ジャイロがジョニィの愛馬・スローダンサーを連れて駆けている。
そして河の護岸に来て鉄球を地面に放る。
地面に落ちた鉄球の回転が大地に波紋を描く。その波紋の一つがマンホールへと向かっていく。
そのマンホールの中にはジョニィがうずくまっており、ジャイロが彼を地上へ引っぱり出す。
「ジャイロ…ぼくを銃撃したのは……」「ぼくを撃ったのは…」
「しゃべるなジョニィ」「この出血は鉄球の回転でとりあえず止めてやれるし『ゾンビ馬』の糸でも縫えばある程度治せる」
「だがダメージはダメージだ…おまえの旅は今度こそもう終わりだ」
なんとジャイロがジョニィに終了を勧告する。しかしジャイロの言うことももっともであり、顔面をはじめ数か所を撃ち抜かれている。
「ぼくを銃撃したのは『Dioとウェカピポ』!しかしそれは大統領の『能力』のせいだ。それを見た!」
やはりガッチリと情報を掴んでいたジョニィ。
「……大統領は『違う世界』へ行ける能力だ!ヴァレンタイン大統領のの体は『違う世界へ行き』そして違う世界からもうひとりのDioや違うウェカピポを連れてきて撃たせるよう仕組んだんだ」
「ジョニィ落ち着け…今、手当てしてやる。うなされるな」
ジョニィを落ち着かせようとするジャイロ。
「とにかくそういう能力だった!少なくともそう見えた!」
しばらく話させるような態度をとるジャイロ。
「ぼくらのいる『この世界』から大統領はどこかへ『行き』……そして『帰って来れる』」
「もうひとりの同じ大統領を連れて来たりする!……」「『行き方』は…」
「あいつがなにかにはさまること」
自らの鞄を使って挟まる仕草をするジョニィ。
「公園の時、ヤツはぼくらの馬と馬の間から出て来た」「そして馬と馬の間に消えた」
「次に国旗にはさまって大統領とDioは地面に消えた。Dioは下半身だけ残っていた……」
「そして最後にドアとカベの間から大統領が戻って来て……国旗からはDioとウェカピポが帰って来た」
「もういい…ジョニィやめろ。話は後から聞く。そういうのはあとでゆっくりと聞く」
「Dioはきり抜けたがウェカピポがこの世界で2人になった」「そしてウェカピポは死んだ」
わずかだが感情を顔に出すジャイロ。
「ウェカピポはもうこの世には存在しない…『向こうの世界』があって国旗の間からウェカピポが連れて来られた」
「2人のウェカピポが出会った…そして消滅したんだ。向こうの世界から連れて来られると2人とも死ぬんだ」
「ウェカピポは死んだ!」
「そして大統領は無傷で独立宣言庁舎へ戻って行った」
「それがヴァレンタイン大統領の『能力』だ」
復習するとヴァレンタイン大統領のスタンド名は「ダーティ・ディーズ・ダン・ダート・チープ(Darty Deeds Done Dirt Cheap―通称 D4C)」である。
「ジョニィ、おまえの見た事は全て信じる。今…話してくれた事や起こった事にオレは少しの疑いを持ったりはしないし幻覚だおると決めつけたりもしない」
「それで『眼球』はどうなった?Dioが持っていた左『眼球』だ」
「『眼球』は大統領に奪われて行った…」
2人の間に微妙な空気が流れたのは想像に難くない。
「オレはそれを言ってるんだジョニィ…」
「大統領は得体の知れないスタンド能力で目的の『眼球』を手に入れ、『遺体』が全てそろったからおまえの命のとどめを刺さずに官邸に帰って行ったんだ!」
「完了したんだ!」「…『遺体』はやつのところで全てそろってしまったんだ」
「決定的に終わりだ…打つ手はもうない…」
「あきらめるというのも『勇気』じゃあねーのか。その負傷でもうどうにもならない」
ガシィイッ
ジョニィがジャイロの襟を両手で掴む。
「なあ…ジャイロ……!さっき、ぼくの脚が動いたんだ……」
「脚が動いて…」「み…見てくれ…」
「移動できたんだ…」
自分の脚を両手で動かすジョニィ。
「み…見てくれよ…動いたんだ!」
「み……見てくれ…」「見てくれよォォォ〜〜〜」
無理やりに直立しようとするジョニィ。だがそれはかなわず、崩れ落ちる。
「くそッ!もう少しだッ!くそッ!」
「あとほんの少しなんだッ!どうしても遺体を手に入れたいッ!」
「『生きる』とか『死ぬ』とか誰が『正義』でだれが『悪』だなんてどうでもいいッ!!『遺体』が聖人だなんて事もぼくにはどうだっていいんだッ!!」
心の想いを絶叫するジョニィ。
「ぼくはまだ『マイナス』なんだッ!『ゼロ』に向かって行きたいッ!」
「『遺体』を手に入れて自分の『マイナス』を『ゼロ』に戻したいだけだッ!!」
「くそッくそォー――ッ」
「こんなことなら『遺体』なんて最初から知らなければ良かったッ!」
「あとほんの!ほんの少しなのにッ!!」
大地を両拳で殴るジョニィ……。
「………」
空を仰ぎ見たジャイロが口を開く。
「馬の鞍の『鐙』が発明されたのは……11世紀だ」
「知ってるか?なんと11世紀!…」「それまではこの体重をささえる『鐙』なんてなく人類は鞍だけで馬に乗っていたんだ」
「ケツだけで足をブラブラさせてな」
「おかしいと思わねーか?足をブラブラさせると血がうっ血するのに」
「ピラミッドを建造した天才の古代エジプト人も、医学の父ヒポラクテスも騎兵戦で世界を制覇したアレキサンダー大王も馬に足をのせるなんて発想をこれっぽっちも考えもしなかった」
「『鐙』がなかったんだよ…ずっとだ。人類は何千年 馬とつき合ってんだよ!そればかりか、さらに紀元一〇〇〇年以上もたってからやっとこ発明されたんだぞ」
「なぜだかわかるか?」
愛馬・ヴァルキリーに乗り込み、鐙に足を掛けるジャイロ。
「『鐙』は単に足をのせケツずれを和らげるためだけのものじゃない。馬のパワーを下半身から吸収して騎上で闘う『技術』のために発明されたからだ」
「馬のパワーが乗り手の腰から入り…」「背中・肩へと螺旋で伝わり……」
「腕へと抜け武器を使う技術!!その鐙を必要としたのは『中世の騎士』!」
「いいか…もう少し具体的に説明してやる」
「『鉄球』は単に手首だけで回転させるものではない」
「自然から『無限のスケール』を学び、下半身から『腰』『肩』『肘』『手首』『指』とエネルギーを伝わらせて体全体で回すから無敵の回転パワーが得られる」
「それに馬のパワーを『鐙』から加える技術がある!おまえさんがもし『鐙』に両脚をふんばっていられるなら……ジョニィ」
「もし馬から得たその『回転』エネルギーを生み出せたなら……………」
「大統領の未知のスタンド能力に立ち向かえるチャンスはあるかもしれない」
そしてジョニィが訊ねる。
「『馬』からパワーを得る…どんな回転だ?そ…その回転エネルギーでどんな事が起こるんだ?」
「オレはチャンスがあると言っただけだ。今の話、どこにも確実な事はない」
「オレは今まで一度も馬のパワーを利用して鉄球を使った事はないし、父上がやっているところを見た事もない…本当にそんな『回転』があるかどうかさえもだ…」
「何ひとつわからないツェペリ一族の遠い先祖からの伝承に過ぎないんだ。ツェペリ一族は処刑執行官であって『騎兵』じゃあないんだからな」
「ジョースター家は馬乗りの家系だ」
「だから説明したッ!おそらく回せるのは『馬乗り』だけだッ」
漠然とながらジョニィに希望を与える言葉を発したジャイロ。
「ありがとう」「すぐに傷の手当てをして欲しい…ジャイロ。すぐに!傷は完治しなくても…馬に乗りたい……」
「大統領の追跡と…『遺体』の存在場所がどこかわかるのは僕らにはもはや不可能になったが…」
「『ルーシー・スティールがいる』!!」
意外な名前に少し驚くジャイロ。
「このフィラデルフィアにいるはずだ。彼女がどういう状況なのかわからないが、彼女の正体がもしまだ大統領にバレていないのなら」
「彼女が情報をくれる!」
「『ルーシー・スティール』を救い出そう。まだ時間はある……!!」
夕方の河辺に夜の気配がにじみ出して来る。
「まさかルーシーが最後の『切り札』になるとは……」
舞台は変わってルーシー。スティール氏をストレッチャーに乗せて馬車の待機場に着く。
そこには馬車に待機していた御者兵がいる。物音に、傍らに置いてあった散弾銃を手に取る…。
「そのショットガンに気をつけて……『切る』わよ」
あっさりと背後につかれて、白昆布(ルーシーが手に持っている刃物状の物)を首筋に当てられる御者兵。
「お願いがあるの…このまま馬車を外に出して!」
「そうした方がいいわ…あなたが何を試みようと馬車を出さざるを得なくなる」
「わ…わかった。い…今…銃を捨てる」
ショットガンをわざとルーシーの頭に落として隙をつくらせる。だが、その拍子に白昆布が御者兵を切ってしまう。
「おい、きさまッ、動くなァー――ッ」
腰の拳銃を抜いて構える御者兵。
「あっ!!座席にいるのは『スティーヴン・スティール』!!?」「お…おまえ何をしているんだ!?他の警備兵たちはどうしたァー――ッ」
ガラガラガラガラ ガンッ
後ろから転がって来たストレッチャー。振り向いた瞬間に顔面にもろに受けてしまう。
うめき声をあげながら御者席にブッ飛ぶ兵士。
その間にルーシーは、座席に寝そべるスティール氏に毛布をかける。
「あっ!!」「て…てめーッ!!そっ…そこを動くんじゃあないぞッ!!」
慌てて席から降りて銃を構える御者兵。しかし、その拍子に手綱を足に引っ掛けてしまう。
「ヒヒィィィー――ン」
嘶(いなな)きと共に走り出す2頭の馬。手綱が足にからまって引き回し刑になってしまう御者兵。
「台に座って運転して下さい…この庁舎の敷地を出るのよ。どうせきっと運転台に座る事になるし…」
しかし聞く耳は持たず、右足の靴を脱いでその状況を脱出。庁舎内へ走って行く。
「た…大変だッ!誰かいないかッ!!馬車をとられたッ!脱走だァー――ッ」
ガンッ と扉を開けたらその上に巣を造っていたスズメバチが出動!御者兵の顔面に数匹はりつく。
「うがッ?ッッ!!」「ヒィィィ!!」
もはや話すまでもなく、想像通りのことになる。
スズメバチから逃れるために逆に動いている馬車の御者台に飛び乗る。
スズメバチを払っている姿が敬礼と勘違いされて、他の警備兵のチェックもクリアする。
しゃべろうにも刺されて舌まで腫れてしまって不可能。
ガラガラガラ…と馬車は進む。
「次の角を『左』へ…『左』へ曲がってください」
曲ガッタナラソノママ真ッ直グ行キ…
『デラウェア河(リバー)』ヘ出ルンダ |
「『デラウェア河』?どこへあたしを連れて行く気なの…?(あたしの体の中に聞こえる声)」
「『あなたは誰』?『涙のカッター』……なぜあたしたちを庁舎の外へ助け出してくれたの?」
「いったい……」
ルーシーとスティール氏を乗せ、馬車はガラガラと進む。
そんな彼女たちを見つめる一人の男がいる。しかも離れた場所で…である。
「『右眼球』」 「『左眼球』」
暗闇の中、左右の眼球から照らし出された映像がルーシー達を映し出している。
「『船の所へ行くのだ』……ルーシー」
「『船を見つけて乗れ!』」
『『遺体』は……暖炉の部屋でルーシー・スティールの中へ入った『聖なる遺体』は』
「全てをそろえたこのわたしを選んでくれた」
「『遺体』はこのヴァレンタインの事を好いてくれている」
「この世界でわたしのために動いてくれているッ!!ルーシーの体を通じて発動している遺体の新しいスタンド能力もわたしの味方だ」
デラウェア河にある1艘の船からひとつの人影が現れる。
「ああああ」「ああああ」
ルーシー驚愕ッ!!
「良く来たぞルーシー・スティール。誰にも気づかれていない。おまえを探せる者もこれで誰もいない!」
「おまえから『生まれる者』のため……船に乗れ……最後の土地へ向かおう……」
「『地図』の最終地点へ」
全てはお前の掌の上の出来事か!?大統領!!
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