ビリビリ ビリッ ビリッ
上記のことをスカートに書いて破り取るルーシー。もはやヴァレンタイン大統領の思いのままの状況に抗う姿勢を持つルーシー…。
「馬車ごと船に乗せるのだ。乗せたら船倉に隠せ」
車輪は回り、馬車はブルー・ハワイ号に載せられる。
「うう…」「ハアーハアー」
「必要なのはあたしだけで十分のはず…スティーブンの傷の治療を急いでしてッ!お願いッ!」
「……………」「馬車から船に下りてもらえるか?心配無用だ、ルーシー・スティール」
「長旅にはならない・数十分で到着する場所へ行く。十分に治療する設備もある」
『ウソだ…こいつは大ウソつき』
ルーシーに心の中で罵倒されたのも知らずなおも滔々と話す大統領。
「君の体内にいる『遺体』はこの大陸を渡りがっているだけであり、そこで全てが終わる」
「君がそこへ安全に行けばこの国の誰も困らず…全てみんなの幸せが始まるのだ……」
『『大ウソつき』……。スティーブンはあたしが逃げないように生かされているだけ……終わったら始末される…この大統領は何だってやる…』
白昆布(ルーシーのスタンド)に手を掛けるルーシー。
しかしその動きは大統領に読まれていた。切りつけるルーシーの白昆布を易々とかわして右手首を捕まえる。
「男が女にひかれる基準だが…あるいは女が男にひかれる基準だが……」
「『愛』だとか『愛してない』だとか『好き』だとか『嫌い』だとかそんなんじゃあない…」
「『吉』であるかどうかだ。自分にとってその男が…あるいは女が『吉』であるかどうかなのだ」
「ルーシー…おまえはわたしにとって『吉』の存在だ」「わたしも君にとってそうでありたいと思うがいかがかな?」
好き勝手なことを滔々と語る大統領。
「君はすでにわたしの味方になっている」「君の中の『遺体』もすでにわたしの味方だからだ」
「この『涙』の能力、存在も知っている。だからわたしをこれで切ろうとしても不可能だ」
「流れに身をゆだねろ……。君を幸せにするのはその『流れ』なのだ」
「……ムッ!」
ルーシーのスカートの異変に気付く大統領。
「どうした?スカートが破れているな。いつ破けた?」
勘の良い奴である。辺りを見回して、鉄柵に結ばれた文章が書かれたスカートの破片を見つける。
厳しい目でルーシーを見る大統領。
「ひとつだけ誓おう!ひとりの男として聖なる『遺体』の前で……『スティーブン・スティールは決して殺さない』」
「ルーシー…君がそれを不安に思っているのなら……」「君が望むことなら……」
ビリッビリッ とスカートの切れ端を破いてデラウェア河に捨てる。
『大統領は……!!この大統領は…『悪』ではないのか…?『遺体』は彼の味方……!!』
「船を出すぞ…操舵室へ来てくれ…。君はよくやった、いい部下だ」
「どれ、ひどいな…顔を蜂に刺されたのか?治療した方がいい…見せてみろ」
ルーシーをここまで連れて来た御者兵に声をかける大統領。
「というより消す方法がある。そんなひどい腫れはそうした方がいい。もう一歩、中へ入ってもらって構わないかな?そうそう!一歩中だ」
「消す?」
ササヤカナ疑問を持つ御者兵。
「できれば…微妙に後ろへ下がって『左』へ行くとさらに良い。もう少し『左』、いいぞ完璧だ」
バンッ D4Cで操舵室の扉を御者兵にぶつける。すると姿が見えなくなる。
「ドジャアア〜〜ン……」「全部消えちゃうがな」
またもや証人を「この世界」から消す大統領。
「言える事は、ただひとつ言える事は……」
「あと数十分で着く。大西洋の見えるこの『場所』でわたしが手に入れるという事だ……」
「だがその『場所』で『何が』起こるかは誰にもわからない」
河に浮かぶ2つに裂かれたスカートの切れ端。
そこに海鳥がフンを落とす。それを魚が突いているうちに護岸の方へ流れていく。
するとネズミが2匹、切れ端を奪って上の道へ持って行く。
チューチュー鳴いている所に馬が ドガァ と駆け抜けていく。
蹄が2つに裂かれた切れ端を、鳥のフンを接着剤として再び1枚の切れ端となるようにプレスしている。
それが風に吹かれて鉄柵に引っかかる。
『『涙のカッター』で切ろうとしたのは…『大統領』の方ではない……』
『あたしの『スカートの方』……。『正義』はいったい誰なのか…?『流れ』に身をまかせろというのなら』
『それも『流れ』だ……』
ルーシーの最後の賭けである。
パカラン パカラッ パカラ
蹄の音を立てて走って来た馬が止まり、騎手が下りる。
その男、Dio。
「く…くそ……」「クン」
「絶対にいる!」「クン」
「くそっ!!近くだ…近くにいるはずなんだ」
必死に臭いを探るが成果はないようである。
「ヤツは遺体のため『この世界』にこだわっている!!……どこかに『臭い』は残っているはずなのに……」
『弱点…』
『ヤツの次元を越える能力にはひとつの致命的な『弱点』をオレは見つけたというのに…』
『……どうする?まさかヤツを『見失った』というのか……?』
その時、別の臭いを探知するDio。
バッ 後方へ大きく跳び障害物を越えようとするDio……だが、顔面へ肉のスプレーを受けてしまう。
障害物の向こうにいたのはホット・パンツッ!!左前腕を切り離して全く別の角度からクリーム・スターターを噴霧している。
「うぐッ!『ホット・パンツ』!!?何だこいつ!?まだレース上にいたのかッ!?」
着地は百点、すかさず3匹の恐竜がホット・パンツに襲いかかるが右手のC・スターターの噴霧により迎撃される。
「くっ……こ…呼吸が…」
ホット・パンツがDioの胸板を右足で踏みつける。
「Dio…お前に用がある!」「再起不能にしたあとでだがな」
さらにDioの顔面に噴霧する。
ガッシィ 一瞬の隙をついて首相撲のようにDioがホット・パンツの首の後ろで両手を組む。
そして接吻のようにホット・パンツの唇を奪う。もちろん擬音は
ズキュウウウン
である。
「オレを窒息させたいというのなら…」
「おまえもだぜ!H・P」
ガッチリとクラッチして、ホット・パンツを道連れにしようとするDio。
するとホット・パンツがクリーム・スターターを噴霧して、自らの口唇を創る。
「わ…わかった…やめろ!Dio」
「あなたに用があると言っただけ…2人とも窒息する…」
「我々は大統領を見失った?…いや、まだ見失ったわけではない。それはDio…あなたにしか追えない…!!」
「簡単に言うわ!追跡するのは大統領の『臭い』ではなくルーシー・スティールの方」
「わたしの肉スプレーはルーシーの『臭い』を知っている」
「臭いであなたが『ルーシー』を追跡すればその先には『遺体』と『大統領』がいる!」
そういえば「大統領夫人(ファースト・レディ)の一件」でホット・パンツはルーシーと接触している。
「ルーシーの『臭い』は今、わたししか持っていない…『取り引き』だ、Dio!!」
「『遺体』はわたしがもらう!!」「それは譲れないし…絶対にそうしなくてはならない!だがあなたと協力して『臭い』で追跡したら…」
「それ以外のもの!」
「大統領の命や財産や権力などは…Dio、あなたが好きにすればいい。全て取っていいわ…」「自由よ…」
「それとわたしはあなたの『父親』も知っている。生きているわ…父親の名前は『ダリオ』」
Dioの心に稲妻の様な衝撃が走ったのは想像に難くない。
「赤ん坊のあなたとあなたの母親を見殺しにしようとした父親…その情報もわたしは知っている…簡単にみつけられるわ」
「それも好きにすればいい…知りたいだけ教えるわ」
クラッチしていた両手を離すDio。解放された両者とも、鞴(ふいご)のように大きく呼吸をする。
「WRYYYY」
Dioがホット・パンツの両襟を掴む。
「『取り引き成立』ね…。時間がない、スプレーにあるルーシーの『臭い』を…恐竜たちに臭いをかがせて」
「スケアリー・モンスターズ」
数匹の小型恐竜がルーシーの臭いを覚えて八方に走り出す。
そして例のスカートの破片を見つける。
「『見ろ』…『Dioの野郎が移動しているぞ』。急いでる」「『河を渡っていく』」
「いつかあいつをブッ殺してやるが、今 持つべきは『友』より『敵』だな………」
双眼鏡を覗いていたジャイロが状況の変化を発見する。
「『どうやら見つけてくれちゃったようだぜ』」「Dioの恐竜ちゃん、ありがとう」
「3キュー、4ever」
ジョニィも双眼鏡を受け取り覗く。元気そうである。銃弾が貫通した両頬もゾンビ馬の糸で治療済み。
ジョニィの目にはホット・パンツの姿も焼きつく。
「異なる次元に入れる大統領は誰にも追跡できない。だからDioが見つけたのはルーシーの方だ」
「状況はわからないが『ルーシーと大統領』が一緒にいてその先に『遺体』がある」
「そして近いぞ…Dioが急いでいる!Dioの標的はものすごく近い…!!目視できるほどに…」
「どいつもこいつもおまえらを!!今度 追撃するのは僕らの番だ!!」
今度は後ろから襲われるのは大統領の番である!!
またもや急造コンビ結成!Dio&ホット・パンツの「地獄の伝道師」コンビが追った先には港に停泊しているブルー・ハワイ号であった。
「あった…『ブルー・ハワイ号』だ」
「ルーシーの臭いのついた布に書いてあった船…渡って来て停泊している。だが賭けてもいいわ…『ルーシー』はあそこで船から列車に乗り換えている」
推理を披露するホット・パンツ。
「何でわかる?」
「病人用の担架が捨てられている」「スティール氏が銃撃されていた…列車にはおそらくスティール氏がいる!一緒よ!」
「よし…なら列車に乗り込むぜ。あのスピードなら加速される前に馬で追いつける」
その時、双眼鏡を覗いていたホット・パンツが気付く。
「待て!」「大統領が見える!」
「!!」
「ヴァレンタイン大統領だ!…見つけたぞ!車両と車両のつなぎのドアのところにいる!!」
「…でも、何かしている……」「ドアのそばで何してるんだ?」
その時、列車から2人の人間が放り出されるッ!!!
その2人とは…Dioとホット・パンツ!!
「なっ…何だ?何してる!?あれは誰だ?列車から落ちたのは誰だ?あの2人は誰なんだ!?」
真相を知っているDioの身体からは大汗が流れ出す。
「バ…バカなッ!!こんな事がッ!あっちから連れて来やがった!!!」
「まずいぞH・P!」
「あいつらと出会ったら!!オレたちは『消滅』するッ!!」
かつてウェカピポを陥れた悪夢が、今度はDioとホット・パンツを襲う!!!
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