‘09 10月号
 #51 最後の砦 


バッ  

 斬り裂かれた喉笛から血が噴き出す。
切り裂いた首のその傷はッ!」「オレがいた人間世界の悲惨の『線』だ…
 Dioの右手が逆唐竹割りで大統領を襲うッ!!
WRYYYYYYYYYYYYー――ッ」「そしてこれがッ!それを越えた線ッ!」
「このオレがッ!!」手に入れるこの世界への『線』だッ!!
 大地へ叩きつけられる大統領。その時、Dioの腰を両脚で抱える。
状況は一変していた。大地へ落ちた大統領の髪を列車の車輪が巻き込んだのだ!!
そのまま線路へ引きずりこまれる……Dioごと!

オオオー―――ッ

」「…う
「やつは…!」「確かに…」
「切り刻んでやった……」「ヴァレンタインは即死だったッ」
勝ったッ!……
勝ったのはオレの方…だ
 血に染まった上半身を起こすDioだが、すぐに崩れてしまう。何故なら……上半身しかないからだ!
線路の中央に横たわる上半身から少し離れた場所に下半身が落ちている。

 轢死……!


「待てッ!」「止まれッ!」
「ジャイロ!止まれッ!」
 ジョニィがジャイロを呼び止める。
DioとH・Pの後を追い、付かず離れずで列車を追いかけてながらジョニィが双眼鏡で監視していたのだ。
「Dioが死んだ!」
「今、列車の窓から2人が落下した」
「Dioは大統領の『能力』に敗北した。列車の車輪にはさまれヴァレンタイン大統領は向こうの世界へ消えたんだ」
 ジャイロとジョニィが立ち止まったため、一時的に列車の姿が2人の視界から消える。
「そうか…Dioが…予想以上にヤバそうだな」
 呟くジャイロ。
「ああ…おそらく…みんなやられる…」
「大統領のあの『能力』も異様だがそれ以上なのはそれを使う。ヤツの『決断力』だ。Dioはきっとそれに敗北したんだ」
「大統領だけがこれから『遺体』を手に入れ、闘った者は全員、家族や子孫にいたるまで闇に葬られるだろう」
「………」「どうする?ジャイロ…」
「レースをやめるなら今度こそ最後だぞ。国へ帰るなら今が最後だ…」
 しばしの沈黙。ジャイロが口を開く。
「なあ…お互い秘密を言い合おうぜ」
「人に隠している事…あるだろ?今…この場所で言い合おう」
「オレから言うぞ。オレの本名をおまえにだけ教える」
「『ジャイロ』ってのは愛称っていうか渾名でよォ…」
 え…!
「オレの本当の名はユリウス・カエサル・ツェペリだ。父上がつけてくれた…」
「お塔とたちでさえ本名は知らない…絶対に人に言うなよ」
「さあ…オマエの番だぜ!」
 頬を紅くして秘密を暴露するジャイロ。
「………おったまげたな!」
「今年最大のヒットじゃないの?」
「『ユリウス・カエサル』。英語読みだとジュリアス・シーザーっての?ローマ皇帝の?超ブッタマゲ!スペリングも同じ?それマジなのか?ジャイロ」
「君のオヤジさんどうかしてるな」
 ジョニィも立て板に水のようにしゃべる。
「おいッ!早くしろ!てめーの番だろッ!!」
「その名を二度と口にするなよ!おめーこそジョニィってのは本名なのか?」
「………ジョナサン・ジョースターは本名だけどさ」「……そうだな……」
「……言うけどさ……」「でも…言ったら引くと思うんだよな」
 言いにくそうなジョニィ。
「引くから秘密なんだろ!!さっさと言えッ!」
「……実は…何て言うか…ゴホッ!」「エホン」
「フェチってわかる?…ちょっとしたフェチがあってさ…」
 言いにくそうなジョニィ。
「何て言うか…実は」「女の子のさ…」
「『虫さされフェチ』って…わかる?」
「女の子の二の腕とか足とかの皮膚が蚊に刺されてプチッと赤く膨れるだろ
「あれに興奮する!」
「以上ッ」「誰にも言うなよ。あっ、やっぱり引いてるッ!だから引くって言ったんだよ!」
それを人にしゃべったらオレが逆にヤバイくらい引くわ!

「……絶対に言うなよ……」
「君こそ……!」
 そして視線は列車を見据える。
「よし!」
「じゃあ行くか…」「列車を追うぞ」
「うん」
 ジャイロが号令をかけ、ジャイロが応える。
「ルーシー・スティールを救い出そう」
「ああ…そうだな…」「それがオレたちの一番の目的だな」
 再び列車を視界に収め、追跡を開始するJ&J。
ジョニィがSBR・レースでは初めて鐙に自分の足を入れる。
すると拍車がグルグルと回り始めて、何らかのパワーがジョニィの脚、腰、胴、肩、腕と通りタスクがある手と指に伝わる。
そのジョニィの背後にはクルス(『遺体の左腕』の聖霊)が顕れている。『遺体』自体は奪われてすでにないのに、クルスは未だにジョニィに憑いているようである。
「ジョニィ…ところでこれから大統領だけがひとりで『遺体』を手に入れるっていうなら」
「じゃあ…あの機関車だが…」「いったい誰が運転しているんだ?」
「運転しているヤツがいるはずだ」
 尤もな疑問である。
その時ジョニィは背後に『クマに注意!』の看板があることに気付く。そういえば、さっきからチラホラとあったような気がする。
しかしそのまま歩を進める。
「とるにたらない事柄かもしれないが、少なくともあの列車には大統領の他に運転している機関士がいる」
「ああ確かに…いるはずだな…」
 ふと後ろをうかがうジョニィ。
!!
 再び『クマに注意!』の看板が…まるでJ&Jの後を追うかのように。
以下、次号。

今月のめい言

 「…絶対に言うなよ…」 


○もちろん秘密を守ることが大事なのではない。「生きて」秘密をしゃべるなと無言の内に、沈黙の中に込めているのだ。生き延びるかどうかは解らない、しかし『遺体』を手に入れることのメリットは莫大である。そして自ら飛び込んできたとはいえ、危機に陥っているルーシーを助け出すことをJ&Jは使命だと考えているのだろう。最終決戦の幕がいま開いたのだ。

○列車に巻き込まれるのも計算だったのか?恐らくそれは違い、まさしく紙一重の勝利であったのだろう。だいたい、列車に轢かれて「隣りの世界」に逃げたとしても「隣りの世界」の列車に轢かれてしまう危険がある。…良く考えると轢かれたらまた「隣りの世界」に行くだけなのかな?そのうち安全な「隣りの世界」にたどりつけば良しということか。

○策ではなく、徹底的に追い込まれて、紙一重の何かによって勝利を収めた大統領がさらに手強くなっているのは想像に難くない。何故ならこの窮地を退けられたことを「天命」―この場合は「神の意志」と言った方がピッタリであろう―と感じた大統領の精神力がさらに強くなるのは間違いないでしょう。こういう「天命」「神の意志」に護られていると感じた人物がそれを根拠として無謀かと思われた大仕事を成し遂げるというのは歴史的にも珍しくないです。ジョジョ史ではプッチ神父がそうですし、現実の歴史で少し思い浮かんだ人物ではジャンヌ・ダルク、足利義教が挙げられます。

要するに大統領はさらに手強くなったということです。

○ホット・パンツ(以後、H・Pと表記)がどう動くか?大統領は肉体を入れ替え即座に復活してくるが、列車から墜落したため再び戻ってくるのにはタイムラグがあるでしょう。ルーシーと『遺体』を持って移動するか、それとも1人で逃走しJ&Jと合流するなどして再び立ち向かうのか。どちらにしても1つ言えることはH・Pのスタンド「クリーム・スターター」は役に立つということである。

○衝撃ッ!ジャイロの諱(いみな=本名)はユリウス・カエサル、弟妹を知らないのではまさしく「忌み名」です。名づけた本人である父上も母親も「ジャイロ」と呼んでいるし…。裏の仕事を持っているのだから目立つようなことは避けると思うのですが、かつてのローマ皇帝の名前をつけるとは…。もしかしてツェペリ家の長男が代々受け継いできた秘密の名前だったりして。父上の名前は「ネロ」とか。

☆「ローマ皇帝の?」と言うのがコミックでは「古代ローマの将軍の?」と直っている。カエサル/シーザー(カイザー)は後に皇帝の称号となる。

ジョニィのフェチはホットキマショウ

○ファニー・ヴァレンタイン大統領は、3部のDIOや5部のディアヴォロのように他人を信用していないようであり、『遺体』のパワーを髪の毛一筋たりとも他人の手に渡るのが嫌なのでしょう。Dio&H・Pの襲撃に対してあれだけ追い込まれても部下を呼ばなかったことから考えて(代わりに「隣りの世界」の自分を召していたが)単独行動なのは間違いない。ただし、ジョルノの言うとおり列車を運転している者(以後、「運転士」と表記)がいるはずです。この運転士と大統領の関係は何でしょうか?

○他者と一線を画した信頼関係を持っている?まさかね。やはり一番に考えられるのは大統領にとって全く無害の存在であることでしょう。『遺体』のことを全く知らない人物というのが有力な候補です。真っ当な推測ならこういうことなのでしょうが、はたしてどういう風に転がるのかは楽しみです。

○J&Jの後を追ってくる「熊に注意の看板」。これは何なのか?ジョニィの気のせい?「ボヘミアン・ラプソティ」のように絵が具現化して攻撃するのか。「タトゥー・ユー!」のように絵を媒体として瞬間移動してくるのか?「ソフト・マシーン」のように平面になった敵が看板の後ろに隠れているのか?また、「マンダム」のように方向感覚を狂わされた結果、「熊の看板」の元に戻っているという状況が作られているのか?期待が膨らむ現象が起こっています。

○列車には大統領が独りなのかもしれませんが、線路周辺に部下を配置していることは考えられます。大統領との決戦との前にもう一戦闘があるのか。しかし肝心のSBR・レースに出遅れているはずなので、果たして間に合うのでしょうか?総合2位のDioは崩れ去ったが、総合1位のポコロコは健在。苦しい展開は続きます。ではまた来月!

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