上げて来たものだ」
まぁ、そんな余裕があったとは思えないので、恐らく、Dioにグッチャングッチャンにされたのを反省して治療アイテムを盗んできたのでしょう。
「『遺体』がルーシーの体から完全に分離する時…おそらくはルーシーはあのまま死ぬ」
何故、急にルーシーから『遺体』が分離しはじめたのかはこの後に明かされるのであろうか?
「だが『H・P』の『スプレー』があれば傷は治せる」
「わたしはこの世界の『ルーシー』を幸運の女神と感じている。大切に思っている」
「その『スプレー』は『ルーシー』の命のために万が一のために奪っておいたものだ」
「それで治せ」
「私が切断した君の『左手首』も…まだ息のある君の『愛馬』もそれを使って治療できる」
異次元のH・Pのスプレーを愛馬・スローダンサーの傷の首にかけるジョニィ。確かに傷は治った。
「いいか…邪魔をした『スティーヴン・スティール』。さっき列車のところで『スティール』のやつがわたしの邪魔をしなければ、君の手首をわたしが切断した時、君は私に殺されて死に、こんな事態にはならなかったのだ」
「その『スティール』のやつを始末しなかったのはわたしがルーシーに『安全を保障』したからだ」
「幸運の女神に誓ったのだ……『スティール』には決して手出しはしないと…!!」
「わたしは一度口にして誓った事は必ず実行する」
「君たちに『報復しない』と誓ったなら『決してしない』」
そして例のハンカチを取り出す。
「これはわたしの父の『かたみ』だ。何にでも日付を書く習慣のあった父親でこのハンカチには――私の『誕生日』が刺繍されている」
「わたしの心のささえだ。大切な時ははいつも持ち歩いている」
「父が戦争へ行く時 持って行ったそうだが、父が戦死したあとわたしの所へ戻って来たものだ」
「このかけがえのない大切さは誰にも理解できないものかもしれないが、この亡き父の『ハンカチ』にかけて誓う」
「ジョニィ・ジョースター」「『決して報復はしない』」
「全てを終りにすると誓おう」
「わたしにも親はいる…パンツにまで『日付』を書く人だったそうだが、父はりっぱな人だった」
「死んでからますますそう思うようになったよ」
「このハンカチからわたしは『父の愛』と『愛国心』を学んだんだ。わたしの原点だよ…」
「異次元にもすでに父は死んでいなかった」
「何度も行って探したがね…会えるものならわたしももう一度、父に会いたい」
スローダンサーも嘶(いなな)き、復活の兆しを見せる。
「………」「どうする?」
「ジョニィ・ジョースター…『取り引き』の決定権は…」
「あくまでも君にある」
「だが正しい決断をお願いする!この『回転』を止めるのだ…」
「わたしの『D4C』に『逆の爪弾』を撃ち込んでくれ」
そしてジョニィの答えは…。
「僕の父は生きているが…」
「父親の事って…あんたのようにそんな風に思うものなのか…」
「ぼくは一度だって………自分の父親の事をあんたのような思い出の中に考えた経験なんてない…」
「ただの一瞬も…」
「たとえ異次元に行けたとしても…ぼくは自分の父を探しになんて決して行ったりしないだろう」
「あんたの方が…『正しい道』なのかもしれない」
『少なくともここにいる僕よりは…人として『正しい道』を歩いている』
「ジョニィ・ジョースター……」
いよいよ決断の時が近づいてくる。無限の軌跡は逆回転を描くのか!?
刮目せよ!!
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