‘09 08月号
 #49 デラウェア河へ B 


 リズミカルな音を起て列車が走る。
そこのソファに銃撃されたスティール氏が横たわり、隣りのソファには苦しげなルーシーが載っている。
「あたし…変な汗をかいている…」「ハァッ、ハァッ」
「う…気分が悪い…」

 ピッチャーからコップに水を注ぐがその水が二つに分かれている。
コップの中の水も二つに分かれる。まるでエジプトから脱出するモーゼ達の目の前に起きた奇跡を思い出させる。
「何…これ?この水の動き…あたしの…お腹のせい?」
「き、気のせい…?」「何かしぼんでいってるわ……」
 ルーシーのお腹に浮かんだ頭蓋骨のヴィジョンに、左手で触ったルーシー。

スパァァアア

 ルーシーの左手の一部と何本かの指が吹き飛ぶッ!!
吹っ飛んだルーシーの身体が茶色というか褐色になっている。
「何…今…『何か』…何が飛んでいったの?」「あれは『何』?」
「て…手から飛んで落ちた…床に落ちたのは!?あれは『何』?」
 その左手で髪の毛に触れた途端、褐色の部分が侵食するかのようにルーシーの頭部へ広がっていく。
「!!?」「何!?『何』か!?体を『何か』!登ってくるッ!」
「手からあたしの髪の毛へ『何か』伝わって来ているッ!!」

スパァァアア

 先程同様にルーシーの身体が吹き飛ぶ。
「これはッ!?まさかッ!まさか!!あたしの体に何が起こっているッ!!?」
 衣類を捲ってお腹の『遺体』を見ようとするが…

ズパァァアア

 さらに身体の各所が褐色に変わる。
「自分の体が『違うもの』と入れ替わって行く…」
「い…『遺体』……」
「あたしがこのまま『遺体』になって行くの?」


 舞台は変わり、列車内を歩む大統領。何かに気づき窓の外を見る。
するとDioとホット・パンツが馬に乗り列車に近づいてくる。
「フム…」「『ルーシー』の仕業か…」
「あと何分もないだろうというのに…もはや誰も追っては来ないと思ったがな…」
「やはりわたしの最大の『目的』はこれらしい…」
「『こういう予期せぬ事が起こらぬようにすること』」「『全て』をわたしの味方とする…それは『不運』さえも……」
「わたしが『ナプキン』をとる」
「そういう事だ…それを今から手に入れる…このSBRの最大の目的は……」
 ドアップで決める大統領。

ドガッ ガガガ
「いたぞ!やはりだ」「大統領だ、車両を歩いている!」
「いいか、列車に乗りうつったら」「5mだ……」
「大統領には決して近づくな……近づきすぎると負ける…その距離でヤツを倒す!!」
 Dioが打倒大統領のレクチャーをホット・パンツに行う。そして、馬からデッキに乗り移る2人。
後部の扉から中を覗くと、反対側の扉の前に大統領が佇んでいる。
「Dio…君たちはわたしの『能力』を本当に知っているのか?」
「知るはずがない。ここは『遺体』のない世界の方だからな」
「この世界で君らが追っているのはダイヤモンド。基本とは少しだけ違う『となりの世界』」
 呆気にとられるDioとホット・パンツ。その時!
ドガンッ
 列車の扉が突然開いて、Dioとホット・パンツを挟み込む!!扉を開けたのも大統領ッ!

ギギギ  ギギギ  ギギギッ
軋むような音を発ててDioとホット・パンツを『隣りの世界』へ送り込むD4C。
「全ての基本は……」「ここにはない」
「基本は『遺体』のある世界にある。わたしが来た唯一無二の世界に……もうひとりのわたしよ…」
「またこっちへ来るかもしれない」
「となりから来れるのは君だけだ。遺体がそろうのにまだ時間がかかりそうか?」
「あと『数分』で全ては終わる。そのために少しだけそっち側のDioとH・Pが必要になった…もらって行くぞ…」
「無事ナプキンをとってくれ」
「もちろんだ。ありがとう」
 そう言い残し、自らも扉に挟まれて何処かへと消えるD4Cを持つ大統領。
「ナプキンをとる…この世の基本か…」

ゴオオオオオオオオオオ
 対峙する2人のDio、2人のH・P。
「誰なんだ、あの2人はッ!?」「だからDio!彼らは誰だと聞いているんだッ!?」
「いいか…H・P、警告しておく!」
「あそこにいる2人と出会ったらオレたちはこの世から消滅するッ!」
「あっちの2人の方はその事を何ひとつ理解していない!」「これは大統領の攻撃だッ!」
「『スタンド能力』!戦いはすでに始まっているぜ…」
 この現象の危険度を認識しているのはやはりDioのみであろう。
「カネを出せ、急げ!ポケットからカネだ」
 H・Pから1ドル札を受け取り、愛馬シルバー・バレットから降りるDio。すると足がズルッと滑る。
「警告したからな…H・P。オレの言うとおりにしないと死ぬぞ」
「すぐに馬を捨てろ!馬を捨てて列車まで足で走れ」「追いつくんだ」
 そして自分がだした分と合わせて2枚の紙幣を投げ捨て列車に向かって走り出すDio。
「……だから…いったい?」「これは…!?おまえらは……!?」
「おまえたち、誰だと聞いているんだ!!」
 基本世界のDio以外は茫然自失の3人。
「こ…この『2人』は?何だ…!!」「右側のやつ…この『顔』まさか…」
「その顔…あんたまさか」
「おまえら!何者か知らないが2人ともわたしの方へ近づくな!」
 その時、隣りの世界のDioがズルゥゥと足を滑らす。
すると、Dioの投げ捨てた紙幣が、隣りの世界のDioの紙幣とくっつき爆ぜる。
隣りの世界のH・Pも同様に紙幣が爆ぜる。
「これは!!紙幣が!!」
「あ、脚をッ!くそっ、あいつ大統領を追っているのか!」
「オレたちの追跡の邪魔を!!何者か知らないが『敵』かッ!」
 脚を負傷したがDioがDioを追って走り出す。

「おまえ『敵か』ッ!?おまえらに大統領の『ダイヤモンド』は渡さない」
「こいつ!…!?どこから来た?」

『あっちの2人の方はその事を何も理解していない』

「それ以上わたしの方へ近づくな!!こっちへ来るなッ!」
「おまえこそ来るなッ!」
「だめだ寄るなッ!!」
「うるさいッ!それはわたしの馬だッ!」
『こいつ、まずい!!』
『こいつ何かする気だ……やらなきゃやられる』
 同じ思考を持つ2人が堂々めぐりの会話をし、ついに行動を起こす。

ブシュウウウウウウウウウウ

 両者が同時にクリーム・スターターの肉スプレーをお互いに掛け合ってしまう。
基本世界のH・Pはそのショックで落馬してしまい、脱げて転がった帽子が隣りの世界のH・Pの帽子を消滅させ巻き込んでH・Pを傷つける。
「め……目がッ!」
 お互いがお互いの視力を奪ってしまった。
『同じ事をする!こいつはわたしだッ!わたし自身が2人いる!考える事もする事も同じ!』
『肉スプレーはどこ!?目が…目を治さなくては』
 手を伸ばしてC・スターターを探すH・P。スプレーに触ろうとした瞬間、H・Pは気付く。
隣りの世界のH・Pも同時に手を伸ばしていることを。
「言う事を信じて欲しい…!」
「わたしも今、目が見えない…!!そのスプレーを拾わないで……」「やめてッ!!」
「わたしもあなたも近づいたら本当にお願い死ぬッ!!」
『だ…だめだ、無理だ…こいつ動く気だ!拾われるッ!考えていることは同じ…』
 
2人のH・Pが1つのC・スターターを握りしめる。

ドババババババ

うわああああああああああ」「ああっ」
 右手がくっつき崩壊を始める。
「ど…どこにいるのッ!!ブラウン号、来てッ!!」「こっちへ来て!!」
 ブラウン号が嘶(いなな)きH・Pに近づく。
その脚に触れて肉のサポートを得ると、C・スターターの噴霧で自らの眼を覆っていた肉を剥がす。
そして癒着して崩壊しかけていた左手を無理に引き剥がすと、傍らに落ちていた自分のスプレーを拾うと列車に向かって走り出した。
『こ…これが!大統領の能力!』『あのもうひとりのあたしをどこからか連れて来た!』
 列車の連結部の手すりからDioが叫ぶ。
「H・P!乗れ!こっちだ…つかまれ!!」
 しかし基本の世界のH・Pは気付く。後部車両に隣の世界のDioがすでに乗り込んでいることに!
そして隣りの世界のH・Pがブラウン号に乗り追いかけてくる。
「Dioッ!もうひとりがすでに列車内に乗り込んでいるぞッ!」
「なぜ馬を『捨てろ』と言った!?追いつかれているッ!」

「追いつかれている?」「フン!」
 隣の世界のDioが後部車両のドアを開け現れる。
「それがいいんだよ……」「こいつらに追いつかせるために馬を捨てたんだ…あえてだ!」
「乗れ、オレの背後にまわれ!」
 そして、同じ車両に隣の世界のDioとH・Pが乗り込んでくる。
バン
 すかさずドアで2人を挟み込んでしまうDio。
「お互い出会ったら消滅するんだから『2人』を元の世界に『帰す』しか方法はないだろう…それとも同じ自分を殺せるか?」
「この能力は発現している時『何かにはさむと帰せる!』」
「こいつらは列車のこの場所から落ちて来たんだからな」
「オレは大統領のこの能力の『弱点』を知っている」
 ドアが戻ると2人の姿はなくなっていた。
「覚悟はあるか!殺しに行くぞッ!」

「見ろジャイロ…もう追いつく前に始まっているぞ」
 人物は替わってジャイロ&ジョニィ。
「大統領の攻撃だ」
 ジャイロは望遠鏡を使い列車の様子を窺っている。
「ああ、目的地はおそらく海だな……」「海に着く前に決着をつけなくてはならないぜ」
「お!」
「ありゃ、ポコロコだ。バーバヤーガとか東方ノリ助もいるぜ」
「レースの方もみんな向かっているな」
大西洋が見えたら…どっちもマジヤバイぜ


今月のめい言

 「あと数分で全ては終わる」 

○「『遺体』集め」と「SBRレース」、裏表の2つの事象がクライマックスを迎えているが『遺体』集めの方がやや先に終焉が起きそうである。

○もはやホラーであるルーシーの『遺体』化。生身の肉体がゴロリと弾き出されて、水分が不足したような褐色の肉体に入れ替わっている。ルーシーに救いはあるのだろうか?

○それにしても大統領は『遺体』を支配しきれると本気で思っているのであろうか?大統領は『遺体』をただのパワーアップする道具と考えているようだがJC自身の意思もチラホラ感じられてきています。スタンド使いを含めたあらゆる人間を格段に上回る…まさしく超人であるJCを出し抜けるのであろうか?

○隣り合う世界の同一人物が出会うとどうなるか?フィラデルフィア・シティーでDioが体験したのとは違い、H・Pの場合はかなり接近してから肉体の崩壊が始まった。この違いの条件は全くわからないが、引き付け合って崩壊が始まっても引き剥がすことができるという前例ができました。

「となりからこれるのは君だけだ」「基本は『遺体』のある世界にある」…。全ては『遺体の心臓部』が引き出したD4Cから始まったことを臭わせる。Dioの言う弱点とは心臓を攻撃することか?「能力の弱点」ではないので違うかな。他の世界では『遺体』をキッカケにスタンド能力に目覚めた人物もちゃんとスタンドを持っているようであるが、隣りの世界の大統領はD4C自体を持っていないのでしょうか。

○全ての秩序を自分を中心として組み立てる…それが「ナプキンを取る」ということである。このまま何の邪魔もなく物事が進めば、海に着く前にでも決着はついてしまう。今月は時間がないのでこれで終了ですが、来月号も刮目してみます。では…。

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