‘09 09月号
 #50 弱点の証明 


ガッシュ ガッシュ ガッシュ……
 黒煙を吹き上げ列車が走る。そこに侵入したDioとH・P(ホット・パンツ)。
「いたぞ!…ルーシー・スティールとスティール氏もいる」
ヤツはもうこの列車からどこへも逃げたりしない。それが今のヤツの『弱点』だ
「『ここの世界が基準』…『遺体』はあっちの世界へ持って行けないからだ……!!」
「そのこだわりが弱点だ」「ヤツのスタンドがどれだけ自由に『隣りの世界』へ行けてどんなに無敵だろうとな」
 そして、息をきらし具合が悪そうなH・P。
『もう耐えられない…わたしの犯した罪……その罪にもう潰されそうだわ…』
 かつて自分が犯した罪がH・Pを責める。自分が助かるために弟を犠牲にしたこと…。
わたしの『罪』をなぐさめ清めてくれるのはあの『遺体』だけ……』
『そして『遺体』を手に入れる事は、それはこの地球上の人々の『善の心』のため…』
『そのためにはこの国の大統領だろうと倒すッ!!…今度こそ…』
『……わたしのこの命 捧げます』

 客車のドアの取っ手に手を掛けるDio。
『もうすぐ『遺体』とそのこの世で『最大のパワー』がオレだけのものになる!』
『『きれい事』は言わないぜ』
『しょせん、人間はハトの群れと同じだ。一羽が右へ飛べば全部が右へ行く。どいつもこいつも自分の利益とうぬぼれしか見ようとしない気取り屋どもの集まりだ』
『そんなヤツらのためにオレの母親が死んだ事は水に流してやってもいいが、オレはもっと気取らせてもらってそういう『ハトの群れ』をとことん上から『支配』してやるぜッ!』
『それがおまえらだからな……』
『全てはあの大統領をまず殺してからだ…今ッ!』

ゴゴゴゴゴゴ
「おまえ…が」「ル…『ルーシー』」
『遺体』の影響を受けたルーシーを見た大統領が驚愕する。
「ルーシー…スティール」
「おまえが…『頭部』の部位だったのか…」
「まもなく『海』が近づいてくる…大西洋が…やはりおまえはわたしのルーシー……わたしの『味方』だった…」
「『遺体』はこれで…全ての部位…!!」「ここにそろったぞッ!

 そして戦闘は突然にッ!!
大統領が振り向くと宙から襲いかかるDioが!

ドヒャ ドヒャアアア

 Dioの手刀と貫手が雨霰のように降り注ぐ!
D4Cを繰り出しその攻撃をしのぐ、しかし反撃をしようとした瞬間を狙われDioの手刀を顔面に受けてしまう。
アゴから鼻の脇にかけてザックリと切り裂かれて出血している。
「えぐり出す」
「おまえを壁や何かにたたきつけたり…拳と拳ではさみ込んだり」
「いいや…!そういうのはもうしない。学習したからな……おまえの肉を切り裂いて臓器を床に出して順番に並べてやるッ!」
「切ってえぐり取るッ!!」
 エグイことを宣言して再び攻撃を再開するDio。
Dioの左の手刀を避けてドアの間に滑り込む大統領。ドアを閉めようとするが、能力で伸ばしたH・Pの左腕がそれを妨げる。
「そういうのもさせない」
 DioとH・Pによって前後に挟まれる大統領。ドシュッ と動きだす。
「ソファのうしろへ行くッ、はさまさせるなッ!」
ガンッ あっさりとソファを後ろに蹴りその行動をカットするDio。
そして…コンドルのように両手刀を大統領の喉に突き立てようとする…しかしD4Cが両腕をDioの首をホールドする。
『切り裂けるぞッ!このままノドをッ!』『しかし!くそッ!!』
『このままだとオレも倒れ込むッ!オレの体重がこいつを壁へ押しつけてしまうッ!』
 とっさに喉への攻撃を両手首へと切り替えるDio、後ろへのけぞる大統領。
しかし大統領に被さる影が…。
「しまったカーテンが…!!」
ガシィ 今度は右腕を飛ばしたH・Pがカーテンを掴む。
「仕止めろッ!?Dio!!切り裂けッ!!」

スパァ

 ついにDioの手刀が喉笛を切り裂くッ!!
「ブッ殺してやるッ!!」
 その時、先ほどソファを蹴飛ばした時に吹き飛んでいた水のビンからコボレタ水が大統領に降り注ぐ。
水が降り注いだ大統領の身体に次々と穴が空いていく!!!
「『水』…!!水滴でも……!」
「床面をはさんで…向こうの世界に行けるのか……」
 追撃を仕掛けるも遅く、『隣りの世界』へと逃げられる。
「いやッ…!致命傷だったッ!間違いないッ!!」「今!!完全に奴のノドを切り裂いていたッ!!」
 H・Pの楽天的な言葉にもDioは油断しない。
「だめだッ!あいつはすでに生きているッ!『隣りの世界』へ行ったッ!」
「ヤツを殺れるのは『即死』だけだッ!!向こうの世界の大統領と入れ替わって戻ってくるぞ…!!」

考えてる事も性格も同じヤツッ!!だが『負傷していない』隣りの世界の『大統領』ッ!
隣りの世界の『数』はおそらく無限の数あるッ!
その中のひとりと入れ替わって『スタンド能力』と一緒に戻って来るッ!!
そして『スタンド能力』はこの世界が基本ッ!
倒すにはこの世界で『即死』させるしかないッ!


「生きてるってことかッ!場所はどこから戻って来るッ!」「どこからだ!?Dioッ!」
 H・Pが叫ぶ。
「壁やカーテンから離れてろッ!どこかのスキ間から戻って来るッ!!」
「だがあわてるなッ!『スピード』能力はオレの方が上だ。『弱点』はつかんでると言ったろうッ!」
「ヤツが戻って来たら『即死』させるッ!今度こそッ!わかってるなッ!H・Pッ!」
 時がゆっくりと流れる。大統領はどこから現れるのか?

ガァァン!!

 タンスの引き出しが突如飛び出しH・Pを壁に向かって弾く。
引出しの中には大統領の腕が見える、どうやって入ったのだろうか?
「H・Pッ!!壁から早く離れろッ!」
 壁とぶつかったH・Pの背中から大統領が現れる。
そしてH・Pの左わき腹に一撃を入れる。そして引出しの中からも2人の大統領が現れる。
「『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』 いとも簡単に行われるえげつない行為
 例の言葉を発して現れる大統領。

『連れて来た……(3対2)だ)』
『連れて戻って来た!向こうから(3人)で戻って来た!』
 そして戦闘再開ッ!!
「覚悟は出来てるかァー―――ッ」「行くぞッ!H・P!!」
WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYY
 大統領の1人に貫手を向けるが別の大統領の攻撃に阻まれる。
3人からの拳撃をジャンプ一番でかわす。さらに、天井からH・Pの方向へ飛ぶ。
だが3人の大統領の攻撃は続く。
「H・P!!このためにここまでおまえを連れて来たッ!!」
「行くぞォォー――ッ」
 H・Pが一瞬の間に何かを仕掛ける。次の刹那、大統領たちが困惑の表情をする…4人の大統領が!!
「なん……」「だと……!!」

「『4人』だ。『そうだよな…Dio』!?これがDioの見つけた『D4C』の能力の『弱点』!」
「どこから何人連れて来ようと大統領自身も今!お互いどれがDioかわかっていないッ!」
「肉スプレー缶でDioを『変身』させた。このうちのひとりがDio」
 恐るべしH・Pのスタンド能力。
そして1人の大統領が、両脇の大統領の喉笛を手刀で裂いた。
躊躇したなッ!これでふたり『即死だ』。残りはおまえだッ!!
 形勢悪しと見た残り1人の大統領が踵を返し逃げ出す。
ドンッ
 Dioの手刀が大統領の右肩を斬るッ!!
「勝ったッ!これで予想したおまえの『弱点』は今、全て証明されたッ!」

グワシャァアアン

 大統領が列車の窓をブチ破り外に飛び出す。Dioも追いかけて外に飛び出す。
割れたガラスを手で払うDio。
「今度は落下するガラスの『破片』でか……?」
「しかし残念…もうはさむものは何もないぜ」
ドスゥゥッ
 Dioの左の貫手が最後の大統領の喉をとらえる。
これで決着なのか!!?次号を刮目せよッ!


今月のめい言

 「RYYYYYYYY」 

○H・P―自分が助かるために弟を犠牲にしたという罪に囚われ、それを償うためにヴァチカンに仕える。自分の罪の苦しみからヴァチカンの走狗となり『遺体』探しに奔走する彼女には、キリスト教の暗黒面である「罪悪感を煽って信仰を強化させる」が濃厚に見てとれる。彼女が『遺体』奪取に成功しても、彼女の背後にいる聖なる方々が彼女に報いることはないだろう。キリスト教と男装の麗人、ジャンヌ・ダルクを思い出します。ジャンヌの最期も聖なる方々の裏切りによってである。

○Dio―幼いころに理不尽な仕打ちが原因で母親が夭逝したことによりこの世界全てを憎む。馬術の才能でのし上がってもその思いは変わらない。世界を制する力を手に入れて、森羅万象を支配しても彼は満足しないだろう。Dioの心の根底にあるのは人間/世界への「怒り」と「憎しみ」であり、彼は支配しても叩き潰さずにはいられない。Dioが『遺体』の力を手に入れた時、それは世界が暗黒に塗りつぶされる時である。

○Dioが察していたD4Cの能力の弱点とは「必ずこの基本世界に戻って来る」「大統領たちの思考リンクのスキマをつく」というもの。前者に関しては、私は隣の世界から帰還する時になんらかの兆候があり、Dioがそれを見つけていて帰還の瞬間を狙い撃ちにするのではないかと予想していたのですがそこまで有利な展開にはならなかったです。後者はこの闘いに限らず、多勢で襲ってくる敵には有効な戦術です。ここまで成功したのは、同じ顔が並んでいたのとH・Pのスタンド能力のおかげでもあります。

○隣りの世界の自分―文字通り同胞を殺され、自分自身も浅からぬ負傷をした最後の大統領が列車外へガラスを突き破って飛び出す。それを追ったDioが「ガラスの破片と大地に挟まれる」行為を阻止するために躍動、大統領の喉笛に手刀を突き立てる。

○しかし待ってほしい…!本当に大統領は「3人」だけなのでしょうか?実はDioをおびきよせるためだとしたら。トドメを刺したがっているDioがつられて外に飛び出すのは容易に予想できます。このことにより、Dioを『遺体』から引き離すことも出来るし、大統領打倒の立役者であるH・Pを孤立させ始末することもできる。そう…次号はH・Pの安否が非常に気に掛かる。4人目、5人目それ以上の大統領がH・Pを襲う可能性は大であろう。

○そういえば、3人の大統領は皆スタンドを持っているようである。持っているだけ?次元を越えられるのは基本世界の1人のみということだから、隣りの世界のD4Cは接近戦も弱小なうえに隣の世界に逃げることも出来ないという悲しい感じのスタンド能力になっています。

「「ブッ殺す」と思った時にはすでに行動は終わっている」。かのプロシュート兄貴が言ったジョジョ界屈指の名言である。思わず行動が終わっていないのに「ブッ殺す」と言ってしまったDioはまだまだ未熟というところか。少年漫画の中では列車で闘う、特に屋根の上に登って疾駆する中で闘うというシチュエーションは垂涎ものであるらしい。列車での戦闘が時を経てこの7部でも再び展開されていますが、果たして屋根の上の決闘は行われるかどうかも密かな楽しみです。ではまた来月ッ!!

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